聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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もう40話か。
はええな(そこまででもない)


第40話 精霊の少女

「……ん……」

 

暗闇の中、少女は目を覚ます。膝を折り、抱えた状態の中、少女は思考する。

そして、思い出す。

自身を襲う灰色の銃弾。

自身を貫いた黒い雷。

 

 

「…ここは、どこ…?」

少しだけ見渡して、彼女は暗闇を進もうと体を動かした。

ーー何をしている。ーー

「…戻らなきゃ。」

ーー何故だ?ーー

「私を、待ってる人が…」

ーーどこにいる?ーー

ーー父を亡くし、母と離れたお前にーー

「…でも、私には家族が…」

ーーお前を閉じこめ、束縛した奴らがか?ーー

ーー村の連中と一緒に迫害した奴らが?ーー

「……」

ーー諦めろーー

「…でも…」

ーーお前には、生きる意味が無い。ーー

ーー共に生きる者もいないお前にはーー

ーー…さあ、眠れーー

瞬間、彼女を強烈な眠気が襲った。

「…ぅ…」

ーーおやすみ、哀しき少女よーー

精霊の少女は目を閉じて、意識を飛ばす。

そして、彼女が最後に見た光景は…

 

 

黒い邪竜人と化した彼女は滑空する。

彼女の体を動かすのは、悪滓の中にある憎悪と怨念。それに汚染された彼女の思考は、人間への復讐と精霊への恨みのみ。

あの島で精霊を見逃したのは、こちらの人間を狙った方が確実だと考えたからだ。

邪竜人の少女はグレートブリテン島目掛けて宙を翔けた。

 

 

場所は戻り、マン島。

残る琥珀と仮面の男。

琥珀はしばらく腕を組んだまま突っ立っていたが…

「…あー、ダメじゃ。やはり待つのは性にあわんのぉ。」

そう言いながら《異界》に手を突っ込むと強引に何かを引っ張り出す。

…それは、酒瓶と盃であった。

「…余裕だな。」

仮面の男の言葉に、琥珀は盃を一煽りしてから、ニヤリと笑う。

「なぁに。わざわざ警戒する必要もないことに警戒しても仕方ないじゃろ。」

そう言って座り込んで晩酌を始めた。

男は動かない。動かずに、吸血鬼の王である彼女を見つめる。そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに対する驚きがあった。

「飲むか?」

「…いや、俺は…」

「安心せい。貴様の素顔をいくら見ようが、我が主に密告することは無い。儂は、そう言うデリケートな問題は気にするのでの。」

そう言って、盃を差し出す琥珀。

男はそれを渋々ながらも受け取る。

男は仮面をずらしてそれを煽る。

…興味深そうに見る琥珀に気付く。

「…なんだ。」

「いーや。案外イケメンじゃなと思てな。何故そんな趣味の悪い仮面をつけておるのか…」

「放っておけ老害。」

男は言い捨てると、仮面を直して、触れる。

「…これは俺自身への戒めだ。弱かった頃の俺への…」

「《人間の頃》、の間違いであろう?」

「…何?」

不意をついた琥珀の一言。

男が反応する。

「貴様のその霊力反応…禍々しい邪気が覆っている。それはまさしく《魔族》と言われるもの達のものであろうな。…じゃが、儂を舐めてもらっては困る。」

琥珀は、笑った。

()()()()()()()()()()()()()()など、見落とすはずがなかろうて。」

「…」

「儂も曲がりなりにも、一族の長。それくらい見極める目は持っておるさ。」

そう言って、もう一度琥珀は盃を傾けた。透明な液体を嚥下する。

男は置いてあった酒瓶を持ち上げて自身の物に注ぐと、一気に飲み干した。

「…人間だったことは、どうでもいい。…過去にしがみつくなんざ、愚か者のすることだ。」

「…ま、確かにの。」

そこには、どこか彼の本心が隠れている気がして、琥珀も何も言わずに頷いた。

 

「…それにしても、こんなことしていていいのか?」

「ん?何がじゃ。」

「お前の主様は今幻想種を相手にしてるんだろ?それなら、こんなことしてる暇ねえだろ?」

仮面の男の言葉に、琥珀は笑いながら答える。

「構わん構わん。儂は今日十分働いておるし…()()()()、1人で倒してもらわんと困るからの。」

そう言う琥珀は本当に何も心配していないのか、また酒瓶に手を出した。

「それに、今の儂じゃとあの精霊の娘を瞬殺してしまうからの。それでは我が主のためにならん。」

琥珀がそう言うと、男は先程まで彼女がいた場所を見る。

そこには1人の精霊の青年が倒れ込んでおり、しかしそのまわりには、一切の悪滓も存在しない。

…彼に雷が落ちる前に、琥珀が全て吸収したのだ。

だが、さすがに2人同時には無理だったようで、精霊の少女は当たってしまったが。

「欲を言えば、我が主にもあれは防いでもらいたかったが…あそこまで高密度な悪滓は、《あの状態》ではさすがにキツかったの。」

そう言って、冗談などない雰囲気で言い切る琥珀。

男は、彼女を見る。

外見的には、何も変わらない。

だが、悪滓の雷を吸収したことで、その中の霊力は全て回復しさらに、どこか身体的強化もされているようにも見えた。

「…そうは言うが、あの邪竜人はかなり手強いぞ。ドラゴンを超える攻撃に素早さ、さらに高度な知能も持っている。一筋縄では行かないだろ。」

「ま、そうじゃな。だいたいあの娘の今の戦闘力はフランスの変態と同じくらいか。あの時は儂の幻想憑依で倒したが…」

 

「しかしまあ、我が主も停滞はしておらん。ちゃんと日々成長しておる。」

 

「…」

「あの頃とは別人と思ってよかろうよ。」

そう言って彼女は、数週間前の彼と比べた。

そこにあったのは、絶対的信頼と、彼女自身の自信であった。

 

 

私には、物心ついたときから父親というものがいなかった。

けど、母親がいたから、あまり寂しいとは感じなかった。

いつも笑顔だった母。美味しい料理を作ってくれる母。慰め、包み込んでくれる母。笑顔で話しながら、髪を梳い、切り整えてくれる母。

 

…ある日になると、彼女はいつも小さな石の前で泣く。

 

まるで私の前で流すものを全て出し切るように、いつまでも、いつまでも。

やがて目尻を赤くした彼女は、私の手を取って、集落から離れた家に戻る。

そこでの彼女は、いつもの母で、笑顔で私と接してくれた。

そんな彼女は、強がるようで…幼心な私には、どこか痛ましかった。

 

やがて、母は連れていかれた。

 

金色の目と髪を持った初老の人物に体を掴まれて、家から引きずり出される姿は、今でもこの目に焼き付いている。

大声でなにか叫んでいたが、猿轡のせいで何も聞き取れなかった。

 

彼女が、私の目を見て涙を流すのは、それが最初で最後だった。

 

1人になった私は、親戚宅に引き取られて、そしてその半分の時間を、家の2階の部屋で過ごした。

短かった髪は伸び続け、外に出ることはあっても同族であるはずの精霊達との関わりはほとんどなかった。

わざわざ自身を除け者にする同族と群れるより、ある年の誕生日に買ってもらったブーツを履いて、母が好きだった黒い傘を差して島を歩く方が有意義だった。

1人なことは、普通だった。

窓から見える景色も、草原から見える景色も。何も変わらない。

幸福な《他人》と孤独な《自分》。

いつからか、希望を見出そうとすることをやめた。自分の人生は、こんなものだと割り切るようになった。

 

だから、村の精霊全員が悪霊に変貌したのにも、別に何も感じなかった。

 

その日、たまたま村から遠くに位置する海岸に出ていた私は、悪滓の一部が流れてきたことで異変を感じた。

村の周りに悪霊が湧いていたことには驚いたが、霊力反応や結界の欠損状況を見て、すぐにその状況を察した。

別に、悲しみは感じない。憎悪も、嬉しさも、何もかも。

1度は、この地から離れようと思った。

彼らが悪霊と化したことで髪飾りの《拘束具》は機能していなかったし、逃げ出すには絶好の機会だった。

…ただ、1つ。

一つだけ、気になることがあった。

それは、自身を引き取った親戚の長たち。

彼らの私への扱いは良いとは言えなかったが、接し方はそこまで酷くなかった。

叔父は必要があれば何か買ってくれたし、叔母も料理などの家事を教えてくれた。それに従兄である青年は、たまにリビングで話したりもした。

だが、それでも彼らと自身の中にある距離感は、埋まることは無かった。

…しかし、その気がかりは、彼女をこの島に引き止めた。元々、やることも無かったため、彼女にとってはどうでもよかった。

やがて島の人間も避難し、1ヶ月間、助けも何も無いまま、1人で島の集落や草原で過ごし…

 

そして少女は、霊使者の青年と出会う。

 

 

ーなぜ生きるー

ーあなたは誰にも求められていないー

ーあなたは産まれるべきじゃなかったー

ーそうすれば両親は離れ離れにならなかったー

ー不幸の子ー

ーいらない子ー

 

ーー災厄の子ーー

 

自身に語りかけられるその言葉の数々。

まるで侵食しようとしているような言葉の奔流に、しかし少女は抗わない。まるで身を委ねるように膝を腕に抱き、丸まり、全てを終わらせようとする。

別に、良いだろう。

『…私は、誰にも求められていないのだから。』

…それは、世界にすらも。

 

だが、やがて声の奔流が止まる。

パタリと止んだ侵食に、少女も意識をハッキリと戻す。そして何処からか、自身に取り付く悪霊達の威嚇するような声すらも聞こえる。まるで、侵食よりも重大な何か…天敵が向かっているような気配。

少女は顔を上げた。

そして、その目が捉えたのは。

 

…黒髪の青年の姿だった。

 

 

「…追いついた。」

標的に追いつき、修也はゆっくりと息を吐いた。羽を細かく動かして滞空する。

「…修也君、どうしますか?」

ジャンヌの問いに修也は簡潔に答える。

「どうもこうもあるか。市街地に入る前に奴を叩く。あいつはいわば人の味を知らねえ『小熊』だ。やりようはある。」

「…市街地に入ると?」

「下手すりゃ人間食うか、悪滓大量補給して超強化される。そうなっちまえば祓い殺すしかなくなるだろうな。」

修也がそう言うと、邪竜人はそこで動いた。

修也を見ていた視線を逸らし、イギリス本島へ向けると…

 

そのまま光弾を発射。

大エネルギーの爆発物が市街地に向かって翔ける。

 

「しゅ、修也君!早く止めないと…!」

ジャンヌの焦った声に、しかし修也は

「大丈夫だ。」

そう、告げた。

その言葉通り光弾はあろうことか市街地からかなり離れた場所で四散し、光へと変わる。

そして、ジャンヌは見た。

市街地を守る、凄まじく分厚い金色の壁を。

そこで修也の無線に音声が入った。

修也は何も言わずに起動させる。

『修也、健在か?』

「ええ、もちろんですとも、アルトゥース陛下。今目の前にいるこいつを祓えば任務完了ですので、もう少しお待ちください。」

『よかろう。街は俺の《宝具》で守っておくから、思う存分暴れろ。これは国王命令だ。』

「…YES,BOSS。」

修也は無線を切ると、口元に笑みを浮かべた。まるで喜びを押し殺すように白い歯を浮かべる。

「聞いたかジャンヌ。一国の国王から「暴れろ」命令だ。ここまで雑な命令今まであったかな?」

「そ、それより…アルトゥース国王の言っていた《宝具》について気になるのですが…まさか彼、人間の身で宝具を扱っているので…?」

「ハイハイ、それはまた今度な。」

修也はジャンヌの話をすぐさま遮って、ゆっくりと腰の刀を抜いて、邪竜人の方へと構えた。

それと同時に、邪竜人の凄まじい咆哮がこだました。

 

 

 

「さあ、いくぞ。」

 

 

イギリスでの、幕引きは近い。





暗くね?(暗いよ?)
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