「…なんだ、我が愛しき幼馴染。」
1人の少年と少女。そして、炎を纏った狐はただたたずむ。
その後、少女は頭を抱えて叫んだ。
「ここって…どこおおおおぉぉぉお…!?」
そんな少女の叫びは、レンガ造りの家に囲まれたこれまたレンガ造りの通りの真上にある青い空に、吸い込まれて行った。
どう見ても、日本ではない場所。そこに、彼らはいた。
何故、こんなことになったのか…
その理由は、数時間前に溯る…
第11話 もちろんその気
「…修也君、今あげた中でどれだと君は思うんだい…?」
シリアス顔でそう問うメガネの男。それに顔を対して座る少年はまさに真剣とも言える顔で、答える。
「そうだな…天樹、ひとつ言っていいか?」
「…」
メガネの男は、ゆっくりコクリと頷く。
そして、少年はため息をつく。
出雲市のシンボルタワーとなっている塔の49階。霊使者の中でも入れるものが限られる所に、彼らはいた。傍からその光景を見たら、随分大事な内容が話されているのかとたじろいでしまう。さも大事な話が話されているのであろう…
「知らねぇぇぇえええよ!!?」
…そんな雰囲気は、少年の叫びと共にかき消された。だが、メガネの男は尚も真剣な顔で話を続ける。
「ちゃんと答えてくれ。これは大事なことなんだ…!」
「おまっ、まさか人に『大事な話があるからフル装備で来てくれないか!?』って言っといて呼び出したのがこんな質問のためか!?馬鹿じゃねえの!?」
バンッ!
「何を言う!今の僕の中で最優先事項だ!」
バンッ!!
「人の趣味を調書することがか!?」
バンッ!!!
「違う!《あなたが考える女の人の善し悪しの基準は?1、顔 2、お尻 3、おっぱい 4、性格》だ!」
バンッ!!!!
「大して変わんねえよ!!?」
そんな、アホなやり取りを見ながら、琥珀は卓上に置かれた茶を啜る。
睨み合っていた2人は、やがて座り込むと目の前に置かれた茶を同時に飲ま干した。
修也がリヒトを倒して既に1ヶ月が経とうとしていた、本日の朝の10時。修也のスマホに、天樹からの集合号令が送られてきた。その文章にはフル装備をしっかりとして来る旨が書かれていた。
そして2時間後。修也は黒のTシャツの上に琥珀が編んだコートを着て、スボンは紺のジーパン、黒色のブーツといった装備であった。ほぼ完全に私服ではあるが、修也が持つ装備の中でこれが最高である。
まあ、そんなことはまた今後説明しよう。
結果として修也が本部長室訪れた直後、すぐにソファへ促され、開口一番に変態のような質問をされたのだ。修也の反応も理解できるだろう?
「で、どうなんだい!?君の好みをぜひ知りたいんだが!?」
「鼻息荒くしてんじゃねえよ!ちょっ…近寄んな!やべぇ絵面に見えるだろうが!」
「何を言う!そんなもの大したことではない…!」
ガチャッ
天樹が話していた言葉を決めるように、扉が開く音が聞こえる。修也の体が硬直した。
ま、まあ待て…この部屋に入ってくるのはせいぜいこいつ(天樹)の秘書くらい…勘違いされることは決して…!
修也はゆっくりとしたペースで、扉のある後ろへ向く。ギギギギギッ…と、壊れたロボットのような音を立てて。
後ろを向いた修也は、まず安堵に包まれる。入って来たのは、天樹の秘書であるこれまた同じくメガネの女性だった。
…しかし、その安心も束の間。修也の周りの時間が、一瞬で停止した。
「人生は小説より奇なり」……なるほど、まさに的を射ている言葉だ。この言葉を放った人物に、称賛の言葉を送りたいものだ。
…だって、そうだろう?
まさか、中年男と顔を近づかせてくだらない(エロ方面)話をしているこの空間に…
…たった1人の幼馴染が来るなんて、誰も思わないじゃないか。
入って来たのは、秘書1人ではなかった。女性の後ろから、今まで隠れていた姿を見せる。
茶色の、流れるような髪に、全てを見通すかのような銀色の瞳。
…しかし今その瞳は、驚きのあまり見開かれている。そして、少女は現在の修也と天樹の状況を把握したのか、少し視線を往復させると…その顔は、噴火前の火山のように顎から額にかけてみるみる赤くなっていく。そして、1歩下がり、扉の取手に手をかけると…
「…すみません、お邪魔しました…」
パタンッ
囁かな音と共に扉が閉じられる。
「…フッ。」
修也は、鼻で笑う。
まあ待て、この状況…やることは決まってるだろ?そう…
「…ちょっと待てやアアアァァァァァァ!」
修也は超高速でソファを飛び出し、扉の外に出る。そのまま扉の前で転移霊術の術式を編んでいた少女に掴みかかった。
「わゎ!」
少女は驚きの声をあげるが、修也は気にしないかのようにさらに壁に押し付け、軽い拘束。
「おいコラ天乃!お前何勘違いで俺の悪評広めようとしてんだ!」
「な!そ、そんなのじゃないわよ!た、ただ…天樹さんとあなたがそういう関係ならって…」
「勘違いしまくりじゃねえか!変な妄想すんじゃねえよこの箱入り娘が!」
「な!?」
天乃の顔が瞬時に赤くなる。恥じらいの顔ではない。完全に、怒りで赤くしている。
「て、訂正しなさいよ!私だって普通に人とコミュニケーションとれるし、市内に友達くらいいるわよ!」
「お前箱入り娘の意味勘違いしてるだろ。…ていうかその友達って俺だけだろ!」
「う、うるさいわね!放っといてよ!」
ギャーギャーギャーギャー!
2人の喚き声が廊下に響く。もし、この現場を誰かが見ていると、大いに驚いていただろう。…協会の重要人物と、復帰したとはいえ、忌み嫌われている大犯罪が、夫婦漫才を繰り広げていたのだから…
「…謝らねえからな。」
「…私だって。」
そう言って、ソファに着く2人はそっぽを向く。
結局、あの後2人の喧嘩(夫婦漫才)は激化し、何故か霊術を撃ち合うなどというほとんど戦闘に近いものへと変化した。
まあ、二人とも霊術を編み上げる直前に天樹に止められて本当に打つことは無かったのだが。
ちなみに、あの夫婦漫才中も琥珀は茶を啜って、菓子を食っていた。
「…お前よくあの騒がしさで茶啜れたな。」
修也が言うと、琥珀は肩を竦めた。
「あんなもの、ただの子供と子供のじゃれ合いにしか聞こえんよ。…それに、夫婦漫才っぽくてあれはあれで面白かったしの。」
「いいお茶請けになったわい」と、琥珀は天樹の秘書にお代わりを頼む。
そういうもんか、と修也はひとまず自分の疑問に区切りを打つ。
「さて、じゃあ天樹。説明してもらおうか。」
「…私としゅ…桐宮君を呼んで、何を企んでいるのか。」
それに天樹は、笑いながら答える。
「企んでるなんて人聞き悪いなあ。僕そんな企んだりするような男じゃないよ?」
「どの口が言ってんだ。」
天樹の茶化しに修也は鋭いツッコミを入れた。修也は更にため息をつく。
「お前なあ、覚えてるからな?報酬の高いクエストに俺とお前、あと親父とお袋で行った時お前前半なんもしてなかったくせに後半からいきなり術連発して報酬の過半数持ち去ってったの。」
「いやあ、それを言われたら何も言えないというか、あの時はちょっと金欠だったと言うか…」
「高位家系の主が何言ってんだ。」
修也の言葉に「家計とお小遣いは扱いが違うんだよ…」と萎れるようにボヤく。
「それに関しては私から説明させていただきます。」
萎れた変態(天樹)の前に、メガネの秘書が進み出る。一つにまとめた金髪、赤眼鏡、キリッとした目、着整えられているスーツ。まさに《出来る女》感を出しまくっている。…まあ、意図的では無いだろうが。
秘書の女性は、手に持った書類を見ながら話し始める。
「お二人には本部の勅令により、これから新たな任務についていただきます。内容は、霊達による反乱の鎮圧、逆賊である霊達の殲滅又は捕獲。して任務場所は…」
「あの、すいません…」
スラスラ進もうとする話に天乃は待ったをかけた。秘書の女性は少し首を傾げる。
「なんでしょう?」
続いて天乃が質問する。
「あの…2人って言いましたけど…その2人って…どの2人、ですか?」
「AHAHAHAHAHA。おいおい天乃。そんなの決まってるじゃないか。」
そう言って、修也は琥珀の頭に手を置いた。
「《俺と琥珀》、に決まってるだろ?」
「そ、そうよね!それしかないわよね!」
「ああ、当たり前じゃないか!」
あはははははは…
本部長室に2人の笑い声が響く。
それにため息をつき、茶を啜る琥珀。
それを少し困ったような顔で見つめる秘書。
そして…
「何言ってんの?修也君と天乃ちゃんの2人に決まってるじゃない。」
その言葉に、2人の笑顔が凍りつく。笑い声がピタリと止まった。
グリンッ
向き合っていた顔が天樹と秘書の方を向く。その笑顔に、秘書の女性はこう思う。
『あ…死んだ…』
それほどまでに、その笑顔には恐怖しか感じなかった。
尚もニコニコした表情で、修也は問う。
「ん?聞こえなかったな。天樹、もう1回言ってくれる?」
「え?いやだから、この任務は修也君と天乃ちゃんの2人にやってもらうって言ったんだよ。あ、ちなみに2人をペアにすればいいんじゃない?てジジイ共に勧めたの僕なんだ☆感謝してくれても…あれ?修也君、なんで収納空間から縄を取り出してるの?え、ちょ、いや…あの…あーー…!!」
…本部長の悲鳴が廊下に響き渡った。
照明が5つだけの、薄暗い部屋。
その照明の真下には2つを除いて担当の人物がそれぞれ座る。
赤い照明の下には、見た事のある顔。桐宮家現当主・《炎精剣》桐宮才蔵。先日怪我が癒え、病院から退院した修也の祖父。
そんな彼は、激昴していた。自分が知らぬ間に、《五元老》が決定していた事案について。目の前にある書類と共に、彼は机に拳を叩きつけた。それだけで、鉄並みの硬さを誇る机の一部が凹む。
1ヶ月強前、彼と孫娘が連れ去られた時、彼は相手の攻撃を受けるのみであった。しかし、それは本当の実力では無い。あの時、才蔵は大きな任務から帰宅したばかりで、休息が十分でなかったが故に、消費した霊力もあまり回復出来ていなかったのだ。
故に、彼は数十人の敵を前に勝てないと判断し、せめてもと自分に攻撃が向くよう仕向けたのである。
まあ、ぶっちゃけると才蔵が万全の状態なら眞明達を倒すことなど造作もなかっただろう。
…話がそれたな。
ともかく、才蔵の怒りはある一つのことに向けられていた。拳と共に机に叩きつけ、今は木っ端微塵になっている紙の内容。
…そう。自分の実の孫息子である修也の配属内容である。
「…貴殿達も随分なことをしてくれるな…!恥というものを知らんのか…!」
その憤怒の表情に、向かい側に座る3人の内橙色の照明の下にいる土御門家の人物が返す。ちなみに、残りの二人の顔は妙な札のようなもので見えない。
「何を怒っているのかな?桐宮氏。チームに属さないという自身の配属先を決めたのは彼であり、その仕事内容を決めたのも彼である。」
それに、青色の照明の下にいる雨颯家の人物が便乗する。
「然り。かの者が決めたことに、祖父とはいえそなたが口出しすることではないであろう。」
2人の言葉に、才蔵は2人を更に睨む。
「…別にそこには文句は言わん。我が腹を立てているのはそこではない!」
ドンッ!
更なる音が響く。空気が大きく揺れた。
「神宮寺家の長女・天乃様と修也がペアとなっていることに腹を立てているのだ!」
その怒りの言葉に、土御門家は両手を上げて肩を竦めた。
「そんなことを言われてもなあ…我々は天樹殿の提案に乗ったまで。」
「然り、真意などは天樹殿に詳しく聞けば良かろう。」
そんな、半ば天樹に押し付けたかのようなセリフに、才蔵は憤り以上の感情…呆れを感じることに気付く。
才蔵は話しても無駄かと思い、席を離れる…
「ガハハハハ!おうおう、またやってんなつまんねえ喧嘩を!」
才蔵はその言葉に、横目を向けた。今まで、空白だった2つの席の片方。黄色の照明の真下に1人の黒髪の男性…いや、少年と言ってもおかしくない外見をした者が座った。まあ、年齢はその比ではないのだが。
彼の名は雷城
「…雷城殿、相変わらず自由奔放ですな。」
才蔵の言葉に、霹靂は笑いながら返す。
「ガハハハハ!そりゃそうだろ、才蔵殿!人生は楽しんだ者勝ちじゃ!自由奔放、私利私欲のために戦わねば楽しむものも楽しめんさ!」
そう言うと、霹靂は椅子にドカッと座り込んだ。遅刻したというのに、この堂々とした態度。少しだけ見上げたものがある。
『…見上げたくはないが、な。』
才蔵の思考と、霹靂の質問はほぼ同時だった。
「して才蔵殿?貴殿は何故そこまで腹を立てておるのだ。配属先なんかはほとんど桐宮修也の希望通り。ペアとなるお人も美人で超強いで有名な神宮寺天乃様ときた。前線復帰者にしてはかなりの待遇ではないか?」
「そのペアが問題なのです!」
才蔵は更に机を叩きつけた。
「次期《使媒頭》となられるお方を前線に投入されるなど、正気の沙汰ではない!」
使媒頭(しばいのかみ)、というのは読んで字の通り。裏である霊使者と表である霊媒師の頂点にある役職である。
霊使者協会が立ち上げられたのが、およそ450年前。その時から数多の霊使者を統括してきた、まさに霊使者達の《トップ》。無論代が変わることによって使媒頭も変わっていくので、今は8代目使媒頭となっている。
使媒頭は代々、神宮寺家の当主が受け継いでいくものだ。つまり、自動的に次期使媒頭は神宮寺家の長女である天乃になるわけだ。
そんな彼女が、前線に出て、命を賭す。才蔵の怒りはそれを提案した天樹によりも可決した3人に文句があるようだ。
「貴殿らは協会を潰す気か!?」
その怒りに、土御門家が返す。
「何を言う。神宮寺家の当主は若年期に戦いに赴かせるもの。何も問題はありますまい?」
「それは多数の部下を連れての大規模戦闘で統率力を養うためのもの!このようなペアでの戦闘など危険でしかないぞ!」
それに雨颯家が返す。
「貴殿の言うことも一理ある。しかしこれは使媒頭様直々の命令であるのだぞ。」
「なに…?」
彼の言葉に才蔵が反応した。
「使媒頭様はご自身よりも強く、疎まれる霊使者に天乃様をするため、ペアでのランキング登録をご決断された。もちろん、極秘でな。」
「それに登録には偽名を使うので大事にはならぬだろう。霊使者が天乃様と鉢合わせても、あのお方はあまり顔をお出ししておらんから気づかれんじゃろうしな。無論、何故貴殿の孫息子のペアにしたかも策あっての事じゃ。」
「策、じゃと?」
才蔵の問いに雨颯家はこくりと頷く。
「さよう。貴殿の孫息子、桐宮修也は復帰したとはいえ罪人は罪人。まだまだ危険がある。更に戦闘試験でA級2位のリヒト・水上・シュバイティンを倒したことで、その戦闘能力が凄まじいこともわかった。生半可なものを監視につけたら殺されるやもしれぬ。その点、彼女なら実力も申し分なく、しかもかつては桐宮修也自身とただならぬ関係だったとのこと。これ以上の相手はおるまい?」
そう言われては、才蔵は何も言い返せなかった。使媒頭の言うことは絶対であり、才蔵にはどうすることも出来ない。一応《五大創始家系》には拒否権が認められてはいるが、先程の土御門家や雨颯家のような事を言われては、特に反論もできない。
「…わかった。使媒頭様のご意見なら仕方あるまい。」
そう言うと、今まで沈黙を貫いていた…というか持ってこさせた菓子に夢中だった霹靂に声をかけた。
「…しかし霹靂殿。貴殿が可決したとは少し意外ですな。」
「むぐ…?」
霹靂はまんじゅうを頬張りながらはてなマークを頭上に出す。
別に霹靂が可決すること自体はそこまで珍しくない。ただ、彼は《五元老会議》に出席すること自体珍しいのだ。それ故に、彼の意見は反映されにくい。何故、彼は今回だけ出席したのか。
霹靂はまんじゅうを呑み込むと、ニヤリと笑った。
「理由なんて、一つだけだよ。《面白そうだったから》。そんだけ。」
それ以外に理由など存在しないと、彼は言う。彼は自分の感情でしか動かない。周りに流されることなく、ただ自分の意見を通す。だからこそ、彼を支持する者は数多居る。
「…話し合いは終わりだ。今日の会議はこれくらいにしておこう。」
土御門家がそう告げると、雨颯家も同時に立ち上がり、会議場を後にする。続いて才蔵と霹靂も立ち去り、会議場は完全な静寂に包まれたのだった。
「…建て前だということが、見え透いておる」
そう、才蔵は呟く。
修也と天乃をペアにした事の真意を、才蔵はほとんど見抜いていた。
土御門家と、雨颯家。この両者は自身の欲にしか興味が無い。おそらく天乃成長のためとのたまっておきながら、そんな気は毛頭ないだろう。あるのはただ、次期使媒頭を自身の家系から輩出することのみ。
使媒頭というのは別に、神宮寺家の血筋でないといけないなどという制約はない。条件を達成さえすれば、たとえ下位家系の中でも使媒頭にすることは可能だ。では何故、それを達成できないのか…
ただその条件が、神宮寺家の人間にしか達成出来たことがないだけ。才蔵も詳しくは知らないが、なんでも《統率力》なるものを示さなければならないのだという。
そんなものを、どうやって示すのか。彼には検討もつかないが、まあ、そんなことはどうでもいい。
問題はその条件を達成する方法を、可決した両家が解明し、発見したかもしれない事だ。
五大創始家系は、こういってはなんだがまったく信用しあっていない。(実は)古くから交流のある桐宮家と天樹家はまた特別だが、各家々はそれぞれ、偵察隊を常時家の近くに張り込ませている。
例えば今の桐宮家周辺には土御門家、雨颯家、そして雷城家の偵察隊が潜伏している。協会内での争いごとは禁止されているので、こういう前兆になるようなものは文句を言えばすぐに追い返せるのだが…自分達もやっているので文句は言えない。それこそ修也が地下の蔵から地上まで出たのを、見たものはいただろうが琥珀の霊力が強過ぎるせいで特に何も分からなかっただろう。
…結局何が言いたいかと言うと、桐宮家は偵察隊によって他家のほとんどの情報が筒抜けであるということだ。正確な情報も、虚偽の情報も。
であるが故に、土御門家と、雨颯家の両家が達成の仕方を解明したという情報はすぐに入った。
もちろん、虚偽の情報である確率は大いにある。まあ、そんな重要情報を垂れ流すほど、両家が甘くないことは才蔵も熟知している。だが、ないとも言いきれない。
ないと楽観視するより、あると思って警戒しておく方がいいだろう。
そうなると、確実に長女の天乃は邪魔になるため、最も死亡確率の高いペアでの任務につかせた可能性が高い。
『土御門家と、雨颯家は警戒しておく。この判断は間違っていない。しかし…』
才蔵は、気がかりがもう1つ。それは霹靂が発した、あの一言。
『面白そう』
「…」
この言葉はただの霹靂の《勘》だ。普通ならば無視しても良い意見。しかし、霹靂の《勘》ならばそれは要注意する必要がある。
彼は、勘というものをはずしたことが、《1度もない》。
戦闘然り、日常生活然り。彼の感は妙な確実性をチラつかせる。
霹靂は、権力などには興味が無い。
求めるのは、物理的な力のみ。貪欲に力を求め、日々体を鍛え続ける。
故に、霊使者の中でも突出した力を持つ。
あげた功績は数しれず。正真正銘、誰もが認める《最強》。その圧倒的な力から、与えられた二つ名は、《戦帝》。
もちろん使媒頭などというものには興味が無く、天乃を邪魔扱いする理由もない。…だが、修也とのペアを可決した。《面白そう》、それだけの理由で。
かの最強が考える、感じる面白さを才蔵は考える。自分にはあまり縁のない感情を。
「…まさか…。」
そう言って、行き着いた答えを才蔵は首を横に振って否定する。才蔵は、霹靂について考えるのをやめた。彼は余程のことがないと、味方と敵対したりはしない。ならばそっとしておくのが良いだろうと才蔵は決定した。
彼の足音だけが、暗い廊下に響き渡った。
「…という訳らしい。」
俺はそう締めくくる。
向き合う天乃は、苦虫を噛んだような顔をした。
「なるほど、お父様が…それならそうと娘に一言言ったらいいのに。」
「そういう所抜けてるのよね…」と、天乃はボヤく。
俺は天樹から、前回の五大創始家系会議によって決定した内容を聞き出した。まったく、面倒くさい内容を可決してくれたものである。俺はため息ひとつ。
「あのー…それで、修也?」
「ん、なんだよ。」
天乃が何か言いたそうに横を見る。俺は任務の書類を見ながら先を促す。
「…新様、そろそろ下ろしてあげていいんじゃない?」
…縄で手を縛られ、宙吊りにされた変態眼鏡を指さし、そう言った。
「おおー、さすが次期使媒頭殿。お優しい…どうかな、修也君。これは使媒頭殿の優しさに免じて下ろすというのは…」
「一生そうしてろ。」
俺は見もせずにそう告げた。
天樹は縄で縛られた後、別に拷問されるまで何も喋らなかった訳ではなく、最初からペラペラペラペラ喋り始めた。そこら辺に鞭などが転がっているのは、ただの飾りだ。決して、勝手に提案し勝手に決定したことに腹を立て、修也がしばいたからではない。そこは勘違いしないで欲しい。
俺は、もう一度任務の書類を一瞥する。天樹の秘書は自身の主をゴミを見るような目で見上げながら、静かに直立していた。
まあ、自業自得である。なので無視しよう。決して、可哀想とか思わないように。
「ふむ…」
俺が持つ書類には、任務地が書かれている。それを確認してから…
「天乃、着替えって持ってるか?」
俺はそう質問する。見ると彼女は天樹をおろして、縄を解いていた。別にいいって言ったのに…
「え?ま、まあ一応収納空間には何日分かの着替え入れてるけど…」
「よしよし。」
俺は書類を丸めて収納空間に突っ込んだ。
「…ねえ、なんか嫌な予感がするんだけど…まさか今から行く気?」
「もちろんその気。」
俺は関節を伸ばしながらそう答える。横ではソファからおりた琥珀が転移霊術の術式を編んでいる。
「善は急げってな。そら、手え貸せ。」
「…嫌よ!装備とかしか準備してないのに任務なんて!せめて傘下の人達に挨拶ぐらい…」
「何人いんだよ。そんなの今日中に終わるわけねえだろ。」
俺は天乃の襟首を掴んだ。
「じゃあ、またな天樹。1週間ぐらい帰らねえと思うからジジイ共に言い訳頼むな」
そう言うと縄を解いてもらった天樹は手首を回しながら苦笑した。
「相変わらず無軌道な人間だねえ、君は。まさか次期使媒頭殿ですら引っ張り回す気かい?」
天樹の言葉に、修也は不敵な笑みで答えた。
「別にその気は無いけど…結果的にそうなるなら、仕方ないよな。」
そう言うと、2人の周りが淡い光に包まれ始めた。転移霊術が発動される前兆。
「じゃな。土産は完了報告ってことで頼むぜ!」
「い〜や〜!離して!お父様にお叱りを受けるの私なんだから!」
「出来る限りフォローしてやらぁ!」
「弁護って言いなさいよ!ちょっ…」
ヒュン!
その会話を最後に、二人の声は途切れた。
残るのは反響の残る静寂のみ。
どうやら、2人は霊術の転移で目的地に飛ばされたようだ。
失敗して、体がバラバラになる可能性もあるが、まあ、吸血鬼の王である琥珀が使ったから失敗することはまずないだろう。
天樹はため息をつくと、紙の散らばった机の近くにある椅子に腰掛けた。
「相変わらず、予想できないことをなんでもないようにするなぁ、あの子は。」
そう言って、窓から見える太陽を見つめた。
『…陽也、修那さん。…見守ってやってくれよ。…あの子達の旅路に、より良い未来があるように。』
天樹は、そう想う。
かつて、苦楽を共にした友とその妻の顔を、思考の端で思い浮かべながら。
その一瞬、まるで答えるかのように、太陽の光が眩く煌めいた…
ズズズズズ…カッポーン。
お、しか脅しが鳴いた。ポリポリ
さて、急展開で修也が幼馴染とペアになりました。
ちょっと読者の皆さんが置いていかれるかなと思ったんですけど、まあ、今かなと思いまして。
そんなこんなで、次の任務地がどこか考えてはいます。とりあえず言うと…近くはないです。まあ、地球の裏側とまでは行きませんけどね。
それでは楽しみにして、また次回!
カッポーン…