聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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アァ、ネムイ…


第31話 アスベル・ウル・アルトゥース

 

狭い建物…道場の中。

180の青年と、220の王が対峙する。

2人はしばらくそのままでいたが…

「…フッ…」

アルトゥースが笑みを浮かべてそれを破る。

「立ち話もなんだ。座れ修也。お前のことも少し聞いておきたいしな。」

「…お言葉に甘えるよ。」

 

「なんだ、飲まんのか?」

大きめの盃を手に持ち、あぐらをかきながら問うアルトゥースに、修也は肩を竦めた。

「俺未成年だし、それにこの後任務もあるし。…流石にやめとくよ。」

その言葉に「ふむ」と頷く。

「ならば緑茶にしよう。お前も紅茶などよりは緑茶の方が良かろう。」

「お気遣い痛み入るよ。」

「そこの2人は何にする?酒ならなんでもあるぞ。」

「ガハハハ!」と豪胆に笑う王を前に、2人は特に萎縮することなく返答する。

「あ、なら私は紅茶を…」

「儂は日本酒で。一升瓶辛口で頼む。」

「お前マジか。」

「安心せい。任務に支障はもたらさんよ。」

「そう?ならいいや。」

「いいんですか。」

3人の会話の間に、メイド達の準備は着々と進み、それぞれの前に湯のみ、ティーカップ、瓶と盃が用意された。

修也は何処か高そうな湯のみに口をつけて、目の前のアルトゥースに目を向けた。

「…さて、じゃあ仕事の話をしよう。」

「そうだな。…フロス。」

「ハッ。書類はこちらです。」

素晴らしい手際で修也に書類を渡すフロス。それに彼は「ありがとう」と返す。

見るとそこにあったのは1つの《島》の情報だった。

「マン島…ってどこだっけ?」

「我々イギリス、スコットランドの属するグレートブリテン島とアイルランド島の丁度間にある島です。」

「で、それがその島の情報をまとめた書類だ。目を通しておけ。」

「なーるほーどねー…」

そう言いながら、修也は顎を触りながら書類に目を通していく。所々で目を細めながら目を通していく。

ペラリペラリとめくりながら、読み終わるとそれを後ろに回し、琥珀が受け取る。

琥珀は見ずにジャンヌへと渡した。

「目を通したか?」

「…まぁ、一応。これ本当のこと?」

「わざわざ俺が嘘をつくと?」

「そういう訳じゃないけど…ただ、霊達の仕業による被害量の増え方が異常だろ。1ヶ月で100件以上増えるなんて普通ないぞ。」

「普通ではないから、貴様を呼んだのだ。」

そう告げると、アルトゥースは盃を一口で煽った。引き継ぐようにフロスが話始める。

「ご覧の通り、マン島の被害件数はこれまでと比較にならないほどの速度で増加し続けております。更にはそれは海岸近くの他の都市や街にすら影響を及ぼしています。」

「…つまり、イギリスとアイルランド両方に影響があると…厄介だな。」

「更に最近では島周辺に高位の悪霊や妖も出現しているとの情報を現地の兵士からもらっている。」

「はぁ?」

アルトゥースの言葉に思わず素っ頓狂な声を上げた修也は、腕を組んで唸る。

「んー…そこまでいきゃまさしく《異常》だなぁ…なんか心当たりはねえのか?そこまでになった原因に…」

「ふむ…原因か…」

アルトゥースは瓶を盃に傾けながら思考するように眉をひそめる。

「殿下、例の…」

「んん?…ああ、あれか…」

やがてフロスがアルトゥースに耳打ちをすると、彼は納得したような反応を返す。

「どしたの?」

「ふむ、一つだけ、ないことは無い。」

「随分煮え切らんな。」

「あまり関わっていないのでな。…実を言うと、あの島には《精霊》がいるんだ。」

「精霊?」

 

精霊。

それは霊術の4つの属性を司る妖精の総称。

4つの種族に別れている彼らはそれぞれ司る属性の霊術の扱いに長けており、種族の名を炎精霊族(サラマンダー)水精霊族(ウンディーネ)風精霊族(シルフ)土精霊族(ノーム)と言う。

 

「元々我らがイギリスは妖精や精霊とは縁の深い国だからな。小さなものならそこら辺にうろちょろしてる。」

「あー…《アーサー王伝説》のやつか。湖の妖精の話だな。」

「うむ。…今回の異常は、島に住まう精霊に何か異常があったからかもしれん。精霊とは、その土地と周りを守護する役目もあるからな。」

「ま、その分《地脈》の霊力も豊富だしな。…ところで、現地の霊使者には向かわせたのか?」

「いいや、あの程度の奴らではこのレベルの任務はこなせんだろ。妖の餌になって終わりだ。」

「相っ変わらずドストレートだな。…まあでも、その通りだけどな。」

修也は苦笑した後に、「さて」と膝を叩いた。

「任務については了解した。とりあえずこれから直ぐに島に向かう。移動手段なんかある?」

「我々がボートを出しましょう。」

「分かった。じゃあ、アルトゥース王。また後日…」

 

「待て、修也。」

 

そそくさと逃げ去ろうとする修也に、アルトゥースは一声で押しとどめた。

そして、盃を一気に飲み干すと、自身の傍らにあった1本の木刀を修也へと投げる。

「ととっ…」

彼がそれを危なげなく受け取ると、アルトゥースも片手にそれを持ちながらゆらりと立ち上がる。

そして、獰猛な笑みを浮かべた。

「フロスから聞いていたろう?心の準備をしておけと。」

「…はぁ、マジでやんのか?」

「ああ、勿論。別に断っても構わんぞ?」

「一国の王の命令に、一般人の俺が逆らえるわけねぇだろ。」

 

静かな道場の中、2人の人物が対峙する。

他の3人は道場の端で見物をする。

修也は振り心地を確かめるように一振すると、対峙する人物に問う。

「で、ルールは?」

アルトゥースはニヤリと笑うと木刀を構える。

「一本勝負だ。使っていいのは剣術と体術のみ。霊術の使用は禁止だ。戦闘続行不可でも敗北とすることにしよう。タイムリミットは…フロス、俺のスケジュールはあと何分余裕がある?」

「2分は確保できます。」

「だそうだ。良いか?」

「国王様の仰せのままに。」

修也はチラリと木刀を見ると、苦笑を浮かべる。

「にしても…この道場と言い、木刀といい、さっき飲んでた日本酒といい…相変わらず日本のこと好きだよな、アルトゥース殿下。」

その言葉に、アルトゥースはニヤリと笑う。

「俺にとって、日本の価値観や文化は目新しいものばかりだったからな。リスペクトしているだけだ。」

そう答えると、アルトゥースは上段に木刀を構えた。

「…俺の事はいい。それよりも、貴様の今の腕前、見せてもらおう。…楽しませろよ?」

「…ったく、この戦闘狂め。」

「ああ、否定はしないさ。」

「…俺も人の事言えんけどな。」

そう言って2人は笑い合うと、ゆっくりと刀を構えた。

 

「第56代イギリス国王アスベル・ウル・アルトゥース。」

「霊使者協会所属S級16位・桐宮修也。」

 

 

「「…押して参る!!」」

 

 

「ヌゥンッ!!」

「ゼアァッ!!」

両者気合いの声が漏れる。

蹴った互いの床が揺れ、接触すると同時に凄まじい轟音と突風を生み出した。

キリキリと木刀の接触点が軋む。

「ほぉ…俺の一太刀を受け切るか…」

「あんたこそ…紛いなりにも英霊契約者の攻撃を、膂力だけで受け切るとか…相変わらずめちゃくちゃだな…」

「ふん、当たり前だ。我が50年の研鑽と鍛錬…」

 

「そこらのものとはモノが違うわ!」

 

カァンッ!

アスベルが振り抜き、乾いた音と共に修也の体は弾かれる。

彼は一回転して体勢を整え、足の力で踏ん張った。急停止した体に、アスベルの巨体が迫り来る。

「チッ…!」

「ムンッ!」

アスベルの横薙ぎを修也は何とか受け止めるが、そのまま体が宙に浮き、壁に向かって飛翔する。

アスベルは追撃すべく、その巨体をまたも踊らせた。

…だが、修也も易々とは終わらない。

壁に直撃する直前。くるりと体の向きを変えて、両足で壁と接触をして、そのまま自身の足を踏み切り急加速。一筋の流れ星のように高スピードでアスベルとの距離を詰めた。

桐宮流剣術《火》の型弐番《不知火》。

駆け抜ける一瞬の間に剣撃を叩き込むが、間一髪アスベルの木刀に防がれる。

修也は駆け抜けた後、すぐさま体勢を戻して着地。もう一度アスベルと対峙する形となった。

アスベルは感覚を確かめるように手を開閉させると、ニヤリと笑う。

「ふむ…膂力、脚力、技の制度。全てにおいて成長しているな。いい傾向だ。」

「そりゃどーも…」

「だが…」

 

「…もっと、楽しませてくれ。」

 

手招きするような仕草に修也は少し笑うと…

「…なら、お答えしましょう、殿下。」

修也はそう答えると、剣を構え直す。

そして、直後。

2人の剣戟が始まる。

1合撃ち合う度にかわいた音が響き、その度に刀も軋む。そして、剣術と同時に体術も使用可なので、一種の心理戦も繰り広げられていた。

そして、10数合の撃ち合いの末、またも鍔迫り合いへと移行した。

「クックック…いいぞ、ここまで血湧き肉躍る戦いは久しぶりだ…!」

「そりゃ、持ったいねぇお言葉だな…!」

言うと、2人は更に刀へ力を込める。

戦いの末だからか、木刀もミシミシと変な音を立て、所々に亀裂が入りかけている。

それを見てアスベルは、躊躇わず足で修也の足を払った。

「しまっ…!?」

アスベルは戦闘続行不可による引き分けを嫌ったのだ。目の前にいる強敵を、自分の手で捻り潰したかった。それだけの話だ。

「ムゥンッ!!」

アスベルの高速の剣撃が修也を襲う。

極大の威力を誇り、凄まじい速度のそれは視認できるものすら少ない、霊術無しならまさしく回避不可の技。

ましてや今の修也の体勢は崩れていた。

ここから回避することなど不可能だった。

 

 

…だが。

アスベルどころか、脇にいる3人も修也が一本入れられる幻影を見るほど完璧な一撃を受け切る。その直前。

ヒュオッ…

…修也の体は、刀に触れると共に掻き消えた。

これにはアスベルだけでなく3人も驚きに目を染める。

瞬間的な移動ではない。それならば、先程までの修也の肉体は、視認出来ていた彼の体はなんだと言うのか。

だが、そんなことを考えている間に。

アスベルは真上から気配を感じる。

それは、殺意。

鋭く荒々しい気配に目を向けると、そこには天井に足をつけた修也の姿。

直後に修也は動く。

右手の刀を限界まで引き絞って、アスベルに突進する。

「お…オオオオオォォォォ!!」

気合いを発しながら、修也はアスベルの体を狙う。

対してアスベルも、遅れることなく刀を真上に振り上げる。修也よりも先に刀を届かせるために。

「ム…アアアアァァァァ!!」

こちらも気合と同時に、修也の体を狙う。

凄まじい二つの剣撃が交錯するように近づいていく。

やがて2人の刀は、それぞれの体に吸い込まれた……

 

 

 

 

「ム…?」

瞬間、アスベルの刀が弾けた。

先程まで耐えきっていた木刀が突然の終わりを迎えた。

…そして。

修也の刀は、アスベルの喉元に突きつけられていた。それを確認して、フロスは叫ぶ。

「アスベル・ウル・アルトゥース殿下、戦闘続行不可!桐宮修也殿の一本を確認!この勝負、桐宮修也殿の勝利!」

それに「おぉ〜」という2人の歓声と拍手が巻き起こった。

何とも寂しい演出であるが、まあ仕方ないだろう。

修也はボロボロの刀をスススと入ってきたメイドに渡す。アスベルは自身の折れた刀を拾い、マジマジと見る。

「ふむ…自然と折れた訳では無いか…修也、何をしたんだ?」

アスベルの問いに、修也は笑いながら答える。

「まあ、これは技術っていうか、知識かな。…刀ってさ、構造上横の力に弱いんだよ。知ってるだろ?」

「ああ」

「だから刀を撃ち込む一瞬の間に刀にも、拳術で攻撃しておいたんだ。単純だろ?」

そう言って左手を開閉させる修也を見て、アスベルは可笑しそうに笑う。

「なるほど、単純だが誰も思いつかず、そして、実行しようとしない手だ。こういう大胆な発想も、貴様の強みだったな。」

笑いながらアスベルは立ち上がると、頭2つ分程も差のある青年に笑いかけた。

「…強くなったな。出来ればまた、よろしく頼む。」

「ここいる間は、俺はあなたの傘下だからな。出来るだけ応じるよ。」

2人はそう言って握手を交わした。

アスベルが少し力を込めると、呼応するように修也も同じように力を込めた。

 

「…頼んだぞ、修也。」

「頼まれたよ、アルトゥース殿下。」





頭2つ分て多分40~50cmなんだよね
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