この世界に住む者なら誰でも知る、生物としての最強種。同時に英雄譚で討伐される王道の悪役であり、異類婚姻譚の相手であり、武勇譚の功績であり、法螺話の筆頭でもある。
だが、そんな彼らにも、強さの格というものがある。最下級、下級、中級、上級。冒頭であるここでは、その格について少し触れていこう。
まず、最下級の
1匹いれば街が壊滅するといえば分かりやすいだろうか。しかし亜竜は、冒険者という魔物を殺すことに特化した連中の腕利きであれば、一方的に惨殺することは不可能ではない。
次に下位の竜。このクラスになると、基礎能力は全て上位互換となり魔法の使用が加わる。更に翼と一体化していた前足が独立し、4脚2翼の地球で言う西洋のドラゴンとなる。この時点で、人が無傷で勝つと言うことはほぼなくなる。
軍を1つ動員して、相打ちに出来るかどうか。もしくは人外と格付けされる冒険者や、魔族の中で英雄と呼ばれるものが討ち果たせるかどうかというものだ。
そして中位の竜。基礎能力は全て上位互換となるのは当然として、人語・魔族語を理解・発声し意思の疎通が可能になる。勇者の故郷である地球で言う西洋のドラゴンのイメージと類似した部分として、英雄や金銀財宝を好むことが特徴に挙げられるだろうか。
このクラスとなると、最早抗うことのできない天災と言えよう。可能性があるとすれば、殺すことに特化し経験を積んだ十分なサポートを受けた勇者のみとなるであろう。
最後に、上位の竜。ここから、最低限仕事をしていた物理法則というものがストライキを始める。根本的に魔術や魔法といったものが使用者に作用するもの以外意味がなくなり、物理防御力はかつての勇者が放った『10tクラスのバンカーバースター』なる兵器を無傷で耐えきったという文献がある為上限が不明だ。
更に、姿形も西洋ドラゴンから全く別の何かへと移行する。幸いなことに、このクラスになると秘境のような場所に引き篭もり悠々自適に過ごす為こちらから関わらなければ何も起こらないが。しかしどこにも例外は存在するもので、人化という特別な術を使い人や魔族の社会に紛れていることが間々ある。闘争を求め暴走するタイプも、歴史上何頭も確認されている。
これ以上長い説明は、際限がなくなる為ここでは中断しておこう。
番外として存在するのが、竜の頂点であると伝えられる古龍。地球では当然、こちらの世界であっても伝承という形でしか伝わっていないそれは、神の如き力を振るっていたと伝えられている。天候を操り、山を吹き飛ばし、海を割り大陸を砕く。そんな、神話の世界でしか存在を許されない、尋常ならざる存在であったらしい。
人類、及び魔族は、彼らが牙をむいたとき果たしてどのような道を辿ることになるのだろうか? 生存を許されるのだろうか? それおも、絶滅するしかないのだろうか?
否であると、私は信じたい。故に私は、この先の未来を生きる誰かの一助となるべく筆を取った。未来では、私の記すことは全て常識となっているのかもしれない。だが、それでも、願わくばこの本が未来に受け継がれることを望む。
エルマイア・ジャスコット著『竜種の生態』より抜粋
とある戦場で、破滅の風が吹き荒れていた。
それは豪腕豪爪による蹂躙であり、
鋼鉄の武具を赤熱させる紅蓮の焔であり、
毒棘のある尾の薙ぎ払いであり、
刃の様な翼からのカマイタチであり、
牙での喰いちぎりであった。
それらの災害を起こしているのは、ただ1匹の生物。
黒い鱗に赤い眼をを持つ、巨大な竜だった。その姿を例えるならば、勇者であればティガレックス辿異種が一番通じやすいだろうか?
発達した四肢。そのうち特に発達した前腕から生える3枚の巨大な刃。更に、分厚く鋭い剛爪。自在に動き、筋肉の塊のような毒棘のある尾。巨大な顎門と全てを貫き砕かんとする牙。
空を飛ぶ術を無くした代わりに、地上での力を望んだ。それがこの竜、位で言うならば上位に分類されるものの力だった。
『血だ! 血を寄越せ!』
腕の一薙ぎで、10を超える数の人間が細切れになった。
『英雄だ! 英雄を寄越せ!』
尾の一振りで、魔術を詠唱していた部隊がミンチと化した。
『財宝だ! 財宝を寄越せ!』
チートを使おうとしていたのか、動きを止めた黒髪の男子が噛み千切られた。
『望みに望んだ戦乱だ! 狂乱と闘争と、暴虐と悪辣と狡猾と、勝利と敗北と栄光と絶望が満ちた至福の宴だ!』
竜の介腕に生えた刃の様な羽を展開し、暴風が吹き荒れた。それにより助けに入ろうとしていた女子勇者の足が止められ、詠唱無しで放たれた炎の魔術で炭化した。
『であればこそ、我と鎬を削る
強化の魔術が乗った竜の咆哮に伴う風圧が、衝撃が、敵味方の区別なく全てをゴミ屑の様に壊していく。地面が捲れ上がり、ヒビ割れ、細かい破片になったものから砂へと回帰していく。
その煽りを受け、付近にあった林から緑が消えた。青々と生い茂っていた葉が、全て千切れ飛び散り散りになってばら撒かれたのだ。無論、木の幹や枝も無事とは言えない。距離が十分にあったお陰で地面よりは僅かにマシではあるが、竜に近いものから裂け、倒壊し、それが連鎖していく。
その様子は最早災害か、それを通り越して天災と呼べるだろう。断じて1匹の生き物が起こして良い惨劇ではない。しかしそれを実現できるのが……出来てしまうのが竜という生物だった。
『我が名はディラルヴォーラ! 黒崩咆ディラルヴォーラである!』
何も無くなった大地で、四肢に力を込めてディラルヴォーラが咆哮する。それがトドメとなり、僅かに生き残っていた人も魔族も全てが絶命した。
人であったものからぶち撒けられた赤、黄色、白の3色。そこに魔族であったものからぶち撒けられた、青や緑を始めとした液体が描く殺戮のマーブル模様。その中心で竜は咆哮する。
この場所こそが我が領土と言わんばかりに、戦場跡に黒崩咆は君臨する。
築かれた屍山血河の上で、ディラルヴォーラは高らかに謳い上げる。
血を寄越せ!
英雄を寄越せ!
財宝を寄越せ!
全てを寄越せ!
我を愉しませるものを、我が欲を満たすものを寄越せと。そして、満たせぬのなら死ねと。屍を晒して地に還れと。
結果、この日この地の全ては滅びた。
人族方面軍、総数約13万。
魔族方面軍、総数約12万。
随伴していた動物、霊獣。この地を縄張りとしていた魔獣たち。
その全てが、逃亡も許されず地に還った。竜という理不尽の前に脆くも崩れ去った。
上位竜出現。方面軍全滅。
この一報は、何とか生き延びた観測員によって王都へも伝えられた。しかしそれは、モロハたちが王都を発ってから10日が経過した後のことだった。
◇
ソレは考えていた。
人族を殺せ
己は一体、何故こんな所に居るのだろうか。
人族を殺せ
己は縄張りである谷底に居たのではなかったか。
人族を殺せ
頭に響くこの呪詛の声は何なのだろうか。
人族を殺せ
『煩わしい!!』
いや、頭では理解しているのだ。
人族を殺せ
己の下位種族である
人族を殺せ
ああ、しっかりと認識した。不快だ。不愉快だ。ただ呼び出すだけならまだ許すが、己を呪うなど、歪めるなど言語道断。
人族を殺せ
『この、下劣な下等種族がァァ!!』
咆哮する。空を飛ぶ術とブレスを引き換えに得た、己が竜種の中でも上位の存在だと示す力を炸裂させる。それにより、全てが吹き飛んだ。
人族を殺せ
元より20mを超える巨体で
人族を殺せ
同時に己を呼び出した術者も消えた様だが、頭に響く呪詛の声は消えることはなかった。
人族を殺せ
『ガァァァァッ!!』
煩わしい。
人族を殺せ
煩わしい煩わしい煩わしい。
人族を殺せ
煩わしい煩わしい煩わしい煩わしい煩わしい
人族を殺せ
煩わしい煩わしい煩わしい煩わしい煩わしい煩わしい煩わしい煩わしい!!
人族を殺せ
気がつけば、己が呼び出された場所はただの血生臭いゴミ溜めと化していた。ここは、上位の竜たる己が居るべき場所ではない。
『……こせ』
人族を殺せ
己を内側から焼く呪詛は消えない。
『…寄越せ』
人族を殺せ
何故己はこれほど苦しまねばならないのか。
『寄越せェ!』
人族を殺せ
どうすればこの苦しみから解放されるのか。
『血を! 英雄を! 財宝を! 全てをォォォ!!』
人族を殺せ
そうか、殺せばいいのか。
ディラルヴォーラは確信する。元より己は闘争を求めてた。殺し殺され、闘いの果てに死することを望んでいた。であれば、殺せば良いだけではないか。
人や魔族というのは、非常に脆く弱い種族だ。だがしかし、時偶英雄と呼ばれる化け物が現れる。そしてそれらは、誰もが弱き者が蹂躙されることに耐えられない。つまり、殺せば出てくるのだ。
「いたぞ! 竜だ! 俺たちで討ち取るぞ!」
閃いた名案に笑みを浮かべていたディラルヴォーラに、何かが叩きつけられた。堅固な鱗と甲殻、及び纏う魔力によって毛ほども痛みはないが、それは名案にケチをつけられたように感じられた。
「よし、効いてる! これなら──」
黒髪の人族の男が、何か喚いている。
「ぐぺっ」
だから殺した。たかが腕の一薙ぎで死ぬお前程度では、致命的に力不足だ。故に英雄を呼ぶ贄となれ。
「きゃぁぁあ!!?」
黒髪の人族の女が、悲鳴をあげてる。
「よくも私のかrぎ」
だから殺した。児戯の如き魔法で死ぬお前程度では、致命的に力不足だ。故に英雄を呼ぶ贄となれ。
「『竜は口を閉ざし、僕に首を垂れた。犬の様に身体を伏せ、全身の力を抜き服従を示す!』」
人族の言葉が脳を犯し、己の行軍を止めさせられた。上位種たる己に向けて、侮辱としか取れない命令だが不思議と動きを止められた。
「よし、今だよ!」
「魔力指定、倍加!」
「任せろ! 最大チャージ、《ライトブレイク》!」
そして、犯人を見つけ出す前に全身が光に包まれた。纏う魔力によって減衰、鱗と甲殻によりさらに減衰された威力だが、己に僅かに傷をつけた。ならば、この3体の人族は、英雄足り得るのかもしれない。
『問おう、貴様らは英雄か?』
「そうだ! 俺たちが、お前を殺して人を救う英雄だ!」
光を軽い咆哮1つで消して飛ばし問いかければ、目の前の木っ端は己が英雄だと言った。そうかそうか、これが英雄か。己を殺し足り得る英雄か!
『は、はは! ははは! ははハハハハははハはッ!!』
これほど早く遭遇できるとはなんたる僥倖。
相手は英雄だ、己の力を際限なく振るおうとも死ぬことはない!
『では、行くぞ』
腕刃を展開する。魔法の強化媒体としても役割のあるそれを介し、己の全てを強化する。単純な強化こそ王道にして最強、そう確信してやまない己の全力とはこういうことだ。
嗚呼、どの技から試してみようか。近頃は己の財宝を狙う賊も減り、力を持て余していたのだ。そうだ、初めは派手に行こう。それが英雄への手向けになる。
『ゴガアァァァァァァァァッ!!』
歓喜の意思も込め咆哮する。そして次の瞬間、己を英雄だと名乗った人族は弾けて肉の塊と成り果てていた。
嗚呼、そうか。この程度なのか。
己が望んだ英雄とは。己を殺し得ると思っていた未だ見ぬ好敵手は。
否。否だ。断じて否だ!!
この程度が英雄である筈がない。思えば、出てくるのが余りに早かった。となれば、目の前の血袋は英雄の名を騙ったゴミであったのだろう。そうである筈だ。そうであるに違いない。
では殺す。
英雄が来るまで殺す。
殺して殺して殺して殺し尽くす。
止めたければ英雄を呼ぶが良い。
一騎当千の強者を。
膂力で己と渡り合う怪物を。
己を満たし得る英雄を!!
幸せの反動はデカイ。
勇者A→指定したものを爆発させるチート
勇者B→不明
勇者C→言霊を操るチート
勇者D→指定した能力を倍加するチート
勇者E→力をチャージするチート
まあ全員死んだけどね!