ある土地の山の中。
緑と茶のみのその土地に、駆ける影。
その中の一つ…追われる集団の1人。
「ギヒャッ…!!」
妖である小鬼が、呻く。
その頬に垂れ、散るのは雫。
その顔に出るのは、焦燥。
そして、彼の後ろ。14、5ほどの同じような顔の者達は必死に足を動かす。
木をよけ、地を蹴り、岩を飛び越える。
…その背後。
猛追する一つの影。
赤いコートをはばたくようにしながら、凄まじい速度で小鬼との距離を縮める。
瞬間、彼の刀の等身が青く光り、振り抜いた直後、青い閃光が小鬼を切り裂く。
「ギヒャァッ!!」
「グエェッ!!」
それだけで、小鬼の頭数が半分に減る。
それに小鬼は恐怖し…同時に決意する。
「ケヒッケヒッ!」
「キャキャッ!」
そして、7匹の内5匹が追う彼の前に立ち塞がり、2匹が逃げていく。
「チッ…」
赤いコートの青年は、急停止。
小鬼は、棍棒を構えた。
逃げる二匹の小鬼。
その片方は、片手を口元に持っていくと、大きく息を吐き出した。
ヒュゥイッ!!
甲高い音が鳴り響き、それと同時に…
「…キュアーッ!!」
天空から舞い降りる怪鳥。
赤く異形なその体を小鬼達の近くに着地させ、小鬼はその背中に飛び乗った。
すぐに怪鳥は翼をはためかせ、その体躯を宙に躍らせた。みるみる地面との距離が離れていき、小鬼は嬉しそうにけたけたと笑った。
下を見ると、先程まで自分達がいた場所に立つ、追尾者が見えた。
あの時間で5匹を倒す早さには感嘆するが、しかしこの距離なら手出しは出来ない。
「ケヒャヒャヒャッ!」
小鬼は笑う。
逃げ切れると確信して。
…しかし、直後。
「キュアーッ!!?」
怪鳥の悲鳴が響き、小鬼達は揺れる。
「!?」
小鬼は何が起きたか分からず、落下していく。やがて…
ドシュシュッ!!
「ケヒッ…」
「キャッ…!」
彼らの体は、
見ると、彼らの胸には、貫通したような大きな傷があった。
「まっさか、逃げられるとはなぁ…」
山を降りながら、修也は呻く。
やがて彼の体内から2つの光が飛び出す。
片方は長身の金髪の女性。もう片方は小柄な黒髪の少女が歩く。
「お前様が油断したからであろう。ヘリから降りるのにあんな派手な降り方があるか。」
「まさか到着する前に、霊術で身を躍らせてそのまま気配たっぷりに降りるなんて…」
「しょうがねえだろ、一般人が襲われてたんだから。急がねえとなと思っただけだよ。」
修也の言葉に、琥珀が笑う。
「ま、その行動力は良いところじゃが、今回は褒められんなぁ。」
「…悪かったよ。」
「分かれば良い。」
2人のやり取りに、ジャンヌは笑う。
「それにしても、登山客のお2人助かって良かったですね。」
「あぁ、めちゃくちゃお礼言われとったの。」
「でも、その後協会の方々に連れて行かれてましたよね。」
「まあ、霊使者ってのは基本的に一般人には認知されてねえからな。あれはあの人達の《俺らに関する記憶》を消すために連れて行ったんだよ。」
「え、でも…」
「フランスの戦争のときは、戦場の周りだけ赤い膜で包まれてたろ。あれは《断絶界域》って言って、あの辺りだけ何も無いように見えるんだよ。ちなみに、赤く見えるのは俺らが霊力を探知できるからで、一般人からすれば元の風景に見えるらしい。」
「へえ…」
感心したようなジャンヌ。
その後、修也は唸る。
「…にしても、あの子鬼と怪鳥…協力関係にあったとはなぁ…」
「珍しいんですか?」
「基本的に湧いた妖なんかは知能が低くて別の種族で群れることはない。だから、ああやって協力し合うことは基本的にないんだ。」
「ま、最近は昔に比べて人の《悪感情》が高密度じゃからの。多少なりとも知能の高い奴らが出現しやすくなっとるんじゃろ。」
「…だな。また報告しないと。…
そう言って、頭を搔く修也。
それを微笑ましく見るジャンヌ。
琥珀は同情したようにそれを見つめた。
やがて、宙から舞い降りる一羽の鳩。その鳩を、修也は肩に座らせながら、その足に括られていた紙をのける。
「修也君、それは?」
「丁度いい。ジジイ共からのお通知だよ。」
「…情報の伝達が随分古風ですねえ。」
「いらんとこは伝統にこだわるから。」
「スマホ使えばすぐなのに」と、修也はボヤく。やはり、お約束というのか。《いらない伝統》にこだわる意固地はどの世界にもいるものだ。
「…ほーん。ふむふむ…」
「…なんて書いてありますか?」
ジャンヌが覗き込むように問うと、修也はチラリと見てから、笑う。
そして、その紙を後方に投げ捨てる。
ジャンヌは慌てたようにそれをキャッチした。
「しゅ、修也君?」
「仕事だ。戻るぞ。」
そう言って、修也は歩く。
琥珀は欠伸をして、ジャンヌは中身のない、催促しかない命令書に目を通す。
「…ったく、残業代出ねえかな。」
ないものねだり程、虚しいものは無い。
出雲市の地下。
そこにあるのは土層では無い。
排水管などの、さらに下層。
そこに広がるのは、あまたの建造物。
霊使者達が自身の身を隠すために作り上げた、秘密基地…いや、本部、と言うべきだろうか。
何故なら、大体の家系のもの達がこの地下に本家を置いているからだ。
「…広いですね。それに、凄い建物の数…」
「ま、歴史だけはあるからな。」
その理由は、至極単純。霊使者というものは、一般人に《知られる》ことを極度に嫌う。これまで、修行や任務に追われていたせいで、限られた中での範囲でしかコミュニケーションを取れなかった弊害とも言えるだろう。
「まあ、要はだな。
「まとめすぎです。」
1番高い建造物の、上がるエレベーターの中、興味深そうに外の背景を見るジャンヌに放った修也の言葉に、彼女は苦笑いを浮かべる。
「実際その通りなんだから仕方ねえだろ。…ま、政府のお偉いさんやら軍の兵士たちは知ってるがな。」
「そこから情報が漏れることはないんですか?」
「ないよ。」
修也はなんの躊躇いもなく即答する。
「即答ですね。」
「考えてもみろ。よく分からん変な術式操る強い変人共の事だぞ?しかも任務一緒にしてるとなんの躊躇いもなく人型の霊切り捨てるヤツらのことなんざ怖くて口に出来ねえよ。」
修也はため息をつく。
「人は《恐怖心》には忠実だ。普通の精神状態で死ぬ場所に突っ込んだりはしないし、殺される危険性があるならどんな事でも口には出さねえよ。」
「そう言いながらお前様、死が混ざり合う場所に突っ込んで行ってはおらんかったかの?」
修也の言葉に、琥珀の鋭い一言が入る。
それは、2週間前の任務。
戦争という、死が渦巻く場所に彼は躊躇なく参戦し、そして結果を残した。《自身の死》という、最大の恐怖を持ちながら。
それには、修也も少し黙る。
琥珀はもちろん、ジャンヌもそれの答えを待つが…
ポーン
と、エレベーター到着の音が鳴る。
計算したようなその音と共に、修也は壁から背を離して外に向かう。
そして、少し立ち止まって…
「それは、また今度な。」
そう、呟いたのだ。
エレベーターから、少し歩いた角。
白髪の男性が背中を壁に預けていた。
「よく来たな、桐宮。」
「よぉ、雲泉。野郎と待ち合わせた予定はないんだが?」
「当たり前だ。あくまで俺は貴様の監視役だからな。どんな経緯で協会内を荒らされるか分からん。」
「俺ジジイ共にどんな風に思われてんの?」
修也の言葉に、白髪の男性は「フンッ」と後ろを向く。
「付いてこい。」
「了解。」
修也もそれに抵抗せず歩を進める。
彼の名は、
「そういえば、
「ああ、雨久家の事か。俺達の心情は助け合いだろ?別にいいよ。」
「それは弱者の考えだろ。」
「わーお、相変わらずストレートダニィ…」
「実力があるなら助けはいらん。」
この通り。超ドストレート。
その分敵を作ることも多いが、本当のことしか言わないし、実力も折り紙付きで付いていくものは多い。
霊使者ランキング《S級・8位 水石雲泉》
「つっても、上司って…ヤッさんとお前《傘下家当主》てことで同じ立場だろ。」
「それは否定しないが、しかしあいつと俺では《実力》という面で圧倒的差がある。我々には《ランキング》があるのだからなお分かりやすい。」
「自慢か?」
「いや、客観的事実だ。我々は実力社会。年齢だけで生きられるような《ぬるい》世界なら、今や霊使者だけで数十倍の人数がいただろう。」
「そりゃそーだ。」
「だから、
「…ごもっとも。」
これには、修也も反論は出来ない。
というか反論する気にもならない。
それだけ彼の言葉は、正しく、重く、のしかかる。
「…固定概念てのは、怖いねえ。」
「?何の話だ。」
「安心しな、こっちの話。」
やがて、2人は他とは少し作りの違う、豪華な扉の前に立つ。そこには、《五元老会議室》と書かれた標識。
「なんか来んのは久しぶりだな。」
「貴様が犯罪者だから気楽には呼べないだろ。貴様のせいだ。」
修也の言葉に、容赦ない雲泉の一言。
「否定できねぇな。」
その一言と共に、修也はドアの取っ手を持つ。
「失礼はするなよ。」
「それは
修也は、重厚な扉を押し開けた……
「ヤッホー☆修也君、次期最高責任者とロリっ子吸血鬼の次は金髪碧眼美女を篭絡かい!?いやー、君の性欲も隅には置k…」
「死ね。」
「…失礼がないようにとの約束は?」
「悪ぃ。我慢出来なかった」
見ると、天樹はニコニコと笑顔を浮かべていた。
「いやー、アッハッハッハッハッ。修也君、なんだいその顔は。まるでゴミ虫でも見るような目ブベラッ!!」
「新様。そろそろ会議が始まりますので黙っててください。」
「おや、霞ちゃん。なら僕のこのmouthを君が閉じさせてくれ。そう、君の濃厚なkissで…」
ズドゥムッ!!
「すみません、そうですね。私が丁寧に縫い合わせてあげますから永久に黙らせてあげましょう。」
「え、あ、ちょっ、ま……アッー!」
「良かった視力は安定してるらしいな。」
俺の目が見えるんだから。
「……にしても、五元老全員が集まるなんてな。あんたらこんなに出席状況良かったっけ?」
「アァ!?」
俺の挑発とも言えない軽口に、乗る男が1人。
長髪に猫目にも見える細い目。どこか野獣めいた雰囲気。
「俺らはてめえのためにわざわざ集まってやってんだ。礼の1つぐれェするもんじゃねえのかアアン?」
俺は笑いかける。
「それはありがたいけど、わざわざメンチ切って言うことじゃないだろ。少しは相方に頼らず交渉出来るようになったか?」
「相変わらず減らず口は変わんねぇなおい。表出ろやこらタコ助。」
「俺がタコならお前はなんだ?猫か?ちょうど目もそれっぽいしな。」
トントンと目の下を人差し指で叩く修也。震える長髪の男。
「ッ…上等だタコ助…ぶっ殺す!」
「霧氷。」
男が修也に飛びかかる寸前、小さな声が彼を止める。そこに居たのは小柄な少女。
髪はショートボブ。
「こういう場であまり暴れないで。神聖な場所なんだから。それと、修也もあまり霧氷のことを刺激しないで。」
「いや悪い。以後気をつけるよ。」
「…1番信用出来ない。」
「チッ…」
長髪の男。
雨颯家直属傘下家系・雨久家
《S級9位・雨久
小柄な女性。
雨颯家直属傘下家系・
《S級14位・泉寿
「おうおう、相変わらず知能が低そうだな霧氷さんよ。」
「アァ!?やんのかてめぇ…?」
「おー怖い怖い。この座っている場所と場所の間がなければ殴られているところだ。」
「おうならここから飛んでそっちに行ってやるよ…!」
グイッ
「グエェッ!」
「やめなさい。」
「はっ、野獣も所詮尻に敷かれる、か。」
「おいコラ潰すぞ眼鏡!」
「ちょ、志坤やめなって!また隆樹様に怒られるよ!?」
「…フンッちょっとした悪ふざけですよ。」
霧氷と喧嘩しかけた眼鏡。
土御門家直属傘下家系・土蔵家
《S級7位・土蔵
喧嘩を止めたショタ男子。
土御門家直属傘下家系・豊条家
《S級15位・豊条
「あははは。最近の若者は元気いいなあ。ねえ霞ちゃん。」
「…まったく。ここが由緒ある神聖な場所であるという自覚が足りませんね。」
「おや、随分とノリが悪いね。…あぁ、そうか。確か霞ちゃん2じゅ…」
スドムッ!!
「私は若者です。」
「オグッ…」
「ていうか天樹、お前早く上の席に戻れよ。」
PSYCHOPATH BAKA
最高位家系天樹家第21代目当主
《S級4位・天樹 新》
その秘書
霊使者協会最高位家系・天樹家
《S級12位・天樹 霞》
「あまり騒ぐでないぞ、お主ら。」
「おや、才蔵殿。良いではありませんか。このような若人の元気な声もいつも聞けるとは限りませぬぞ?」
「限度を考えろと言っておるのだ。」
「おお、怖い。」
「まあまあ才蔵殿に隆樹殿。そこまでにして早く会議を始めましょうぞ。」
「ええ、そうでございますな!」
「…麗澄殿」
「あまりここで痺れを切らしても仕方ない。…いかがかな?」
「…反対する理由もありません。」
「それは良かった。」
止めた者
霊使者協会最高位家系桐宮家第23代目当主
《S級2位・桐宮才蔵》
良いものとした者
霊使者協会最高位家系土御門家第30代目当主
《S級5位・土御門隆樹》
なだめた者
霊使者協会最高位家系雨颯家第28代目当主
《S級3位・雨颯
「才蔵殿。お主の傘下のS級の1人は何処に?」
「あの者は今出掛けておりまして。連絡もつかない始末です。」
「おや、随分な無鉄砲さですね。手綱を握ってないからでしょ。」
「いや、普通に俺が追い出しただけ。」
隆樹の含み笑いの声に、修也も笑う。
「有給を無理矢理取らせるために数ヶ月追い出してんの。悪い。俺のせい。」
「…そうか。」
「ふ、フンッ!これからは気をつけろよ罪人!」
「へーい」
隆樹の言葉に、修也は抜けた声で返す。
そして、チラリと《彼女》が座っていたであろう席を見た。
現在有給中
桐宮家直属傘下家系・熾火家
《S級10位・熾火 椿》
「ま、椿は仕方ねえとして…」
修也は苦笑する。
「
その言葉に、重なるため息。
まるで「察しろ」と言わんばかりの反応に、修也も喉を鳴らして笑う。
直後、開かれる扉。
そして入ってくる4人の者達。
ドアを開ける2人の者達。
ドアを開ける長髪の美形男性
雷城家直属傘下家系・紫雷家
《S級11位・紫雷 斗真》
反対側を開ける短髪の小柄ガチムチ
《S級13位・紫雷 颯馬》
そして、入ってくる2人。
「ガハハハハ!!スマンのぉ!飯を食いすぎて遅れてしもうたわ!待たせて悪かったな!」
大声で笑う男の後ろを歩く青年。だが、青年は何も言わない。ただ、前を見つめたまま歩き続ける。
無口の青年
雷城家直属傘下家系・鳴海家
《S級6位・鳴海 凪》
ーーそして、
2人は目を合わせる。
「フン…ッ」
《最強》の称号を手にした男と。
「…ッ…」
《それ》に最も近いと称された青年。
男の目は紫閃のように鮮やかに光り、青年の目は燃えるように赤く強く輝く。
2人は、同時に笑った。
二つ名は、《戦帝》。
それが表すは、《最強》
霊使者協会最高位家系雷城家第4代当主
《S級1位・雷城 霹靂》
二つ名は、《万能者》。
そして、《最悪の異端》
霊使者協会最高位家系桐宮家次期当主
《S級16位・桐宮 修也》
「来たか、クソガキ。」
「あぁ、ようやくな。」
名前考えるのムッズ