夜更かし鯨は今日を行く。   作:歩芽

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二つとも前々から大好きだった作品なのですが、
アニメやら原作やらを見ていて堪えきれなくなり混ぜてしまいました。見切り発車気味です。
逢魔ヶ刻動物園側の登場人物(特に伊佐奈)の設定をかなり捏造しております。
逢魔ヶ刻動物園の設定を生かしつつヒロアカの世界観に落とし込んでいければと思います。

よろしくお願いします。


第1話 夜更かし鯨の常日頃。

“個性”

 

中国で生まれた光る赤ん坊に始まり、

現代に至っては殆どの人が有する超常能力。

 

個人個人に備わった個性は多種多様で、

遺伝によって受け継がれていくことは判明しているが、それでもまだ謎多き力…………

 

個性の存在に順応していった人々と共に、

架空は現実と成り、

非日常は日常へと変わっていった。

 

一昔前ならファンタジーでしかない世界が当たり前になっているのが、今の時代なのである。

 

 

……まあ、小さい頃から個性を持っている上、

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を日常的に目の当たりにしていて、架空や非日常の世界が当たり前のように生活の一部として在った私にとっては、今さらなことではあるのだが。

 

つらつらと様々な考察が並べ立てられている『個性の歴史とその実態』と題された本を、半分寝ている頭で流し読みしながら、ぼんやりとそんなことを思う。

 

ここは『丑三ッ時水族館』……の中にある私、鯨井 美奈面(クジライ ミナモ)の自室。

 

叔父であり数年前に両親を亡くして以降私の保護者でもある鯨井 伊佐奈(クジライ イサナ)さんがこの水族館の館長をしており、この水族館は彼と私の居住地なのだ。

 

時刻は午前2時に差し掛かろうかという時間。

ナイトアクアリウムを売りにしている丑三ッ時水族館としては漸くお客様へのサービスが終わろうかという時間である。

明日(というかもう今日かな?)が休みということもあり、なかなかの盛況具合だ。

 

丁度最終回のショーがフィナーレを迎えたのか、一際大きな歓声が館内に響いた。

 

こんな時間でもお客様方の心底楽しげな声が聞こえる素敵な場所なんて、きっとここ以外にはないのだろう。

読みかけの本を閉じ、半分寝ていた頭を覚醒させお客様方の声に耳を傾ける。

どうやら今日のショーも大成功だったようだ。

 

少し意識して感覚を研ぎ澄ませれば、この水族館に所属する殆どの生物が受信できる特性とも言うべき個性の一部、反響定位(エコーロケーション)を利用した通信手段で館員たちが指示を飛ばし合い、ショーの成功を喜ぶ声が伝わってくる。

 

父から受け継いだ“鯨”の個性も持つ私にとっては、水族館内で行われている反響定位の詳細を読み取ることなど造作もない。

 

あ、イッカクさんがまーた騒いでる、

……カイゾウさんも? 御老体元気だなー、

あららデビさんテンションMAXなあの二人の相手とか、貧乏クジ引いちゃったみたいね……かーわいそ。

 

他の人への反響定位を勝手に感じ取ってしまっているわけなので盗み聞きにも近いことではあるのたが、なかなかどうして、楽しげな声を聞くのが楽しくてやめられない……

……時たま聞こえる疲れきった声は聞かなかったことにしよう、ごめんねデビさん、私、自分の精神衛生が大事なの。

 

そんなふうに皆の声に合わせ鼻唄を歌っていると、見知った気配が部屋に近付いてきた。

 

まだ距離はあるな、こんな時間にどうしたんだろ?

 

そう思いつつ軽く身支度して先回りしてドアを開け気配のした方に目を向けると、驚いた様子のシャチの異形……

ギャングオルカというヒーローとして世間には知られている、元丑三ッ時水族館幹部・サカマタさんがそこに居た。

 

「すまない、起こしたか?」

 

「ううん、起きてたの……何かあったの? サカマタさん」

 

「仕事帰りに寄ったらでら人使いの荒いお前の叔父に駆り出されてな……館長室に来いだと」

 

「んん? 私、何かやらかしたかしら……」

 

「大方、進路のことじゃないのか?」

 

「あ、そっか、少しまとまった時間作ってくれるよう何日か前に頼んでたの、覚えててくれたんだ」

 

そんな会話をしつつ二人で館長室の方向へ歩き出す。

 

でも休日とはいえこんな時間ってどうなの?

忙しい保護者を持つとこういう相談しにくくって大変。

と小さく不満を口にすれば、あいつも多忙だからな、と苦笑したサカマタさんに乱雑に頭を撫でられた。

 

撫でれば誤魔化されると思いやがって、誤魔化されちゃうことが多いから否定できないのが悔しいけれど。

 

「ヒーロー科志望だろう? 雄英か?」

 

「そりゃまあ、ヒーロー目指すならあそこ目指すべきでしょう? 他とは格が違うもの」

 

何せ天下の国立高校な上に数々の有名優秀なヒーローを輩出しているのだ、倍率や偏差値は以上に高いが目指す価値があるというものだろう。

 

「それに、サカマタさんたちのことを理解して助けてくださった根津先生がいらっしゃるからね」

 

個性“ハイスペック”をもった鼠である、雄英高校校長の根津先生とは祖母が旧知の仲であったがゆえに、色々と良くしてもらっていると言うのも理由の一つだ。

 

サカマタさんが無事にヒーロー免許を取れたのも彼の力が大きく作用したことは間違いない。

戸籍だの個性届けだのなんだのと、日本の現代社会はなかなかに面倒なことが多いからね。

 

「確かに恩義は感じているが……美奈面、お前がそれを背負う必要はないんだぞ?」

 

「私は私自身の意思でヒーローになるって決めたの、サカマタさんたちのことは感謝してるけど、理由ではないよ」

 

「だが…………」

 

言い募るサカマタさんから逃げるように数歩前に出る。

 

「小さい頃からお世話になってる、家族みたいな、お兄さんみたいな存在が、ヒーローやってて、私たちを守ってくれてるの見て、尊敬したり憧れたり志したりしないとでも思うの? サカマタおにいちゃん、なーんて」

 

素直な気持ちを言ったものの気恥ずかしくなり、態とらしく幼い頃の呼び方をしつつ振り返ってみれば、ポカンと呆けた顔のサカマタさんと目が合い、長い付き合いの中でも初めて見た表情に思わず吹き出した。

 

「っふふ、間抜け面ー、そんな顔してたらギャングオルカの名が泣くよ?」

 

「お前は本当に…………」

 

「照れた? 照れた?」

 

「でらうるさい」

 

またぐしゃりと頭を撫でられた。

あ、いやこれ違うな、顔見られたくないから押さえつけてるんだな。

行動の意味に気づき、また笑いが込み上げた。

 

「照れてるサカマタさんはでら可愛いね」

 

「まったく…………とっとと伊佐奈のところに行かないとドヤされるぞ」

 

露骨な話の反らしかたではあるが、これ以上からかうと雷が落ちそうなので素直に引く。

 

「伊佐奈さんだもの、サカマタさんに呼びに来させた時点でこのじゃれあいで時間食うのも想定内でしょ、まあ御機嫌斜めにならない内に行こっか」

 

「いや、俺はお前を呼びに来ただけだ、そもそもドーラクに用があって来たんでな、美奈面だけで行け」

 

「ふーん、今日はお泊まり?」

 

「久しぶりだからな、伊佐奈に泊まる許可はとった、急な事件がなければ明日の午後に出る予定だ」

 

「ホント? じゃあまた明日ね、時間あったらお話ししたいし聞きたいな」

 

「分かったから早く行け、伊佐奈の機嫌を損ねると面倒だ」

 

「はーい、行ってきまーす」

 

軽くサカマタさんに手を振って別れ、私は館長室へと足を進めた。

 

 

* * *

 

 

館長室に着いたのは閉館時間を少し過ぎた頃だった。

諸事情あって何回か交換したために他の部屋より少しだけ意匠が異なるドアをノックし、中の返事を待たずドアを開ける。

 

「遅い」

 

「これでもサカマタさんと戯れた後は急いできたんだよ」

 

呆れた目でこちらを見つつ緩く笑う叔父、伊佐奈さんに笑みを返しながら後ろ手にドアを閉めた。

営業時間が終わったばかりだからか、もはや伊佐奈さんのトレードマークともいえる左頭部を覆う潜水服のヘルメットもそのままだった。

 

外さないの? の意味を込めて伊佐奈さんを見つつ自分の米神を軽く指で突っつけば、ああ、と思い出したように伊佐奈さんがヘルメットをとった。

数年前までは見慣れない顔だったが、見慣れた今となっては相変わらず美人だな、と頭の片隅で思う。

 

まあ今日はそれよりも進路の話だ。

 

「時間とってくれたのにごめんなさい、でもサカマタさんに呼び出しお願いした時点でこうなるの分かってたでしょ?」

 

「まあな、取り敢えず座れ」

 

促されて来客用のソファに座る。

 

「志望校の件だが」

 

「少しだけ話してたと思うけど、雄英のヒーロー科第一志望だよ、第二で士傑」

 

遮るように話したものの特に気にする様子もなく伊佐奈さんが話を続けた。

 

「有名どころ東西か、理由は?」

 

「ネームバリューだけあって教師層がかなり厚い上に訓練設備が整ってるから、が一番の理由」

 

「ありきたりだな、他の理由」

 

もはや尋問だな、と思いつつもこれを乗り越えなければ志望校自体変更せざるを得ない可能性すらあるためとにかく頭をフル回転させ答える。

 

錯覚かもしれないが伊佐奈さんからのプレッシャーが半端ない、自然と背筋が伸びる。

息が詰まるし気を抜けば声が裏返りそうなくらいだ。

 

「大きな理由は3点、+α細々した理由がいくつかってとこかな、あと基本的に雄英志望だからそっちの志望理由が主になることは念頭に置いて欲しい」

 

目で先を促され、息を整えつつ話を続ける。

 

「まず1点、雄英に限ったことだけど、サポート科の充実性だね、他校に比べて圧倒的に設備が整ってるし、社会に出てから業績が残るレベルの活躍をしているヒーローサポーターの輩出率がかなり高い」

 

「2点目は?」

 

「体育祭による対外へのアピールが明確にできる点、ぶっちゃけ行く宛なけりゃサカマタさんがサイドキックとして拾ってくれる気はしてるし何なら初っぱなから独立だって視野に入ってるけど就職先候補は多くて損はない、ヴィランに個性知られるリスクを省みてもプラスにはなると思う」

 

「次」

 

「一年生の段階で実力を示せてごり押せれば早い段階で仮免許試験を受けてヒーロー資格の仮免を取得できる可能性が高い。すこし調べたら雄英だと過去に受験だけなら把握できる限り9例、士傑だと過去6例の前例がある……それぞれ合格者は2名と1名だったけど」

 

「なるほどな……+αってのは根津さんのことか?」

 

「仰る通り、頂点が根津先生だからほんの少しなら我儘通しやすいと思って……あと国立で学費が安い点や、偏差値が高い分通常授業もレベルの高いものが受けられる点、ここから通えるって点も理由だね」

 

一番最後の理由は私としては結構重要かな、と続ける。

 

「…………及第点ってとこか」

 

少し間があったものの認めてくれる言葉を受けて辺りの空気が一気に緩んだように感じる。

深呼吸し、短時間の問答だったにも関わらず疲れきった身体を柔らかなソファの背もたれに預けた。

 

「ギリとはいえ合格ラインは越えていたようで何より」

 

「……ヒーローになる覚悟はあるのか?」

 

「んんー? 意味が広くない? 私の中の覚悟と伊佐奈さんの中で言う覚悟、定義に大きな差があると思うけど」

 

伊佐奈さんにしては珍しく曖昧な質問にぐったりしながらそう返せば、伊佐奈さんは少し考えたあと再び口を開いた。

 

「そうだな……じゃあこう問おう、自分の命を賭して人を守る覚悟はあるのか?」

 

「ある」

 

そう答えた途端、伊佐奈さんの視線が冷たく、鋭くなるのを肌で感じ、背もたれに預けていた身体を起こして姿勢を正した。

 

「睨むことないじゃない、ヒーローってそういう仕事でしょう?」

 

「……保護者としちゃ、蛮勇を振るいかねない子供を放っておくわけにはいかないんでな」

 

「別に喜び勇んで向こう見ずに自分を犠牲にしようってわけじゃないよ? 無駄な自己犠牲はしないって誓う」

 

伊佐奈さんの眉間に皺が寄る。

美人なのに目付きはあまり宜しくないのもあってかなりの凶悪顔だ。

 

「……有意義なら、有り得るんだな」

 

疲れたように手で顔を覆い、米神を押さえた伊佐奈さんから、絞り出すような声が聞こえた。

いつものことだけど人の言葉を正確に捉えるのが上手い人だよなぁと思いつつ、そうだよ、と笑って返す。

 

「それは否定しないしできない、命懸けで他人を救うのがヒーローだし…………それに私は、自分の身を差し出すように人を救うヒーローたちをよく知ってるから、そう在りたいとどうしても思っちゃうんだ」

 

「? サカマタのことか?」

 

「サカマタさんだけじゃないよ、父さんと母さん、水族館の皆、動物園やサーカスの皆……私を可愛がってくれた皆のこと、私はヒーローだと思ってる」

 

勿論伊佐奈さんだって私のヒーローだよ、と続ければ伊佐奈さんが虚をつかれたような顔をして黙ったまま私を見つめた。

 

「……父さんと母さんが亡くなって……悲しみやら何やらで色んなもの拒絶して塞ぎ混んでた私に、手を振り払い続けた私に、皆は諦めることなく手を差し伸べ続けてくれた……私を救ってくれた」

 

丑三ッ時水族館の皆、逢魔ヶ刻動物園の皆やヤツドキサーカスの皆…………

荒んでいた私にとって、皆の手が、皆の笑顔が、どれだけ暖かくてどれほど救いだったか……教えたことがないから、きっと知らないのだろうけれど。

 

「私にとっての最高のヒーローは、“皆”なんだ」

 

周囲を拒否し攻撃すらする私に屈せず向き合い、

自分の身を差し出すようにお節介を焼き続け、

表情を忘れた私を笑わせようと趣向を凝らし、

何を言うでもなくただ傍に寄り添ってくれて、

忙しいだろう時間を削っては私に話しかけ、

不器用ながらに武骨な手で私の頭を撫でてくれた、

 

私の手を握って、大丈夫だと微笑んでくれた。

 

悲しみやら何やらで固まっていた私の心を、

少しずつ、優しく溶かしていってくれた。

仲間思いで、友人思いで、家族思いで、

 

私を救ってくれた、とっても、とっても優しい人たち。

 

「誰かにとっての“皆”になること、それが私の目標……その目標に一番近づけるのが、雄英高校に通うことだと判断した、だから志望校は雄英にした、覚悟はあるよ」

 

「……ほんとお前は、お前の母親に似てきやがって……」

 

伊佐奈さんが溜息を吐き、また米神を押さえ始める。

変なこと言った気はないんだけどなあ、と思いつつ伊佐奈さんの返答を待てば不意に立ち上がった伊佐奈さんが本棚から分厚い封筒を出してきて私の手元に置いた。

 

雄英高校への出願用の書類やパンフレットだった。

 

「覚悟は分かった、志望校は好きにしろ」

 

「! あ、ありがとう、伊佐奈さん!」

 

認められたことと、準備してくれていたこと両方に嬉しさが込み上げてくる。

 

まあまだ受かると決まったわけじゃないから油断はできない、水族館の手伝いと受験勉強と個性の訓練……しかも内申のこともあるから普通に学校には行かなきゃいけないわけで……限りある時間の中、やるべきことは山積みになのだ、スケジュール管理しっかりしないと…………

 

「遅い時間に悪かったな、取り敢えず部屋戻って早く寝ろ、おやすみ」

 

書類を握りしめて今後のことを色々考え始めていたのが分かったのだろう、ぐしゃりと強めに頭を撫でられたと思ったら居座られるのは御免だとばかりに首根っこ掴まれ立たされてそのままドアの方に押しやられた。

 

「伊佐奈さん自分勝手すぎ」

 

そう口を尖らせてみるも本人はどこ吹く風だ。

少しでもギャフンといわせてやりたい。

 

ふと先程の虚をつかれたような伊佐奈さんの顔を思いだした。

素直にドアを開けて退室すると見せかけ、出る寸前で振り返り伊佐奈さんの方を見て少しだけ大きな声で言う。

 

「おやすみなさい! マイヒーロー!」

 

言いきった直後に部屋を出てドアを閉める。

次の瞬間、

部屋の中から本だか書類だか紙の束が崩れる音がして、普段から冷静だけれども自分勝手なところのある叔父を少しは振り回せたことに言い様のない満足感を覚えた。

 

朝になったとき伊佐奈さんがどんな反応するか怖いけど、良い日になりそう。

 

そう思いつつ私はスキップ混じりに部屋に戻ったのだった。




不可解な部分や気になる部分あるかも思いますがあと2~3話使って世界観の擦り合わせ行う予定です。

ギャングオルカ贔屓が激しい?
はははだってそもそもリアルにシャチ好きな上にオーマガの時点であの好みドストライクな擬人化フォルム見せられててその方がヒーローしてたもんだからつい……
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