聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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題名と本編の矛盾をお楽しみください





第34話 話し合い

「構えなさい。…死ぬわよ?」

草原の中に響く、精霊の少女の言葉。

その言葉にジャンヌは武装を展開し、旗を構え直す。

「修也君、ここは私が…」

琥珀は腕を組んだまま、主の背後に立つ。

そして修也はといえば…

 

未だに笑みを浮かべていた。

 

尚も身構えるジャンヌの肩を、修也はポンと叩く。そのまま前に出る。

「しゅ、修也君!」

自身の主の行動に少しだけジャンヌは声を荒らげるが、修也は笑いながら彼女を見る。

「下がってろ。ここは、俺がやる。」

「で、ですが…」

修也の指示にジャンヌは尚も食い下がろうとするが…

「なんだ?ココ最近活躍出来てないから仕事が欲しいのか?」

「ち、違いますよ!」

意地悪な、修也のからかうような言葉に思わず反論してしまう。

それに彼はニッと笑う。

「安心しろ。負けるつもりはねえよ。…ただ、俺達はあくまで《話し合い》に来てるからな。そこは勘違いされてちゃ困るんだよ。」

修也はそう言うと、2人を置いて歩き始める。ジャンヌがそれを困ったように見送っていると、後ろから琥珀が声をかけた。

「聖女、武装を解いておけ。あまり無駄な霊力を消費するものでもなかろう。」

「で、ですが琥珀さん…万が一があれば…」

「万が一どころか、無量大数分もの心配も要らんよ。…それよりも、これからの戦闘に備えておく方が大事じゃ。海辺にいた蛇と同じかそれ以上の階級の霊共を相手にせんとならんからの。」

「…」

琥珀のその言葉に、ジャンヌは少しだけ躊躇いながらも、大人しく自身の武装を解く。

彼女は自身の主を静かに見守る。

 

 

「へえ…ボーヤが出るの?まずは付き添い2人を出して来るものかと思ったわ。」

「出るも何も。俺は別に戦うためにお前を追ってきたわけじゃないよ。話を聞くためにお前を探してたんだ。」

「そう。それなら残念ね。私は人間と話す気なんてさらさらないの。」

「…なんでそこまで人間を嫌うんだ?」

「あなたに関係ないでしょ。それより…」

 

「本当に死ぬわよ?」

 

ヒュッヒュバッ!

顔の横を、薄緑色の刃が通過する。

彼は何でもないようにそれを首を傾けるだけで避けると、ゆっくりと歩き出す。

隙だらけのその行動に、精霊の少女は眉を顰めた。

少女は同じように、しかし数を増やしながら彼に向かって風の刃を繰り出し続ける。

「…なんのつもり?何故反撃してこないの?」

「最初から言ってるだろ。俺はお前と戦いに来たんじゃない。戦う理由がないなら、俺は刀は抜かねえよ。」

そう言いながら第三陣も第四陣も難なく避けきる。

第五陣を切り抜けた瞬間、少女の中にも多少の焦燥が現れ始める。

『…なんで当たらないの…?』

今や彼を襲う風の刃の数は最初の2発と比べて数倍の数にまで増えていた。そして、かなりの速度で、多数の部位に向かって飛翔する刃なのだ。

それを彼は最小限の動きで避け、少女との距離を詰める。それには、焦らずにいられないだろう。

「なら…」

少女は刃の精製をやめて、両手を修也に向けてかざす。修也は歩き続けていたが、やがて彼の足元から渦巻く風の奔流が姿を現した。

竜巻に修也の体はふわりと浮き上がり、やがて足も地面から離れる。

このままでは彼は間違いなくこの場から放り出されるだろう。

だが…

「……」

修也は少女と同じように自身の前に両手をかざし、目を瞑る。

それと同時に彼の手に霊術が展開、収縮。

そして…

「…ハアッ!!」

気合と共にそれを解放。

収縮した風の霊術の瞬間的暴発が起き、彼を取り囲んでいた竜巻を消し飛ばした。

あまりの風の奔流に少女やジャンヌ、琥珀も顔を守るように手をかざす。

「…ッ…」

目を開ける少女。

止まらない修也。

少女の焦りは確かなものとなる。

「…このッ…!」

苛立ちを含んだような声と共に少女が手を振ると、細長い、鞭のように編まれた風の霊術が修也へと襲いかかる。

修也は対処のために手を翳すが…

シュルルルッ

「…おっ…」

鞭は避けるように修也の手をすり抜けると、そのまま彼の四肢に絡みついた。

修也の動きが止まる。

「…何か言い残すことはあるかしら?」

少女の問いに、しかし修也は抜けた声を出した。

「なー、そろそろ俺の話聞いてくれよー。」

「…終わりよ。」

そして、少女が用意していた極大の威力を誇る霊術が彼に襲いかかった。

放たれた瞬間、修也へと着弾する。

轟音、爆風。

凄まじい力の奔流が辺りを満たす。

少女は現れるであろう傷だらけの修也の姿を幻視した。

 

「…なッ…?」

 

だが、それはあくまでも幻視。

砂煙が晴れたあと、少女の目が直視したのは修也の前に現れた地属性の壁が崩れ落ちる様と、無傷の彼の姿。

修也は飄々と少女を見つめる。

やがて自身を束縛する鞭を強引に引きちぎると、またも前進を開始した。

ここまで来ると、彼女の中に少しだけの《恐怖》が姿を表す。

それを振り払うように、少女は攻撃を再開した。だが、彼はそれも難なく無力化していったーー

 

 

「…流石ですね。」

ジャンヌが感嘆したように呟くと琥珀はさも当然と言わんばかりに「フンッ」と息を吐き出す。

「あの程度、我が主からすれば赤子を捻るようなものであろう。同属性の攻撃の連続など、細かなことを調整さえすれば簡単に無力化できるからの。」

「その《細かなこと》が本来なら凄く難しいんですけどね。」

「そんなものは、大して問題ではないだろうよ。儂から見ても、主の粒子レベルの霊力操作は天才的じゃ。大抵の霊術では我が主は崩せんよ。」

「琥珀さんから見ても、そうでしたか。…ですが、あの精霊の少女…」

「うむ。《次の一手》をどう対処するかでこの勝負、決まるの。」

 

 

ももう何回目かの攻撃を無力化した後。

修也はもう一歩足を踏み出した。

そこで、地面が揺れ…

「うおっ…?」

ガチャガチャガチャガチャッ

彼の体を土で出来た鎖が締め付ける。

なかなかの強度のそれは、修也の動きを完全に封じた。

いきなりの別属性の攻撃に、修也は対処出来なかったのだ。

そして…

 

ダンッ!

 

少女が小さな足で建造物の屋根を踏み付けて音を出すと、修也の目の前の土が段々と変形していく。

「おおー…」

修也は感嘆の声と共にその変形を見上げた。

やがてその変形は少女の立つ建造物をも超えて…

 

人型のゴーレムが完成した。

 

そして少女が手を振ると、ゴーレムは腕を引き絞り…

凄まじい速度で拳を打ち出した。

それは修也の体へと直撃する。

爆風と共にクレーターが出来上がり、その中にゴーレムの拳は埋もれる。

「…ようやく、ね。」

少女はため息をつくと、傘を畳んで地面へと飛び降りる。

彼女はクレーターの近くに近寄り、ゴーレムに指示を出す。ゴーレムが拳を上げると、そこには塵すらも残っていなかった。

「…仕方ないわよね。」

少女はクレーターを眺めながら呟くと、視線を先程まで相手にしていた青年の付き添いに目を向けた。

ここから立ち去る旨を、伝えようと…

パラリッと…

何かが落ちてくる。

それは、固形の土。

少女が背後を見て、視線を上げるとそこには…

 

崩れかけている、ゴーレムの姿があった。

 

少女が戦慄すると同時。

彼女の頭に、トンッと何かが押し付けられて

 

パリッ

 

そんな音と共に彼女の意識は刈り取られた。

 

 

 

「ん…」

少女は目を覚ます。

まず視界に入るのは、暗い地面。

木々があるようで、精霊の集落とは離れた場所らしい。

そして視線を上げると、揺れる炎が入り込む。

そして…

 

「ふむ、フィッシュアンドチップスか。このような食材、いつの間に用意しておったのじゃお前様よ。」

「べーつにー。どうせ今日一日で終わるわけねえから食材用意しておいただけだよ。油とか調味料も《異界製造》の中に入れてるし。…ほれ、アグン。チーかま。」

「ナー♪」

「あ、あの…修也君。おかわりを…」

「えぇ?もう食ったのか?食べ盛りだなぁ。」

「す、すみません。美味しくてつい…」

「いやまあ全然いいけどさ。」

 

ワイワイと。

焚き火の周りでそんなことを騒いでいる一行。先程とはまるで違う雰囲気に彼女は黙り込む…

「ちょっと」

…ことはせずに、喧騒を遮るように声を出す。

それに、修也だけが反応して、手に持っていた金網のようなものをジャンヌに渡した。

「自分のタイミングでフライあげてくれ。」

「あ、わ、分かりました。」

ジャンヌは受け取ると鍋とにらめっこを始めた。

修也はそれを横目で見ながら少女に近づく。

「よ、悪ぃな。こうしねえと話して貰えねえかと思ってよ。」

修也はかがみこんでそう言うと、少し申し訳なさそうに少女の二の腕を見る。少女も少しの重さを感じるそこは、何か紐状のもので縛られていた。

何かかけられているのか、霊術を使おうとしても、使えない。少女は少しだけ身を捩ってから、キッと修也を睨みつける。

「…少し手荒じゃない?レディに対しての対応じゃないわね。」

「あー…うん。その点は本当に申し訳ない。ただ、俺もゆっくりしてる暇はないんだ。…話してくれないか?この島のこと。」

少女は修也の言葉にプイッとそっぽを向く。それに修也は少しだけ困ったように笑う。

しかし…

「もういいじゃろ、お前様。」

琥珀はそう言って、食べていた飯の皿を置いて立ち上がる。

そのまま少女に近づくと、立ったまま話し始める。

「いや、琥珀待てって。」

「そうは言うがの、儂らにも時間はない。下手をすれば悪霊がイギリスの内陸部にまで被害を及ぼすかもしれぬ。」

琥珀の言葉に、修也は黙り、琥珀は少女を見下ろした。

「おい、小娘。貴様がどーしても話したくないと言うなら、それでも構わん。ただ、その場合…」

 

「この島の周りにいる、全ての悪霊達を払いきることになるがの。」

 

「…ッ!!」

ビクリッと。

少女はこれまで見なかったような大きな反応を示す。それはまるで恐怖するような、反応であった。

「まあ、当然じゃの。儂らとしても人々の害となる悪霊を払うことが仕事な訳じゃし。その霊がいったいいかなる過程でそうなっていたとしても、全て躊躇いなどなく斬り倒すほかないしの。」

身を震わす少女。

明らかに反応が違った。

琥珀は修也に目配せをすると、修也は少女に話しかける。

「まあ、そうだな。俺たちはこの島の周りに住み着いてる悪霊を全部払い切るしかない。元々そのために来たようなもんだしな。…悪いけど、払い切るぐらいなら余裕だ。」

「それどころか、今現在、この島の中心部に住み着いておる巨大な反応の持ち主にも手をかけることになる…」

 

「それはやめてッ!!!」

 

そう。

初めて聞いた彼女の大声に、周りにいた鳥達が飛び去り、木々が揺れる。

少女はそれにハッと我に返ると更にそっぽを向いた。

修也はそれも構わず、まっすぐ彼女を見る。

「…話して、くれないか?」

「…私は人間が嫌い。もちろん、あなたも。」

「ああ、そこを承知で、頼む。」

修也は目をそらすこと無く、彼女をみたまま、それを告げる。

少女はその視線を少しだけ避けるように見ながら…

 

「…分かったわ…」

 

観念したように、項垂れた。




こういう話は薄くならないようにめちゃくちゃ頑張ってる。(知らんがな(・3・)アルェー
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