第1話 霊使者
みんなは霊媒師というものを聞いたことがあるだろうか。このものたちについて知っていることといえば、彼らは《生者と死者の仲介者という立場に位置している》ということぐらいだろうか。この立場を生かして彼らは様々な依頼を受けているのだ。しかし、これはあくまで《表》で活動している者達についてのことである。
《表》があれば《裏》も存在する。当然の摂理である。《裏》で活動している者達のことを《表》で活動する者達はこう呼ぶ。
霊を使う者…《霊使者》と。
「なんで…なんでだ…」
背中を丸く曲げ、縮こまった少年が囁やく様に問いかける。問いかけた相手は、もうこの世にはいない。
「なんでだよ…海斗おおおおおお!」
少年の叫びは黒き闇に吸い込まれていった。
チチッチチチッというスズメの鳴き声が聞こえてくる。囁く様なそよ風が俺の前髪を揺らす。上にある大木の葉が落ちてきて、俺の目の前に出現した…その時。俺は一歩踏み込んで右手の真剣を高速で動かす。
葉はしばらく原型をとどめていたがしばらくするとその体はあっけなく4つに分かれる。俺は振り抜いたままの体勢にしていた体を直して剣を腰に吊ってある鞘に収める。
するとまるでそのときを狙っていたかのようなタイミングで俺の頭にタオルが落ちてくる。タオルが投げられてきた方向を見ると一人のセーラー服の少女が立っていた。少女は両手を腰に当てると小柄な顔をズイッと前に出して口を開く。
「兄さん、もう七時ですよ!早く着替えないと!」
俺は汗で濡れた頭と額をタオルで拭きながら返答する。
「お前こそ、ちゃんと飯食ったのか?翠。」
俺の名前は桐宮 修也。17歳。
成績・良い(らしい) 身体能力・良い(らしい) 料理・まあまあ(他人からすればうまいらしい)
部活動・帰宅部
タオルを投げてきた少女が妹の
成績・普通(らしい) 身体能力・良い(らしい) 料理・最悪(本人は真剣にやってるらしい)
部活動・弓道部
俺たち兄妹はなんの変哲も無い普通の高校生だ。
家系と家族関係だけ除けば…だが。
俺は自分の部屋に戻る。うちの家は完全な和式で、俺と翠の部屋もドアではなく障子である(鍵付きとかにしてほしい)。
ひとまず道着から制服に着替える。もう4月下旬とはいえ今年は気温が低めなのでワイジャツの上からブレザーを着用する。ズボンを履いてカバンは中身を確認してから閉める。カバンを持って腕時計を確認すると時刻は七時十分を指していた。
俺は部屋を出てひと伸びしてから廊下を歩き出す。昔は廊下を歩くときのギシギシという音が嫌いで小2まで一人でトイレに行けず、よく爺さんについてきてもらったものだ。長い廊下を歩いて今の前を通ると正面から歩いてくる一人の人物と目が合う。
彼の名前は桐宮 才蔵。今や俺と翠の唯一の家族だ。歳は今年で六十四。まだまだ元気な老人である。
爺さんは俺に向かって言葉を発する。
「修也、今日の稽古はこれそうか?」
「あー、まだわかんないな。学校での予定によるかな。」
「そうか…」
爺さんはしばし黙り込むと続いては提案を投げかける。
「修也、お前今日の依頼…」
「行かねえよ。」
俺は言葉を最後まで聞かずに返答する。
「しかし、お前ほどの力があれば…!」
「関係者じゃねえ俺が向かうべきじゃねえだろ。」
俺がそう言うと爺さんは下に俯く。時計を確認すると七時十五分を指していた。これくらいに出ないと学校に間に合わない。俺は玄関まで行くために爺さんの横を通りすぎる。すると爺さんの言葉が俺の背中に投げかけられる。
「あいつは、お前のことを恨んでいないと思うぞ…?」
俺はその言葉に足を止める。カバンを持っていない右手を握りしめて、冷徹に返答する。
「それは、別に関係ねえし…」
そして、なるだけの笑顔を浮かべてから、振り向いた。
「それに、俺なんかいても変わんねえよ。」
俺は再び足を動かし始めた。
俺が靴を履いて外に出ると翠が立っていた。先ほど同様にセーラー服を着て、カバンを両手で持っている。
「兄さん、遅いです!」
頬を膨らませる妹の頭を撫でて、謝罪を一言。
「悪い悪い。ちょっと爺さんに捕まってな」
「お爺様となにか話してたんですか?」
「うん…まぁな」
「まさか、《仕事》の事ですか」
「…ああ。」
《仕事》とは先ほど爺さんが言っていた、《依頼》の事である。うちの家は代々《霊使者》という名の陰陽師に近い役職をする家系なのだ。することの内容は世界に害をもたらす霊、つまり悪霊を祓うこと。ここで陰陽師と違うのは俺たち霊使者は自分の力だけでなく霊の力も借りることができる。ここら辺はシャーマンに近い。つまり霊使者とは陰陽師とシャーマンの間に位置するのだ。
今の桐宮家の当主は爺さんで、もちろん次期当主として俺がいるわけなのだが…正直、妹の将来の旦那に譲ろうと思っている。できる気ないし、戦わない俺がやったところで…
「…いさん?兄さん!」
妹の声で我に帰る。どうやら知らないうちに全ての坂を下りきったようだ。俺たちの家はかなり山の方にあるので坂が多い。
「悪い悪い。で、なんだっけ?」
「もう、人の話はちゃんと聞いてください!ですから、依頼の話、受けたんですか?」
妹は俺が霊使者になる気がないことを知っているはずなので返答はなんとなく予想できると思うのだが…まあいいか。
「受けてないよ。ちゃんと断ったさ。」
「そうですか。ならいいんです。」
なんだというのだろう。こいつは俺のことになると、とことん心配性になるのだ。まったく、ブラコンの妹には苦労させられる。
「はあ…」
俺は大きくため息をついて、青く広がる空を見上げた。
戦闘描写がないぜ!次回も多分ないぜ!第3話だぜ!(多分!)ま、次週もお楽しみに!