あの空に帰るまで   作:銀鈴

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24 モユルヨル

s65(そんな)……K4d(なんで)!?」

 

 自己否定ーー動揺を否定しました

 

 今は消えているが、吹き上がった炎を見て呆然とエウリさんは固まってしまっていた。だが、そう感傷に浸る事を、俺のチートは許してくれない。

 

 自己否定ーー感傷を否定しました

 

 更に強制的に落ちつかされた精神で、魔術で強化された身体が十全に働いてしまった。よく見える、よく聞こえる、よく感じられる。今の爆発が原因なのか、大量の何かがこちらに向かってきている。

 

「《収納》」

 

 固まるエウリさんの横を抜け、熾した火以外の用意を全て自分のチートの中に仕舞う。

 今ならなんとなく分かる。俺は、エウリさんを託されたのだ。死なせない為に、生きてもらう為に、外の世界を知ってもらう為に。だからこそ、託す俺が雑魚じゃマズイから稽古をつけてもらえた。魔術を教えてもらえた。魔法を教えてもらえた。武具を授けてくれた。知恵を授けてくれた。ならば俺は、それに答えなければならない。絶対に、そう、絶対にだ。

 

「エウリさん、すみません!」

「えっ、きゃっ!?」

 

 全身にかけた強化に回す魔力量を増やし、一言謝ってから血の気の引いたエウリさんを肩に担ぐ。人一人分、そこそこの重さだがうだうだ言っていられない。

 

 自己否定ーー恋愛感情を否定しました

 

 自分でその感情を持っていることの証明となってしまった。恥ずかしい、恥ずかしいが──今に限ってはありがたい。これで集中が深くなる。もう間もなく、ここは魔物の群れが通過する道になるのだ。そんな場所に突っ立っていたら、揃って挽き肉になってしまう。

 

「エウリさん、舌を噛まないようにしてて下さいね。(ブランチ)!」

 

 教えて貰ったとはいえ、俺の魔法はまだ稚拙もいいところだ。だがそんな俺でも、近くの木から枝を伸ばす事くらいは出来る。そうして出来上がったのは、即席の階段。前進は死、横進も死、後退も死ならば上か下しかないのだから、やるしかない。

 

「行きます!」

「きゃぁぁぁ!?」

 

 地面を蹴り、俺は大きく飛び上がった。そして魔法で伸ばした枝に着地、再度跳躍する事を繰り返し、異世界味溢れる高木を登っていく。そして一際太い枝に辿り着いてから、膝をついて息を整えてから1つの魔術を発動させる。

 

「幻よ!」

 

 魔力を消費し、俺たちのいる高木を幻術で覆う。これで一応、緊急の避難場所にはなった筈だ。それに、それなりの高さにまで登ってきたお陰で、よく周りが見渡せる。

 

「あの、モロハさん。NK5qx=i(降ろして下さい)

「そうですね。すみません」

 

 酷く落ち着き凪いだ心のまま、担いでいたエウリさんを降ろす。微塵もバランスを崩す様子を見せないのは、やはり種族としての強みなのだろうか。

 

「なんで、cUVc9Ax0HWU(こんな所に来たんですか)?」

「見てれば分かると思います」

 

 震えた声で尋ねるエウリさんに、そう言った直後だった。よく分からない奇声をあげながら、森から化物の群れが現れた。腕が4つもある大猿、頭が2つで目が6つもある狼、前腕と後腕がそれぞれ翼となっている巨大コウモリ、そんな奴らをはじめとした魔物の群れが、森から逃げ出す様に無秩序に走っていく。だが、幻術のお陰でこの木は殆どの魔物が避けて行ってくれている。

 しかも、その魔物のほぼ全てが焦げや裂傷、刺し傷などを始めとした戦闘の痕を残している。何者かが追い立てたのは明白だろう。俺たちを殺そうとしてそうしたと考えるのは、邪推のしすぎだろうか?

 

「あのまま下にいたら、多分俺たちは揃って轢き潰されてました。そんな事、流石に許容出来ません」

「そんな……酷い」

 

 ペタンと座り込むエウリさんの顔は、真っ青を通り越して白くなってきている。なんとかしてあげたいけれど、俺には何もすることができない。

 そう歯噛みしている間に、再び火柱が夜を煌々と照らし出した。そして、夜という条件下であることと強化を強めてたことがあり、よく見えてしまった。火柱を生んでいるのは鎧を纏った人間で、火柱の根元にいたのは古樹精霊の誰かだった。

 

「あ……Bd(行か)mBg(ないと)

「駄目です」

 

 それが見えてしまったのか、フラフラと立ち上がり、覚束ない足取りで進みそうになったエウリさんの腕を掴んで止める。

 今にも泣きそうな顔で振り返ったエウリさんが、一転怒りの表情に変わって俺の胸倉を掴み叫ぶように言った。

 

「なんで……なんで、6Nd3u6%€hDe@<z7h(なんでモロハさんはそんなに冷静で)

 kf$9Z-Zz(いられるんですか)!! $W+1(みんなが)$W+1C1L+*NW(みんなが死んじゃってる)

 By%kfp4n1D(かもしれないんですよ)!!」

 

 自己否定ーー激情を否定しました

 

 心の中に熾こりかけた何かの火が、チートによって吹き消された。……そうだな、そろそろコレを秘密にし続けるのは、辛く感じてる部分もあったんだ。エウリさんにだけなら、言ってもいいか。

 

「エウリさん、勇者と呼ばれる召喚された人達に、俗にチートと言われる能力が発現するっていう事は知ってますか?」

M-KgynEj4*(馬鹿にしないで下さい)! 3u6%€nG(モロハさんのが)『Mo9pu』K4$(『物をしまう』能力だ)

 Kv4UlPO+&lXJ(って事だって知ってますよ)!」

「実はそれ、半分しか本当の事言ってません。俺のチートは、もう1つあります」

「え……」

 

 僅かな驚きの後、エウリさんの目がこちらを非難する目に変わった。そして言外に、なんでそんな事を隠していたのかと訴えてきているのがわかる。

 

「俺の持つもう1つのチートは、自分の感情を一定時間、若くは永遠に消す能力です。しかもこれ、自分の意思とは関係なく発動するので止められないんですよね」

 

 無駄に混乱を招きそうなうえ今は関係ないのだから、毒や一部の魔法も否定できる事は言わないでおく。だが、これで伝わっただろう。

 

「そん、な」

「はい。今も何回か発動して、感情を消されてます。じゃないと、俺だってこんな冷静じゃいられませんよ」

 

 自己否定ーー激情を否定しました

 

 また、感情の火が掻き消された。俺にも色々と、思うところや考えるところがあるのだ。だがどうしても、それに熱が入らない。重要だと思うことができない。

 

「それは、それって……」

「エウリさんが気に病むことじゃないですよ。これは俺の問題ですから。でも、これを話したのはエウリさんが初めてなので、秘密にして下さいね?」

「は、い」

 

 震える声でエウリさんは答え、ゆっくりとだが頷いてくれた。落ち着いたというよりは、処理落ちしたという方が適切な気がするが。何にしろ、話ができるようになったのなら問題ない。

 

「でも、Fq7Pt=M7qT9K#(なんでそれが助けに行かない)NhYFFW5Xn(理由になるんですか)?」

「今、俺にとって1番大切な事はエウリさんと、序でに俺の身の安全です。今から行っても間に合うかも分からない、勝てるかも分からない、誰かが生きてるとも限らない、そんな戦場に向かうなんて馬鹿げてるとしか思えません」

 

 ここまでが、理性が下した結論だ。全くその通りだと思うし、巻き込まれない様にしてくれたという事を考えると、もう1つの答えは間違ってるとしか思えない。

 

「でも俺だって……俺だって助けに行きたいんです」

 

 ここ数日ずっとあり得ないほど濃い経験をさせてもらったし、思い入れがないとは口が裂けても言えない。寧ろ、大恩があるし愛着の様なものだってある。それなのに助けに行きたくないと思うほど、俺は人でなしでもないし人外にもなっていない。その、筈だ。

 

「だからエウリさん。俺に、理由を下さい」

 

 このまま行っても、どこかできっと《自己否定》が俺の意に沿わない形で邪魔をする。もう2度と俺は、【プラム村】であった様な事を繰り返したくはない。あんな事をしたくはない。あってはならない。

 

「その、理由って、なにを」

「たった一言でも、なんでもいいんです。だから、どうか」

 

 恐らくそれさえあれば、《自己否定》が俺の意思を無視する事はない。そう何故か直感出来ているのだ。付けていた花の眼帯を収納し、膝をついたまま言葉を待つ俺に、一度深呼吸をしてからエウリさんは言った。

 

「お願い、です。dhW1ZtkUZmM8lD(私をみんなの所へ連れて行って)!!」

「承りました。未だ未熟な身なれど、この槍を貴女に預けます」

 

 チリ、と後頭部から伝わる熱と共に、自然と口からそんな言葉が出てきた。そして、嗚呼何故だろうか、酷く懐かしい様な感じがする。チリチリと燃える様な後頭部の感覚が、戦意を奮い立たせていく。不思議な感覚だが、悪くない。

 

e()e@°t(今のって)gYht1aqnJ6tgS(物語とかでよく見る騎士様の)……」

「さて、何のことですかね」

 

 自分でも何で言ったのか分からないので、恥ずかしさを紛らわす為に言葉を濁した。思い出すと恥ずかしく、頬が熱くなってくる。

 

 自己否定ーー羞恥心を否定しました

 

 頬の熱さは消えないけれど、チートのお陰で平静を保つことができた。そのまま俺は、槍を振り続けてたこが出来た右手を伸ばす。

 

 そうして繋がれた手を、しっかりと握り返す。今度は違う。今度こそは違う、変えるのだ。だが俺の力だけでは届くはずもないから、どんなものでも利用する。

 

 自己否定ーー敵意を否定しました

 

 丁度よく自己否定が発動してくれた。意を決してここ数日開くことのなかった左目を開き、俺は中天に輝く満月に向かって叫ぶ。

 

「どうせ覗き見してるんだろ、ファビオラぁッ!! あんたの朋友の危機なんだ、手を貸せぇッ!!」

 

 繋いだ手から動揺が伝わってきたのと同時、俺の左の首元に1匹の蝙蝠が出現していた。目を開いた事で普段より良く見える様になった左目は、その蝙蝠が魔法で作られたものだと看破する。

 だかその蝙蝠は、俺の首筋に軽く触れるだけで消えていった。多分、言われなくても分かっている、という事でいいのだろう。

 

「今の、は?」

「敵の敵は味方ってやつです。援軍を頼みました」

 

 ファビオラは敵だ。だがその強さは認めるしかない。なら、自分の気持ちは押し殺してでも助けを求めよう。それで少しは、何かを成し遂げられる可能性は上がるはずだ。

 

「それじゃあ、行きますか」

「はい!」

 

 強化の範囲を狭めて魔力の消費を軽減する俺の隣で、馬鹿げたとしか言いようのない魔力の奔流が吹き上がった。数値化するならば、俺の10倍は固いだろう。そんな量の魔力が、単純な強化に使われるのだ。男女の差なんてものは、簡単にひっくり返る。

 

「「(ブランチ)!」」

 

 魔法で生み出した枝を足場として蹴り加速、村に向かい矢の様に突き進む。

 今この場所に到着するまで、村から出発して約6時間。それは鬱蒼とした森の中を、警戒しつつ魔物との戦闘もこなし、昼食など全てを込み込みにしての時間だ。だが今の様に、森の上を一直線に、魔術での補助を込みにして考えるとその前提は崩れ去る。

 とはいえ、それでも俺たちが村に到着できるのは、ノンストップで走って恐らく30分〜1時間後。間に合うかどうかは、正直賭けでしかない。

 

「急ぎます!」

「了解です」

 

 鬱陶しいコートを収納し、先行したエウリさんに追いつくよう俺も加速する。そんな希望を嘲笑うかのように、三度巨大な火柱が現出した。

 

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