「ちょっとぉ!ほんとに来るんでしょうね?私は今すぐにでも福音をぶん殴りに行きたいんだけどっ!」
鈴がこちらを向き、大きな声でそう言ってくる。
先ほどから貧乏ゆすりが激しくなってきていることから限界の近さが伺える。
他の面々も「どうなんだ?」という目線をこちらに送ってくる。
「落ち着けって、絶対来るさ」
俺らは今、砂浜で一人の男を待っていた。
「来るって言うけどあいつ返事すらせずに部屋に戻ったじゃない。大体ねぇ、あんな協調性のかけらもない奴が協力なんてないでしょ」
「確かに返事はしなかったが話は聞いていた。だから来るさ」
あいつは絶対来る。
そんな確信めいた予感が俺の中にはある。
「しかし嫁よ。今はいつ福音が動き始めてもおかしくない状況だ。いつまでも悠長に待ってはいられないぞ」
「待つとしてもあと5分が限度ですわ」
「5分あれば充分だ。そろそろ来るはずだからな」
「なんでそんな自信満々なのよ」
「なんでって、そんなの―――」
「来てやったぞ、愚民ども」
俺の言葉を遮るようにそいつは現れた。
フッ、やっと来たな。
「遅いぞ、天馬」
「貴様らが先に来て俺様を待つのは義務であろう?」
「あはは…天馬はほんとに天馬だね」
「ほ、ほんとに来た……って、なんで私達が待つのが当たり前みたいなこと言ってんのよ!悪いのアンタでしょ!」
「ピーピーとうるさいガキだな。俺様が来てやっただけで光栄だと言うのに」
「なんですってー!」
天馬が来たのはいいが鈴と口論になってしまった。
まぁ、少し言い合えば落ち着くだろうから俺は少し離れて見ておくことにする。
巻き込まれたくないしな。
「結局なんで隼人は天馬が来ることわかったの?」
同じく避難してきたシャルが先ほどの続きを聞いてくる。
「簡単なことだ。意地があるんだよ男の子には」
「意地?」
「そう、単純だろ?」
男ってのは単純な生き物だ。
やられっぱなしは納得いかない。
お前もそうだろ?天馬。
「うん、男の子ってほんっと単純だね。でもまぁ、そのぐらい単純なぐらいが、か、かっこいいと思うけどね…」
「お、おう」
頬を赤らめながらそんなことを言われると照れる。
「何呑気に喋ってんのよ。行くわよ」
「うおっ!?」
突然聞こえた鈴の声に心臓が跳ねた。
い、いつの間に目の前まで来てたんだ…?
というか言い合いはどうなった?
「埒が明かないから帰ってきてから決着つけることにしたわ」
よ、読まれた…!?
「わかりやすいからね、隼人は」
ま、また読まれた…!?
「ほら、驚いていないで行くわよ」
鈴の言葉で全員ISを展開する。
飛び立つ直前、俺はオープンチャンネルを繋げ一言だけ告げた。
「勝とうぜ、みんな」
★
海上200メートル。
『――――?』
福音が不意に顔を上げる。
次の瞬間、超音速で飛来した砲弾が直撃、大爆発を起こした。
「初弾命中。続けて砲撃を行う」
それは5キロ程離れた場所に浮かんでいる【シュバルツァー・レーゲン】による砲撃だった。
しかし、ラウラの操るその機体の姿は通常とは異なっている。
レールカノンを二門左右それぞれの肩に装備しており、さらに砲撃・射撃に対する備えとして四枚の物理シールドが彼女を守っている。
これがシュバルツァー・レーゲンの砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』装備状態だった。
ラウラによる砲撃が続くがその中を掻い潜り、福音は接近する。
5キロもあったはずの距離はあっという間に縮まり、福音の魔の手がラウラに迫る。
砲戦仕様は反動相殺のため機動との両立は難しいため回避は間に合わない。
それだというのにラウラはニヤリと口元を歪めた。
「―――セシリア!」
ラウラに迫っていた腕が垂直に降りてきた【ブルー・ティアーズ】の強襲によって弾かれた。
攻撃に用いる六機のビットはその全てが腰部に接続されており、今はスラスターの役目を果たしている。
しかし、その火力を補って余りあるほどの武器、大型BTレーザーライフルがその手には持たれている。
強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したブルー・ティアーズがそこにいた。
頭部には時速500キロを超える速度下での反応を補うバイザー状の超高感度ハイパーセンサーを装備している。
「捉えましてよ!」
セシリアはバイザー越しに福音を捉えると高速反転し、狙い撃つ。
攻撃の衝撃によって福音は数メートル後ろに後退させられる。
『敵機Bを認識。排除行動へと移る』
「遅いよ」
福音の真後ろから新たな機体が襲い掛かる。
それは先ほどの突撃時にセシリアの背にステルスモードで乗っていたシャルロットの攻撃だった。
ショットガン二丁によるゼロ距離射撃によって福音は体勢を崩す。
しかしさすがは軍用ISというべきか、一瞬にして体勢を立て直し三機目の敵に対して
「残念だけど効かないよ」
リヴァイヴ専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』を装備した【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】は実体シールドとエネルギーシールドそれぞれ二枚、計四枚のシールドで光弾の雨を防いでいく。
前面を遮り、
攻撃を防ぎつつ、シャルロットは隙を見て
さらにラウラの砲撃にセシリアの射撃も加わり、三方向からの攻撃によって福音をじわじわと消耗させていく。
その激しい攻撃に福音は翼で身を守るように包み、丸くなる。
「―――まずいっ」
しかし、それは守るための行動ではなかった。
いつの間にか翼にはエネルギーがチャージされており、それの意味することは強烈な全方位射撃。
まともにくらえばリヴァイヴ以外は落ちてしまうことだろう。
『La……♪』
福音が翼を開き、エネルギーを解き放とうかという瞬間―――
―――翼を何かが貫いた。
それによって大破とまではいかないがエネルギーが霧散する。
「今のはさすがに肝が冷えたぞ」
福音たちから200メートル下、岩礁の上で弓を構えた隼人はほっ、と息を吐く。
翼を貫いたのは隼人の射った矢だったのだ。
その手に持つ黒い弓は通常の2倍はある弩弓であり、盾はいつもの物より3倍ほどの厚さをしている。
それは彼のことを守るように浮遊し、ゆっくりと前面を移動している。
【アイアス】は狙撃パッケージ『魔弾の射手』によって狙撃に特化していた。
続けて二射目を放つ隼人。
福音はそれを軽く体を捻ることで避ける。
しかし、福音の横を通り過ぎるその瞬間・・・・矢が爆ぜた。
真横からの爆風をもろに受け、福音がよろめく。
その隙に既に三射目が射られている。
その矢は複数に別れ、散弾のごとく福音を襲った。
しかし、福音もただやられている訳がない。
翼を広げ、光弾の雨を降らしてくる。
それでも隼人は弓を引く。
「更式、頼んだ!」
声に呼応するかのように二枚の盾が動き、光弾から隼人を守る。
『ふぅー、防御成功』
「サンキュー」
防御中も引き絞り続けた矢が解き放たれる。
それは真っ直ぐと福音の頭部へと吸い込まれ、爆裂する。
『それにしても無茶なこと考えすぎ…防御の要の盾を遠隔操作するとか』
隼人はより狙撃に集中するため、盾の操作権を簪に渡し遠隔操作してもらっていた。
一見名案とも思えるこの作戦、しかしこれは実際はかなり難しい。
カメラの映像だけで瞬時に判断し、操作。
なおかつ空間把握能力にも優れてなければ成立しない。
「そうかもな。でも、上手くいっただろ」
ブルーティアーズほどの複雑な動きは出来ないが重装甲で動かしにくい盾を簪は見事に操って隼人を守った。
ISに乗ることだけが代表候補生ではないのだ。
『・・・優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先』
絶えず続く強烈な四方向からの射撃、さしもの福音もこれには音を上げた。
福音は全方向にエネルギー弾を撒き、次の瞬間スラスターを全開にした強行突破を図る。
「させるかぁっ!」
海面が膨れ上がり、爆ぜる。
飛び出してきたのは【紅椿】と、その背に乗る【甲龍】の二機。
「叩き落とす!」「ブッ潰す!」
福音に紅椿は突撃していく。
その背から飛び降りた鈴は、機能増幅パッケージ『崩山』を戦闘状態に移行させる。
両肩の衝撃砲に加え、増設された二つの砲口が姿を現す。
計四門の衝撃砲が一斉に火を噴く。
『‼』
肉薄し、足止めをしていた紅椿は瞬時に離脱、次の瞬間には衝撃砲による弾丸が降り注ぐ。
それは通常の不可視の弾丸ではなく、赤い炎を纏っている。
それも福音に勝るとも劣らない弾雨だ。
「やったか!?」
「―――まだだ!」
衝撃砲の直撃を受けてなお、福音はその機能を停止していない。
『
両腕を目一杯広げ、翼も自身から見て外側に向ける。
―――刹那、眩いほどの光が爆ぜ、一斉射撃が開始された。
近くにいた箒はシャルロットの後ろに回り込むことで難をしのぐ。
「作戦は順調だけど・・・・これはちょっと、きついね」
しかし、防御パッケージといえど福音の異常な連射を立て続けに受けてはたまらない。
そうこうしているうちに物理シールドが一枚、完全に破壊される。
それでも福音の射撃は止まらない。
「くっ…」
二枚目が壊れようかというとき、それは突如現れた。
それは鎖―――黄金の鎖。
全方位から伸びてきた黄金の鎖はまるで意思を持っているかのように弾幕を掻い潜り、福音に絡みつき、その動きを止める。
ギチギチと締め上げられた翼は潰れ、その機能を失う。
「とどめは俺様が刺す」
上空から黄金に輝くIS【ギルガメシュ】がゆっくりと降下してくる。
その周りにはいくつもの武器が展開されている。
「貴様はここで息の根を止めてやる。もちろん
武器の嵐が動けない福音に降り注ぐ。
その攻撃は翼をもぎ、装甲を砕いても止まない。
このままいけば確実に操縦者の命はない。
「天馬、やりすぎだ!操縦者が死ぬぞ!」
「構うものか!」
隼人の静止の声もむなしく、とどめの一撃が射出される。
その剣は福音の頭部に迫り、串刺しにしようかという瞬間―――
\
『Gyaaaaa・・・‼』
「なんだっ!?」
獣の咆哮のような声とともに発生した衝撃波によって鎖と剣が吹き飛ぶ。
砕けた装甲はみるみるうちに修復され、刃のように鋭いものに変わっていく。
その全身を鋭利なフォルムへと変化させ終えた福音は再び砲口する。
『Gyaaaaaa・・・‼』
「まずい!?これは―――
ラウラの言葉で全員が我に返る……が、遅かった。
既に福音は恐ろしい速度でラウラの前まで迫っていた。
「ぐっ…カハッ…!」
片手で喉を掴まれ、身動きが封じられる。
この距離では砲撃できず、周りも下手に手を出せない。
「ラウラを放せぇ !」
「よ…せ…」
小回りのきくブレードでシャルロットが助けに入るが空いてる手で止められてしまう。
「にげ…ろ…」
福音の頭部の翼がもがれた部分からエネルギーの翼が生える。
その翼はラウラを包み込むと、ゼロ距離で弾雨を浴びせる。
翼を開くと同時にボロボロになったラウラが海に落下していく。
「―――よくもラウラをっ!」
掴まれたブレードを放し、高速切替でショットガンを
銃口を向け引き金を引こうとし、シャルロットは戦慄した。
「―――ッ!?」
福音に銃口を握りつぶされ、無効化されたのだ
これは高速切替に完璧な反応をされたという事だ。
そして次の瞬間にはシャルロットは防御する間もなく光弾を浴び、落下していく。
「な、なんですの!?この性能・・・軍用だとしてもあまりにも―――!?」
次に狙われたのは再び高速機動射撃に移ろうとしていたセシリア。
目の前には両手両足、計四ケ所同時着火による爆発的
「このっ!」
距離を置いて銃口を上げようとするが、その砲身を真横に蹴られてしまう。
この距離では長大な銃は役に立たない。
『アームセイバー』
腕の装甲が鋭く伸び、刃となる。
そして胸元を一文字に一閃。
砕け散った装甲と共にセシリアは蒼海へと沈んだ。
「―――てめえ!」
渾身の一矢が頭部を狙って放たれる。
当たる!、そう思われた矢の動きが止まる。
いや・・・止められた。
「嘘だろ!?」
福音は飛んで来た矢を掴んで止めた。
それも弩弓の弓から放たれた重い最速の一撃をだ。
「やっと止まったわね!」
矢を受け止めたことによって生じた僅かな時間を鈴は見逃さない。
後方から衝撃砲による弾雨が迫っていく。
『ショルダーセイバー』
肩から生えた刃を福音は投げる。
その刃は衝撃砲の弾雨を切り裂き、爆破させていく。
「なによ・・それ・・!?」
役目を終えた刃は弧を描き、福音の手元に帰ってくる。
そして再びその刃を投げる。
向かう方向は下―――つまり隼人に向かっている。
「くっ!」
直前でなんとかその場から離れる。
隼人のいた岩礁は切り刻まれ、バラバラと崩れていく。
「―――ッ!?」
一瞬だが岩礁に気を取られていた隼人の目の前には福音の手があった。
「グァァァッ!?」
凄まじい力で顔を鷲掴みにされ、ギシギシと骨が悲鳴をあげる。
絶対防御が無ければ既にペチャンコに潰れているであろうその痛みが反撃など許さない。
『衛宮!』
盾の表面が開き、隠し武器であるミサイルが発射され、福音に直撃する。
『そんなっ!?』
煙が晴れ、そこには先ほどと変わらず隼人を掴んだままの福音がいた。
そのまま福音は高速機動で隼人を振り回し、海面に投げつけた。
驚異的な速さは水をも凶器に変える。
「仲間をよくもっ!」
「調子乗ってんじゃないわよ!」
凛と箒が左右から同時に斬りかかる。
『アームセイバー』
それは両腕から伸びた刃によって止められる。
「こっちだって―――」
「一本じゃないのよ!」
二人は二刀流、つまりもう一撃残っている。
二本の刃が福音の身体を捉える。
「どうだっ!」「よしっ!」
確かな手応えを感じる二人。
斬られた衝撃から福音は大きくよろめいている。
ようやく作れたチャンス、二人は追撃を仕掛ける。
「「もらったー!」」
回避は不可能。
しかし、勝ちを確信した二人を突然痛みが襲う。
背中を斬られたかのような感覚。
攻撃は浅く入るのみで仕留めるまでには至らず、福音に距離をとられる。
距離をとった福音の手元に二本の刃が弧を描いて収まりに行く。
先ほどの痛みはショルダーセイバーによるものだった。
「くっ、いつの間に…!そんな隙など・・・まさか!?」
「私たちに斬られて飛ばされる瞬間に投げたってわけ…?・・・化け物ね…」
動作の後には隙が生まれるとされている。
二人の攻撃後には隙とは言えぬほどの僅かな時間が存在していた。
福音はその瞬間にショルダーセイバーを投擲し、二人を死角から襲ったのだ。
完璧に二人は流れを絶たれた。
『Gyaaaaa・・・・‼』
流れは再び福音の手に・・・
『Gya―――!?』
戻らなかった。
黄金の鎖が福音を縛り上げる。
「なんだ、その姿は…?なんだ、その力は…?一体何なんだ!そんなもの俺様は知らない…!」
しかし、縛り上げた零士が酷く混乱している。
その顔には明らかな焦りと僅かな怒りが見て取れる。
「俺様の知らない物は存在するなっ!消えろ…消えろ…消えろー‼」
武器の嵐が福音を襲う。
装甲が砕け、散っていく。
先ほどと全く同じ状況。
「ハハ・・・ハハハハハ!所詮姿が変わっても貴様は負けるために生み出されたキャラだ!ここで死―――」
『Gyaaaaa!!!!!!』『マキシマムセイバー』
足元から伸びた刃が内側から鎖を引き裂き、ギリギリのところで離脱に成功する福音。
そこから勢いそのままに零士に迫る。
「この死にぞこないが!」
大量の武器が突進してくる福音に向けて押し寄せていく。
すでに回避をとれる距離ではない。
『Gyaaaaa!!!!!!』
それを福音はきりもみ回転することで翼のエネルギーを身にまとわせ、武器の嵐を弾き、突き破っていく。
「なっ!?」
そしてその牙が零士に喰らいついた。
箒たちには福音が恐竜の頭部に見えたことだろう。
福音が離れた瞬間、零士は力なく落下していく。
『Gyaaaaa・・・・‼』
敵を倒し、雄たけびを上げる。
その姿はまさに獣そのものだった。
そして二人の持つ武器がカタカタと音をたてる。
「くっ…!乱れるな…!引くな…!」
「クソッ!止まれ…!止まれ…!止まれって言ってんのよ…‼」
必至に腕に力を籠めるが、震えは止まらない。
逆に手から腕へ、腕から肩へと、どんどん体を支配されていく。
グリンッ
そのような音が聞こえてきそうな動きで福音はその首を二人に向けた。
それが意味することは敵の完全排除だった。
圧倒的な強さを見せる福音。
絶体絶命の箒と鈴。
二人は恐怖に打ち勝つことができるのか。