~E・S~転生者は永遠を望む   作:ハーゼ

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なんか思ったより長くなってしまった…


第六十五話 鳴海杯《後編》

剣道部との勝負から2時間が経過し、残す勝負も片手で数えられる程度になった。

結局、剣道部以降の勝負は予測通り危なげなく突破できたのだが・・・

 

(嫌な感じだ)

 

俄然として嫌な予感は払拭されない。

むしろ強くなっている。

空き時間で出場メンバーを調べ直した結果、沖田ちゃんみたいな子が他には居ないことは確実だ。

 

(・・・今日、天馬をまだ見てない)

 

あのお調子者がこのイベントに顔を出さないのはおかしい。

というより何かやらかすみたいなこと言ってた気がする…

 

「鳴海選手、準備が整ったのでどうぞー」

 

「・・・」

 

恐らく嫌な予感の正体は天馬がやらかす何かだ。

だが、性格上イベントを潰すのは好まないはず。

 

「鳴海選手ー?」

 

「・・・」

 

しかし、このイベントの内容でそんなに追い詰められる状況があるか?

はっきり言って、沖田ちゃん相手でも余力はあった。

あれ以上の何かイレギュラーがあるのか?

 

「おい、何をしている」ガンッ

 

頭に衝撃。

この威力はちーちゃんだな?

 

「いたた、何するんですか織斑先生」

 

「呼ばれているというのにボケっとしてるからだ。お前が考えたイベントなのだからしっかりやりきれ」

 

どうやら、考えに夢中になってる間に呼ばれていたようだ。

うーん、昔からの悪い癖だ。

 

「ありがとうございます、考え事してる間に棄権になるところでした」

 

ちーちゃんに礼を言ってグラウンドに足を運ぼうとした時。

 

「鳴海」

 

ちーちゃんに呼び止められる。

 

「なんですか?」

 

「・・・後で話がある。このイベントが終わったら私のところに来い」

 

「話ですか?いったい───」

 

「鳴海選手ー!お願いしまーす!・・・全く、どこいったんですかね?皆様、もう暫くお待ちください」

 

おっと、これ以上待たせるのは悪い。

ちーちゃんの話も気になるが今は鳴海杯を取らなくちゃな。

 

「はやく行ってやれ」

 

「じゃあ、またあとで」

 

今度こそ俺はグラウンドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中庭のベンチ、缶コーヒー片手にドサッと腰掛ける。

今は例のイベントで中庭には誰も居ないため、肩肘張らずにいられる。

カシュッ、という軽快な音と共に蓋を開け、一気に飲み干す。

 

「苦い…」

 

今日のコーヒーはやけに苦く感じた。

先程から考え事をしてるから脳が糖分を欲してるのかもしれない。

 

『勝者、鳴海〜優〜!』

 

「─────!!」

 

アナウンスと共に歓声が聞こえてくる。

全く、よく騒ぐ奴らだ。

 

「鳴海優…」

 

まぁ、その騒動の原因のことを私は考えてるんだが。

 

「お前の忘れ形見か?」

 

空を見上げ、そんなことを呟いてみる。

もちろん答えなんて帰ってこない。

だが、尋ねずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝者、鳴海〜優〜!」

 

《わあぁーーー!》

 

勝利アナウンスと同時に歓声が響いた

今、最後の部活との勝負に決着が着いた。

 

(終わった)

 

これで厄介事である部活問題はなんとかなった。

 

「ふははははははは!」

 

と思ったがまだらしい…

 

「喜べ!まだこの大会は終わっていない!」

 

「いやいや、何を喜べばいいんだい?」

 

「貴様に最高の勝負をさせてやる」

 

「勝負?もう僕は全部活と勝負をしたんだ。それなのに勝負を挑むなんてルール違反じゃないかい?」

 

楯無ちゃんの方をチラッと確認。

手を合わせてウインクしてきた。

なるほど、グルか。

 

「挑む?この俺様が?はははは!何を勘違いしてる。挑むのはお前だ」

 

パチンッ!

 

天馬が指を鳴らすと同時にスクリーンが変わる。

 

《最終戦 料理研究部》

 

「料理研究部はもう男子が二人在籍してるはず」

 

ほかの部活がエントリーを許すか?

 

「エントリー条件は順番を最後にすることで各部の長を全員納得させた。因みにつまらんから名前は隠しておいた。いいサプライズだっただろう?」

 

こちらとしてはいい迷惑でしかないんだが…

まぁ、今更一戦増えたところで結果は変わらない。

 

「なるほど、つまり料理研究部に勝てば本当に僕の勝ちってことだね」

 

「くくっ、勝てればな?もちろん勝負内容は料理対決だ」

 

天馬の事だ。

この勝負、勝敗より盛り上がりを気にする。

つまり対戦相手は衛宮で間違いないだろう。

男同士の対決とはトリにもってこいだ。

確かに彼の料理は美味いが俺が年季ってものを見せてやろう。

 

「開始は30分後、それまでにその汗と埃臭い姿をなんとかしておけ」

 

「わかった。でも場所はどうするんだい?食堂?それとも調理室?」

 

「場所はこのグラウンドだ!」

 

ブロロロロ!

 

グラウンドに二台のトレーラーが入ってくる。

二台は側面を向かい合わせるように停車し、荷台のコンテナが開かれた。

コンテナの中から現れたのはキッチン、それも設備は並ではない。

 

「今回の勝負用に作らせた特別製のトレーラー型キッチンだ。設備は全て一級品。加えて、使用者に合わせて道具もカスタマイズ出来るようにしてある。つまり自分専用のキッチンが作れるという訳だ!どうだ?最後を飾るに相応しいステージであろう?」

 

そう言って高笑いする天馬。

この勝負だけの為にこんなものまで用意するとはさすがに驚いたが確かに魅力的なキッチンではある。

 

「さすがの準備力だね」

 

「わかったのならさっさと準備してこい。時間が惜しい」

 

まぁ、確かに時間は惜しい。

俺も早く終わらせてちーちゃんの話を聞きたい。

さくっと着替えてくるか。

 

 

シャワーを浴びて戻ってきたのだが今の俺の服装はシェフって感じ。

シャワー浴びてる時に着替えが用意されたのだが間違いなく天馬の差し金だろうな。

何をするにも形は大切って感じなのか?

 

「来たか。アナウンサー、開始を宣言しろ!」

 

「これより最終戦、鳴海選手対料理研究部の勝負を開始します!」

 

ゴォーン!

 

銅鑼までグラウンドに用意したのか…

馬鹿と言えばいいのか、手が込んでると褒めればいいのかわからん。

 

「それで、衛宮はどこにいるんだい?」

 

対戦相手であろう衛宮の姿が見当たらない。

遅刻するやつでは無いのだが。

 

「誰がいつ衛宮が対戦相手だと言った?」

 

「じゃあ、誰が相手なのさ?」

 

「言っただろう、お前が()()のだと」

 

「・・・まさか!?勝負相手は───」

 

天馬の背後に控えていた女性が前に出てくる。

その姿は食堂で見かけるときのそれだ。

 

「私でございます、鳴海様」

 

ここに来て最強の敵が出てきてしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これはー!まさかの人選、プロ参戦です!というかアリなんですかこれ!?」

 

グラウンドの特設モニターに私の顔が映ると会場全体がざわつき始めた。

普通そうですよね。私も零士様に言われた時はビックリしましたし。

 

「何処にも生徒を出さないといけないとは書いてない!ふはははは!」

 

「いいんですか会長!?」

 

「超グレーゾーンね…規定は所属団体から選出しなければならないだし、ローゼさんの扱いは料理研究部特別講師として所属を受理しちゃってるのよね…」

 

「まさかのOKです!?」

 

ほかの部活の方には申し訳ないです…

受理というのもつい先日零士様がだしたばかりですし、天馬財閥がこの学園の大型スポンサーというのも大きく関係してます。

でも、零士様が楽しむためなので仕方ないんです!

 

「でも、プロならコンクールなどでの受賞などは?実績があれば違反になるのでは?」

 

「それが彼女、受賞はおろか、コンクールには出場すらしてないのよ。数ある大きな大会すら蹴ってるし」

 

そういえば、そんなこともありました。

零士様への新作料理を考える時間が減るので即蹴りましたね。

 

「ふん、俺様の料理人というだけで肩書きは充分。それ以外の肩書きなど必要あるまい」

 

あぁ、なんと自信に満ち溢れたお姿。

あまりのかっこよさに危うく気絶しかけました。

これも日頃からの零士様イメージトレーニングの賜物。

 

「キルヒナー講師の選出が許可された問題は解決ですが、これは流石にここまで勝ってきた鳴海選手でも勝ち目がないのでは?」

 

「もちろんハンデをくれてやる。審査員は俺様、そこの生徒会長に加え、ランダムに選ばれた教師と生徒各一名の合わせて四人。そのうち一人でもやつに票が入れば勝ちだ」

 

「四分の一・・・いや、それでも勝ち目がない気がするのですが…」

 

「慌てるな、更にお題は奴に決めさせてやるおまけ付きだ。洋食だろうと和食だろうとなんでも構わん」

 

「和食もですか?これはキルヒナー講師には厳しいのでは?コメント頂けますでしょうか?」

 

「私の分野でなくても零士様が望むなら私はそれを達成するだけです」

 

「なんという自信でしょうか。しかし、裏付ける実力を備えているに違いありません。コメントありがとうございました!」

 

と言ったものの自信はあまりない。

彼は先程から私に目もくれず、機材の調整をしてますし。

それに以前頂いたときの味を考えるに・・・

 

(一票取られてもおかしくないです)

 

それほどまでに彼は腕がたつ。

零士様も当然わかっててこういうルールにしてるのでしょうね。

 

(だというのに微塵も私が負けるとは考えていないんでしょうね)

 

零士様はそういうお人。

負けてもおかしくはないルールを設けながら私の、いえ、ご自身の勝利を確信していらっしゃる。

ならば私の為すことは一つ。

 

《完全勝利を零士様に捧げる》

 

ただ、それだけの事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抽選の結果、残り二枠の審査員が決定しました!まずは教師枠、ブリュンヒルデこと織斑先生!」

 

「きゃー!千冬様ー!」「私の事も食べてー!」

 

「はぁ…」(面倒なことに巻き込まれた)

 

審査員席にて頭を抑えてため息をつく千冬。

 

「そして生徒枠は一年生から選ばれました、胃袋ブラックホール布仏本音さん!」

 

「いえ〜い、かんちゃん見てる〜?本音ちゃん大勝利〜」

 

千冬とはうってかわってノリノリな本音はカメラに向かってピースまでしている。

 

「はい、紹介も終わりましたので間もなく料理対決開始です。選手はステージ中央によろしくお願いします」

 

ステージ中央、優とローゼの二人が向かい合う。

そしてお互いが感じ取る。

 

(纏う雰囲気が明らかに違う)

 

一方は圧倒的覇気を。

 

(おかしいですね、闘争心を感じない?)

 

一方は違和感を。

 

「鳴海選手、お題は決まってますね?」

 

しかし、それも一瞬。

アナウンスの声ですぐにお互い思考を切り替える。

 

「もちろん」

 

「では、お題発表をお願いします」

 

(まず間違いなく和食でくるはず。問題は和食のなにを選んでくるかですね)

 

ローゼがあらゆる和食を想定しているように、会場もまた同じようなことを考えていた。

 

「お題はハンバーグ」

 

「えっ?」

 

しかし、答えは洋食。

 

ザワザワ・・・

 

その予想外の答えに会場がどよめく。

 

「ほ、ほんとにハンバーグでよろしいですか?鳴海選手」

 

「はい、いいです」(というより今の俺にはこれしかない)

 

答える優の表情はどことなくあきらめてるように見える。

 

「さぁ、始めましょうか」

 

しかし、ローゼを見据える瞳には確かな意志がこもっていた。

 

「不思議な人」

 

「?」

 

「気にしないでください、独り言です」

 

ローゼは踵を返し、自身の調理場へと戻る。

それに続き、優も首を傾げながら戻る。

 

「両者、配置に着きました。では、改めて開始のアナウンスをさせていただきます。お題はハンバーグ、制限時間は1時間。調理開始です!」

 

ゴオーン!

 

銅鑼の音と共にどちらも動き始める。

 

「さて、ついに始まりましたがこの勝負どう見ますか会長」

 

「そうねぇ、食材選びに手際の良さは鳴海君も負けてないわ。スタートダッシュに関しては互角かしらね」

 

楯無の言う通り、優は慣れない高級食材がある中で良い物を選び、ローゼに引けを取らない速度で下準備をしていっている。

 

「でも、洋食のプロであるローゼさん相手にこのままでは鳴海君に勝ち目はないと思うわ。この勝負、鳴海君がどのような工夫を施すかが見所かしら」(まぁ、いざとなったら私が優君に票を入れればいいのだけれど。こんな裏技みたいな抜け穴で彼の頑張りを台無しにしたくないし)

 

「なるほど、鳴海選手の動きに注目ですね」

 

コメントとは裏腹に優を勝たせる算段を考えている。

許可せざる得なかっただけで彼女自身は納得していないようだった。

 

「フッ」

 

そしてその横、審査員席中央にいる元凶が鼻で笑う。

 

「あら?なにかおかしかったかしら天馬君」

 

「あぁ、おかしい。奴の工夫が見所?面白い冗談だ」

 

「では、天馬君は鳴海選手の工夫が見所ではないと?」

 

「当然だ。大体この勝負の勝敗に奴の実力は直結していない」

 

ピクリと楯無の眉が上がる。

 

「と、いいますと?」

 

「一票入れば奴の勝ち。つまり奴を贔屓する者が一人でもいればいいんだからな。例えば、この企画を良く思ってない奴とか・・・な?」

 

(この子、そこまでわかっていながら私を審査員に入れたの?一体何を考えているの?)

 

表情には出さないものの疑問の眼差しを向けてしまう。

 

「ええっと、それですと企画が破綻してるのでは?」

 

「破綻?勘違いするな、それすら企画通りだ。贔屓目を超えた圧倒的勝利のためのな。その点、今回は運がいい。選ばれたのは担任に奴の仲間。ククッ、私情など至高の皿の前では無力と知るがいい!」

 

「・・・つまり、天馬君はローゼさんの品こそ見所と言いたいわけですね。なるほどすばらしい信頼関係です!」

 

「ぶーぶー、なるみんだって負けないぐらい美味しい料理つくってくれるもん」

 

言いたい放題な零士に対し本音が割り込んでいく。

割り込む時点でいつもの零士ならば激昂するのだが・・・

 

「確かに奴の腕はいい。望むならそれ相応の役職を与え、俺様が雇ってやってもいいぐらいにはな」

 

かえってきたのは意外な答えだった。

 

「えっ!?それってすごくない?お店持てるの?」

 

「与えてやってもいいが、そもそも望んでくるたまでもあるまい」

 

フンっ、と鼻を鳴らし優を見定める。

 

「あれだけローゼさんを推してたのに結構鳴海君のこと評価してるのね」

 

「俺様は事実しか言わん。奴の評価も、この勝負の結果もな」

 

「なるほどね。認めはするけどあくまでもさっきの言葉は覆らないってわけね」

 

「当然だ、ローゼは世界一になる料理人だからな」

 

楯無に向かい零士はふんぞり返るわけでも誇張するわけでもなく、ただ当然のように言い放った。

それはまるで息を吸うように自然な姿。

その瞬間だけはプライドや自尊心といったものが消え去っていた。

 

「───」

 

流石の楯無もこれには驚きが表情にでた。

 

(なによ、憎たらしくない顔もできるじゃない)

 

少し、ほんの少しだけ楯無の中で零士の評価が変わった。

 

「・・・素晴らしい。ほんとに素晴らしい信頼関係ここにあり!といった所でしょうか。私、俄然ローゼさんの皿が気になってまいりました。織斑先生はいかがでしょう?」

 

司会からまだコメントしてない千冬へ会話が流れる。

 

「・・・」

 

しかし、千冬は特設キッチンを見つめており、反応が返ってこない。

 

「織斑先生?」

 

「ん?あぁ、すまない。聞いてなかった」

 

二回目でようやく反応を返す千冬。

 

「ええっと、織斑先生はどのようにこの勝負見ておられるか聞きたいのですが...」

 

「どう見ているか・・・そうだな、私は専門的な知識は持ち合わせていないから正確なことは言えん。それでもただ一つ言えるとすれば、料理は心ということぐらいか」

 

「心ですか?」

 

「あぁ、如何に食べる側のことを考え寄り添えるか。それが料理だと私は教わった。この二人、味はもちろん申し分ないものをだすだろう。だから勝敗を分けるのは心だと私は考える」

 

「つまり、愛情ということでしょうか」

 

「まぁ、そんなところだ。・・・こんなコメントで大丈夫か?」

 

「はい、ありがとうございました!では、料理対決の実況に戻りたいと思います!」

 

カメラが審査員席から離れ、キッチンを映しに向かう。

そのタイミングで楯無が千冬に話しかける。

 

「珍しいですね。織斑先生がそこまで夢中になられるなんて」

 

「夢中?・・・まぁ、そうかもしれんな」

 

そう言う千冬の目はどこか懐かしむようで優しかった。

 

(なんか今日は人の意外な一面を見ることが多いわね...)

 

またもや意外な表情を見て少々驚く楯無。

 

「更識、そんなに私がおかしいか?」

 

「あっ、いえいえ!少し意外だっただけです」(顔に出てた...)

 

さすがの楯無も千冬相手にはたじろいでしまう。

 

「えっと、決して悪い意味ではなくてですね・・・なんといいますか織斑先生ではなく、織斑千冬さんとしての一面が見れた、と言えばいいでしょうか?ともかくあまり見ない表情でしたので…」

 

「ふふっ、少々意地が悪かった。更識、そう硬くなるな。私は別に怒ってなどいないよ。ただ、ちょっと年相応の小娘の反応が見たくてな?」

 

「・・・意外です」

 

今度は少し脹れながら呟く。

 

「ははっ、そうだろうな。私自身でさえ、少し驚いているんだ。自分ではそんなつもり無かったのに、自然と顔に出ていたらしいからな」

 

笑いながらもどこか自分に呆れる千冬の姿はまたもや珍しいものだ。

こうなってくるとその原因が詳しく知りたくなったりする。

 

「なにがそんなに気になっていらっしゃるんですか?」

 

「知りたいか?」

 

「知りたいです」

 

「秘密だ」

 

フッ、と意地の悪い微笑みを楯無にすると千冬はキ再びッチンに顔を向けた。

 

(さすがに言えんよ…)

 

千冬の目には瓜二つの動きをする者の背に懐かしき姿が重なっていた。

それが嬉しいのか悲しいのか、千冬自身にも分かってはおらず、只只、懐かしさが込み上げるだけだった。

 

 

「調理終了ー!」

 

開始から一時間。

調理時間を終えるアナウンスが入り、実食に移っていく。

 

「先に審査を受けるのは鳴海選手のハンバーグです!どのようなハンバーグなのでしょうか?」

 

「至ってシンプルなハンバーグさ。名前を付けるとしたら鳴海ハンバーグってとこかな。召し上がれ」

 

優の一言で審査員の手が進み始める。

 

「ナイフがすーっと入っていくし、焼き加減は完璧ね」

 

「うっひゃ〜、すっごい肉汁が出てきた!おいしそ〜」

 

「中にゼラチンで固めたコンソメスープを入れておいたんだ。ゼラチンは肉汁を閉じ込める働きをしてくれるし、コンソメスープが熱で溶けてさらにうまみが増すって寸法さ」

 

「へぇ~、ゼラチンってハンバーグに使えるんだ~」パクッ

 

ハンバーグを一口食べた瞬間、本音の瞳が輝く。

 

「おいっしい~!なにこれなにこれ!?ご飯が進むね~」

 

続いて他の者たちもハンバーグを口に運んでいく。

 

「ほぅ・・・」

 

「ぱっと見ただの庶民派ハンバーグなのだけれど、口に含むと一変。味の深みは専門店に匹敵するわ。どうやってここまでの深みを?」

 

「コンソメスープだ」

 

「コンソメスープですか?先ほど鳴海選手が入れたとは言ってましたが・・・」

 

「ただのコンソメスープではなく、このハンバーグ用に作った特製のものだ。それがこの味の深さを出しているんだ」

 

「ご明察」

 

「織斑先生すっご~い」

 

「なに、ただこれと同じ作り方をする奴を知っていただけだ」

 

そう言うと千冬は優に目配せをする。

それに対し、優の眉がピクリと動くのを千冬は見逃さなかった。

 

「天馬君、さすがにこれは予想外だったんじゃない?」(この分なら私が票を入れなくても一票入りそうね)

 

「確かに評価を改めるべきかもしれん。正直、洋食を選んだ時点で期待してなかったんだが、このレベルを出してくるとは驚きだ」

 

話を振られると、嬉しそうに零士は喋りだした。

 

「だが、それでこそ前菜になるというもの!つまらん料理に勝っても意味がないからな」

 

優の皿を食してもなお零士の自信は揺るがない。

 

「またしても堂々勝利宣言!対する鳴海選手の反応は?」

 

「ははは…相変わらずの自信だね。まぁ、僕の腕前がどれくらい通用するか楽しみにしておくよ。勝てると思っちゃいないけどね」(ボソッ

 

「紳士的対応!あくまでチャレンジャー精神を崩さない!私、実況ながら応援したくなってきました」

 

呟きは誰の耳にも届くことはなく、審査はローゼの皿へと移っていく。

 

「鳴海選手の庶民派ハンバーグとはうってかわり、ローゼ選手の皿は華やかに仕上がっています!」

 

「今回は一品だけでしたので盛り付けにもこだわってみました」

 

ローゼの出した皿は煮込みハンバーグ。

特製デミグラスソースの上にミルクで描かれたハートが白く映えている。

そして続いて目を引くのは添えられているパンだ。

 

「こちら〈パンで食べるハンバーグ~愛情を込めて~〉です」

 

「ハンバーグをパンで食べるの?」

 

「はい、こちらパンで食べる品となっています。日本の方にはこういった食べ方は新鮮で面白いと思いましたので」

 

「なるほど、確かに私達日本人は米で食べるのが当たり前になっている」

 

「さすがはプロです。広い視点を持っています!」

 

「パンで食べるハンバーグなんて初めてだけどどうなのかしら?」パクッ

 

まず口にしたのは楯無。

一口含んだ瞬間、その動きが止まる。

 

「会長が固まってしましました。一体どうしたのでしょう?」

 

「たっちゃん?お~い、お~い!」

 

「はっ!?こ、これは…!」

 

本音の呼びかけでようやく戻ってくる楯無。

その顔には冷や汗が浮かんでいる。

 

「気に入って頂けたようで良かったです」

 

「・・・」

 

「フッ、声も出んか」

 

「そ、そんなに美味しいの!?いただきま~す!」

 

本音達も料理を口に運ぶ。

そして一瞬固まり、頬が緩む。

 

「う、うっま~~~~!」

 

「・・・これは米パンか!?」

 

「新鮮と言っても皆さんに受け入れてもらえなければ意味はありませんので、馴染みやすい米パンも入れさせていただきました」

 

「も?ということは・・・・・こっちは野菜を練り込んでいるのね!」

 

「はい、複数の味のパンを用意しましたのでどうぞお楽しみください」

 

ローゼの用意したパンはどれも恐ろしいほどハンバーグにマッチしていた。

 

(一つの料理なのにまるでコース料理のようだわ…)

 

尚且つ、まるで違う料理を食べているような感覚をもたらした。

 

「ハハハハハ!さすがは俺様の料理人と褒めてやりたいところだ。期待通り、いや、それ以上だ」

 

「そんな!?私には勿体なきお言葉です…!」(あぁ…もう死んでもいい…!)

 

気絶しそうなローゼを尻目についに審査結果へと進む。

 

「それでは審査員の皆さん、お手元のボタンで投票をお願いします」

 

「フッ、結果は決まっている」

 

ごめん優君

 

「うう~ん…こっち!」

 

「・・・」

 

各々が投票を終えていく。

 

「投票が完了しました。結果は中央モニターに表示されます。さぁ、どちらが勝利するのか!結果は・・・こちら!」

 

ローゼ:3

鳴海 :1

 

「なにぃ?」

 

「こ、これはー!勝ったのは鳴海選手!鳴海選手です!」

 

うっそーん…」(勝っちゃたよ)

 

表情に出さないが結果に一番驚いているのは優だった。

 

「ええっと、鳴海選手に票を入れたのは・・・」

 

「私だ」

 

モニターの映像が千冬を映すものに変わる。

 

「なぜ奴に票を入れた?圧倒的にレベルが違ったはずだ」

 

零士の言葉の中に僅かな怒りが籠もる。

 

「ふっ、何故入れたか?簡単なことだ。私の口にはこちらの皿の方が合っただけだ」

 

しかし、そんな怒りなどものともせず千冬はさらりと言いのける。

 

「確かに美味さで言えば差は明らかだった。だが、この料理勝負は美味さを競うものとは一言も聞いていない。だから私は心が惹かれたこちらの皿に票を入れた。文句あるまい?」

 

その言葉に衝撃を受けているのは楯無と本音だ。

二人とも優を勝たせてやりたいという気持ちはあった。

しかし、ローゼの皿は本当にその私情を挟み込めないほどのものだったのだ。

 

(織斑先生にとってこの皿は一体なんだというの!?)

 

票を入れられなかった者と入れられた者の差に楯無はほんの少し嫉妬してしまう。

 

「クッ、クハハハハハ!」

 

何がおかしいのか零士は高笑いをする。

その表情には先ほどまでの疑問と僅かな怒りはない。

 

「なるほどな、好みか。ローゼ、恐らく無意識だろうがちと俺様の好みに寄せすぎたようだな。その味はどうやら庶民には理解できなかったらしい」

 

そして楽しそうにローゼに喋りかける。

 

「申し訳ございません!零士様の名に泥を塗ってしまい…!どのような罰でもお与え下さい」

 

対してローゼは膝を着き、(こうべ)を深く垂れている。

これには会場のほとんどが引く。

 

「罰?何を言っている。俺様は上機嫌だ。なにせ、お前の料理にはまだまだ先があることがわかったのだからな」

 

「しかし、勝負には負けてしまいました…」

 

「なんだそんなこと気にしているのか?そんなもの大した問題ではない。もとよりお前が勝っても奴を引き入れる気などなかった」

 

《ええぇぇ!?》

 

まさかの発言に会場がどよめいた。

 

「俺様は無理ゲーが一番嫌いだからな。所詮エキシビションだ。どうだ、楽しめたであろう?フハハハハハ!」

 

「・・・」(この勝負、時間の無駄じゃん…)

 

会場は呆気にとられ、優は死んだ顔で呆れた。

 

「そんなことよりローゼよ。これからも俺様の舌を唸らせる料理を期待しているぞ」

 

「れ、零士様…!ありがたきお言葉です!」

 

そして二人だけの世界に入っていく。

 

「・・・あのー、進めてもよろしいでしょうか?」

 

「許す!」

 

「はい、許可も出ましたので表彰式に移りたいと思います」

 

その後の表彰式で優は無所属を認められ、零士から金一封を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表彰式を終え、新聞部の取材を撒き、ようやっとちーちゃんと話せる。

まぁ、さっきの料理対決の時にちーちゃんが言いたいことは大体わかった・・・と思う。

 

「お待たせしました、織斑先生」

 

「いや、呼び出したのはこちらだから気にするな」

 

「それで話というのはなんですか?」

 

「ふっ、わかっているだろう?お前の師匠についてだ」

 

(あぁ、やっぱそうなっちゃうか…)

 

料理対決で俺は(雄二)の動きをせざるおえなかった。

小さかった一夏や箒は正確に覚えていなくても、ちーちゃんはわかっちゃうよな…

 

「以前から薄々思うときはあったが剣道部との試合と先ほどの料理対決で確信した。鳴海、お前の師匠は暮見雄二だな?」

 

うん、どうやら以前からへまをしてたみたいだ…

なんかしたっけ俺…?

 

「・・・もう隠せませんね。確かに僕はあの人の技を使えます」

 

嘘はついてない。

俺は俺の技を使えるからね!

 

「やはりそうか…」

 

「織斑先生、このことは―――」

 

「わかっている、他の者には黙っておく。あいつは特殊な立場だったからな。大方あいつに口止めされているんだろう」

 

政府のくそみたいな対応が役立つ日が来るとは皮肉だな…

とりあえず今はうなずいておくのがいいだろう。

 

コクリ

 

「私はあいつの弟子であるお前に伝えないといけないことがある。あいつは・・・雄二は、亡くなっている」

 

「———」

 

・・・あっ、そっか!

鳴海優じゃ暮見雄二が死んだかなんて知るはずもない。

そんなこと考えたことなかったから一瞬固まってしまった…

あー、やばいな。どう反応しよう?

 

「突然のことで驚く気持ちもわかる。辛いことを言ってしまってすまん…攻めてくれてもかまわない」

 

どうやら反応できなかったのがいい感じに作用しているようだ。

うん、なんかこうもすれ違うのって久しぶりだ。

まぁ、流れを生かすか。

 

「いえ、攻めるなんてとんでもないです。突然のことで驚きましたが知れてよかったと思ってます。知らないまま過ごすよりよっぽどマシです。僕もうすうすそんな気はしてましたしね…」

 

・・・ひどい茶番だな…

 

「ですからそんな顔しないでください」

 

覚悟はしていたはずだ…

 

「そうか…そう言ってもらえると助かる」

 

俺がやることは彼女を悲しませると分かっていたはず…

 

「だから・・・いつものシャキッとした顔してくださいよ・・・」

 

だというのにどうしてこんなにも胸が締め付けられるんだ…!

 

(この甘さは命取りになる…)

 

捨てろ…捨てるんだ…!

こんな甘さ―――

 

「ッ‼」

 

「いいんだ、心を殺さなくてもいいんだ…」

 

やめてくれ…

抱きしめながらそんなこと言わないでくれ…

俺なんかより君の方がよっぽど殺してるじゃないか…

 

「・・・・ちきしょうちきしょう‼…」

 

泣かないと決めていたのに…

泣く資格なんて俺にはないのに…

どうして・・・どうして俺はこんなにも弱いんだ…!

 

 

「・・・もう、大丈夫です」

 

「そうか」

 

俺を包んでいた温もりが離れていく。

どれくらい時間が経っただろう?

ひどく長い時間こうしていたような気がするし、ほんの数分だったかもしれない。

 

「ありがとうございました…」

 

「気にするな、私がそうしてやりたかった。それだけだ」

 

はぁ・・・敵わないな、ちーちゃんには。

 

「それに礼を言いたいのは私の方だ」

 

「えっ?」

 

「あの味をもう一度味わえるとは思ってなかった。私にとっては夢のような時間をもらった。本当に感謝している」

 

「———!」

 

・・・そうか、一夏と箒が泣いた理由がようやっとわかった。

俺の料理はそれほどお前たちの深いところに届いていたんだな…

 

「できれば一夏や箒達にも食べさせてやってくれ」

 

「・・・機会があれば喜んで」

 

「すまないな、迷惑をかける」

 

「いえ…」

 

「・・・っと、もうこんな時間か。仕事に戻らなければいけないな。鳴海、疲れているのに時間を取らせてしまったな。今日はもう帰って休むといい」

 

そういってちーちゃんは校舎へと向かって行った。

俺はその背中を見えなくなるまで見つめ続けた。

 

(あぁ…こんなにも痛むなら心なんてなくなればいいのに…)

 

俺はいつか君を倒さなくてはいけないんだ…

 

 

ちーちゃんとの会話から少しして部屋に戻ろうと寮に帰って来たのだが・・・

 

(なんだってあの人がここにいるんだ?)

 

俺の部屋の前に珍しい人物が立っている。

あっ、こっちに気づいた。

 

「鳴海様、探しておりました。といっても見つからなかったので失礼ながら部屋の前で待たせてもらったのですが」

 

「珍しいですね、キルヒナーさんが天馬のそばを離れるなんて」

 

というかローゼさんが訪ねてくる理由がわからない。

 

「はい、少し込み入った話なので。お部屋に上がっても?」

 

「まぁ、別にいいですけど」

 

・・・まじでわからん。

けど、なんか重要そうだし断れんな…

 

部屋に上がるとローゼさんがとんでもないことを言い出した。

 

「単刀直入にお聞きします。鳴海様、味覚になんらかの異常が起きてますね?」




※料理パートは割とノリと勢いだけで書いてるので鵜呑みにせんでくだしぃ
 (ゼラチンはほんとに肉汁増すし、コンソメおすすめ)
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