「どうしてあんなことをしたんだい?」
今は雄二君を囲むように他の先生方や看護師たちがたっている。
そのなかで担当医である私は代表して彼に質問を投げかける。雄二君はさっきまで自殺しようとしていた。
なんとか取り押さえるのが間に合ったがあと一瞬でも遅かったならば間に合わなかっただろう。
「・・・別に…死んでみようと思っただけです…」
彼はこちらに目を向けることもなく、うつむいたまま答える。
換気をしてしばらく経つがいまだに病室には酸っぱいにおいが微かにする。
それほどの量彼は嘔吐し、自殺しようとした。
死んでみようと思った。それだけで事態はここまで深刻にはならないはずだ。
確実になにかあった。それもとてつもない何かが…
「理由はそれだけかい?」
再度、私は質問する。今の彼は今朝見た元気な姿ではなく、別人のように気力をなくしてしまっている。一体何が彼をここまで変えたのか見当もつかない。
「そうですよ・・・まぁ、意味なんてありませんでしたけどね。」
意味なんてなかった。彼はそういった。つまり、もう自殺する気はないのだろう。
それを聞き私は安心した。しかし、その言葉にそれ以上の意味が込められている気がした。
それがきっと彼が言おうとしない理由なんだと思う。
「皆さん。少し彼と二人で話させてくれないでしょうか?」
周りはざわつく。それはそうだろう。もしまた自殺しようとしたら一人では止めることが間に合わない可能性がある。それはわかっている。しかし、私は彼の今の言葉を信じたい。
そしてなによりもこんな状況では絶対に教えてもらうことはできないからだ。
「皆さんのいいたいことはわかります。ですが私を、そして彼を信じてはいただけないでしょうか。」
私がそう言うと、渋々といった感じだがみな部屋を後にしてくれる。
一分もしないうちに私と雄二君の二人になった。
「何かあったんじゃないかい?」
「・・・・・」
「話してもらえないかい?」
「・・・・・」
彼は何もしゃべらない。それでも私はしゃべり続ける。
「さっきまでの君の行動は明らかに異常なものだった。一体何があったんだい?」
『異常』。その言葉を言ったとき彼の体がビクりッ、と反応した。
「別になにもありませんでした。」
彼は顔を上げてそう言った。しかしその声は震えており、顔は悲痛なものだった。
「そんな辛そうな顔でいわれても説得力ないよ。」
えっ?といって彼はテーブルの鏡を見つめる。
「教えてもらえないかい?君の辛そうな顔は見たくないんだ。」
「・・・・言っても先生にはわかりませんよ。」
「なぜそう思うんだい?」
「思うもなにもそうだからですよ。理解できる人なんてこの世にはいない。」
理解できるものはこの世にはいないと彼はいった。なぜそんなことが言い切れる?
「言ってみないとわからないじゃないか。」
「無理です。言っても無駄です。」
「理解も何も、言わないとだれだってわからないよ?」
そういった私を彼はにらみつけた。感じる視線は怒り。
「・・・・わかりました。いいですよ。無駄だってことを教えてあげます。」
にらみつけながら彼は言う。
「俺のせいで三人は死んだんです。」
何を思ったのか彼はそんなことを言った。彼の家族は自然による事故であって、誰が悪いというわけではない。
「そんなはずないだろう。あれは「事故だっていうんですよね?」・・・そうだ。」
「だから悪くない?その事故の原因が俺にあるとしたらどうです?」
そんなことはありえない。
「事故の原因は地震だ。君のせいじゃない。」
地震によって土砂崩れが起きたのだから雄二君どうこうの問題じゃない。
「だから、その地震が起こったのが俺のせいだって言ってるんですよ。」
今度こそ彼が何を言っているのかわからない。彼が地震の原因?
「ね?だから言ったでしょ。聞けて満足ですか?でしたらどっか行ってください。」
わたしが考えていると彼はそういい、布団に入って横になった。
どうやらもう話す気はないらしい。
こうなってしまってはこれ以上は無理だろう。
「君を一人にはできないから代わりの先生が来るまではいるね…」
しばらくするとほかの先生がやってきたため代わりを頼み、私は部屋を後にした。
★
(何してるんだ…俺は…)
横になって思う。先生は心配して言ってくれてるのに俺は…
自己嫌悪におそわれる。
「君を一人にはできないから代わりの先生が来るまではいるね…」
先生はそう言うとそれから何も言わなかった。
(先生…すいません。)
俺は心の中で届くはずのない謝罪をした。
★
数日後、俺は病室で弁護士さんの話を聞いていた。
「駄目ね。あなたの親戚に片っ端から連絡をつけてるけど引き取りに関しては頑なに拒否。まったく、とんだ親戚ね。」
内容は俺の引き取り先についてだ。
誰も俺を引き取りたがらないらしい。大方、俺のとこに来た誰かが親戚中に言いふらしたんだろう。実はここ数日、金目的と思われる親戚が何人か来たが全員無視してにらみつけたし、病院内では急に自殺しようとした頭のおかしいガキという事実も出回っていてここに来た親戚の耳にも入っただろう。
そんなガキを誰が引き取りたいと思う?
「ご迷惑おかけしてすいません。俺のことはもう気にしなくていいですよ。」
「雄二君・・・」
弁護士さんは悲しそうにこちらを見てくる。同情とか憐れみといった感情ではない。
本気で心配してくれているのだろう。ほんとにいい人だ。こりゃあ、父さんが信頼を置くのも納得だ。
だからこそこれ以上迷惑はかけたくない。
「俺は大丈夫ですよ。それに父さんや母さんを嫌っているやつのところ行くよりも施設に行った方がましですから。」
俺は精一杯笑って言う。
「雄二君もしよかったら、わt『ガラガラ』
弁護士さんの言葉を遮るように扉が開かれた。
そこに立っていたのは見るからに厳しそうな男性だった。
恐らく連絡のいってない親戚なのだろう。
「私は邪魔になりそうね。」
気を遣って弁護士さんは退室していく。それと入れ替わるように男性が俺の近くに来る。
改めて近くで見ると威圧感を感じる。
(めんどそうな人だな。どうやって帰らせるか。)
そんなことを考えていると男性が口を開いた。
「こんにちわ。私の名は篠ノ之 柳韻(しののの りゅういん)。君の遠い親戚にあたるものだ。」
それがこれから俺の人生を大きく変えることになる男との出会いだった。
やったね!原作キャラだよ!(震え声)