あの空に帰るまで   作:銀鈴

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05 再会

「さて、では行きましょう」

 

 話す要件は伝え終わったという事か、マルガ王女は立ち上がり着ているローブの裾を払う。一応付いて行こうと立とうとした時に、癖なのか左側にバランスが崩れた。倒れることはなかったけれど、これを平常にするまではかなり不便そうだ。

 

「そういえば、これをお渡しするのを忘れてましたね」

「これは……?」

 

 informationーー再最適化を実行しました

 

 若干ふらついていた俺に布に包まれた長い何かと、それに引っかかったシャツが投げ渡された。一応後者は着ろって事だろう。

 

「流石にその格好は学友の目に悪いでしょうし、服を着てください。もう片方は、予想出来てるかもしれませんがあの槍擬きです」

「アレですか。けれど、何故あれを?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、俺はマルガ王女に問いを投げる。あんな急場凌ぎの模造品、多分マトモな武器じゃないと思うのだが。

 

「あの刃の部分、元はそれなりの物だった様なので、勝手に強化安定化しました。クソみたいな私のスキルですけど、今回は幸運でした」

 

 そんな多少はマトモな武器だったのか、ゴブリンが持ってた癖に。自分がやらかした行為が結構な偉業に思えて、ただの自殺行為だったと再認識してその自信を無かったことにする。

 

 そんなセルフチートをしている俺をよそに、マルガ王女は「私にこんなスキルを持たせた奴、絶対狙ってますよクソが」と口汚く誰かを罵りながら廊下に出て行った。俺も付いて行ってるのだが。

 

「何ですか、《昇華》と《安定化》って。そりゃ確かに、こうして武器に使えば有用ですよ? ですけど、絶対この組み合わせアレですよ。安定化で確実に子種を孕んで、昇華で優秀な次代を産む為の母体にする為の、政治の道具にされるに決まってるんだっつーの。ファック」

「軽く政治の闇ですね。後口調やさぐれてますよ、マルガ王女」

 

 槍を包んでいた布を口で解き、中身を確認しながら意見を進言する。この廊下、案外響くから注意しないとマズイと思うんですよね。仮にも王女様がしちゃダメな指の形と形相は、見なかったことにしておく。

 

「おっと、そうでしたね。気をつけなければなりません」

 

 そう言って口調を整えてる王女様の後ろを歩きながら、マルッと様子の変わった元槍擬きを見る。刃は錆が完全に消失し鋼の美しさを取り戻し、嵌め込み棍棒で叩いて整形しただけの接合部は完璧に1つのパーツとなっていた。元は唯のモップの柄だった部分は、よく分からない紋様とグリップが追加されている。石突も生成されてるし、何だか様になってるじゃん。

 

「さて、収納っと」

 

 このまま皆の前に行くのは印象が良くなさそうなので、布と槍をチートに収納する。あ、これ容量ほぼ一杯だわ。

 

「排出」

 

 遺体は消えたが血に塗れたままの廊下に、邪魔なデスクとオークの心臓及びその周辺を捨てる。この感じだと大体あれだな、俺のチートで収納出来る広さは1辺2mの立方体程度らしい。

 

「それがあなたのスキルですか?」

「ええ、まあ。小さいけれど別の空間にものを収納する、パッとしないスキルですね。暗殺とかには有用でしょうけど」

 

 こんな考えが1番最初に出てくる辺り、結構な具合で俺の頭は異世界に毒されたらしい。それもそうですねとマルガ王女も同意してる辺り、この異世界が真っ黒と言うことが推し量れる。

 

「それでは、私はここまで。1人で級友と会ってくるといいでしょう。ほぼ全員、未だここに残っていますし」

「お気づかい、感謝します」

「念の為言っておきますけど、さっきの話は他の人にはナイショですからね!」

「分かってます、マルガ王女」

 

 一礼してから階段を登り、防火扉のドアを開けて2階に俺は戻ってきた。ざっと見渡して見ても、俺が血を撒き散らしたりゲロった痕跡は既に無くなっていた。騎士っぽい人達ぐう有能。

 そんな事を考えながら歩いていき、今までと何ら変わらない風に教室へと入った。凄く視線が集まるけど、10人弱しかいないしどうでもいいだろう。

 

「痛たた……暫く駄目だなこりゃ」

 

 マルガ王女といた時までは平静を装っていたけれど、普通に全身の痛みがぶり返してきた。普通絶対安静の中動き回ってるんだから、しょうがないと言えばそうとしか言えない。自分の席から見える風景が嫌に懐かしい、思えば遠くまで来たものだ。遠くってどこだろう?(哲学)

 

 自己否定ーー混乱を否定しました

 

「お、おい」

 

 チートスキルにツッコミを入れられげんなりしていた俺に、そんな声がかけられた。声のした方向を向けば、視界に映ったのは例のぽっちゃり体型の男子。確か名前は──

 

「鈴木だっけ?」

「鈴森だ! と言うかお前、大丈夫だったのかよ? 2日も寝てたんだぞ?」

 

 2日も寝てたのか、驚きだ。それはそれとして、大丈夫かとはこれまた異な事を言う。

 

「これを見て無事って思うんなら俺は無事なんだろうね」

 

 そう言って俺は、ペタリと潰れた袖口を見せる。自嘲気味に笑って見せた俺を見て、鈴森が一歩下がったのが見えた。

 

「お前、その腕……」

「皆がぐーすか寝てる間に、色々あって単独行動して無くなったよ」

 

 最後まで誰かが起きて助けてくれたり、チートが一掃してくれる事はなかった。その事の八つ当たり気味に吐き捨てた俺に対して、前の方の席に座っていた男子が乱暴に立ち上がった。

 憤怒の形相を浮かべこちらに向かって歩き、そのまま鈴森を突き飛ばし座っている俺の胸倉を掴んで立ち上がらされた。鈴森の怒声から察するに、荒木と言うらしい。

 

「なんで、テメェは後輩を助けなかった」

「余裕がなかったから。というか、1人にそんな期待するなよ」

 

 キレている荒木を冷めた目で見返しながら、俺はそう言い返す。1人で出来る事なんて、限界があるに決まってる。

 

「なら誰でも良いから起こせばよかっただろ! そうすればあいつは!」

「防火扉を無理やり開けた時、クソ煩いサイレンが鳴ったのに誰も起きなかった。そんな状況で、誰かを起こしに行く意味なんてない」

「だったらテメェが、上の階の扉も閉めれば良かったんだよ!」

 

 そう怒鳴られ、俺は投げ飛ばされた。右肩からだから良かったけど、左だったら流石の俺もキレてただろう。というか、今ので全身の痛みが悪化したんですが。

 ふらつきながら立ち上がり、再び冷めきった目で見返しながら俺は言い返す。少し前までより痛くないと感じるのは、強化されたからか狂ったからか。

 

「じゃあ聞くけど、左腕をへし折られて、ガラスで色んな所が切れてる上にガラスが刺さって、内臓も破裂してたと思う状況で、お前は何が出来ると?」

 

「人型の生き物を殺したのに、狂わない自信は? 折れた腕を無理やり添え木で補強して、剣なんて物騒なものを奪って命を殺す事をして、狂わない自信は?」

 

「バラバラにされた人の死体とか、それが食われてるところとか、化物に回されてる先生方を見て、腕をグチャグチャに握り潰されて、なんともならないって言えるの?」

 

 自分が見て来た事を冷静に述べながら、一歩一歩足を進めて行く。改めて考えると、チートが働いてくれなかったら、確実に狂ってた事間違いなしだ。

 

「もしそれが全部出来るって言うなら、俺の怠慢だったって認めるよ。そっちの事情は知らないけどさ、現場を何も知らない奴が語るなよ」

 

 自己否定ーー怒りを否定しました

 

 壁際まで荒木を追い詰め、その目を覗き込んで俺は言い放つ。チートによって感情は既に冷めているけど、言葉は言い切れたから問題ない。

 

「チッ」

 

 そのまま目を覗き込んでいたけれど、舌打ちと共に逃げられてしまった。言いたい事があるなら、しっかり言い返せば良いのに。教室から出て行っても、何の解決にもならないっての。

 

「はぁ……」

 

 溜め息を吐いて席に着くと、周りが怯えたような目で見つめてくる中再び鈴森が話しかけて来た。椅子の向きを変え、どっかりと座ってる辺り話をがっつり聞く体制に見える。

 

「さっきの話、全部本当なのか? 欠月」

「本当だよ。まあ、すぐに死にかけて助けてもらったけど」

 

 そう返事しつつ、俺は自分のバッグの中を漁る。多分ここら辺に隠してた食料が……お、あったあった。かなり腹が減ってるし、たとえ気休めでも補充しておきたい。

 10秒チャージの宣伝広告通りにエネルギーをチャージしていると、俺を真っ直ぐに見て鈴森が問いかけて来た。

 

「お前、自分で言っててそれ、なんとも思わないのか?」

「なんともって?」

「██とか思わないのか?」

「え?」

 

 鈴森が今言った言葉が、一部だけ何故か()()()()()()()。聞き取れないとか、言葉としての意味が分からないとかじゃない。聞き取れているのに、認識が出来ないのだ。訳がわからない。

 

「ごめん。もう1回言ってくれ」

「だから、██とか思わないのかって」

 

 もう1度言ってもらったが、何も変わることはなかった。何故自分は、認識出来ないのか。確実にチートが原因だと思うのだが、どうしようもなくこの現象が──なん、なんだろうか?

 

 informationーー██は既に消去されています

 自己否定ーー狂気を否定しました

 

 まあ、どうでもいいか。そんなものの優先順位は、はっきり言って下の下に過ぎない。目の前の飯の方が、軽く順位は上回っている。

 

「いやまあ、別に。特に何も?」

「お前、狂ってるよ」

「知ってる」

 

 言われなくても、そんな事はとっくに自覚している。極限状態だったとはいえ、何も感じず生き物を惨殺出来る日本人が正気でたまるか。食べ終わった容器をゴミ箱に向けて放る。

 

「……何も言わないのか?」

「改めて、そんなになるまで働いてたお前に、俺が何かを言う資格はあるのかって思ってな。慰めるにしろ怒るにしろ、さっきお前が言ってた通りだしな……」

 

 そんなことを言う鈴森に、俺は目を丸くした。

 

「鈴森って、案外真面目に考えてるんだな」

「おま、俺のことなんだと思ってたんだよ!」

「俺みたいなボッチに構ってくれる、おせっかいなぽっちゃり」

「酷くね!?」

 

 少し前の様に笑う事は出来なかったが、それでも少しだけ日常に戻ってこれた気がした。

 

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