聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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海外で妖怪とかのことモンスターって言うのかな?
もしくはゴースト?(-ω- )




第32話 悪霊の住まう海

青黒い大量の水の上を白い物体が滑走する。

駆動するエンジン音に波の音が重なる。

揺れるその上で立つ青年、修也は船頭で人差し指と親指で円を作り、覗くように目に当てていた。

その横で腕を組んで立つ少女、琥珀は横目で見ながら尋ねる。

「どうじゃ、お前様。なにか見えるか?」

「んー、島自体は見えるけど…ちと遠すぎんのと…あと悪滓(あくさい)が多すぎる。めちゃくちゃ視界が霞む。」

そう怪訝そうな声で呟く。

修也は前のめりにしていた体勢を戻して、腕を組んで立つ。

それを後ろから見ていたジャンヌは苦笑いを浮かべた。

「…修也君、この距離から島が見えるんですか?」

「え?見えないの?」

「いや《見えて当然だろ?》って顔しないでくださいよ。まだ出港してから数分しか経ってませんよ?」

そう、グレートブリテン島の港を出てからまだ数分しか経っていないので未だに目標の島は、はるか遠くにある訳だ。

「ま、とりあえず島はもう少ししてから確認するか。そこまで焦ることでもねえしな。」

そう言うと修也は座り込んでボートの端に背中を預ける。

それに流れるように琥珀は修也の太ももの上に座って体重を預けた。ジャンヌはその横に座り込んで、修也に問う。

「…それにしても、海も随分と悪滓に影響されてますね…」

「ま、高位妖やらが現れるくらいの状況だ。こんぐらいならわけねえだろうな。」

「まあだが、それだけの悪滓を溜めておきながら未だに海の所々に影響されていない場所があるのを見ると、そこまで長い年月で溜め込んだ訳では無いようじゃな。」

「そうなのか?」

「うむ。長い年月溜め込んでおると、海の場合はそれこそ深い所まで穢れきるものじゃ。…が、今回の場合はそうではなく、せいぜい穢れておるのは水深5メートルほどまで。要は上澄みにしか影響は出ておらん。」

「深海は生命体が少なくて、霊力も多くないからな…穢れんのには時間がかかる。…琥珀は大体何年くらいで出たもんだと予測する?」

「年も要らん。この影響ならざっと1〜2ヶ月と言ったところじゃな。」

「1、2ヶ月…短ぇな。」

「それに、今回の悪滓はどこか作為的なものを感じるのぉ。」

「作為的なもの…?」

「うむ。…実を言うと作為的な悪滓は今までも感じたことはあった。」

琥珀はそう言うと、修也を見る。

「お前様、数ヶ月前に妹君を攫った霊を覚えておるか?」

「ああ、勿論。」

「あやつからもどこか作為的…第三者から植え付けられたと見れる悪滓は感じ取れた。お前様が浄化した、あの者の娘と妻の心から作られたと見られる《闇》もそれじゃな。」

「…そうなのか」

「それと、そこの聖女の娘を助け出した後になし崩し的に契りを交わした…」

「ちょっと言い方に棘あるな。」

「気のせいじゃ。…その時にいたあの…長身の…長髪の…顔が気持ち悪い…体調悪そうな…」

「ジルですね。ジル・ド・レ。」

「お前あいつの外見的見た目のそこまで好意的に見られない点だけ取り上げて思い出すなよ。絶対わざとだろ。」

「気のせいじゃて。…あやつもどこか、主が遭遇した霊と同じような状態にあったように感じた。」

「…つまり、今回も…」

「うむ。今回の場合、あの島で自然と積もりに積もった悪滓ではなく、()()()()()()()()()()()()()()という可能性が限りなく高いじゃろうな。」

「一体誰が…なんのためにそんなことを…」

「さあのぉ。儂もエスパーなどではないからそういう細かいところはわからん。…ただ、」

 

「儂らの知らんところで、何かが動いておるのは確かじゃろうなぁ。」

 

「何か…ねぇ…」

「修也君?」

呟き、淵にもたれかかる修也。

揺れる船の上。彼はゆっくりと視線を上げて、自身を包む空を見る。

どこか薄暗い雲の中、隙間からの零れ日が彼を照らしていたーー。

 

 

「船首さん。」

島まであと1キロという所まで近づいた頃。

修也は船を操作していた人物に声をかける。

「悪いけど、ここで止めてくれ。あと、俺達が離れたらすぐに全速力でイギリスに戻ってくれ。」

「え…ど、どうかなされたんですか?」

少し歳のとった船首の問いに、修也は見えてきた島を見ながら答えた。

「…少し、嫌な予感がする。」

「は、はぁ…」

船首は少し怪訝そうな顔で修也を見るが、特に反論をすることなく船を止めた。

修也は「ありがとう」と言って操縦室を離れ…

 

ピクリッ

 

それと同時に、修也の《感知》に反応があった。すぐさま彼は操縦し直していた男性を抱えて操縦室を出る。

「琥珀!ジャンヌ!」

「はい!」

「分こうとるわ!」

3人は叫ぶと同時に船から飛び、そのまま上昇。修也は霊術を足元でバーストさせながら男性を抱え、琥珀は翼を広げて、ジャンヌは光に包まれて飛翔する。

そして、飛んだ瞬間。

乗ってきたボートが、呆気なく粉砕される。

巨大な、長い口によって。

まるで蛇のような形状のそれは、バリバリとボートを粉々にして嚥下する。

ボートは破片となり見る影もなかった。

青い鱗。長い体。巨大な口。

それは正しく、大蛇。

「シーサーペント…」

 

シーサーペント。

またの名を大海蛇。

かつて中世のヨーロッパから海域に目撃されていた、高位悪霊。特定のものを示すのではなく、それに類似したものの総称ではあるが霊使者の間では固有名として扱われる。

 

「…」

見ると、巨大なシーサーペントの周りにも小粒ではあるがかなりの数の悪霊が取り巻いている。

払えなくはないが、修也1人では時間がかかりそうだ。周りに高位悪霊がいるかもしれないので、なる早で終わらせておきたい。

「…しゃあねぇか。」

修也は呟くと琥珀に向き直る。

「琥珀、船首のおっちゃん転移霊術で送り届けてやってくれ。霊力消費するけど、この際仕方ねえ。」

「心得た。」

「頼んだ。…ジャンヌ。」

「はい。」

 

「やるぞ。」

「了解しました。」

 

言うやいなや、2人は互いの手を握る。

暖かい手の感触の後、2人は目を開いた。

 

「幻想憑依・開始(オープン)!!」

 

瞬間。

2人の体を白い光が包み込む。

神聖にも見えるそれを嫌がるように悪霊達は呻く。そんな中、シーサーペントだけは、振り払わんと首を振って突撃を開始した。

白い光の中心に長い肢体をぶつける。

 

ドガァッ!!

「キッ…!?」

 

白い光に入った瞬間。

シーサーペントの体を硬い何かが弾き返した。衝撃と共に崩れ、シーサーペントは海に体を沈めた。

そしてその直後に光は薄くなり、中心の人物が姿を現す。

 

髪は黒い。

だが、服装が完全に違っていた。

赤いコートは白いものに変わり、ズボンも白。中の服やブーツは黒いままだが、腕や足、手などのあらゆる部位に金属製の鎧を纏う。手に持つ旗が、彼の黒髪と共に風になびく。

そして目を開くと、その目は赤と同時に金色の光も瞬き、悪霊を見据えた。

 

その目に、悪霊達は畏怖を示す。

声も出さずに震え、顔を出したままその場から動かない。

そんな霊達にも、修也は躊躇わない。

ゆっくりと右手に持つ旗を振りかぶる。

…そして、空間を振り抜いた。

それと同時に旗から凄まじい量の光が溢れ出す。光は海の悪霊に降り注ぐと、その体を全て浄化させる。

悪霊達は何もすることなく、神の慈悲を受けるかの如くその場から消え去った。

そして、光が晴れると…

 

海の半径数百メートルが全て、浄化され尽くしていた。

 

まさしく、圧倒的。

修也はゆっくりとため息を着く。

そして、その瞬間。

今までなりを潜めていたシーサーペントがその姿を現す。海から飛び出すやいなや、一心不乱に修也目掛けて突進する。

それを彼は、《物理障壁》を作り出すことで防ぐ。

強固な壁に阻まれ、怯んだ所でもう一度旗を一振。光で浄化しようとするがシーサーペントは尚も威嚇するように口を開く。

「シャアアアァァァァ!!」

「…ったく、面倒だな。」

修也はもう一度、手に持つ旗を構えた。

 

『修也君!』

「…ッ!?」

 

瞬間、背後から感じた気配に、思わず体を逸らす。そして、先程まで自身がいた場所を《何か》が通過した。

それはやがてシーサーペントにまで届き…

 

巨大な蛇の体を、真っ二つに切り裂いた。

 

2つに分かれた蛇の体を見送りながら、修也は先程の《斬撃》が飛んできた方向を眺める。

…そう、マン島の方角に。

「…修也君。」

幻想憑依を解いて、横に立つジャンヌが声をかける。

修也はマン島の、小高い丘の上。

一人立つ少女の姿を見つめる。

金色の髪をたなびかせる少女。

かなりの霊力を感じさせるその少女に、修也は笑う。

先程向けてきた、彼女の気配。

 

 

 

確実な、《敵意》を。

「…ったく、手荒い歓迎なこった。」

 

 

彼の周りを、一陣の風が過ぎ去ったーー。




シーサーペントって総称なんだね。
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