ザ・デビルマン 不動明と緑谷出久 ダークヒーローと正統派ヒーロー   作:たきざわかい

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OP曲 アンセム「Show Must Go On! 」


デビルマン

雑居ビルに囲まれた路地裏に女の悲鳴が轟いた。

袋小路に追い詰められ、怯えたネズミのように身を縮める女の姿。

 

女を追い詰めたサラリーマン風の男が、網膜上に充血した両眼を女の肢体に向けて、舌なめずりをしてみせる。

 

柔らかそうな肌をした女だ。

好色な連中ならば、一度は味わって見たいと思うだろう。

 

「へへ、美味そうな肉だ……」

 

女の首筋を撫でる男の生臭い息。

男が女の両腕を壁に押さえつける。

 

「いやあっ、放してっ」

女は大声で叫んだ。

 

「ひひ、放せと言われて放すバカはいねえぜ。諦めなよ」

男の灰色に濁った瞳が、恐怖に震える女を凝視する。

 

 

それは獲物を嬲る野獣の眼つきそのものだ。

 

「やめておけ」

突然、暗がりから少年が現れた。

 

「……獲物が二匹に増えたァ、ひゃひゃ、腹一杯食えそうだァ」

男が女から少年へと視線を移す。

 

「もう一度いう。その女を解放しろ」

再度、少年は男に告げた。

 

「……まずはテメエから食うか。その後でこのアマはゆっくりと頭から貪ってやる」

 

首筋に手刀を叩き込んで、男は女を昏倒させた。

そのまま、男が少年へと向き合う。

 

真っ赤な舌で男が己の指先をベロベロと舐めまわす。その眼には狂気の光が宿っていた。

 

そのままゆっくりと、男の唇が引き裂けるように捲れあがった。

男の開かれた口腔内から見えるのは、血に飢えた鋭い牙だ。

 

「全く良い時代になったもんだぜ、なんせ……人間どもが食い放題だからなァッ」

 

突然、男の身体が内部から引き裂けたかと思うと、異形とも言うべき存在が現れた。

袋小路一帯に充満する妖気と腐った血の臭気。

 

真っ赤な眼を爛々と輝かせた人型の爬虫類。

肉体を覆う鱗を蠢かせ、怪物が少年へと飛びかかる。

 

少年の頭上目掛けて振り下ろされる鋼鉄すら引き裂く鋭い爪の一撃──だが、少年はその怪物の腕を素早く掴んでいた。

「……地獄へ帰れ、デーモンッ」

 

少年の放った貫手が、怪物の脇腹へとめり込んだ。

「な、な……」

 

半ばまでめり込んだ腕を怪物の臓物ごと引き抜く。

 

同時に怪物のこめかみにフックを叩き込んだ。

砕け散る怪物の頭骨、鮮血が脳漿とともに吹き飛ぶ。

 

息絶えたデーモンを見下ろし、掌を振りかざす少年──怪物の死骸が見る見る内に掌へと吸収されていく。

 

少年は気を失っている女に視線を移すと、表通りへと運んでいった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「明君、一緒に帰ろうよっ」

緑谷出久が明の声をかける。

 

「お、出久か。いいぜ」

 

明と出久が肩を並べて表通りへと出る。

「なあ、出久。途中で喫茶に寄っていかないか。コーヒー位なら奢るぜ」

 

「へへ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 

喫茶<マディウォーター>は明の母方の叔母が経営している店だ。

店内にはいつもブルースが流れている。

 

店の広さは十五坪ほどだ。

「この曲はロバート・ジョンソンだっけ」

 

「ああ、ミー・アンド・ザ・デビル・ブルースだな」

明がブラックコーヒーを啜りながら言う。

 

「俺と悪魔のブルースかあ、カッコイイなあ」

 

角砂糖を三つほどコーヒーカップの中に落とし、出久がスプーンで掻き回す。

「そういえば出久、雄英高校のヒーロー科受けるんだってな」

 

「ああ、うん……そういえば明君はどこ受けるの?」

 

「俺はどこでもいいんだけど、叔父さんが駄目元で雄英高校のヒーロー科受けてみろって言うんだよな」

 

「へえ、明君もか。うん、明君なら絶対に受かるよっ」

 

「あれは叔父さんが俺をからかってんだよ。本心じゃ、普通科受かれば儲け物だって思ってるはずさ」

「そんなことないってっ、明君なら絶対に受かるよっ」

 

「はは、それよりもコーヒーのお代わりどうだ?」

 

「ん、じゃあ、もう一杯貰おうかな。ここのコーヒーって香りが良くて美味しいんだよね」

そう言うと、出久は朗らかな微笑みを浮かべた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

今日も盛り場を彷徨う。野良犬のように。

ジーンズのポケットに両手を差し込み、背中を丸めて。

 

口に咥えたラッキーストライク、どこにでも見かける、否、今時見かけないオールドな不良少年。

 

それが今の明の姿だ。

どこの雑居ビルもキャバクラ、ヘルス、ゲイバー、新興宗教団体で埋め尽くされている。

 

ここは掃き溜めだ。社会から爪弾きにされた者達の。

 

「そこの坊や、寄ってらっしゃいな」

 

店先に立っていた女が明に呼びかけた。

無言で明が女に視線を向ける。

 

「金ならないぜ」

 

「お金なんていらないわ。ううん、お店に来たらお姉さんがお小遣いあげるわよ」

 

明は黙って頷くと、女について行った。

 

薄暗い照明の店内、ボックス席には南国の観葉植物が置かれていた。

辺りに漂う甘ったるい香りが、明の思考を鈍らせる。

 

何かのハーブのようだ。

 

「あなた、一目見た時から気に入ったわ。その荒々しい雰囲気、そして……ああ、そして、何よりも眼がいいわ。

まるで、血に飢えた獰猛な獣みたい。獲物を探して回る獣の目、あなた、良いヴィランになりそうね」

 

女が明の股間に手を這わせ、身体を密着させてくる。

 

混じり合う体温、微かに立ち上る汗の匂い。

 

「ああ、なんて良い身体……こんな官能的でセクシーな少年、見たことがないわ……ああ、たまらない……坊やの身体には冷たい血が流れているのね」

 

明の首筋に舌先をつけ、女が舐めまわす。

 

明は拒否することもなく女にされるがままだった。

だが、その表情は先刻から変わらない。

 

 

「いいわ……女には慣れているってわけね……坊やの初めてを貰った人が羨ましいわ……」

 

明から身体を離し、女が豊かに実った胸元の間から小さなパッケージを取り出す。

 

「……そいつは新種のドラッグか?」

 

「ふふ、これはデーモンブラッド、最高にハイな気分になれるわ」

 

真紅の液体カプセルを差し出し、女が言う。

 

「さあ、お飲みなさいな。これを飲めば、坊やは生まれ変わることができるわ。人間以上の存在にね」

 

女から受け取ったカプセルをジッと見つめる明、女が飲めと急かす。

だが、明はカプセルを握り潰した。

 

「こんなもの俺は飲まん。それよりも貴様、デーモンだろう?」

 

「あら、正体がバレていたのね。どこのヒーロー事務所の犬かしら。まあ、いいわ。それなら殺すだけよ」

女の身体が変形していく。メタモルフォーゼ現象だ。

 

肌から滲み出す灰色の粘液が、女を溶かし飲み込んでいく。

 

「さあ、楽しみましょう、坊や……」

 

身長三メートルに達する巨大な蜘蛛、それがこの女の正体だった。

 

 

黄色い複眼が一斉に明を注視する。

 

「ふん……大グモのゲルダか」

 

「あら、私の名前を知っているのね。誰から聞いたのかしら」

 

「貴様こそ俺が誰だかわかっているのか」

 

明もまた、メタモルフォーゼを起こす。

膨張する筋肉と骨格に明の皮膚が裂けていく。

 

鮮血に塗れながら変化していく明の肉体。

背中の肉を突き破る蝙蝠の羽、めくれ上がる口元、鋭い牙と爪、四肢に密集する剛毛、そこには一匹の猛獣が佇んでいた。

 

 

「な、何故……デーモン族最強の勇者アモンがここに……」

 

後ずさる巨大蜘蛛、その表情には恐怖の色が染み付いている。

有無を言わさず、明は手刀で巨大蜘蛛を真っ二つに裂いた。

 

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