下の兄の手伝いもあり、慶次が製作した魔法使いの衣装は見事なものとなる。朝から家事や家畜の世話を行った慶次昼前にその衣装をカバンに積めていた。
カバンを背負った慶次はアヒルに声をかけながら屋敷を飛び出す。街から城までは乗り合いの馬車が使えるのだが、馬車は昼過ぎに出発するとも聞いていた。昼過ぎに街を出発して夕暮れには城に到着する予定らしい。
街に到着すると慶次は急いで広場へ向かった。街道に停められた馬車のそばを走り抜けて広場へ急ぐ。けれどそんな慶次をじっと見つめる者がいた。
停車した馬車の上に立ったその人物は深くかぶったフードを少し持ち上げる。そして大きな荷物を背負い走る慶次を眺めた。
「どうやらアレみたいだね」
馬車の上に立つその人物を、通りすがる人々は奇異の目で眺めていく。しかし本人はそれを気にすることなく堂々とした態度で馬車を進めるよう指示を出した。それに合わせて馬車もゆっくりと進みだす。
けれどそんな人物の視界の中で、不意に慶次の身に異変が起きた。路地から出てきた男と偶然ぶつかったのは仕方ない。しかしその男によって慶次が路地へ引きずり込まれたのは看過できなかった。
「政宗! 一大事だ」
声をあげると進んでいた馬車の屋根から飛び降りる。すると馬車の扉が開いて政宗と呼ばれたもうひとりが姿を現す。
「どうした?」
「真琴の花嫁が拉致された」
「花嫁ではなくその候補なのだが、それは助けてやらねばならんな」
「行くよ」
慶次が引きずり込まれた路地へ向かうべく走り出せば政宗もその後に続く。そうしてふたりが立ち去り、残された馬車から金髪の若者が顔を出した。
「気を付けろヨー」
気のない声を出した若者は手元の袋から焼き菓子を出しては食べ始める。
昼間と言うこともあり酒場にはまともな客がいなかった。連れ込まれた慶次が救いを求めても他の客たちは助けようとしない。
そんな状況下で慶次は荷物を奪われ床に引き倒された。それでも抵抗しようとすれば服を引きちぎられおとなしくしていろと脅される。
「おれぁいま気が立ってんだ。あんまうるせぇとテメェのケツにデカブツぶっ込むぞ」
あきらかに痛そうなその言葉に慶次は小さく悲鳴をあげた。そうして縮こまった慶次の目の前で、男は慶次から奪ったカバンを開かせる。
「おっ、やっぱ城に行くとこだったみたいだな」
楽しげに言いながら男は慶次の衣装を取り出してしまう。しかも男は何を思ったのか短刀で衣装を切り裂き始めた。
「やめっ……やめろ!」
制止の声をあげた慶次の目の前で男がとんがり帽子を切り裂く。下の兄と作った帽子がふたつに裂かれると慶次は涙をこぼしはじめた。
「どうしてこんな…」
酷いことをと言おうとした慶次のそばで男が当たり前だろと笑う。
「あんなヤツの弟がのうのうとお祭り騒ぎに参加するなんてありえねぇからな。まぁ、テメェはこれからおれら相手に乱行パーティといこうぜ」
男が楽しげに言うと周囲の酔っぱらいたちもつられるように笑う。複数の笑い声に包まれた慶次は涙目になりながら迫ってくる男を見上げた。嫌だと首を横に振っても男を止めることはできない。
けれどその強行は慶次が床に倒されただけで終えられた。慶次に馬乗りとなった男の顔のすぐ横で長剣がきらめく。
「腕力を持って弱者を虐げるなど男の風上にもおけんな」
マントに身を包んだ人物の手には長剣が握られ、それは確実に男へ向けられている。そうして強行を止められた男は顔を引きつかせて慶次から離れた。
慶次を助けてくれた人物は深くフードをかぶり顔を隠してしまっている。しかしそれでも相手は慶次に手を貸し立ち上がらせてくれた。
しかもその人物はまとっていたマントを脱ぐと服の破れた慶次の肩にかけてくれる。その優しさはどこか真琴と似ている気がして慶次はますます悲しい気分になった。
これから広場へ行ったとしても馬車は既に出発しているだろう。それに馬車がまだいたとしても衣装もなくこんな姿ではパーティには出られない。
酒場から離れた慶次はフードの人物たちに連れられそばに停車していた馬車に乗る。けれど慶次はこのまま帰宅することを決めていた。
「助けてくれてありがとうございます。俺はもう帰ります」
「パーティには行かないのかい?」
礼を告げた慶次に赤いフードの人物が問いかけてくる。しかし慶次は借りたマントを握りしめ無理だと返した。
「衣装は切られちゃったし、新しい衣装を買うお金もないし…」
真琴に会いたい思いはあるが、物理的に無理となってしまった。ならばもう諦めるしかない。そう考えた慶次はペコリと頭を下げて馬車から降りようとした。
するとそれまでのんきに菓子を食べていた三人目が動く。
「どうしてもってなら、魔法使いらしいことをしてやらなくもないヨ」
馬車を降りようとしていた慶次は魔法使いという言葉に驚き振り返る。するとからになった袋を丸めていた人物が肩をすくめた。
「あんたがして欲しいってならの話だけど」
「して欲しいです……お願いします!」
完全に諦めていた慶次は魔法使いらしい人物の話に飛び付いた。