あの空に帰るまで   作:銀鈴

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前回分のおまけ
《ブルーローズ》
 モロハの中にいる過去に死んだ英雄『アマリリス』が最後の瞬間まで握り続け、その憎悪に塗り潰されることが無かった槍。60cm程の波紋が浮かぶ刀身と、150cm程の柄で構成されている。全体的に植物を感じさせる意匠が多く、最も分かりやすいのは刃の根元にある青い花。
 かつて訪れた異邦の者により『不朽』『帰還』の呪いがかけられている。




74 █ー█taー : 縺輔>終豎コ█④

 王城の一部が吹き飛んだ。

 見知った崩壊と魔力から察するに、エウリさんとディラルヴォーラがぶちかましたようだ。エウリさんの無事と、ディラルヴォーラの生存……生存? が確認できたことで、少し心が軽くなる。

 

「良かった」

 

 王の剣を斬りとばす。王の銃を斬りとばす。

 チートを抜きにした王の実力は、(ボク)以上アマリリス()未満といったところのようで、今の(ボク)が振るう刃は容易に届く。壊れたチートも違う身体も、使い方に慣れてきたから、容易に致命傷を与えられるのだ。

 

「《再生しろ》《硬化しろ》《刃を阻め》《魔を阻め》」

 

 だが、幾ら斬っても再生するし修復するし頑丈になる。そんなチートを相手に、(ボク)は攻めきれないでいた。

 

 燃焼回路ーー自己焼却率45.82%

 

 もう、ロクに時間も残っていないのに。モロハがモロハとしていられる時間は、刻一刻と減っているのに。殺したい/殺さなきゃいけないのに、殺せない。

 

 炎で焼き殺そうとして、吸血で乾涸びさせようとして、槍で切断して、斬って、チートで抉って、潰して。一度首を抉り取ったのに、心臓を潰したのに、それでも再生しやがったのはもう意味が分からなかった。もう頭がどうにかなりそうだ。

 

「ハッ」

 

 だが、それでもと心で叫ぶ。限界まで魔術とチートの強化をされた愛槍を、今度は明確な意思を持って投擲した。それを捨て身と見てから、鼻で笑って王が槍を弾く。けれどその瞬間、槍から大量の炎が爆発するように溢れ出た。

 

「《転移》」

 

 結果、足元の石畳を赤熱化させグズグズにする炎は王に直撃する。そして、(ボク)とその持ち物には影響しないチートの炎が空間を焼き尽くす中、王の背後に転移してガッチリと組みつく。

 

「今まで散々痛めつけてた相手に殺されるのは、どんな気分だ?」

 

 魔術と《肉の鎧》の効果で超強化された筋力で、義足の棘も使用し王の胴体をガッチリ挟み込む。あわよくば切断しようとこちらの身体が壊れるほどの全力を込めつつ、同時に腕も首に巻きつけ窒息を狙う。

 

「ぐ、ぎぁ」

(ブランチ)(へデラ)

 

 倒れないようチートの補正が入った魔術で直立姿勢を保持、腕がそれでも叩きつけられるが、暴走する《肉の鎧》のチートに阻まれロクな打撃にもなりはしない。

 

「ヒュッ」

 

 そんな絶対優位の状態から、王の顔が青くなってきたのを見計らい首を締める腕を緩めた。そうすれば当然、生物の本能として空気を求めて息を吸うことになる。だがそこに待つのは、極限まで熱された空気と炎だ。そんなものを吸い込めば、当然肺まで焼け爛れる。

 

 自己否定ーー傲慢の感情を否定しました

 自己否定ーー傲慢の否定により信仰に機能不全が発生

 自己否定ーー信仰の感情を否定しました

 informationーー根幹感情が10個否定されました

 informationーーボーナスとしてチートの適応範囲が解放されます

 

「疾ッ!!」

 

 喉を掻き毟る王の姿に暗い感情が湧き上がるのを感じつつ、チートを込めた抜き手で王の胸のど真ん中をぶち抜いた。掌の中にドクンドクンと脈打つ暖かい何かを感じつつ、一言唱える。

 

(サングィース)

 

 握った心臓を握りつぶしながら発動した吸血鬼の魔法は、王の体から様々なものを抜き取り吸収しつつ燃焼回路に焚べて行く。消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえと、総てを焼却しながらクソ不味い血を味わわされる。ああこんなことなら、食欲なんてなくなってしまえばいいのに。

 

 自己否定ーー暴食の感情を否定しました

 自己否定ーー暴食の否定により剛毅に機能不全が発生

 自己否定ーー剛毅の感情を否定しました

 informationーー根幹感情が12個否定されました

 informationーーボーナスとして潜在能力が完全解放されます

 

 燃焼回路ーー自己焼却率69.18%

 

「ははっ」

 

 もう、笑うしかない。消えろと望んだら消えてしまった。残り時間もドッと削れた。これでもう残っているのは……あれ、なんだったっけ? あと1つ、何か大切な、大きな感情が残っていた筈なのだが名前が出てこない。

 それはもう、(ボク)がそれしか残っていないということなのだろう。エウリさんとの思い出はまだ消えてないけど、これも無くなってしまうのは……少し、寂しい。嗚呼……でももう、全然覚えてないや。

 

「まあ、いいか。死ねよ《収納》」

 

 チートの発動表示もないのに切り替わった自分の思考に寒気を覚えつつ、9割近く乾涸びた王の首と頭を収納して燃焼回路に焚べる。脚を閉じ、乾いた胴を圧し折って踏み潰す。さっきは斬り飛ばしたり乾涸びさせただけだったが、これなら何か致命打にはなる筈だ。

 

「《ブルーローズ》」

 

 でも、それだけじゃまだ足りない。支払った対価に結果が釣り合っていない。だからこそ先程弾かれ何処かへ行った愛槍の銘を呼び、本来のブルーローズの機能の1つである『帰還』を使い手の内に呼び戻した。

 

「村雨、3連」

 

 そして、身体が壊れることを厭わず奥義を3連続で放った。右腕は案の定複雑に砕け即座に再生され、おかしな表現だが……燃え盛る炎の中、指方向性を持った炎の斬撃が吹き荒れた。

 元の性質通り、放った技は王を3重に斬り刻みながら、チートがその細かくなった断片を燃やして焼却していく。そして──灰すら残さず王の焼却が完了する。

 

「でも、まだ」

 

 どうせ殺しても、生き返る。これで3……いや、何回目だ? 記憶の連続が途切れている。でもまあ、どうせ生き返る。とことん命を軽く扱う、ふざけた能力で、強いチートだ。

 だけど今の俺なら。今の俺であれば、もしかしたら殺せるかもしれない。こんな壊れかけで、リミッターも何もかもが消えた俺なら。

 

「《自己否定》、《絶対王権》を否定しろ!!」

 

 informationーー魔力的接続を確認、自己と認定

 informationーー動作を承認します

 自己否定ーー判定に失敗しました

 自己否定ーー対象は自己蘇生を実行中

 自己否定ーー再試行 : 失敗

 自己否定ーー対象の動作が完了しました

 

「か、は……かひっ」

 

 チートの表示を見ながら鎮火していく炎を見ていると、虚空から溶け出すように王が再出現した。けれどその姿は今までの余裕ある姿とは打って変わって、冷や汗を噴出させ顔を青く染め、極めて消耗した姿となっていた。

 

「きひっ」

 

 その姿を見て、壊れた嗤い声が出た。

 何が効いたのかは分からない。でも届いた。命に。このボク()の手が! アイツに、ベルを殺したアイツらの親玉に届いたんだ!!

 

「違、う……!」

 

 (ボク)はまだモロハだ。死ぬまでそれは貫き通す。断じて(ボク)アマリリス(ボク)じゃない。壊れた力のリミッターのせいで、握りしめた手から愛槍に血が伝っていく。その血を刃の下に咲く花が吸い上げ、青い花が怪しく輝いた。

 

「俺はまだ、違うんだ……!!」

 

 燃焼回路ーー自己焼却率74.55%

 

 終わりの時計が冷たく見守る中、自分を自分であることを確かめつつ突撃する。そう思い記憶の花弁を撒き散らし、踏み込みを入れた直後のことだった。

 

 ──森の色をした風が吹いた

 

「ようモロハ。いや、アマにぃもか? 1人で楽しいことやってんじゃねぇよ、オレも、混ぜろ」

 

 それは傷だらけ、血だらけの…………? 誰だったっけ……いや、そう、フーちゃん。違う、フロックスさんだ。

 

「くっ……《防げ》」

「わたしだって、わすれないでください!」

『我とて忘れられるのは困るぞ!』

 

 王のチートに中和されて何の効果も発さなかったが、エウリさんが使ったなんらかの大魔術を感じた。そして、右耳にだけ聞こえた知らない声。どうせそこかしこから聞こえる亡霊と同類だろう、切り捨てる。

 

「チッ、仕留めきれないか。クソ親父め」

 

 爆発音の中、キンッと小さな金属音が響いた。

 閃く刀を杖に納刀した姫さまが、つい数瞬前までは居なかったはずなのに、突如王の背後に出現していた。表情から察するに、どうやら襲撃は失敗したらしい。

 だがそれでも、普通ならば致命傷になるであろう傷を王は負っていた。パックリと右脇から左肩に向けて走った傷は、白い骨や黄色がかった脂肪、真紅の鮮血に臓器が見えるほど鋭く深い。 

 

「《治れ》、《爆ぜろ》!」

 

 しかしその程度は、ただ一言呟くだけで再生する。追加で放たれた爆発を魔術で打ち消し、姫さまが後退してこちら側に戻ってきた。

 

「でも、良くここまで耐えてくれたわ。ここからはあなた1人じゃない、私たちの殺し合いよ」

「そうですか。じゃあ、巻き込まれないようにお願いします。自分でももう、抑えられないので」

 

 燃焼回路ーー自己焼却率75.21%

 

 記憶と共に2色の花弁が散る。

 何よりも大切だった物を代償にした力で地を駆ける。

 チートの無理な行使で、消えかけの蝋燭の火に燃焼促進剤をブチまけるかの如く、残り時間がすり減って行く。

 

「《鉄壁》」

「《自己否定》」

 

 自己否定ーーチート《絶対王権》を否定しました

 

 何重にも重なった現れた防壁を紙のように突き破り、斬撃に斬撃を重ねて再び殺し合いを再開させる。

 

 駄目なのだ、こんな奴と戦ったら。

 駄目なのだ、こんな相手とマトモに勝負したら。

 姫さまはどうか分からないけど、エウリさんは確実に死んでしまう。今のフー、ロックスさんも押し負けてしまう。それでは、駄目だ。2人が、1人になってしまう。それだけは絶対に駄目だ。

 

「疾ッッ!!」

「ハァァッ!!」

 

 槍が剣を切断する。──剣が再生する。

          ──腕が折れて再生する。

 槍が銃を切断する。──銃が再生する。

          ──脚が砕けて再生する。

 槍が腕を切断する。──腕が再生する。

          ──腕が千切れ再生する。

 槍が脚を切断する。──脚が再生する。

          ──右目が潰れ再生する。

 槍が首を切断する。──首が再生する。

          ──歯が砕けて再生する。

 槍が胴を切断する。──胴が再生する。

          ──爛れた皮膚が再生する。

 槍が魔術を切断する。──被せるように魔術が来る。

           ──花弁が魔術を焼却する。

 槍がチートを切断する。──即座にチートが再起動する。

 

 無為にも思える行為でも、先程までが10だとすれば4程度の動きしか出来ない王を見るに消耗は明らかだ。こっちの残り時間ももう僅かしか残ってないが、それでも殺す。死なないなら死ぬまで殺す。鉄則だ。

 

 燃焼回路ーー自己焼却率80.63%

 

 もし勝てたら、褒めて、貰えるだろうか?

 エウリさんに/ベルに、優しくして貰えるだろうか?

 そうだったら、嬉しいな。




《絶対王権》
 殺傷性 : S 防御性 : S  維持性 : EX
 操作性 : EX 干渉性 : EX
 範囲 : EX

 EXは全て常時プラス判定
 意識して「言葉」にしたことが、ほぼ全て無制限に現実となる。範囲は、通信などを介しても己の声が届く限りどこまでも。一度発動した効果は、己が解除するかなんらかの要因で強制的に解除されない限り永続する。
 ex)
・『盾となれ』と床を見ながら呟けば、勝手に捲れ物理法則なんぞを無視して盾となる。
・『爆発しろ』と何かを見ながら呟けば、その物体は爆発する。

 と言ったように、まさにチートである。対抗するには、何か1つでも同格のチート、或いはこのチート自体を無視できる程の力を持つ者のみである。

 死者の蘇生や死の宣告も可能であるが、其々に制限が付いている。
 【死者蘇生の制限】
 ・死亡後10秒以内であれば、完全に死ぬ直前の姿で復活できる。
 ・10秒経過後30秒以内の場合、激しくスタミナを消耗し且つ魔力・身体能力が一時的に大きく低下する。
 ・30秒経過後の場合、命令には忠実に従うかつての人格を模倣した生きた屍となって蘇る。

 なおどの蘇り方であっても、自身の死んだ際の記憶は持ち越す為精神力を大きく削られる。

 【死の宣告の制限】
 ・相手の気力が弱っていること
 ・相手の意思が死を望んでいること

 比較的条件は緩いが、相手を殺した際の記憶を受け取る為精神力を大きく削られる。
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