閃の軌跡 ー紅き若獅子達ー   作:通りすがりのぬこ様

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第3話 最初の試練1

他のみんなから少し遅れて地下へと降りてきたリデル。

 

しかし罠の先は垂直に落ちる感じではなく、とてつもなく急な坂を滑り落ちるような構造になっており、落ちたところで怪我らしい怪我はしない作りだった。

 

それでも何かしらのハプニングはあったようで………

 

地下一階へと降り立ったリデルが見たのは、不機嫌そうな金髪の女子と頬に紅葉が咲いている黒髪の男子。そんな二人の周りで苦笑いしてたり興味なさそうにしている面々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど。落ちるあの子を助けようとした拍子にあーだこーだなったと。なるほどなぁ……よし黒髪の、一発殴らせろ」

 

「ちょっと待て!なんでいきなりそうなるんだよ!」

 

「いやなんか帝国男子としていろんな意味で一発ぶちかましておくべきかなと。つーわけで殴っていいよな?」

 

「良くない!!」

 

 

 

黒髪の男子とどこか漫才のようなやり取りをしていると、どこからかピピピッと電子的な音が聞こえてきた。しかも一つではなくいくつも。

 

音のしている方に視線を持って行くと、どうやらズボンのポケットに入ってあるものから発せられてるようだ。

 

取り出してみると、それはメタリックなデザインの懐中時計のようなものだった。

 

 

 

「これは、入学案内書と一緒に送られてきた……」

 

「携帯用の導力機……」

 

(アーツ発動用の小型導力機……戦術オーブメントか)

 

『どうやら全員無事みたいね』

 

 

 

開くとすぐにその物体からサラの声が聞こえきた。

 

 

 

「この機械から?」

 

「つ、通信機能を内蔵しているのか」

 

 

 

「通信機能がある」という部分で何かを察した金髪の女子が驚きの声をあげる

 

 

 

「ま、まさかこれってーーー」

 

『ええ。エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した次世代型の戦術オーブメントの一つ。第5世代型戦術オーブメント、ARCUSよ』

 

 

 

エプスタイン財団と七耀教会が密かに手を組み、星杯騎士団の騎士達が用いる法術を機械的に再現することで生まれた導力魔法ーーー通称アーツ。

 

そんなアーツを使用する為にエプスタイン財団が開発したのが戦術オーブメントである。

 

戦術オーブメントの分野ではエプスタイン財団がほぼ独占している状況だがラインフォルト社も黙っておらず、財団との共同開発という形だが戦術オーブメントの開発に動き出している。

 

その後、サラから手元にあるARCUSという戦術オーブメントについて簡単な説明を聞いている内に、リデルは特科クラスⅦ組設立の理由を理解した。

 

 

 

(人材育成はあくまで理由の一つ。メインはこいつの試験運用ってわけか。あの人が絡んでるってことはまだ何かしらありそうだが……)

 

 

 

『それじゃぁオリエンテーリングを始める前に……各自、台座にある用意されたクォーツを戦術オーブメントにはめなさい。あと、預かってたものも返すから』

 

 

 

今いる空間を見渡すと、壁際にいくつもの台座があるのに気づく。その上には小さな箱が置いてあり、一緒に大きなバッグだったり布に包まれた物だったりが置かれている。中にはリデルが預けた物もあった。

 

 

(そういえば、校門辺りで先輩らしき人に渡したっけ。隣にちっこいのも居たけど、あの人も多分先輩なんだろうな)

 

 

 

サラの言葉通りに各々、自分の荷物が置かれている台座の前へと向かって行く。

 

 

 

(さて、この中にあるのを填めればいいんだな)

 

 

 

小さな箱を開けると、中に一回り大きいクォーツが入って居た。それを戦術オーブメントの真ん中の窪みに填める。すると、填めたクォーツが少しだけ光った。

 

 

 

『その光は君達とARCUSが共鳴・同期した証拠よ。これでめでたく、アーツが使えるようになったわね』

 

「アーツの使用方法が分からない奴以外はな」

 

 

 

アーツは基本的に剣や銃などの武器と同じく攻撃手段の一つである。

 

軍隊や警察、遊撃士などが使用するが一般市民が使うことはほぼなく、使い方を学ぶ機会もない。

 

今、この場にいる者は身分の差はあれど、半数は使い方を学ばず、使用可能になっても使えない者達だ。

 

 

 

『そこは大丈夫。今の所使えるのは5人ぐらいだし、それ以外の子達も追々勉強してもらうことになるから』

 

「アーツは戦闘において重要な要素だからな。軍人になるかならないかは別として、士官学院生として基礎は学んでおくべきか」

 

『そういうこと。さて、それじゃぁそろそろ始めるとしますか』

 

 

 

サラの言葉に反応するかのように、リデル達が今いる空間から違う空間へと繋がる扉がゴゴゴと音を立てながら開いた。

 

 

 

『そこから先はダンジョン区画になってるわ。割と広めで入り組んでるから少し迷うかもしれないけど、無事に終点までたどり着くことができれば、1階まで戻ってくることができるわ』

 

「‘無事に’ね。てことは、やばいのがいるってことか」

 

『魔獣が少しだけね。でも危険性の高くないのばかりだし、‘君’やフィーがいればまぁ問題ないでしょ』

 

 

 

遠回しにフォローを頼まれた。

 

同じく名指しされた銀髪の少女の方を見る。

 

その見た目からは想像もつかないが、罠の存在に気付き、その罠を難なく回避してみせ、さらにサラから期待されているところをみると、どうやらフィーという少女はある程度の実力を持っているらしい。

 

 

 

『それではこれより、トールズ士官学院特科クラスⅦ組の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて1階まで帰ってくること。文句があったら、その後に受け付けて上げる』

 

 

 

『それじゃぁ頑張ってねぇ』という言葉を最後に通信が切られた。

 

残されたのは、今までの流れに流され続けてまったくついていけてない10人の学生だった。

 

 

 

 

 

通信終了から数秒後。リデルの呼び声で一度扉の前で集まることになった。

 

今は全員が何かしらの武器を持っている。

 

リデルが持ってるのは火薬式の炸裂機構が付いた振動剣という剣が二本だ。

 

 

 

「……それで、これからどうするか」

 

「教官はダンジョン区画を抜けて一階まで来いっていってたけど」

 

「どうやら、冗談というわけでもなさそうね」

 

「むしろ冗談であってほしいがな。あの人ぶん殴れば済む話だから」

 

「さすがに教官を殴るのはダメだと思うんですけど……」

 

 

 

ダンジョン区画を抜けて戻ってこいとは言われたが、果たしてどうするべきか………

 

そんな空気が流れる中、付き合ってられないとばかりにユーシスが一人ダンジョン区画へと歩き始める。

 

それに気づいたマキアスが噛み付くかのように呼び止める。

 

 

 

「待ちたまえ。いきなりどこへ……まさか、一人で勝手に行くつもりか?」

 

「馴れ合うつもりがないだけだ。それとも、貴族風情と連れ立って歩きたいのか?」

 

「ぐっ!」

 

(はぁ〜。まーた始めやがったよ)

 

 

 

先ほどと同じように相手を挑発するユーシスとそれに乗ってしまうマキアス。

 

革新派と貴族派、両派閥と縁が深い二人がいがみ合った結果ーーー

 

 

 

「だっ、誰が貴族如きの助けを借りるものか!!」

 

 

 

激昂したマキアスが一人でダンジョン区画へと行ってしまった。少し遅れてユーシスも一人で歩いて行った。

 

 

 

(チッ。あのメガネ、どんだけ沸点低いんだよ……しかし、これは少しまずいな)

 

 

 

先ほどの犬猿コンビを見て何かに気づいたリデルは状況が悪くなる前に手を打たんと策を練り始める。

 

 

 

「……おい、フィーっつったか。あのさーーー」

 

 

 

言いかけた所でリデルは気づく。

 

名前を呼んだフィーの姿がどこにもないことを。

 

 

 

「……なぁ、あの銀髪どこいった?」

 

「あの二人がいがみ合ってる時に一人で歩いて行っちゃったけど」

 

 

 

明るい赤色の髪の男子の一言でリデルのストレスゲージが半分を超えた。

 

 

 

「あんのクソッタレ共……もういい。今いるメンツを2チームに分けるぞ。男子チーム3人と女子チーム3人だ。文句ないな?」

 

 

 

怒りの感情を滲み出しながら仕切り始めるリデル。彼のチーム分けにエマが疑問を投げかけた。

 

 

 

「あの、リデルさんはどうするんですか?」

 

「俺はメガネの後を追う。銀髪と貴族は大丈夫だと思うが、メガネは銃の扱いに不慣れみたいだったからな。魔獣にやられる可能性が一番高いのは多分あいつだ」

 

「なるほど。たしかにあの様子ではいささか心配だ」

 

「ああ。どうやら少し頭に血が上りやすい感じだったな」

 

「それは分かるけど、でも男子と女子に分けると女子の方が危なくないかな?」

 

「それは問題ないだろ」

 

 

 

赤茶色の髪の男子の発言をリデルは大剣を持つ青い髪の女子に目をやりながら否定した。

 

 

 

「そこのポニテのはアルゼイド流の使い手ーーー恐らくあの光の剣匠の娘だろうからな」

 

「むっ。たしかに私の父は光の剣匠と呼ばれるヴィクター・S・アルゼイドだが、よく分かったな」

 

「あんたの父親のことを知ってれば髪色と得物で察しがつく」

 

 

 

アルゼイド流という言葉に黒髪の男子が反応を示した。

 

 

 

「アルゼイド流……ヴァンダール流と並ぶ帝国の武の双璧と呼ばれる流派だな。そして光の剣匠と呼ばれるアルゼイド子爵は帝国最高の剣士として知られる。それほどの剣士を父に持つなら、たしかに女子だけでも問題はなさそうだ」

 

「だろ?それに男子チームにもそこそこ腕の立つのがいるみたいだし、現状ではこの編成が一番ベターだろう」

 

「でも、それだと一人で動くリデルさんが今いる中では一番危なくないですか?」

 

「大丈夫だ。自分で言うのもなんだが、多分これに参加させられてる面子の中で俺が一番強いから」

 

 

 

その自信ありげな発言に青い髪の女子の眉がピクリと動く。

 

 

 

「というわけで先行くから。お前らもやられんように気をつけろよ」

 

「あっ、はい。リデルさんもお気をつけて」

 

 

 

残りの6人に見送られる形でリデルもダンジョン区画に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー↓ーーー↓ーーー↓ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなと別れて数分後。石造りのように見えるダンジョンの中を歩いていると、どこから銃声が聞こえてきた。

 

 

 

(この音……フィーって奴が持ってた双銃剣じゃないな。てことは………)

 

 

 

音の発生源で何が起きているのかを察し、その場所へ向かって走り出す。

 

現場はかなり近くだったためすぐに着いた。

 

銃を撃っていたのはマキアスであり、彼の周りに羽の生えた猫のような魔獣が2匹、いくつもの石で体の周りを固めた魔獣が1匹。状況はかなり悪かった。

 

 

 

(チッ。しゃーねぇ)

 

 

 

腰の両脇にあるホルスターから振動剣を抜き、意識を切り替える。

 

走りながら一瞬だけ足に力を込め、一気に駆け出した。

 

その動きは普通の人の目には追えない速さで、5メートルの距離を一瞬で詰め、剣先で猫のような魔獣の体を切り裂いた。

 

ほぼ同時にもう一本の振動剣を2匹目に向かって投げつけた。

 

 

 

「なっ!?い、いつの間にーーー」

 

「ったく、世話かけさせんじゃねぇぞっと!」

 

 

 

マキアスのことは一旦スルーして、瞬間移動するかのように石で身を固めた丸い魔獣のそばまで来ると、振動剣が体に突き刺さった猫の魔獣めがけて蹴り飛ばす。

 

空中で激突した2匹は床に落ちてそのまま動かなくなった。

 

 

 

「はい終わりっと」

 

 

 

突然現れては一瞬で魔獣を3匹倒し、あっという間に劣勢を覆したリデルを見つめた状態でマキアスは固まっていた。

 

 

 

「うん?どした?」

 

「いや……ていうか、どうしてここに………」

 

「見るからに戦い慣れてなさそうなのが一人で突っ走ったから、そのフォローをしに」

 

「うぐっ」

 

「でもまぁ、怪我する前に合流できてよかった。もっとも、‘いらない心配だった’みたいだけどな」

 

「えっ」

 

 

 

二人がいる広めの空間から三方向に伸びる通路。内の一つ、途中で曲がる通路の先をリデルは見つめていた。

 

マキアスも視線をおって通路の方を見るが、見る限りでは何もいない。

 

 

 

「さて、とりあえずだ。まずは自己紹介というわけで。リデル・バートレットだ。よろしくな」

 

「えっと、もう知ってるとは思うが、マキアス・レーグニッツだ」

 

「よし、済んだところで簡単な説明と提案。今は貴族と銀髪以外は男子チームと女子チームに分かれて動いてる。俺としては一旦男子チームに合流しようと思うんだけど、どうする?」

 

「あ、ああ。異論はなーーー待て。女子チームってことは女子しかいないってことみたいだが、大丈夫なのか?」

 

「ああ。腕の立つのが一人いるから問題ない。というわけで行くぞ」

 

「分かった」

 

 

 

無事に合流したリデルとマキアスは男子チームと落ち合うべく歩いてきた道を戻り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、リデルが見つめた道の先、曲がり角を曲がった所ではーーー

 

 

 

 

 

(どうやら助けに入る必要はなかったみたいね)

 

 

 

 

 

手に短めの槍を持った、色黒の黒いポニーテールの女子が立っていた。先ほどの魔獣に対する一方的な虐殺に等しい現場を見ていたようだ。

 

 

 

(それにしても、気配を消していたはずなのに気付かれるなんて……あの青い髪の子、思っていた以上に出来るみたい。他にも腕の立つ子がいるみたいだし……ふふっ楽しくなりそうね)

 

 

 

小さく微笑んで、彼女は通路の向こうに広がる闇の中へと消えていった。




今回のお話の終盤で出てきたオリキャラ
あのタイミングで旧校舎地下にいるという時点でどんな立場にいるキャラかは分かるでしょう
というか、いくら元猟兵や光の剣匠の娘がいてもフォロー無しっていうのはおかしい気が
まぁゲームという形式上仕方のないことかもですが、物語的には違和感あるので出しました

てか、閃の軌跡のSS書くの楽しすぎて全然Ⅱをやっていない
Ⅲをやる前に二週目して黒の史書に目を通すぐらいはしないと

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