聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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日本でのお酒は20歳から!


第26話 墓参り

行き交う人の流れ。賑やかな人々の喧騒。

遊ぶ子供達。笑う大人。

そこに身を置きながら、それらを見ながら、ジャンヌは思う。

 

やはり、美しいと。

 

 

あの戦乱から、2日が経った。

軍に少数の、反乱軍に多数の死者を出した凄惨な戦の末、フランス国民はようやく一息がつけるようになった。

だが、軍の指揮などを任されていた王家に、そんな時間はほとんどなく、あれよこれよと多数の仕事が舞い込んでくる。

今は、軍のお偉いさんや霊使者の指揮官と共に会議中であった。

「今回のこともある。やはりデモ隊達は武力で制圧すべきでは…?」

「しかしそれでは国民の反感を買いかねない。慎重に動くべきでは…」

「いやいや」

「いやいやいや」

本当はもっと厳密な、内容の濃い話し合いが行われているのだが、ここでは割愛しておこう。

広がる喧騒。

パンパンッ!!

それらは乾いた音により、一瞬にして、ピタリと止まる。

その音の発生源。軍の総大将であるウィリアムはひとつため息をついて、全体に語りかけた。

「それについては、また話し合いの場を設けます。今回はもう一つの問題についてです。」

ウィリアムの言葉に、肖像画の前に座るサレスが引き継いだ。

「それについては私から。今回の戦乱中、私達王家が代々引き継いできた秘宝。それが何者かに盗まれました。現場から、犯人は見張りの4人を気絶させた後に厳重な金庫を何かしらの強い力でこじ開けたようです。」

ザワッ

サレスの言葉に、どよめきが走る。

それにガーシーが反応した。

「それについては私にも責任がありましょうな。なにせ玉座の間に居続けておりながら怪しい反応に気づけなかったのです。」

「ですが逆に言うならガーシー殿の敵感知を潜り抜けられるほどの腕を持った、霊術士であるということでしょう。」

ウィリアムの言葉にガーシーはふぅとため息をついた。

「私の腕も高いとは言ってもこのフランス軍の中でだけの事。霊使者の方々の腕からすればヒヨっ子でしょう?」

チラリとガーシーが目配せした先には、霊使者のフランス支部責任者・雨久康文が少しの間の後、返答する。

「…確かにガーシー殿に優る術士ならウチには複数人ほどいます。…が、それでもまったく感知に引っかからないなんて不可能ですよ。」

「ほう、その根拠は?」

「霊使者協会のそれぞれの家系は基本的に近接か遠距離か。戦闘方法をその産まれ持っての才能で決めて、それが形になってからデビューするんです。つまり、術士が霊術を使ってこじ開けたりしたら感知に引っかかりますし、近接戦闘者が強化霊術を施してからこじ開けたにしても、どの道強化霊術が引っかかります。どう足掻いても不可能です。」

そう言い切る康文。

しかしガーシーは尚も問う。

「ですが、金庫を破るだけの地力を持っていれば破れるわけでしょう?あなた達なら可能では無いですか?」

「いくら私達が霊と戦うことに命を賭していると言っても、地力の筋力には限りがあります。流石に物理法則は越えられませんよ。」

苦笑いと共にそう言う康文はふいっと目線を背けた。

「そんなのは、()ウチ(協会)のトップレベルぐらいです。」

「…ま、それもそうですな。」

…寧ろトップレベルなら出来るのか。

そんなツッコミを、お偉いさん方はゆっくり飲み込んだ。

 

「あの、その件については私が助力出来るかと。」

少しの静寂を、1人の女性の声が破る。

その瞬間に注目が一気に彼女に集まるが、彼女はそれでも凛とした姿勢を崩さず説明に入る。

「ジルは軟禁していた私の様子を見るためにたまに私の元を訪れていたのですが、そこでの彼の話の中に何度か《あのお方》と呼ばれる者が出てきたんです。ジルは自身の上司…目上の者にしかそのような敬称は使いません。ですので、その者が怪しいかと…」

「なるほど。」

ウィリアムはそれにウムと顎を触って納得する。

「確かに人間でなく霊や妖と言った類のものなら物理法則なんかは関係ありませんからな…ましてやかの総帥気取りの目上の者となると…」

「ええ、英霊クラスであると考えた方が良いでしょう。幻想種ならば、存在を感知されずに金庫を開けることなど容易でしょうし。」

「なるほど、現実味を帯びてきたわね…」

サレスが唸る中、ウィリアムは続ける。

「その者がその秘宝…聖遺物《シャルルマーニュの宝剣》を即座に使うことは有り得ますかな?」

「残念ながら私もそこまでは…ただ、使えるなら奪ったその直後にすぐさま使うはずです。それなら使わない、または使えない何らかの理由があると考えるのが妥当です。しばらくの警戒は必要でしょうが…」

ジャンヌはそう断言した。

その様子に、周りのもの達は頷くことしか出来ず、会議はつつがなく進行していく。

…しかし、1人。

彼女の横に座る黒髪の少女だけがチラリと横目でジャンヌを見て、そして、ゆっくりと卓上の茶を1口啜った。

 

「…小娘、あれは何の能力じゃ?」

琥珀の問いに、ジャンヌはこてんと可愛らしく首を傾げる。

2人は会議の後、ゆっくりと王城の廊下を歩いていた。

「はて、なんのことでしょうか。」

「とぼけるでない。」

琥珀は苦笑いと共に口を開く。

「貴様のあの時の言葉、まだツッコミ所があったにもかかわらず何も言わず軍の連中が引き下がったのは、《統率(カリスマ)》が働いたからであろう?」

 

統率。

それは、霊が宿す特殊性能の1つ。

軍などの多数集団を統治することに特化し、あらゆる局面で活躍する万能系能力。

自身の言葉を他人に説得力があるように感じさせることも出来る。

生前、一定数の集団を1度でも率いたことがあれば出現する可能性があるので、珍しい能力ではないが、その効果は各々によって強さが変わる。

 

「ならば、普通のことでしょう?《統率》ならば自身の言葉を相手に信じ込ませることも不可能では無いのですから。」

「それには自身の中に《確証》が必要となる。自身の中で《間違いでない》と思ってなかったら人は信じ込まんよ。」

そこでジャンヌは、彼女に誤魔化しは通用しないことを思い出す。自身の数十倍もの年月を生きる彼女に、この手の心理戦というか、駆け引きは無謀とも言えるものであった。

ジャンヌはため息をついて話し始める。

「…私のこれは、私の能力ではありませんよ。」

それに琥珀は小首を傾げ、不思議そうな顔をする。

「《聞こえる》という点では私の能力かもしれませんが…私の場合は、未来が《視える》というより、未来を《知れる》と言った方が正しい。」

 

「私には、時折《天啓》が下ることがあるのです。」

 

「ほお、神々の声とか言う胡散臭いあれか。まさか本当に聞こえる者がおったとは。」

胡散臭い、という言葉に引っかかりを覚えたのか、ジャンヌはムッと機嫌を損ねたように眉を寄せる。

それに琥珀は楽しそうに笑う。

「いやなに、儂は《あちら側》にいたとき、その手の連中とも関わる機会があってのぉ。その時のあやつらの印象ではどうもこの世界の者共にそこまでの《ハンデ》を許すか疑問での。」

琥珀のその言葉に、ジャンヌは少しの不審感を覚えるが、しかし彼女の言葉に嘘と見受けられるものはなかった。

いや、《そう信じ込まされた》と言うのが正しいのか。

実は人間の霊だけでなく、妖にもこの手の能力は付与される。先程の感じからして、琥珀は《統率》を入手していることは間違いない。

「……」

ならば、この妖のポテンシャルは如何なるものか。

想像して、ジャンヌは少しだけ身震いを起こした。

 

しばらく歩いて、2人は中庭に出る。

青い空から降り注ぐ昼の日差しが、地面の芝に反射し煌めいていた。

琥珀はベンチに腰掛けると、ポンポンとその隣を叩く。ジャンヌはその行動の意味を察して、琥珀の隣にゆっくりと腰掛けた。

不純物が感じられない、爽やかな風と共に、微かな草木の香りが鼻腔を突く。

それに、しばし体を委ねて、ゆっくりと目を閉じた。数日前の戦場での喧騒が、夢にまで思えてくる。

横目で琥珀の耳がピクリと反応するのが見て取れる。それと同時にジャンヌはある人物が近づくのを感じた。

目を開けて、チラリと左に視線を向ける。

王城の吹き抜けの廊下を、豪華な内装とは全く合わない、簡素なTシャツとジーパンに身を包んだ人影がゆっくりと歩いていく。

その姿に、ジャンヌは優しく笑みを浮かべた。

「おはようございます、修也君。」

「ん〜…おう。」

近づく彼に挨拶をすると、そんな抜けた返答が返ってくる。修也が近づくと共に琥珀はピョンッとベンチから降りて、修也はその空いた箇所に腰を下ろした。直後に、琥珀はその小さな体を修也の膝に乗せて、もたれ掛かる。頭を撫でる修也の姿と、それに目を細める琥珀の姿は父子…いや、飼い主と猫にも見えた。

それに目を細めていると、修也はジャンヌに意地悪い笑顔で笑いかける。

「やって欲しいか?」

それに少しキョトンとして、ジャンヌはポッと頬を少し染めて、首を振った。

「い、いいです!間に合ってます!」

何が間に合っているのかは自分でも分からなかったが、ジャンヌはそう答える。それに修也は楽しそうに笑う。

「冗談だよ。お前は身長高いから絶対俺の腕がすごい体勢になるのは目に見える。」

「…重そうとは言わないんですね。」

「親父にそこら辺はしっかり学んでる。」

そう言って少し得意気に微笑む彼が可笑しくなり、クスリと笑った。

「今日もよく眠ってましたね。霊力の補充ですか?」

「うんにゃ。霊力や怪我なんかはしっかり完治してるけど、どうも体がだるくてな。疲れでも溜まってんのかな。」

「《幻想憑依》の影響じゃよ。」

琥珀が薄目を開けてそう告げる。修也は手を止めると、琥珀は尚も喋り出す。

「元々憑依とは、お前様達《霊使者》達の専売特許ではあるが、それはあくまで普通の霊達ならの話じゃ。」

「…どゆこと?」

「じゃから、儂やそこの小娘のような英霊を憑依させるにはそれなりの条件と対価が必要じゃ。」

そう言って琥珀はくるくると立てた指を宙で回しながら説明を始める。

「まずは条件。1つ、使用者と英霊が契約していること。2つ、使用者のポテンシャルがその英霊を憑依させるに値していること。3つ、一定以上の使用者と英霊の信頼。次に対価として一定以上の霊力が消費される。」

「まあ、簡単に言えば条件さえ満たしてしまえば後は霊力を使えば使えるわけじゃ。最も、2つ目をクリアするのが1番困難じゃがな。」

フッと笑いながら、琥珀は修也の胸に頭を預ける。その頭に顎を乗せて、修也は問う。

「ポテンシャルって言うけど、そんなんどうやって測るんだよ。」

「測れんよ。あくまでその部分は英霊の見立てじゃ。英霊はその者が自身の存在を受け止めきれる存在か直感的に理解出来る。儂もお前様と契約する時にそれは確認しておる。それに、それほどのポテンシャルの無いものが儂を憑依させようとすると、問答無用で四肢が捥げる。」

「四肢ガッ!?!?」

「そう怯えるな。儂はそもそも受けきれんような未熟者と契約することはまず無い。儂とそこらの雑魚を一緒にされては困るしの。それに、1回成功したということはもうこれからいつでも使えるということじゃ。」

「…それもそうか。」

琥珀の言葉に修也は頷きながら受け止める。

「まあ、今回の体のだるさは軽めの副作用と言ったところか。何せ初めての憑依で、今まで使ったことの無い力の奔流がお前様の霊管を流れた。それによって多少の霊管麻痺が起こっているだけじゃ。気にする事はない。」

「ふーん…まあ、お前が言うならそうなんだろうな。」

修也がそう言うと、琥珀はニヤリと笑みを浮かべてジャンヌを見た。

「それに、儂との憑依が可能ということは、儂よりランクの低い者達の憑依も可能ということじゃしな。」

その言葉に、修也はチラリとジャンヌを見て、ジャンヌは困ったような笑みを浮かべた。

「…ランクの低いという言い方には少し引っかかりますが、まあ、そうですね。修也君のポテンシャルなら、私との幻想憑依も可能でしょう。」

「まあ、信頼関係があるかどうかはまた別として、な。まだそんな時間経ってねえし。」

「そこら辺は心配要らんじゃろ。」

「へ?」

琥珀の言葉に、修也は疑問符を浮かべるが、ジャンヌは咳払いでそれを遮る。

「それより、天乃は?」

「神宮寺さんなら、報告があるからと今朝方琥珀さんが転移霊術で送られましたよ。また帰ってくるそうですが。」

「そ。なら、いいや。俺は先に済ませとこう。」

「済ませるって、何をですか?」

「ちょっと…」

「…え?」

 

「あの、琥珀さん…」

「しっ、少し静かにせい。今いい所じゃから。」

「いや、いい所も何も、通りを歩いてるだけじゃないですか。」

琥珀とジャンヌ。

密着する2人の視線の先に居るのは多数の人々に合わせて歩く修也。

「あの、この行動になんの意味が…。それにこの格好…」

「馬鹿者。尾行にサングラスと帽子は鉄板じゃろ。これだから今時の若者は…」

「いや、そんな事言われても私英霊なので1度死んでるんですが…」

そんな二人の後ろから、声を出す1人の人物。

「…あの、私に戻ってきてと催促しておいてなにやってんの?」

「ただの尾行じゃよ。」

「「何言ってんの?」とでも言いたげな顔で言わないでよ!私だけじゃなくてアリシア様も連れ出すってどういうこと!?」

「ど、どうも…」

「どういうことも何も、我が主の女付き合いの調査のために付いてきてもらったまでよ。貴様らも気になるじゃろ?」

「いや、でも修也は《墓参り》って言ってたんでしょ?なら調査するまでもないじゃない。」

「甘いのぉ。修也から箱入り娘であるとは聞いておったが、近年稀に見る箱入りさじゃ。」

「変な言葉つくらないで!」

「ま、行って損は無いと思うぞ。…どうせ、多少は気になっておるんじゃろ?」

「多少は…」

「気になります。」

「…はあ、しょうがないわね。」

 

しばらくすると、修也は開けた場所に足を踏み入れる。

そこにあったのは、多数の石材で出来た十字架だった。その中には、花が置かれているものもある。

「なんだ、本当にお墓参りだったんじゃない。」

「ふむ、さすがに女と密会ではなかったか。」

「そりゃそうでしょうよ。」

やがて、修也は立ち止まると、自身の目の前にある墓に、持っていた花を添えた。

そして、ゆっくりと手を合わせる。

静寂な時間が流れ、風が通り過ぎる。

「…もういいでしょ?早く帰らない?」

「…いや、待て」

「もう何よ!こんなのマジマジと見るものじゃ…」

「誰かおるぞ。」

「「「え…!?」」」

瞬間、全員の視線が修也に集まる。

それを見ながら、琥珀は呆れたようにため息をついた。

「興味津々では無いか。」

「そりゃパートナーの交友関係は気にするものじゃないかしら」

「そんなことはない。」

「わ、私も主の素行チェックですので…」

「…」(ジー)

「こ、こら…!あまり身を乗り出すでない!」

 

「…何やってんだあいつら」

建物の影で倒れ込んでいる4人を見ながら、修也はそう呟く。どうやらつけてきたらしい彼らに別に怒りも湧かない。というか怒るようなことでもないだろう。

「おや、どうしたの?あの子達知り合い?」

「うん、まあ、知り合いっていうか仲間だな。大切な戦友ってやつだよ。」

「へー、君にも友達が出来たんだね。お姉さんは安心だよー。」

「からかうなよ。友達くらい作れるさ。」

笑い合う2人。

修也が話す相手。長い金髪に、青い眼。そして、かけられた眼鏡が特徴的。その足はなく、体は中に浮いていた。

いわゆる、浮遊霊と言うやつだ。

「ていうか、俺としてはあんたが死んでることに驚きしか感じねえよ。」

「いやーははははっ。英霊って強いねえ。私も負けると思ってなかったからさ。」

「…いくら国の一大事だからって、傭兵だったあんたが挑むもんでもなかったんじゃねえの?」

「ま、そうだねー。正直軍の奴らに任せておくのも一つの手だったとも思うんだけどさ。…でも、やっぱ可愛い後輩を危険な目に合わせたくなかったのよ。」

「ったく、相変わらず貧乏クジ引くよなーこの女は。」

「あははは。私らしいでしょ?」

「ホント、何のために軍から抜けて傭兵になったんだか。」

「そのきっかけは君なんだけどね。」

ため息をつく修也に、浮遊霊の彼女は笑いかけた。

「数年前に君を助けた時、あの時は私がたまたまあそこの巡回だったから助けられた訳なんだけど、やっぱ軍にこもってたら助けられるのも助けらんないって、あの時気付かされたんだよねえ。あの時だってもう少し遅かったら危なかったでしょ?」

「…まぁ、そうだな。あの時のことは、今でも感謝してるよ。」

「でしょ?もっと感謝してもいいよ?」

「そういうの、自分で言うものじゃないぞ。」

うんざり呟く彼に、彼女は笑う。

けたけたと笑う彼女に、修也も微笑を浮かべた。

 

流れる時間の中、彼と彼女の話は続いた。

世間話や愚痴、その他もろもろの話で時間はゆっくりと過ぎていく。

やがて、空が茜色に染まった頃。修也はおもむろに立ち上がった。

「そろそろいい時間だし、帰るわ。まあ、城に戻るだけだけど。」

「うん、そうしとけそうしとけ。…修也はさ、いつまでフランスにいるの?」

「明日明後日くらいには日本に戻るよ。俺の体調にもよるけど、まだまだ任務があるからな。」

「そ。私は結構ここにいるからさ、君が会いたくなったらいつでもおいでよ。」

「浮遊霊のくせに浮遊しねえの?」

「めんどくさいし、気が向いたらね。」

「あそ。…そうだ、これ。」

「ん…?あ、これ!私が好きなワインじゃん!ありがとー!…あれ、でも君…」

「ここはフランス。16から酒買えるからな。そこら辺は一般常識だろ。」

「そりゃそうか。」

修也は、《ソフィア・アンドリュー》と書かれた墓石の上にグラスを置く。

「1杯貰うぞ。」

「じゃ、私も…」

2人はそれぞれにグラスを持ち、そして…

「乾杯」

「うん、乾杯」

一気に飲み干した。

熱い液体が喉を通る。

慣れない感覚に、修也が少し涙目になっていると、女性が笑う。

「やー、まさかあの修也くんと杯を交わす日が来るとはね。人生何があるかわかんないね。」

「もう死んでるけどな、あんた。」

「そうだった。」

「…なぁ、ソフィさん。」

「ん、なになに改まって。」

「いや…ありがとな、助けてくれて。あん時、あんたが助けてくんなかったら、俺ここにはいなかった。」

「あははは。直球なのも相変わらずだね。言ったでしょ?人助けなんてのは私にとっちゃ普通のことなの。感謝されるようなことでもないのよ。」

そう言って笑う彼女は、どこか寂しそうでもあった。

「だからまあ、恩を感じてるなら、君はもっと頑張って。私の分まで精一杯生きて、色んな人を助けてあげて。…あの子達といっしょにさ。」

そう言いつつ彼女は琥珀達に視線を向ける。それに、修也は笑って返した。

「…年数は保証しかねるけど、精一杯生きるってことなら約束できるな。」

「もー、またそういうこと言う。減らず口も相変わらずだね。」

「あははは。」

 

「約束するよ、ソフィさん。俺はあんたの分まで戦い抜く。世界中のあらゆる人を助ける。あんたが俺にそうしてくれたように。」

 

「うん。応援してる。頑張りたまえ、少年」

「あぁ。…じゃあな。」

「バイバイ、いつでも来てね」

「あぁ…」

修也を見送る中、浮遊霊の少女の頬に、一筋の雫が流れ落ちた。

「…子供の成長ってのは、早いもんだね」

 

「…お前ら何してんの。」

「ひぇっ!?しゅ、修也君…!これは、その…」

「いやなに、お前様の女性素行チェックと言うやつよ。」

「はい?」

「お前様が女をたらしこんでおらんか心配での。…ま、あながち間違いではなかった訳じゃが。」

「それしてなんの意味があんだよ。…あれ、アリシアまで居るじゃん。」

「しゅ、修也さん、あの女性とは、どのようなご関係で…?」

「え?…あぁ、恩人だよ。」

「恩人…ですか。」

「あぁ、命の恩人だ。」

「そう、ですか。…良かった…」

「…?…あ、そういや今日は勝利の宴があるらしいから、さっさと帰ろうぜ。アリシアも帰らなきゃ母親がうるさいだろ。」

「そうね、早く帰ろうかしら。お城に。」

「天乃、報告終わったのか?」

「ええ報告終了の休憩中に強引に連れ戻されたから。また後で弁明しなきゃね。」

「…ご愁傷さま。」

「修也君、そろそろ…」

「ああ、そうだな。…城まで競走するか。」

「絶対修也が1位じゃない。」

「いや、琥珀に負けるかもしれんし、それに…」

ヒョイッ

ポスッ

「ふぇ?」

「今日はアリシア肩車して走るから、結構なハンデだろ。」

「ちょ、あなた!一国の王女になんてこと…!」

「いいだろ別に。な、アリシアは嫌か?」

「い、いえ…私は別に…それに、なんだか凄く懐かしいです。」

「そりゃ良かった。…っし、じゃあしゅっぱーつ!!」

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

「負けんぞー!」

「うふふふ、相変わらず賑やかですねえ。」

 

 

ソフィアの墓に咲く一輪の花が、そっと揺れた。




祝・SAOキリト復活!
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