頬の痛みでキーボードを打つ手が一瞬止まる。
「いっつ…束のやつ結構マジで蹴りやがって…」
おかげでヘルメットは七割ほど破損して修理しなければいけない。
(どうせいじるなら今度はもっと頑丈に作るか。)
ヘルメットの改造案を思い浮かべながら作業のスピードを上げていく。
「だ〜れだ?」
突然視界が塞がれ何も見えなくなる。
まぁ、作業は目を瞑っても出来るぐらいのものだから支障はない。
「無視?ねぇ、無視なの?手ぐらい止めようよ…」
ちょっとすると後ろがいじけ始めたので手は止めないが反応することにした。
「またサボりですか?会長。」
初めて話して以来ちょくちょくこの子は俺の部屋に来るようになった。
主にサボりの穴場として活用しているようだ。
「まぁ、そんなとこよ。ていうか手は絶対止めないのね…」
何を作っているの?とこちらの肩に手を乗せ、後ろからグイッと乗り出して来る。
「んー、ちょっとしたものですよ。」
「へぇー、プログラミングとか出来たのね・・って、打つの早ッ!」
俺の打ち込みの早さに驚ながらジーッと画面を見つめる楯無ちゃん。
「これは・・・ゲーム?内容までは分からないけど。」
「さすが会長、当たりですよ。」
完璧超人と言われるだけのことはあるようで俺が何を作っているか分かるようだ。
「好きなの?」
「まぁまぁですかね。これも気晴らしでやっているだけですし。」
「気晴らしって何の?」
「秘密です。」
「えぇー、いいじゃない。教えて・・・・って、貴方怪我してるじゃない。ちゃんと手当てしないとダメよ?」
「別にこのぐらいどうってことないです。」
「はいはい、今手当てしてあげるから待ってて。どうして男の子って強がるのかしら?」
いいと言っているのに楯無ちゃんは部屋に備え付けの救急箱を取り出し、手当てする気満々だ。
「ほら、こっち向いて。」
「このぐらい自分でやりますから。」
「顔の傷なんだから自分でやるより人にやってもらった方がいいのよ。ほら、作業止めて。」
「・・・・はぁ〜、わかりました。お願いしますよ。」
この子は結構頑固なようで、任せないと引き下がりそうにないため、任せることにした。
・
・
・
「はい、終わり。」
腕は確かなようで手当は数分もしない内に終わり、仕上がりは完璧だ。
「ありがとうございました、会長。」
手当てが終わり、俺は作業を再開させる。
「どういたしまして。それにしてもどうしたのその傷は、ケンカでもした?」
「ケンカなんてしてませんよ。ちょっとふらついてぶつけただけです。」
「えぇー、ほんとにぃ?実は女の子怒らせてぶたれたとかだったりしてー。」
ニヤニヤとしながらこちらを見てくる楯無ちゃん。
全く何を期待してるんだか。
まぁ、あながち間違ってないのがなんともいえないが…
「そんな事より会長は妹さんと少しは進展したんですか?」
「グッ、それは…その…」
「はぁー、やっぱりな。」
「しょ、しょうがないじゃない!?焦って変な事言っちゃうかもだし…簪ちゃん忙しそうだし…」
他では肝が据わってるのにこの子は妹に関しては臆病になる所がある。
「まずは何でもいいんですよ。昨日は何食べたとか些細な事でも会話する事が重要なんですから話し掛けましょう。」
「は、話し掛ける!?それはちょっと勇気が…」
「妹に話し掛けるより男の部屋に来る方がよっぽど勇気がいると思いますけどね。」
「うっ…それは鳴海君のことを信頼してるからであって…」
「じゃあ、妹さんのことも信頼してあげてください。」
「・・・・・・してるわよ…」
そう言って楯無ちゃんは膝を抱えて座り込んでしまう。
なにやら訳ありのようである。
キーボードを打つ手を止め、楯無ちゃんの正面に座る。
「よければ今の状態になった理由を伺っても?」
簪ちゃんにとって楯無ちゃんはコンプレックスというのは聞いたが楯無ちゃんがここまでなるというのは腑に落ちない。
それだけのことなら楯無ちゃんが話し掛けられない訳が無いし、あの時話した感じ簪ちゃんもコンプレックスを感じているものの楯無ちゃんをそこまで嫌っているようには思えなかった。
「ん~、どうしてこうなったか、か…」
楯無ちゃんのその顔はいつも通りに見えるが膝を抱えている腕の力が強まった。
「すみません、失礼なこと聞きました。会長の気持ちも考えずに…」
「えっ?もしかして顔に出てた…?」
どうやら無意識だったようで珍しく心配そうな顔をしている。思っていたよりも根深いなこれは…
「裾、掴みすぎてパンツ見えてますよ。」
「へっ?・・・・キャア!///」
スカートを押さえる楯無ちゃんを尻目にイスに座り直し、作業を再開する。
「無理は良くないですからね。自分から言ってもいいなって思えたら聞かせてください。」
「・・・うん、ありがとね鳴海君。」
少し表情が明るくなった。
うん、可愛い子はやっぱり笑顔じゃないとな。
「そんな会長にプレゼントです。」
パソコンからディスクを取り出しケースに入れ、楯無ちゃんに渡す。
「これ作っていたゲームよね?」
「はい、シミュレーションゲームです。」
「シミュレーションってなんの?」
「妹さんとの関係修復のですよ。」
「えっ!?」
「名付けて『トキメキ簪ハート
出てくる人物の絵や背景は全て俺が描いたものを使い、声も合成音声によって作ったためフルボイスの力作だ。
「なるべくリアルさを大事にしましたけど、これの通りやれば上手くいくなんてことはないですからゲームと割り切って思い切り楽しんでもらえれば嬉しいです。まぁ、少しは切っ掛けになって欲しいですけどね。」
「・・・・・」
あれ?ケースを見つめたまま黙り込んでしまった。
少しお節介が過ぎたか?
「・・・・これ、私のために作ってくれていたの?」
「そうですけど、迷惑でしたか?それならすぐにでも処分しますけど。」
「いやいや、迷惑じゃないわよ。ただ驚いていたってことと、どうしてここまでしてくれるのかなって思っていたの。」
どうして?
そんなことは決まってる。
「どうしてって、僕はただ家族は一緒に居られる方がいい、そう思ってるからです。」
家族と一緒に居られる。
それは一般的に見れば当たり前のことかもしれない。
しかし、俺から見ればその些細なことが何よりも尊い。
「・・・それだけ?」
「えぇ、それだけです。」
目をパチくりさせている楯無ちゃんを見て安心する。
(あぁ、よかった。この子は失っていない。)
気付かなくていい、それが当たり前だと思えているのはきっと幸せなことだから。
「ほ、ほんとのほんとに!?ちょっとくらい何かないの?例えばほら、生徒会長に恩を売っておこうとか・・・・って、君は思って無さそうね…」
何も対価を求められないと心配になるのは分かるが、ちょっと取り乱しすぎじゃないか?
裏の世界で活動しているのが原因で少し機敏になりすぎてるのかもしれない。
このままというのも精神的によくないな。
「そうですね〜、強いていえば貴方達姉妹のことが好きだからですかね。」
「えっ…」
嘘はついてない。
俺的にこの姉妹は好きな部類だ。
二人共優しくいい子だしな。
あっ、でも今の言い方だと誤解があるな。
「もちろんライクの方ですから殺しにかかって来るようなことはしないで下さいね?」
危ない危ない、楯無ちゃんは妹が絡むとポンコツになるからな。先手を打ててよかった。
無駄な争いは避けるべし。
「──そ、そうよね!?ライクよね!?まあ、そうだとは思ってたわよ?ほんとよ?」
うん、本当に危なかったかも知れない…
「あっ、もうこんな時間!私は生徒会室にもどるわね!それじゃあ!」
そして楯無ちゃんは慌ただしく部屋から出ていった。
早とちりした事が恥ずかしかったのだろう。
こちらが誤解させるようなことを言ってしまったのが原因なので少し申し訳ない。
──ガチャり
「ん?」
扉が開いた音に反応し、扉の方を見ると楯無ちゃんが扉から顔だけ部屋に入れている。
何か忘れ物だろうか?
「鳴海君、その…今後も頼らせてもらえると助かるのだけれどいいかしら…?」
「もちろん、いつでも相談に乗りますよ。」
「あ、ありがと。それだけ聞きたかったの、またね。」
そう言うと今度こそ生徒会室に戻っていった。
まったく、律儀な子である。
★
「嫁よ、早く支度をしないと遅れてしまうぞ?」
朝のランニングを終え、部屋に戻るとラウラがいた。
「はぁ~、いつも言っているだろ?勝手に部屋に入るなって。」
しかし、この光景は最近ほぼ毎日見ているのでさすがに慣れてきた。
というよりはレベルが下がってきて感覚がマヒしてきているのかもしれない。
なにせ最初は全裸でベッドに入り込んできていたのだ、そりゃあもうパニくった…
「私がいては嫁は不服か?」
「不服とかそういうんじゃなくて、女の子がそういうことするもんじゃないだろ。」
「しかし日本ではそうすると聞いた。」
「・・・・・」
最近分かったがラウラは純粋なところがある。
その純粋さと間違った知識が見事にマッチしてしまいこんなことをしているのだろう。
マジでラウラに間違った知識を与えている人に言ってやりたい。
「勘弁してくれ」と…
「とにかく、早く自分の部屋に戻るんだ。」
ラウラの背中を押し、ドアの前まで連れていく。
以前は抵抗されていたがここ最近の説得の賜物かおとなしく、されるがままだ。
そのまま扉を開ける。
「えっ…」
「あっ…」
すると、インターホンを押そうとしているシャルと鉢合わせしてしまった。
「な、なんでラウラが隼人の部屋から出てくるの…?もしかして…」
「あっ、いや、違う!これはだな…」
「夫婦が同じ部屋にいるのは当たり前だろう。」
「ちょっ!ラウラ!」
何言ってるんだラウラは…
この構図でそんな事言われてしまうと完璧に俺が連れ込んだってことになってしまう。
「ふ〜ん、そういうことなんだ〜。なるほどね〜。」
「シャル、誤解なんだ!」
「うんうん、分かってるよ。」
分かってるというシャルは笑っているがその笑顔を見てると背筋に寒いものがはしる。
「ラウラが勝手に入り込んでいるんだよね?」
「そ、そうなんだ、さすがシャルは話が分かる。」
おかしい、誤解は解けているはずなのに悪寒が止まらない。むしろ強くなってる気が…
「それで隼人はそれを楽しんでたんだよね?」
「はい…?」
な、何を言っているんだ…?
「最近起きたらラウラがいないと思ってたらこういう事だったんだね…」
「いや…別に楽しんでは…」
「じゃあなんで黙ってたの?」
シャルの顔から笑みが消え、無表情になる。
加えて瞳からは光が消えていっている。
「そ、それは…言えるわけないだろ…」
ラウラが勝手に侵入してきます(全裸で)なんて相談できないし、それによってラウラが悪く思われるのは違う気がした。ただ知識が間違っているだけの純粋な女の子だから。
「へぇー、やっぱり言えないようなことしてたんだ…」
「だから違うって!」
「落ち着けシャルロット。そのような事はない。」
頼もしいことにラウラがこちらにアイコンタクトで「まかせろ」と送ってくる。
「そもそも、我々夫婦には言えないようなことなどという後ろめたいものはない!」
「・・・・・」
あれ?何かおかしい…
「じゃあ何してたの?」
「当然同じベッドで共に夜を越したりなどだが?」
プツンッ、と何かが切れたような音が目の前のシャルから聞こえた気がした。
「フッ・・・・フフッ・・・フハハッ!」
「シャ、シャル…?」
なんでISを展開してらっしゃるのでしょうか…?
そして何故シールドピアスをこちらに向けようとしているのでしょうか…?
「ハハッ!風紀を乱す悪ーい生徒には罰を与えないとね?」
「ご、誤解だーーーー!」
結局、この騒ぎは織斑先生が来るまで続いた。
誤解もその時まで解けなかった…
すいません、これから一ヶ月ほど更新出来ないかもしれません。
できたら更新しますができなかったらすいません。