聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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「よしっと…」
俺は雑巾の端が壁についたところで地面につけていた膝を上げる。
今日は大雨警報のおかげで学校が休みということで家の掃除を行っていた。後に振り返ると水拭きのおかげで木製の床がピカピカと光っている。やはり掃除というものはとても気持ちがいい。
「さて…」
俺は雑巾とバケツの水を入れ替えて既に拭かれている廊下を歩く。
しばらく歩くと一際目立つ石造りの扉が現れるので、俺はその扉を押し開ける。そして、さらに下へと続く石造りの階段を下り始める。十数段の階段を下りると様々なものが端っこに積み上げられている広場に出る。
あの扉は位置で表すと桐宮宅の一番奥に位置しているのでもうこの小さめの広場は家の周りを囲っている塀の外にあるのだ。
この広場は桐宮家の《倉庫》的な扱いとなっていた。といっても普通の倉庫は別にあり、こっちは霊使者達の武器を保管している武器庫だ。同じ倉庫でも用途が違う。
俺は周りに重ねられている矢やら槍やらを素通りして数歩歩き、あるものの前に立つ。
《それ》は刀だった。柄は日本刀の作りになっていて、金色の鍔が暗がりでも鮮やかに輝いている。そこから伸びる銀色の刀身は全てを斬り伏せるかのような迫力に満ちていた。そしてその先は周りよりも少し盛り上がった石畳に突き刺さっている。
この刀は桐宮家の家宝となっている、大事なものだった。かつて、何代も前の初代当主がこの刀で鬼を斬り、国を救ったという言い伝えがあることからついた名前が《鬼殺し・月詠》。
しかし初代当主が亡くなってからこの場所に封印されて以降、そのままとなっている。これを抜いたものにはとてつもない力が宿る、とかいう漫画でよくあるセリフを爺さんや今は亡き親父に聞かされてきたものだが、正直に言うと俺はあんまり信じてない。要は半信半疑である。霊というものが存在するこの世界ならありえないこともないが、信じるにしては情報が少なすぎる。
ま、どの道…
「戦うことをやめた俺には、関係ないことだけどな」
俺はバケツと雑巾を持って端に駆け寄り、手に取った武器を丁寧に拭き始めた。


第3話 記憶

それから数時間後…

 

俺はある建物の前に立っていた。護身用の木刀を左手に持ち、右肩にはショルダーバッグをかけている。目の前には禍々しい雰囲気を醸し出すコンクリート造りの建造物。

ここは《留置所》だ。それも普通の留置所ではない、怨霊専用の留置所。ここでは霊使者達に捕獲された怨霊達が留置されている

怨霊達のことについて俺達はまだまだ知らないことばかりだ。だからその研究のためにここに留置されているのだ。もちろん霊の中にも《良き霊》というのはいるのでそんな奴らは捕獲したりしない。だからここにいるのは現界してから悪行に走った怨霊、悪霊のみだ。

俺は少しだけ建物を見上げて敷地内に入る。自動ドアのよこに取り付けられている機器に俺のカードをかざしてロックを解除する。開いたドアをくぐって建物内に入る。

俺は受付においてあった使用者記入欄に記述して、奥の警備員に話しかける。

「桐宮様、お疲れ様です。」

俺に向かって敬礼をする警備員に俺は控えめに手を横に振る。

「それ、いつもいらないって言ってんのに…」

「いえ、そうはいきません。最上位家系の方々に敬礼すらしないなど恐れ多い…」

「あーもー、分かった分かった。」

延々と続きそうな理由づけを俺は無理やり遮断した。

「あいつ、呼んでくれるか?」

「はい、了解しました。桐宮様、どうぞこちらへ。」

出てきた警備員のあとに俺は続く。俺は一ヶ月に一回はここに来ているのでこちらに進むとが面談室であることは分かっていた。しかし、反対側は入ったことがなかった。昔、いつかは入ってやると思いながら幾度となく失敗したのもいい思い出だ。

そこで俺達は目的の場所につく。

「どうぞ。」

「サンキュ。」

俺は自動ドアよりも小さいドアをくぐってガラスを隔てた先にいる人物を見る。髪は白の長髪で、目は燃え盛るように赤い。口元からは上の犬歯が出ていて、猛々しい雰囲気を醸し出している。

「よう、1ヶ月ぶりぐらいか?」

「…違うな。30日と5時間42分35秒ぶりだ」

「大して変わんねーじゃねえか。」

俺は椅子を引いてそこに座る。この会話もほとんど定番のようなものなのでさほど気にしていない。

「やれやれ、毎度毎度欠かさず来やがって。こっちも暇じゃねえんだぞ?」

「嘘つけ。飯食ってねるぐらいだろうが。」

そう言うと目の前の男はカカカッと笑う。

こいつの名前はザイール(仮名)。俺がかつて捕獲した怨霊らしいが…俺にはその時の記憶がない。

皆はもう気づいているかもしれないが、俺は昔…五年ほど前まで霊使者として戦いの最中にいた。もちろん学校には通っていたが、帰って宿題をしてから稽古、の毎日だった。特に俺のような前線に出ていた者達は死ぬ可能性があるので稽古は欠かせなかった。

そんな日々は確かにきつく、苦しいものだったが…決して辞めたいと思ったことは無かった。しかし…十三歳の時、それは起きた。

俺は親父とお袋、二人の傘下の部隊、爺さん、俺、そしてかつて俺とコンビを組んでいた同い年の親友とある任務に出た。内容は《発生した悪霊の退治、もしくは捕獲》。このような任務は俺たちだけで腐るほどこなしてきたし、その時は最強の部隊と言われていた親父とお袋の部隊もいたのだ。正直、負ける気はしなかった。いつものように任務を終わらせて、家に帰り、飯を食って寝るだけ…。そう思っていた。

しかし、人生とはうまくいかないように出来ている。そんな当たり前のことは俺はその時に思い知らされた。

俺と親友はまず3分の1ほどの部隊の人達と合同でこいつ…ザイールの捕獲に努めた。敵は2体いたので、片方は親父達に任せたのだ。

苦戦はしたものの、なんとか捕獲に成功した。ここまで負傷者はいたものの、死者は一人もいなかった。そして親父達のところに向かった俺が見たものは…血だらけで倒れ込む、親父とお袋、そしてその部隊の隊員達だった。

俺はその光景を見た後に我を忘れ、無我夢中に飛び込んでいった…。

俺の記憶があるのはここまでだ。ここから先はどんな方法を試してもまったく思い出せなかった。まるで忘れてるのではなく…なにかに記憶を《《取られた》》かのように。

そして俺の目が覚めた時には全てが終わっていた。俺の横にいた、なんとか一命は取り留めた爺さんがゆっくりと話してくれた。

2体のうち一体は捕獲に成功し、もう一体は俺が与えた傷によって朽ちたこと。両親の部隊は全滅し、両親も既にこの世にはいないこと。そして…俺の親友も既にこの世にはいないことを。

俺はその話を聞いた後、すぐに親友の死因を探った。両親はもう一体の攻撃で死んだとしても、親友の死因だけは皆目検討がつかなかった。そして、俺の病室に来た霊使者協会の役人達がまるで口裏を揃えたかのように答えた返答が…俺を混乱の渦に巻き込んだ。

 

『お前が殺した』

 

俺はその言葉の意味がわからなかった。それもそうだろう。たとえ俺が本当に殺していたとしても、それを確かめるための映像も何も残っていないのだから。死体を調べれば分かったかもしれないが…戦いの後、親友の死体は忽然と消えていた。

ならば何故、協会の連中が俺を犯人扱いにしたかというと…俺の使っていた刀から、アイツのDNAが検出されたからだ。しかし、俺にはまず殺す動機はなかったので、この事件は迷宮入りした。

もちろん俺はそんな状態で戦えるはずもなく、結果協会から戦力外通知を受け、今に至る。

「お前の爺さん元気か?あいつにも俺はそこそこのダメージを入れられた。」

「それ毎回聞いてきてんな。別に、まだピンピンしてるよ。…まあ、今日は大きな任務の後だったからちょっと元気ないけどな。」

「それにしても…」

ガラスの向こう側で腕組みをしたザイールが口を開いていた。

「お前の妹…もうすぐ16歳だろ?…気をつけろ、女ってのは15~17の間で霊力が最も高まる。つまり怨霊達に一番狙われやすくなるってことだ。油断してると…」

ザイールはガラスに額をつけてドスの効いた声でこう言った。

「連れてかれるぞ?」

俺はそんな奴に、睨み返しながら返答した。

「…分かってるよ、そんなことは。」

俺の周りの空気が、一気に冷たくなるのを感じた。

 

俺は傘を差しながら雨の中少しだけ静かな街を歩く。人というのは不思議なもので好き好んで雨の日に外に出ようとするものは数少ない。まあ、当たり前かもしれないが。

「…」

俺はしたに俯いて大通りより少し狭い国道を歩く。ここ、出雲は神無月に出雲大社に神たちが集まると言われているほど《そういう奴ら》が集まりやすくなっている。だから怨霊、悪霊絡みの事件は少なくない。最近でも街の女生徒たちが多数さらわれる事件が起きた。もっとも、全員霊使者達で保護したようだが…今度はそううまくいかない気がする。

『…連れてかれるぞ?』

俺はやつの言葉を思い出す。そんなことは、俺が一番わかっている。たとえ5年も前線から離れていても知識は何ら変わることは無い。細かい部分は忘れている節があるが、大体の大まかなことは覚えている。

女性は15~17の間で、男性は16~18の間で最も霊力が高まる。その分、怨霊達からしたらエネルギー補給に最適なので狙われやすくなるのだ。

そこまで考えると、俯いていた俺の視線に映るものがコンクリートから土へと変わった。俺は視線を上げる。そこには一本の坂と、巨大な和式の家が見えた。

どうやら知らない間にかなりの距離を歩いていたらしい。

「…急がねえと、晩飯遅れちまうな…」

そう言って俺は足を駆け足にする。翠は少しでも晩飯の時間が遅くなると不機嫌になる。育ち盛りなのはいいことだがもう少し苦労というものを知ってほしい。

…この時、俺の意識は周りにいっておらず、ただただ走り続けた。平凡なことを考えながら、走り続ける。要は…油断していた。

だから…後ろから飛翔する物体に、気づけなかった。

ドシュドシュッ!!

「ガッ…!?」

鋭い音とともに俺の背中に電撃に似た衝撃が走る。これは…この衝撃は、味わったことがある。刃物が、刺さる時の衝撃だ。

俺は手探りで探し、背中に刺さっているものを引き抜く。それは…俺の血のついた、クナイだった。そう、忍者がよく使うあれだ。

「…何でこんなもんが…?」

俺がそんなことを呟くと横の草むらから何かが飛び出す。そいつは俺に向かって剣の横薙ぎを繰り出してきた。

「うおっ…!?」

俺はギリギリで顔を逸らして避けて、袋の中に入れてあった木刀を取り出す。俺は少しだけ切れた頬を触ってから相手を一瞥する。

服装は、侍といった印象を具現化したようなものだった。後には忍者が控えている。

「悪霊…!」

俺はそう判断すると、剣を構えた。そして、相手に向かって一歩踏み出す…その時。

ジャキジャキという新たな効果音が横から聞こえてくる。俺はその音のした方向に視線を向ける。そこにあったのは…無数の銃口。

「ヤベッ…!!」

俺は避けようとするが…間に合わなかった。連中は銃弾を一斉に発射。俺の体に十数発の鉛玉が直撃する。

「ガッ…!!」

俺は痛みも感じずに、その場に倒れ込んだ。体を術で強化していたため、なんとか耐えたがすぐに治療をしないと俺の命が危ない。

悪霊達は、そこで動き出した。俺には目もくれず、家に直行していく。そこから起こることは、だいたい読めていた。

「爺さん…翠…!!」

俺は這うようにして坂を登りながら、愛する妹の名を口にした。

 

俺が家に着いた時には、誰一人いなかった。家の中は荒らされ、勉強していた妹の姿は見受けられなかった。恐らく、連れていかれたのだろう。爺さんも、いくら一家の当主とはいえ、任務後で霊力を消費した後では、あの数は相手どれなかったのかもしれない。

「くそッ…!」

俺は壁にもたれかかりながら、傷口を抑えて歩き続ける。

今の俺には、あいつらを相手にはできない。個々ならばいけるが、群れを作られてはどうしようもない。ならば…

「…あれを使うしか…ないな…」

そこで俺はやっとの思いでそこに到着する。桐宮宅の一番奥に位置している石造りの扉。

「グッ…!」

俺はなんとか扉を押し開ける。だが、足がふらついてしまい、転がり込むように階段を駆け下りた。静止と同時に俺の肩に痛みが走る。

「グアッ…アッ…!」

痛む傷口を力いっぱい抑えて無理矢理痛みを遮断する。

俺はさらに這うように進んで、《それ》の前に立つ。

桐宮家の家宝、《鬼殺し・月詠》。

…この剣は、今までの当主が何人も抜こうとしては諦めてきた剣だ。未だ使いこなせたのは初代のみ。俺が使える可能性は、限りなくゼロに近いだろう。だが…

俺は膝に手をついて、一気に立ち上がった。痛む脇腹を抑えながら、俺は右手で剣の柄を握った。

「…それで諦める理由には…ならないよな。」

俺がそう呟いたあと、俺の意識はどこか遠いところに吸い込まれていったー…。




久しぶりの投稿だね。SAOに掛り切りになっちゃった☆てへ☆(≧∇≦*)
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