あの空に帰るまで   作:銀鈴

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06 王都

 ゴトゴトと、荒れた道を馬車が走って行く。

 同級生の誰もが客車の中にいる中、俺は1人だけ屋根の上にいた。バサバサとはためくマントの煩わしさを我慢してまで、こんなところに居る理由は単純。先に帰ってしまったマルガ王女の言を信じるなら、俺の様な完全でない人間はこれから行く王国では病的なまでに嫌われている。ならば、そんなモノを勇者とは認めず謀殺される可能性が高いと考えるのは必然だ。

 

「ま、誰かを巻き込むのも癪だし」

 

 幾らほぼ対立した関係になってしまったとはいえ、クラスメイトはクラスメイト。車内に毒を投げ込まれるとかの方法を取られた場合、俺以外も必要経費と割り切られたら。そう思うと多少申し訳なくなり、自分にもまだマトモな感性が残ってたのかと驚いたりもした。

 

「事実、何回かあったし」

 

 誰もが寝静まった頃に、数台の馬車で移動してるというのに、俺たちの所だけを狙った明らかに装備の良い盗賊が襲来する事2回。白昼堂々、不自然な量の化け物……魔物というらしい……が襲来する事3回。嫌な予感がしたスープを鳥に上げてみたら、泡を吹いてひっくり返った。

 襲撃は槍と《亜空間収納》でオークに行った抉り取る攻撃で全員を屠り、魔物の群れはクラスメイトが殲滅したが、最低でもこれだけ俺は殺されかけている。お陰で学校を出てから気を休められる時間はなく、最近の眠りはとても浅い。

 

「ふわぁ……眠」

 

 今日で最後らしいが、そうしてくれないと流石に限界である。先生方の遺品や、学校の備品の残りを回収したりしていたせいで学校ですらあまり眠れてないのだ。身体が休息を求めている。

 けれど、まだ遠くではあるが人工物が見えてきたのでそろそろだろう事は分かる。漸く、この疲れる旅路も終わりだ。

 

「勇者様! そろそろ車内にお戻りください!」

「了解です、ハリスさん」

 

 ここ数日で多少仲の良くなった御者さんから声がかけられた。流石にこの距離になると、屋根の上に人がいるというのは体裁が悪いのだろう。そういう事にしておく。

 

 足で走行中の客車のドアを開け、右手で屋根のへりを掴んで客車内に無理やり帰還する。途端に、あの教室の出来事があった所為か、鈴森以外の数名の雰囲気が固くなった。こうなるから嫌だったのに。

 

「王都まで、もうすぐらしいよ」

「そうか、やったなみんな!」

 

 鈴森がそう呼びかけてくれるが、反応は薄い。

 まあ、日本の常識に照らし合わせたら俺はもう殺人鬼だし、仕方ないだろう。不意打ちで襲ってきた魔物を斬り殺した所為で、血塗れの姿も見せちゃった訳だし。夜中のうちに川で血は落としたけど。

 

「というか欠月、お前クマが凄いけど大丈夫か?」

「駄目」

「じゃあ寝とけよ」

「……そうする」

 

 どうせ浅い眠りだけど、しないよりはマシではある。何かされたら起きるだろうし、毒物を投げ込まれる可能性も低いだろう。ちょっとくらいなら気を緩めてもいい、気がする。

 

 

 馬車の減速する感覚に目が覚めた。一応、五体不満足ではあるけど生きているらしい。眠った事により多少軽くなった体も、体調にも異常なし。唯一の問題は後を引く眠気だが──

 

 自己否定ーー眠気を否定しました

 

 チートがそれを掻き消してくれたお陰で問題はなくなった。目ヤニを取り、一度頭を振って完璧に目を覚ます。

 

「眠れたか?」

「全く」

 

 心配してくれた鈴森に対して、全くそんな事はなかったと答える。眠っても、夢を見る事さえないのだ。悪夢に魘される事がないのは幸いか。

 

 極めて気まずい空気を避けるために窓から外を見ると、そこにはアニメの様な光景が広がっていた。綺麗に舗装された石畳に、中世とかいう判断はつかないけれど如何にもファンタジーな街並み。一見清潔で整えられている印象を受けるが、目に入った裏路地にボロボロの子供の姿が見えたから排除されているだけだろう。

 何処となく町人に活気がないのは戦時中だからだろうか? まあ何にしろ、ロクでもない事だけは確かの様だ。

 

「すげー街だよな! めっちゃファンタジーじゃん!」

「そうでもないんじゃないかなぁ……」

 

 今はまだ裏切られない信用があるから、気を許せているけれどこれからはそうはいかない。約束通り情報は漏らす気はないけれど、不信感を覚えてもらう位は大丈夫だろう。

 

 そんな感じで流れる風景を眺める事数分、如何にもな城門を抜けて馬車が止まった。執事風の人が扉を開けて、1人1人丁寧に馬車から降ろしていく。けれど当然最後の俺が降りる番となった時、既にその執事らしき人はいなくなっていた。

 

「ま、そうだろうね」

 

 1人で客車から降り扉を閉め、少し離れてしまった皆に追いつける様早足で歩いていく。どうせ敵地だ、気を散らされる相手が減ったと思えばいいだろう。

 執事の人からの厳しい視線によって、今降りていったクラスメイトの集団から数歩遅れて歩く事を余儀なくされ、ゆっくりと城内を進んでいく。何やら前で解説してるらしいが、こちらには聞こえない辺り徹底してると思う。

 

「にしても、本当に肖像画なんてあるんだ」

 

 一応こんな状態でも俺は男子だ。飾ってある騎士甲冑や、実態はどうあれ王族の肖像画。極めて豪華なシャンデリア等々、気になるものは結構あるのだ。

 様々な物に感心しながら歩き歩いて辿り着いた、衛兵が2人駐在している大きな扉。皆が入った後俺もそこに入ろうとすると、衛兵が槍をクロスして俺を阻んだ。

 

「……成る程」

 

 事態を察した俺の前で、ゴゴゴゴという音を立てて扉が閉まっていった。

 

「「貴様の様な欠陥品は、勇者には不要である!」」

 

 訓練された兵士にとって、俺みたいなクソガキを殺すのは温かいバターを切る様なもの。加えて2対1で、こちらは隻腕。向こうも長物だし、何がどうあっても勝ち目がない。

 幾ら槍を向けられてるとはいえ、ここは日本ではない。武器を取り出した瞬間、不敬罪で打ち首だろう。かと言って、背を向けたらバラバラ死体の出来上がり。詰んでますね。

 

「すみませんね、衛兵さん方」

 

 こんな死に方かと諦めていた時、そんな声がかけられた。振り返ると、そこにいたのは俺が姫様の代わりに現状を伝えたあの人だった。

 

「ちっ、冒険者上がりが。何の用だ!」

「そこの坊主、もううちの姫さんのモノなんだわ。意味分かるか?」

「ちっ」

 

 睨み合うこと数秒、俺に向けられていた槍は降ろされた。けれど扉が開けられる事はなさそうだ。まあ、少しは見れたし文句はない。

 

「こっちだ。付いて来い」

「はい」

 

 衛兵'sから汚物を見る様な目で見られながら、この場を後にする。そして衛兵'sの姿が見えなくなったあたりで、騎士っぽい人が声をかけてきた。

 

「すまんな。助けに入るのが遅れた」

「いえ、不用心に行動した俺も悪かったと思います」

 

 あの場で何が出来たかは知らないけれど、ほいほい付いて行った俺が間違いだった事くらいは自覚している。1回くらい、好奇心を否定してくれても良かったのになんて思ってしまうくらいには。

 

「随分と自己評価が低いんだな」

「自分の事なんて大嫌いですし、命を救われてますから」

 

 あのまま見殺しに出来るのを、態々助けてくれたのだ。マルガ姫に対して迷惑をかけた時点でもう自己評価なんて0だ。心構えを出来てる様で出来ていない。つくづく自分が嫌になる。

 そう自分で自分をバカにしていると、ぐしゃりと乱暴に頭を撫でられた。

 

「ちょっ」

「謙虚は美徳だが、あんま自分を卑下するんじゃねえ。そんな事じゃ、いつか自分を見失うぞ」

「そういうもの、なんですかね」

 

 あんまりそういう実感がない辺り、もう手遅れな気しかしない。そもそも自分なんて、とっくに見失ってる気がする。チートの所為で、既に感情を何か1つ無くしているのは確かなのだ。その時点で人間性は狂ってるだろう。

 

「そういえば、貴方の名前はなんと言うんですか?」

「ヘルクトだ。元冒険者だが、一応姫さんの近衛をやっている」

 

 何処と無く自嘲気味の言葉に、若干の違和感を覚える。ああ、そういえばさっきの衛兵もなんか馬鹿にしてたっけ。

 

「冒険者って、そんなに微妙な立場なんですか?」

「妙なところで察しがいいな。冒険者なんて、貴族の認識じゃ山賊となんら変わらない。大半はマトモだが、一部の素行が悪くてな」

「ピンキリって事ですか」

「そうだな。1発大当たりをしたり、俺の様に召し抱えられたりする可能性があるから色んな奴らがやりたがる。ギルドは基本、差別なく受け入れはするからな」

 

 なるほど。そこはかとなく異世界の闇を感じる説明だった。やっぱりこの世界はロクでもない場所だ。

 そんなこんな話を続ける間に、俺たちは王城を出て行ってしまった。

 

「あの、出て行っていいんですか?」

「うちの姫さんは、基本城にはいないからな。それともあそこに留まって殺されたかったか?」

「それなら納得です。それに、こんなところで死ぬのは御免ですよ」

 

 折角ここまで生き残ったのに、そんな命をドブに投げ捨てる真似をする訳がないじゃないか。片腕が無い事の何が問題なんだって話だ。個人的には不便だが。

 

「その意気だ。そうじゃねえと、俺が直々に鍛えてやる意味がないからな」

「えっ」

 

 なんだか今、凄く不穏な言葉が聞こえた気がするんですが。この背は180cm代、髪は茶、筋肉モリモリのマッチョマンに鍛えられるのか。あのあの、俺、はっきり言って付いていける気がしないです。

 

「大丈夫だ、男ならなんとかなる!」

「駄目みたいですね」

 

 (察し)と付きそうなテンションでため息を吐いた俺の前で、ピタリとヘルクトさんが立ち止まった。何事かと思い前方を注視すれば、そこにはとても豪勢な屋敷だった。

 

「ここが、普段姫さんがいる別邸だ。ここにいるやつらは全員、姫さんと何らかの関係があって裏切る心配のねえ奴らだ。その目の下を見る限り、ここ最近寝てねえだろ? 客間に案内するから、姫さんが帰ってくるまでそこで休むといい」

「ありがとうございます」

 

 眠気はチートが消してくれるけど、身体の疲労自体は回復しない。この提案は、渡りに船の様なものだ。信用するしかない相手からの申し出だし、受けない事は出来ない。

 まあここはマルガ姫の城の様だし、ここで休んでおいた方が良いだろう。寝れるとは、限らないけど。

 

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