暗く、淀んだ場所にいた。
いや、浮かんでいるのだろうか?
自身が上下左右どこを向いているかすら分からない。
自身の周り以外は見渡す限り闇が広がっている。
(ここは…?)
身体を動かすとまるで水の中で動いているようで動きにくい。
自分は海中にでも居るのだろうか?
しかし、不思議と息苦しくはなく、むしろとても心地よい。
(ここがどこかなど、どうでもいいか。)
ただ、この心地よさを感じていたい。
それ以外の事などどうでもいい。
まるで身体が空間に溶けていくような感覚。
(いや、ほんとに溶けているのか。)
足先が揺らめき、徐々に溶けて消えていっている。
痛みはなく、頭の中がフワフワとしてくる。
それがまた心地よく、身を委ねる。
足先から足首へ、足首から膝へ、膝から腰へとどんどん身体が消えていく。
(眠くなってきたな…)
身体が半分ほど消えてくると急に眠気がしてきた。
そのまま眠気に身を委ねようと瞼を閉じた所で瞼に僅かに光を感じる。
何事かと思い、瞼を開けると目の前にスクリーンのようなものがあった。
そこには剣を振るう赤髪の男とその剣を弾く黒い剣が映っていた。
(あれは、だれだったか…?)
私はこの男を知っている。
しかし、もう名前すら分からない。
(まあ、いいか…)
男が誰であったかなどどうでもいい事だ。
そう思い、瞼を閉じようとするが何故か目の前のスクリーンから目が離せない。
映っているのは男が何度も向かって来ては黒い剣に斬りつけられる姿だ。
(なにをしてるんだこいつは…?)
男の技量では黒い剣の持ち主には敵わないのは明らかだ。
それなのに男は諦めていないのか何度も向かってくる。
見る価値などない、そう思っても目を離せない。
(あきらめるところでもみてやるか。)
今は胸元まで身体が消えている。
完全に溶けて消えるまでもう少し掛かりそうだ。
それまでの暇つぶし、そう思い見ることにした。
・
・
・
・
(なぜだ…なぜたちあがれるんだ…?)
何度も危ない場面があった。
もう終わったと何度も思った。
しかし、男は未だ倒れていない。
むしろどんどん動きが良くなってきている。
ただの暇つぶし、どうでもいい、そう思っていたはずなのにいつの間にか私はスクリーンに釘付けだった。
(あっ…)
信じられなかった。
先ほどまで防御すらままならなかった男が完璧に黒い剣を受け止めた。
(いったいどこから…)
男の剣が黒い剣を押し返す。
その勢いのまま男は剣を振るう。
(そんなちからがでる…)
男が剣を振りかぶる。
恐らくこれが最後の一撃。
(なぜそこまでつよくなれる…)
男が剣を振るうと同時に空間がガラスのように割れた。
周りが光に包まれ、首まで消えていた身体が元に戻っていき、誰かに手を引かれる感覚がする。
誰かと思い見ると衛宮隼人だった。
私の手を引き、光が差し込んでくる空間の割れ目へと向かって行く。
手を振り払おうとは思わなかった。
「衛宮隼人・・・お前はどうしてそんなに強い?」
割れ目へと向かいながら私は聞く。
どうして倒れなかったのか、どうして勝てたのか。
衛宮隼人の強さの源はいったい何なのか。
「俺が強い?、そんなことない。」
振り返ることなく衛宮隼人は答える。
「だがお前は勝った。」
「俺はただ守りたかっただけさ。」
「守りたかった?なにをだ?」
「観客席にいた生徒や一緒に戦ってくれた天馬、シャルル、そしてボーデヴィッヒ、お前のこともな。」
私も?
一体なぜ?
「私を守る?なぜお前が私を守る必要がある。放っておけばいいだろう。」
「飲み込まれる直前の苦しそうなお前をみたら放っておけなかった。」
私が苦しそうだった…
「そんなことでか…?」
「重要なことさ。誰かが困っていたり苦しんでいたら助ける。それが俺の目指す正義の味方だからな。」
「正義の味方…」
「まだまだちっぽけだけど、この両手が届く範囲の人は絶対に守りたいんだ。」
まだまだちっぽけか…
こいつの見ている物はどれほど大きいのだろうか。
そうこうしているうちに光の割れ目の前まで来ていた。
そして手を引かれるままに私は割れ目へ飛び込む。
「その中にはお前もいるからな、ボーデヴィッヒ。」
光の割れ目に飛び込んだ瞬間、そんな言葉が聞こえた。
・
・
・
・
「はっ…」
視界に飛び込んできたのは知らない天井だった。
「ここは…」
「やっと目を覚ましたか。」
隣に顔を向けるとそこには椅子に座り、リンゴを剥いている教官がいた。
「教官…ここは…?」
「ここは保健室だ。それと織斑先生と呼べ、馬鹿者。」
そう言いながら切ったリンゴを一つフォークで刺し、こちらに向けてくる。
そのリンゴの切り方はウサギ切りだった。
(細かい…)
「食えるなら食っておけ。」
「あ、ありがとうございます。あっ…」
教官からフォークを受け取ろうとするが、手が震えうまくつかめない。
「食べさせてやる。ほら、口を開けろ。」
「申し訳ありません…」
教官に手間をかけさせてしまうとはなんという失態…
「食べながらでいい、聞いておけ。」
教官にリンゴを食べさせていただいている間に私の身に起こったことを聞いた。
VTシステムが私のISに積まれていたこと。
発動の条件が蓄積ダメージ、精神状態、そして何より使用者の願望であるということ
「私が望んでしまったからですね…」
私が教官のようになりたいと望んでしまったから暴走してしまった。
そのせいで・・・・
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前はいったい何者だ?」
教官は私に問う、何者であるかを。
自分を保てず暴走し、私は黒い何かへと姿を変えた。
それはきっと私が誰でもないからだ。
「私は・・・・・」
誰でもない…
「誰でもないならちょうどいい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
「えっ…?」
「それから、お前は私になれないぞ。」
そう言って教官は部屋を後にする。
「・・・・・プッ、ふふふ、あははは!」
その通りだ。
(私は、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。)
今日がラウラ・ボーデヴィッヒの一歩目だ。
★
「いたたたた…」
湯船につかると少し傷にしみる。
「それにしてもほんと広いな大浴場。」
現在俺はようやっと男子にも開放された大浴場に入っている。
俺が起きた時にはすでに他の奴らは全員入っていたため一人だ。
「お邪魔しまーす。」
「ふぇっ?」
大浴場の扉が開き、シャルルがバスタオルを巻いた状態で入ってくる。
「なっ!?ちょ、シャ、シャルルさん!?」
「あ、あんまり見ないで。隼人のエッチ。」
「えっ、す、すまん!?」
(いやいや、不可抗力っていうか、その・・・・見ちゃうだろ男なら…)
そう思いつつもしっかり両眼を閉じる。
もちろん理性を制して決して開けない。
「ど、どうしたんだ?急に入ってきて。」
「やっぱりお風呂に入ってみようかなって思ったんだけど、僕がいたら迷惑かな?それなら出るけど。」
迷惑な訳ないが理性が持ちそうにない。
「いやいや、俺の方こそ出るよ。もう堪能したから。」
タオルに手を伸ばし、湯船を出る準備をする。
「あっ、待って。大事な話があるんだ。隼人には今すぐ聞いてほしい。」
「わ、わかった。」
背中合わせで湯船につかる。
「今さっき社長さんから連絡があったんだ。」
「父さんから!?ってことはつまり!」
「うん、準備が整ったんだって。」
驚いたまさかこんなに早く準備が整うとは…
「じゃあ、もうシャルルが男のふりをする必要はなくなって、自由になったってことだな。」
それはつまりこの学園を出てもいいと言う事だ。
脅かされることなくやりたいことをできる。
ようやっと普通の女の子の生活に戻れる。
「これからシャルルは何をしたいんだ?学園を出て、普通の学校に行くのか?趣味に打ち込むとかもいいかもな。それから__「ここに残ろうと思うんだ。」__えっ?」
ここに残ると言ったのか?
「どうしてだ?もう自由なんだ、この学園に隠れてなくてもいいんだ。テストパイロットになるかもしれないけどこの学園じゃなきゃいけないわけじゃない。」
「違うよ、隼人。僕は隠れたりとかテストの為とかでこの学園に残るわけじゃない。隼人がいるから残るんだよ?」
「!?」
背中に柔らかいものが当たる。
恐らく今俺は後ろから抱き着かれている。
つまりこの柔らかさは・・・・・
「シャ、シャルルさん…?」
「シャルロット。」
「えっ・・・」
「僕の名前、お母さんがくれた本当の名前。急だけどその・・・一番最初に伝えるのは隼人って決めてたから。」
えへへ、と恥ずかしそうな笑い声が後ろから聞こえてくる。
「シャルロット・・・・いい名前だな。」
「うん!僕はもう自分を偽らないよ。」
★
「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします。」
「えぇーっと・・・デュノア君はデュノアさんでしたー…」
『・・・・・・・・えぇぇ!?』
トーナメントから一日たった朝のホームルームで教室がどよめく。
シャル(シャルロットの新しいあだ名)が女の子の制服で現れたからだ。
(ていうかほんとに気が付いていなかったんだな皆。)
何人かは感づいているのかと思ったがそんなこともなかったようだ。
頑張った甲斐があった。
「同室は衛宮君だったよね?同室で知らないなんてことはなかったんじゃない?」
「それに男子の大浴場が昨日解放されたよね?」
「それってつまり・・・」
あっ、なんかまずい気がする…
『キャー‼』
興奮した女子たちの声が教室に響く。
「つまりつまりそう言う事よね!?」
「どこまでいったの!?」
「嘘でしょ衛宮君!」
「ホントはどうなの!?」
あっという間にクラスの女子、いや他クラスの女子まで押し寄せてきていた。
反応が遅れた俺はその波に呑まれ、押しつぶされる。
もちろんあいつら(鳴海、天馬、一夏)は既に退避してやがった!
(や、やばい・・・・息が・・・死ぬッ・・・・)
今日に限って織斑先生はいないらしい。
このままでは本当に窒息死する。
「だ・・だれ・・・・か・・・」
力を振り絞り声を出し、腕を伸ばす。
するとその腕を誰かがつかみ、引っ張り上げられる。
俺を引っ張り上げてくれたのはISを纏ったボーデヴィッヒだった。
「ケホッ、ケホッ。助かったよボーデヴィッヒ、ありが____」
チュッ
俺の言葉を遮るように唇がボーデヴィッヒの唇でふさがれた。
「お、お前は私の嫁にする!異論は認めん!」
少し顔を赤らめるボーデヴィッヒを目の前に思考が停止する。
「・・・・・・・・えぇ!?」
「は~や~と~?」
殺気を感じ、恐る恐る後ろを振り向くと笑顔のシャルがいた。
しかしその目は笑ってないし、ISを展開してるのもおかしい…
「シャ、シャル…?」
「これはどういう事かな?お仕置きが必要?うん、必要だよね!!」
「な、なんでさぁーーー!!」
★
~とある研究所~
「ほんと最悪なとこだね。早く消しちゃお。」
ポケットからスイッチを取り出し、それを押す。
すると研究所の半分ほどが爆発する。
「無駄に広いなぁ。」
この研究所はVTシステムとかいう不細工なシロモノを研究していたところだった。
研究するだけなら見逃しといてやったのにここの屑どもはやってはいけないことをした。
(こんなものを私のISに積み、あまつさえちーちゃんを穢すに等しいことをした。)
つまり、万死に値する。
「まぁ、もうここにいたやつら全員破滅させたけどさ。」
ここにいた研究者もどきどもは何かしらの爆弾を抱えている。
それをばらすだけでそいつらは終わりだ。
恐らく今頃は命を狙ってくる連中との鬼ごっこ中といったところか。
「ざまあみろってやつかな。さて、残り半分m____」
爆音があたりに鳴り響く。
爆発が起きたであろう場所は残りの半分が残っているところだ。
『束様!』
「クーちゃん、どったの?」
『何者かが残りの施設を爆破しました。理由は不明です。』
「ふ~ん。」
誰だか知らないけど束さんの獲物を横取りするとはちょっとだけむかつく。
『映像をそちらに送信します。』
クーちゃんから映像が送られてくる。
その映像には全身黒づくめでフルフェイスヘルメットを被った奴が映っている。
今は爆破後の跡地を見て周って、生きてる物がないか確認中といったところだろう。
「私がちょっとお話に行くからクーちゃんはそのまま待機ね。」
正直暴れたりないので、このヘルメットで憂さ晴らしをしに行く。
(束さんの邪魔するほうがいけないんだよ。)
ニンジン型ロケットに乗り、奴がいるところまで飛んでいく。
数秒もすれば奴の姿を確認できた。
「まずは挨拶ってね。挨拶は大事だからね!」
ニンジンロケットでそのまま突っ込んでいく。
もちろん特別製なのでこちらが壊れる心配はない。
壊れるのは相手だけというのが売りなのだが避けられてしまった。
「やぁやぁこんにちは、天才篠ノ之束さんだよ。」
「いきなりロケットで頭上からとは随分なご挨拶だな、天災。」
その声は機械音声であり、男か女か判別はできない。
まぁ、体格と今の動きからして男で間違いないけど。
「ん~、ちょっと美しさには欠けてたかな?束さんうっかり〜」
「それで、天災が何の用かな。私は大したものではないと思うのだが?」
「う~ん、あんたが誰であろうと、とりあえず束さんから横取りしたことを後悔させようかなって。」
「横取り?勘違いしないで欲しいがここを狙っていたのは私も同じだ。寧ろお互いに感謝するべきだ。半壊させてくれてありがとう、手間が省けたってな。」
「つまんない冗談だね。」
お互いに感謝?わかりやすすぎる程の嘘だ。
手間を省きたいならあのまま束さんが破壊するのを待てばいいはずなのに、わざわざ自分で爆破した。こっちの爆発音が聞こえてないはずないのにね。
「バレバレか。」
「うん、だからもうお終い。じゃあね。」
瞬時に距離を詰め、頭部を破壊する勢いで拳を放つ。
「危ない危ない。対応が遅れていたら死んでいたな。」
拳をいなしそう言う奴には余裕がありそうだ。
こちらも全力ではないとはいえ少し、ほんの少しだけ驚いた。
「へぇー、ただの雑魚ってわけじゃないんだ。」
「鍛えてるからな。」
軽口を叩く奴に連撃を放つ。
一撃放つ事たび徐々にギアを上げていく。
「究極の知を持ちながらこれ程までの武も持っているとは恐れ入る。」
「あっそ。」
顎への蹴り上げを放ちヘルメットを砕きにいくが防がれる。頭部に関しては群を抜いて反応がいい。
「白とは意外だな。」
「束さんは純白そのものだからね。」
「面白い冗談だ。」
ヘルメットから反撃をされる。
しかし、その攻撃は妙だ。
(薄っぺらい。)
その攻撃は確かに鋭く、重い。
しかしその拳には厚みがなく、蹴りには歴史がない。
積み重ねてきたものが何も感じられないのだ。
それはつまり、磨き上げてきた拳を使っていないということ。
(ここまでコケにされたのは初めてかも。)
ちょこっとだけ頭にきた。
だからもう終わらせにかかる。
奴の攻撃を弾き、そのまま頭部へ蹴りを放つ。
その蹴りは腕でガードされた。
「ちょっと束さんのこと舐めすぎだよ。」
しかし、蹴りは止まることなく腕ごと頭部を蹴り抜く。
奴は数メートル吹き飛び、瓦礫の山に激突する。
さすがに首を飛ばすまではいかなかったがヘルメットを半壊させる程度は出来たはず。
「舐めてはいない、これは仕方の無いことだ。」
瓦礫の山から顔を手で半面隠した奴が出てくる。
今ので機能が壊れ掛けているのかその声にはノイズが混じっている。
「しかし攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。全くもって痛感させられた。」
奴の防御は私の攻撃を防げるほどのものだった。
しかし薄っぺらい攻撃の隙がそれを駄目にしてしまい、今の状況という訳だ。
「さてさて、手で顔を隠したままでこの束さんの攻撃を防げるのかな?」
「無理だな。」
そう言って奴は赤い何かを腰に当てる。
腰に当てた瞬間それは腰に巻き付きベルトになる。
そのベルトには見覚えがある。
何度も映像で見たものだ。
「だから帰らせてもらう。」
\
ベルトにメモリを差し込むとやつは白き姿へと変わる。
「まさかこんな所で出会えるなんてね、エターナル。」
「こっちは会いたくなかったよ、篠ノ之束。」
今にも飛び立とうとする奴に私は一つだけ質問する。
「あんた、名前は?」
「名前?先程お前がエターナルと言ったではないか。」
「それはその姿を表す名前でしょ。あんた自身の名前は何?」
「・・・・・
「次会ったら逃さないよ。」
「なら会わないようにするさ。」
そう言ってネバーは飛び去った。
準備のない今奴を追跡するのは不可能だ。
『束様、申し訳ございません。目標をロストしました。』
「クーちゃんは気にしなくていいよ。これはしょうがない。だってあれは・・・・」
『束様?どうしました?』
「ううん、何でもない。帰ってご飯にしよっか。」
だってあれは雄くんの物なのだから。
おまけ
一夏「そういえば、大事な話って結局なんだったんだ?」
箒「そ、それはだな…」
一夏「大事な話なんだろ?聞かせてくれよ。」
箒「い、いやそれはちょっと…」
一夏「俺を信頼しろって箒。」
箒「・・・わかった。本当に大事な話だからな?わかっているな?」
一夏「おう!」
箒「そ、それじゃあ言うぞ。・・・・つ、付き合ってくれ。」
一夏「・・・・・・」
箒(ダメか…?)
一夏「いいぞ。」
箒「ホントか!?」
一夏「当たり前だろ、雄二兄ちゃんの墓参りだろ?」
箒「えっ…」
一夏「俺たち二人にとって大事といえば雄二兄ちゃんの事だろ?」
箒「だ・・・・・」
一夏「だ?」
箒「大事だけどそうじゃない!」渾身の右ストレート
一夏「ぶべぇ!?」
このあと優にジャイアントスイングされることを一夏はまだ知らない。
雄二「因みに俺の墓は建ってないよ。」テヘペロ