どんなに遅くても失踪だけはしないので今後もよろしくお願いします。
「なぁ箒、これって…」
「みなまで言うな、分かっている」
臨海学校二日目の朝。
一夏と箒の二人の視線は庭、正確には庭に埋まっているうさ耳にむいていた。
その傍らには立て札が添えられている。
『抜いてね♡』
「やっぱ、抜いた方がいいのか?だってこれ絶対あの人だろ」
「わざわざ付き合う事も無い。どうせ後で姿を現す」
「・・・・・まぁ、それもそうか」
そう言って箒と一夏はその場をあとにする。
心なしかうさ耳が垂れ下がった気がしなくもない。
「あー、まだ身体が痛む…」
「何かあったのか嫁」
「昨日は凄かったもんね…」
「なんだなんだ、私だけ知らないぞ」
暫くすると三人組がうさ耳の前を通る。
「昨日…、身体が痛む…、凄かった…、ハッ!まさかシャルロット、抜けがけか?」
「えっ?どういう事?」
「だから、私を除け者にして昨日は二人でおたの――――むぐっ!」
「そそそそういう事じゃないから!?///」
シャルロットが真っ赤になりながらラウラの口を押さえる。
「は、隼人もラウラに言ってあげてよ」
「・・・・」
「隼人?」
「えっ?あぁ、悪い聞いてなかった」
そう言う隼人の視線の先にはうさ耳が埋まっている。
「・・・プハッ、うさ耳だな。地面に埋まっているが」
「なんでこんなところにうさ耳?」
「ちょっと気になるな」
隼人はうさ耳に近づいて行く。
目に入るのは立札の文字。
「抜いてねって書いてある。庭の景観も損ねるし抜いとくか」
「待て、嫁よ」
「どうかしたのか?」
「トラップかもしれん」
「う~ん、それは考えすぎじゃない?」
「そうそう、誰かのいたずらだって」
よいしょ、声掛けとともに勢いよくうさ耳が抜かれる。
出てきたものはうさ耳カチューシャ。
それ以外は特に何もない。
「ほらな?何も起きない。ただのいたずr『_________』―――ん?」
「なんの音だろ?」
「―――!?隼人!伏せろ!」
「うおっ!?」
ラウラが隼人に飛びつきその場から退いた次の瞬間。
『_______!!』
轟音とともに先ほどまで隼人の立っていた場所に巨大なニンジンが刺さっていた。
いや、正確に言うと着陸していた。
「だ、大丈夫!?ラウラ、隼人!」
「こちらは大丈夫だ」
「すまん、助かった」
「私の忠告を無視するからだぞ」
「返す言葉もございません…」
「しかしこれは一体「ナハハハハハハハ‼」———ッ!」
突如響き渡る笑い声。
その笑い声はニンジンの中から聞こえてくる。
「よくぞうさ耳を抜いたね!選ばれし勇者よ」
ニンジンの真ん中がガポッ、と開く。
中から出てくるのは一人の女性。
紫色の髪に機械のうさ耳、服装はエプロンドレスを着ている。
「いや~、いっくんが抜いてくれると思ってたのにどっか行っちゃったからどうしよかな~って思っていたんだけど君が抜いてくれたから一件落着ってね!頑張ったで賞でそのうさ耳はプレゼントだよ!」
「えっ、あぁ、どうも…」
「さ~て箒ちゃんはどこかな~?箒ちゃん探知機~(某青狸)」
女性はエプロンドレスのポケットからこれまたうさ耳の形をしたものを取り出した。
その耳を両手で一つずつ持ち、ダウジングのような仕草をする。
うさ耳はすぐさまある方向を示す。
「おっ!あっちか。にゃはははは!今行くよ~!」
そう言って女性はすさまじい速度でその場から去って行った。
「・・・・何だったんだ…?」
「わからん…」
「これどうしよっか…?」
三人は巨大ニンジンを目の前にしばらく呆然としていた。
★
「ぼやぼやするな!時間は限られている」
砂浜に千冬の声が響き渡る。
それはISパーツを運ぶ生徒たちへと向けられたものである。
臨海学校二日目。この日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備の試験運用とデータ取りに追われるのだ。
特に専用機持ちは大量の装備データ取りに追われる。
「それでは各班ごとに試験運用を開始するように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」
千冬のその言葉に一学年全員が返事を返す。
その光景は軍隊を彷彿させるものがある。
砂浜であるためISスーツが水着にしか見えないことを覗いてだが。
「それと篠ノ之、お前はちょっとこっちにこい」
「?はい、わかりました」
打鉄用の装備を運ぶ箒を千冬が呼び止める。
なぜ呼ばれたのかわからないようで箒は首をかしげ、千冬のもとに向かう。
「なんでしょうか織斑先生」
「まさか聞かされてないのか?お前には今日から専用―――」
「ちーちゃ~~~~~~ん!!」
千冬の言葉を遮るように叫びながら走ってくる人物が一人。
誰かなど言うまでもない。
「…束」
そう、天災・篠ノ之束である。
「会いたかったよ、マイハニー!さぁ、ハグハグしよう!愛を確かめ―――ぶへっ」
抱き着こうとした束の顔面を千冬は片手で掴む。
指が食い込んでいることからかなりの力が込められていることは誰から見ても明らかである。
「騒ぐな、束」
「ぐっは!・・・相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」
しかし、そんなアイアンクローを受けても天災の笑顔は崩れることはなく、なんなく拘束を抜ける。
その表情はむしろより一層笑みが増しているように見える。
「さて、久しぶりのちーちゃん成分も摂取したことだし・・・・」
束が箒の方へ向く。
「やぁ!箒ちゃん」
「・・・どうも」
「いやはや、久しぶりだね。こうして会うのは数年ぶりかなぁ。おっきくなったね、特におっぱいが」
がんっ!
「殴りますよ姉さん」
「な、殴ってから言ったぁ・・・。しかも日本刀の鞘で叩いた!ひどい!数年ぶりにあったお姉ちゃんへのハグハグを期待してたのにぃ・・・」
頭を押さえながら涙目になって訴える束。
あまりの突然の出来事に、一同ポカンとなって作業の手が止まる。
「そんなものはありません。・・・それで何しに来たんですか?」
そう言う箒の瞳には悲しみと僅かな怒りが籠もっている。
「姉さんが何かしようが姉さんの自由ですけど、どうして今さら・・・」
「ごめんね、箒ちゃん」
《!?》
束が素直に謝ったことに束を知るもの達は驚愕する。
例え家族であろうと彼女の好き放題やる性格は変わらないからだ。
そんな光景に箒は目に見えて動揺する。
「確かに今さらだよねぇ。雄くんがああなっちゃったのは私のせいだしね…」
天災の表情から完璧に笑みが消えた。
「っ・・・・」
箒は何かを言いかけるが、胸元を握りしめ俯いてしまう。
「束さん!なにも箒はそこまで…」
「そうかもね、箒ちゃんは優しいから。でもこれは事実――」
「その辺にしておけ。それをどうこう言うことこそ今さらというものだろう。それよりも自己紹介でもして見せろ。うちの生徒が困っている」
束の肩に手を置き、千冬は話を中断させる。
千冬の言う通り、周りは訳が分からず困っているようだ。
「・・・・しょうがないなぁ!はいはーい!皆のアイドル~!束さんだよ、ハロ~、おわり」
生徒たちの方へ向いた時には既に笑顔の束がいた。
そしてポカンとしていた一同もようやく目の前の人物が誰であるのか理解し、ざわめきだす。
「はぁ・・・もう少しまともにできんのかお前は。そら、お前たちも手を動かせ。こいつのことは無視してテストを続けろ」
「うわっ・・・私の扱い、酷すぎ・・・?」
「どこぞの広告みたいに言うな」
そんな二人のやり取りに入って行ったのは箒だった。
「その・・・姉さん・・・先ほどは言い過ぎました…。別に姉さんが会いに来たことが嫌だったわけではなく…」
何て言えばいいのかわからない、そんな表情をして箒の口は閉じてしまう。
「えへへ、そんなお姉ちゃん大好きだなんて箒ちゃんたら、だ・い・た・ん♡」
「い、言ってませんそんなこと!」
「いやいや、箒ちゃんの心の声すら束さんは聞こえるから安心していいよ」
「心の底からそんなこと思ってません!」
「うわ~ん!箒ちゃんがいじめてくるよ~、ちーちゃん―――ぐへっ」
再び千冬に抱き着こうとするがガードが固く、再びアイアンクローの餌食になる。
さらにそこから砂浜に頭から投げ飛ばす。
「ひっどーい!あんまりだよ~」
空中で一回転し、しっかりと着地しながら千冬に避難の目を向ける束。
「うるさい、黙れ。もうおふざけは終わりだ。さっさと本題に入れ」
「ちぇっ、しょうがにゃいなぁ。では、大空をご覧あれ!」
束が指を鳴らし、びしっと直上を指さす。
言葉に従い一同空を見上げる。
視界に広がるは青空。
「束さん、なんもないんですけど…」
「よく見ろ、何かこちらに向かってきている」
「えっ?」
千冬の言葉に一同目を凝らす。
すると空には黒い点のようなものが見える。
それはどんどん大きくなってゆき
ズドーンッ!!
激しい衝撃とともに砂浜に落下した。
落下に伴い大量の砂が舞い上がる。
「ケホッ、ケホッ・・・・・コンテナ?」
それは金属製のコンテナだった。
銀色をしたそれは、次の瞬間正面らしき壁がバタリと倒れてその中身を露出させる。
そこにあったものは―――
「じゃじゃ~ん!これぞ箒ちゃんの専用機こと【紅椿】!なんと全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」
真紅の装甲に身を包んだ一機のISだった。
太陽の光を反射するその赤い装甲はまぶしく輝いているように見えた。
「私の・・・・専用機・・?」
「そうだよ!いや~束さん、仕事しましたな。えっへん!」
腰に手を当て胸を張る束。
すでに妹の喜ぶ顔を想像しているのか、その顔はにやけている。
しかし、次の瞬間そんな表情が凍り付く。
「受け取れません」
「・・・・・・・・・・へっ?」
衝撃的な一言に場は固まった。
次回は福音戦突入します。