あの空に帰るまで   作:銀鈴

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69 クーデター : 王都決戦④

 王城に攻め入ってから数分。俺たちは2つのどうしようもない現実を突きつけられていた。

 1つは、『国』を相手にするということの意味。師匠達の対応に人員を割いているはずなのに、どれだけ斬っても穿っても現れる衛兵。しかも相手の練度は高く、少し前までの自分では普通に圧殺されていたことが手に取るようにわかる。

 

『後方、風の魔術、心臓狙いの狙撃だ。効かぬがな』

「了解」

 

 自己否定ーー動揺を否定しました

 

 エウリさんの防御を抜いて放たれた狙撃を、驟雨改を当てて相殺する。そのままディラルヴォーラにお願いして、狙撃してきた魔術師を咆哮で爆散させる。

 

『序でに2匹殺しておいたぞ。褒めるがいい』

 

 心の中で感謝しつつ、視界の端に映った金色の粒子を見て全力で後退する。先程から何度か繰り返されている光景で、近くにいたら死ぬということが嫌という程思い知らされているからだ。

 

 自己否定ーー雑念を否定しました

 

「死になさい」

 

 そう言って姫さまが、防御を固めた集団の中に薬品の入った試験官のようなものを投げ付けた。それの中身は金色の粒子に触れた瞬間ボゴリと泡立ち、急速に膨張して容器ごと爆発を引き起こした。

 

「ぐわぁ!」

「くっ、この程度で!」

 

 鎧を着ていることもあり、数名の騎士はそれに怪我は負いつつも容易に爆破に耐えきった。そしてツンと鼻に付く臭いのする煙を残し、姫さまを殺さんと突撃する。けれど、それこそ姫さまの目的であった。

 

「《昇華》」

 

 自己否定ーー不快感を否定しました

 

 残っていた光の粒子が兵士たちに触れ、瞬間、鮮血が舞った。

 

 兵士の頬にあった小さな切り傷が、深く大きな切り傷に。

 別の兵士にあった火傷が、黒く焦げて炭に。

 咳き込んでいた兵士は、喉を抑えて倒れ伏した。

 

 『傷の状況』を2段階深刻化させるという、殺意の塊のようなチートの応用を姫さまは行っていた。小さな傷を重症に、重症は死に、軽い病気は致死の病に、負の方向への昇華は、正直言って絶対に相手にしたくない能力だった。どう考えても、よく自傷する上傷だらけの俺にとって天敵である。

 

「さて、ここなら射程範囲ね」

 

 兵士を蹴散らした姫さまは、遠くに見える尖塔のような建造物を目掛けてチートで強化した魔術を放った。それにより建造物を靄が包み、更にどこからか現れた岩がその出入り口を完全に塞ぎ切った。

 

 自己否定ーー驚嘆を否定しました

 

「これで一先ず、増援は潰せた筈よ。兵舎に武器庫、どちらも使用不能にしたんだもの」

 

 これが思い知ったもう1つ。例え『自身の単騎駆け』であろうと、城を落とすことが不可能ではないと言っていた姫さまの実力だった。正直俺たちは何もする必要がない程の、圧倒的無双具合であった。

 

 自己否定ーー劣等感を否定しました

 

 時間が惜しいと先を走る姫さまとフロックスさんを追いつつ、念のため背後を警戒しながら城を走る。いつのまにか、フロックスさんと姫さま、俺とエウリさんといったように自然に形が作られていた。多分これが今の最善なのだと思っていると、贅沢に魔術を使って姫さまがこちらに言葉をかけてきた。

 

『今のでもう雑魚は増えなくなったわ。でも、少し厳しい相手が2人健在の筈よ。騎士団長と宮廷魔術師長、クーデター直前までマーキングの反応があったから、確実にこの城にいる筈よ』

 

 流石にその位の相手になると、そう簡単に無力化出来るわけではないらしい。面倒なことだ。もういっそのこと殺してしまえば楽なのに。

 

『だから、見つけ次第殺しなさい。多分モロハの技量じゃ騎士団長は厳しいけど、魔術師長ならいけるわ。心臓を抉って首を刎ねて、思いっきりブチ殺しなさい』

「えぇ……」

『最悪、クソ親父のチートを奪って私が蘇生するわ。だから。エウリも良いわね?』

「はい」

 

 自己否定ーー困惑を否定しました

 

 そのあまりの命の軽さと思い切りの良さに若干困惑しつつも、チートによる否定に任せてそのまま階段を駆け上がる。そうして走り続け辿り着いたのは、いつか訪れた覚えのある広間。

 豪奢なシャンデリア、王の肖像画、剣を構える騎士甲冑。何も変わらず権威を誇示するその空間には、1つだけ前来た時にはなかった変化があった。

 

「……」

 

 目を瞑り、無言で佇む180は超えていそうな巨躯。短い黒髪を邪魔にならないよう適当に流し、白銀の甲冑と純白のマントを羽織った男性。剣先を床に付け、その男性……いや、青年はなにかを待つようにじっとその動きを止めていた。

 そして、その足元には、達磨にされた上で首を刎ねられ、胴を4つに分かたれた高齢の男性だったものが散らばっている。恐らくアレが騎士団長で、足元に転がっているのが魔術師長。しかもよく血の匂いを嗅げば、この部屋の至る所から人間の血の匂いが漂って来ていた。

 

 自己否定ーー吸血欲を否定しました

 自己否定ーー吸血欲を否定しました

 自己否定ーー吸血欲を否定しました

 

「うっ……」

「だいじょうぶですか?」

「ええ、なんとか」

 

 強烈な欲求に足元がふらつき、エウリさんに支えられてしまった。何をやっているんだ俺は。もしかしたら、この瞬間にも殺されていたかもしれないというのに。

 

 自己否定ーー自己嫌悪を否定しました

 

 落ち着けられた精神に舌打ちしつつ、攻めるも通り抜けるもいかなそうな騎士団長と対面する。目を瞑っているのに、こちらを見ていないのに、まるで師匠たちのようなプレッシャーを感じる。

 

「これは、貴方がやったということで良いのかしら? 騎士団長殿?」

「……そうだ。王やあの阿婆擦れと比べて、貴女の思想は実現すれば、母たちにとって優しいものになる筈だからな」

 

 そう言って目を開いた大男の眼の色は、黒。そして掘りの少ないタイプの顔。そこまで条件が整っていると、俺にはもう日本人にしか見えなかった。

 その男性の言葉に、姫さまが苦虫を噛み潰したような顔をして答える。

 

「私がこんな計画を実行できたのは、貴方の母の、お陰だわ。いえ、貴方の母のお陰で、目が覚めたと言うべきかしら」

「そうであれば、母もきっと無駄死にでは無かった。ただ無為に殺された訳じゃなかった。故に俺も、本当であれば、恩人である貴女の計画に力を貸したかった」

 

 そこまで言って、騎士団長は目を伏した。そして一拍おいてから、床に刺していた剣を抜き放つ。そして殺意が、何というか空っぽの殺意が込められた眼をこちらに向けて言い放った。

 

「だが俺が出来るのは、ここまでだった。今までは見逃され、自由に行動できていたが……叛逆の意思を示した俺は、最早王の【絶対王権】の奴隷でしかない。魔術師達を斬り殺したまでが、俺が俺でいられた限界だった。故に俺を殺せ、姫、そして姫の理想を実現させんとするもの達よ。

 王国騎士団団長、アルフレッド・イートゥ。参る!」

『英雄!』

 

 ディラルヴォーラらしくもないその忠告に、驟雨改を収納しつつストーリアを抜き即座に機能を作動させる。そして起動音である鈴の音が鳴り止む前に、目の前に騎士団長の姿があった。

 

 速い。狙いは確実にエウリさん。止められない。間に合いはする。やれ!

 

 informationーー10%のエネルギーを充填

 

「ゼァッ!!」

 

 身を伏せ、体重を乗せ、収納と黒炎で強化したストーリア。その峰側にある()()()()()ソードブレイカーのような部分を、跳ね上げるように振るわれる騎士剣にぶち当てた。

 

「かはっ」

 

 衝撃、それを感じた時には俺は壁に叩きつけられていた。マズイと思いつつも空気が全て吐き出されたせいで、数瞬動くのが遅れる。このままじゃ……そう思ったが、心配は杞憂に終わった。

 

「テメェ、やるじゃねえか」

 

 俺の捨て身で稼いだ数瞬の間に、フロックスさんが割り込み交差させた二刀で攻撃を受け止めていた。お互いに手が震えるほど力が込められているようで、互いに一筋の汗が流れている。

 

「お褒めにあずかり光栄だ、お嬢さん」

「はっ、ガキが一丁前に!」

 

 その言葉を皮切りに、始まった剣の円舞曲(ワルツ)。動き自体は見えるが、俺が介入できるようなレベルからはかけ離れた次元の戦闘がそこでは行われていた。

 

「こほっ……ぺっ」

 

 血の塊を吐き出しつつ、無理矢理癒された身体を立ち上がらせる。ストーリアのお陰で傷は全快しているのだ、やれることをやらなければならない。

 

 自己否定ーー雑念を否定しました

 

 改めて強化の魔術を全開にしながら隙を待っていると、いつのまにか近くに姫さま達がやってきていた。超接近戦で接戦であるため、下手な攻撃が出来ないようだ。状況がどちらかに傾かなければ何も出来ない。

 

「フロックスさんの回復、頼みます」

「はい!」

 

 フロックスさんの体力と魔力の消耗を癒すことをエウリさんに任せ、そんな現状に歯噛みしつつ俺は姫さまに質問を投げた。

 

「あの騎士団長、一体何者なんです?」

 

 幾ら体格差があろうと、幾ら魔術があろうと、たかが人間が同じ人型を壁まで吹き飛ばしヒビを入れるなんて出来ないはずだ。そんなことができるとしたら、魔族かそれこそ……

 

「アルフレッド・イートゥ。本当の名前は伊藤 在、私が保護しきれなかった勇者二世の1人でこの国の騎士団長。持っているチートは、【急速成長】言ってしまえば何か努力すればするだけ強くなる力よ」

「マジすか。それで、さっきの決意云々は何です?」

「それ、は……」

 

 幻術の魔術を練りながら質問した言葉に、姫さまが言葉を詰まらせた。デリケートな部分だったのだろうか? それならこちらが迂闊だった、別にいいと言う前に、姫さまは語った。

 

「いえ、言っておくべきね。私がこんな計画を立てた、最初の理由よ。もう2度と見たくない地獄を、アルフレッドと私は味わっているわ。でも説明するには時間はないし……私の血でも飲んで、勝手に見なさい」

 

 そう言って指先を噛みちぎった姫さまは、多分魔法の応用なのだろう。血液を俺の口めがけて撃ち込んできた。自然に飲み込んだそれが、情報を、爆発させた。

 

 

 それは、ある晴れた日のことだった。私はまだ5歳くらいで、何も分からず王族として過ごしていたわ。まあ、頭は良かったけれど。

 

 それでいつも通り、使用人に読み物を持ってきて貰うのを待っていた時よ。部屋の外から、悲鳴と何か水っぽいものが撒き散らされるような音がしたの。それで何も考えずに扉を開けると、そこではクソ親父と、メイドと、小さな男の子がいたの。正確には、クソ親父の頭にはバケツが乗っていて、全身ずぶ濡れのダッサイ光景だったわね。

 

 確かクソ親父にタオルを渡そうとしたんだったかしら? 一旦部屋に戻ってふわふわした生地を持って部屋を出たら、その光景は様変わりしていたわ。首が180°捻じ曲げられて、腕や脚もメチャクチャに折れ曲がって捻じ曲がっているのに、平然と生きているメイドと、血を吐いて倒れて痙攣する男の子……まあまアルフレッドね。

 後で聞いたら、母親を庇ってそうなったらしいわ。私がアルフレッドを魔術で癒していると、いつのまにかクソ親父は消えてたのよね。

 

 その日は一先ず私の部屋に使用人と一緒にアルフレッドを引き込んで、治療しながら一夜を明かしたわ。でも次の日、私の部屋にクソ親父が押し掛けてきてね。

 

「貴様の母は大罪を犯した。その咎は貴様にも及ぶ。だが、あくまで子供の貴様にはチャンスをやる。我が騎士団で力を振るえ。見事団長にまで昇格したならば、貴様の母の罪も不問に処そう。国民にはその権利がある」

 

 そう言って、右も左もわからない子供を連れていって騎士団の中に放り込んだのよ。今となれば分かるけど、きっとあのチートの力を知っていたんでしょうね。そうして寝ても覚めても訓練訓練、母親がいなくなったから、あの子も一生懸命取り組んでいたわ。ええ、ここまでなら理不尽では在るけど美談ね。

 

 けど、ここからが問題なのよ。勇者は使い捨てとして扱われているけど、騎士は外敵を殺して国を守る仕事。いつか、人を殺す必要が出てくるわ。だから騎士としての訓練の最後に、武器を持たせ顔を見えないようにした、クソ親父がチートで処理した犯罪者を殺す訓練があるわけ。

 

 ここまでくれば分かるわよね。必死に戦って、ボロボロになって、心を押し殺して、気持ち悪さに耐えて、ゲロ吐いて、涙を流して、漸く殺した相手の面が、目の前で剥がされるのよ。まあ、順当に母親ね。そしてまた順当に心が壊れるわ。

 物凄い叫び声をあげて、クソ親父になんでだと怒りをぶつけて、懇願して……でもってそんなあいつに、冷め切った目でクソ親父は言い放ったのよ。

 

「国民には権利があると言った。だが、勇者は国民ではないだろう。攫ってきたただの奴隷だ。祝福しよう、汝はこれから我が国を守る刃となるのだ」

 

 ってね。当時覚えたてのチートと魔術でこっそり見ていた私は愕然としたわ。自分の国は、親は、こんな酷い奴だったのかって。そんなことを言われて、どうしようもなく狂って、クソ親父に斬りかかったあいつは背後からバッサリ斬られて斃れるの。そして反抗の意思を折られて、クソ親父のチートで頭を弄られてるこの子を見て、第一王女から受けていた嫌がらせも相まってね。子供ながらにもうなにもかもぶっ壊して、私が天辺に立って良くしようって思ったのよ。

 そこから書庫に篭って調べてみれば、出るわ出るわ隠蔽されて書き換えられたクズの所業。当時の私はまだぼんやりと、子供らしく「私が王様になる」しか考えてなかったけど、原点はそこよ。

 

 

「っは! はぁ……はぁ……何秒経ちましたか?」

 

 意識が現代に戻ってきた。周りを急いで見渡すが、記憶が飛ぶ直前となんら変化はない。ということは、まだ時間は殆ど経っていないはずだ。

 

「3秒くらいね。で、記憶は見れたのかしら?」

「ええ、バッチリ見ました」

 

 意図して吸収させられた血からの記憶だったからか、語りかけるような口調だったが異常はそれだけだ。

 

 自己否定ーー怒りを否定しました

 自己否定ーー憎しみを否定しました

 自己否定ーー他我の侵食を否定しました

 

 そしていつものチートが発動し、精神が平坦に慣らされる。その感覚に舌打ちしながら、ストーリアを握る手に力を込めた。

 

「それで?」

「殺しますよ」

 

 王も、王女も、アルフレッドも。

 

「上出来よ」

「そうですか」

 

 拳を突き合わせ、大体の意味が問題なく通じたことを確認する。それはそれとして、フロックスさんや師匠と同等の相手をどう攻略するかは相変わらず問題だ。だが、全員の力を合わせれば或いは……

 

「次の魔術、昇華お願いします」

「成る程、一矢は報いさせてあげるわ。タイミングはそっちの好きなようにして良いわよ、合わせてあげる」

「感謝します」

 

 互いに笑みを浮かべ、俺は出来る限り気配を殺して疾走を開始した。

 




登場チートまとめ

《夜奏昼唄》
 殺傷性 : -- 防御性 : -- 維持性 : EX(プラス)
 操作性 : E 干渉性 : EX(プラス)
 範囲 : A

 自身が心を込めて唄を奏で続ける限り、時間を満月の夜へと変更する。月の光を浴びたものは、魔力の回復が早くなる。また、一部の魔族の力が活性化される。

《急速成長》
 殺傷性 : -- 防御性 : -- 維持性 : EX(プラス)
 操作性 : -- 干渉性 : EX(プラス)
 範囲 : --

 急速に成長する。学べば学ぶだけ知識を溜め込み、訓練すればするだけ成果を生み出し、何もかもを常人より遥かに優秀にこなせるようになる。
 ただし、この力を使えば使うほど残りの寿命が削られていく。その為、現在の所持者の寿命は残り5ヶ月である。
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