艦これ〜君と歩む道〜 作:双竜
潜水艦組の常識人、イムヤさんの私服ってどんな感じなんだろうか。
「そういえば、今日か。イムヤが来るの」
カレンダーの丸印を見ながら、呟く。懐かしいようで、懐かくないようで。
あの戦いが終わり、早1年が過ぎた。赤く紅葉した葉が落ちて行く季節としか、覚えていない。他の提督が次々と解任させられる中、俺はしばらく提督として国に飼いならされていた。世界を救った部隊の司令官をすぐに解任しては国民からの反感を買うとでもおもったのだろう。
ピーンポーン
チャイムがなった。予定より5分早い。艦娘を辞めたと聞いていたが、まだ艦娘だったころの癖が抜けないのか、と思うと、笑みがこぼれた。返事をし、ドアを開けに行く。
「イムヤ、いらっしゃい」
「私たちの『元』司令官、お邪魔しますね」
久しぶりに会うイムヤは、当然ながら水着ではなかった。髪は相変わらずだが、深緑のパーカーに黒の短パン、ニーソ、小さめのリュックサックといういでたちだった。
家に上がり込んだイムヤは、さも我が家のように物色し始めた。司令官時代もよくやられたから、今更文句があるわけもない。
「お茶出すからそこ座っとけ」
「はーい」
目線で座るところを指すと、イムヤは素直に従った。ある意味拍子抜けしたが、彼女も成長しているということだろう。
「ほら」
「ありがとうございます」
麦茶を渡すと、イムヤは半分まで飲んだ。秋とはいえ暑かったのだろう。お代わりが出来ることを伝えると、彼女は遠慮した。
「そういえば、イムヤはなんで艦娘辞めたんだ?」
確か戦いは終わった今でも艦娘の仕事はあったはずだ。それが仕事としてちゃんと機能するかは別として、な。
「あーあれ?私潜るのは好きってほど好きじゃないし」
「そうだったのか?」
初めて聞いた。そうだったのか。
「そうだよー!司令官のために潜ってたんだからね」
「それは知ってるな」
「え?!なんで?!」
「イクから聞いたんだ」
「あいつぅー!!」
言わない方が良かったかな?と思ったが、言って良かったと思う。イムヤの反応でイムヤの隠していた本当の気持ちがわかった気がしたからだ。
「その話は海の中に沈めとこうよ」
「そうだな」
落ち着いたのか、焦りは見えなくなっていた。
「司令官は今仕事してるの?」
「今は、してないな。退職金で日常生活なら出来るからな」
「そうなんだ」
どこか嬉しそうに、平常心のまま、返答された。
「イムヤは?」
「私?私はボランティアで、カウンセラーやってるよ」
「そうなのか?意外だな」
「意外ってなに?!意外って!」
怒っているようで、怒っていない。それが彼女らしくて、懐かしく思う。
「それでさ、司令官もカウンセラーやらない?」
「今カウンセラーが必要なのか?」
「必要…というか、必要不可欠って感じ」
「…そうなのか」
それは意外だ。戦争の後なだけあって、カウンセリングが必要な人が増えているのだろうか。
「実は『艦娘』のカウンセリングなんだけど」
「『艦娘』がカウンセリングを必要に?」
「うん。なぜか司令官の鎮守府からはいないんだけど、破壊衝動を抑えきれなかったり、何かをしていないと落ち着かなかったりする艦娘が増えているみたいでね」
「そうか。俺にできることなら協力するぞ」
あの時代はたた命令するだけで、彼女たちのために何かをすることができなかったが、今、こうして彼女たちのために何かをすることが出来るなら、あらゆることをしていきたいと思う。
「司令官が協力してくれるってことも決定したし、私が今日来た目的も終わらせようかな」
リュックサックの中に手を突っ込み、イムヤが取り出したのは浮き輪とスマートフォン。見覚えはある。彼女が常に、と言っていいほどに身につけていたもの。いわゆる彼女が艦娘であった頃の相棒といってもいいほどのものだ。
「はい、これ。返すね」
「…いや、これはイムヤにやるよ」
差し出して来た浮き輪とスマートフォンを一回は受け取るが、イムヤに返す。確かに、渡した時は『貸す』という建前だったはずだが、そう言わないとイムヤは受け取ってはくれないだろうし、何より『あげた』なんて伝われば財布の中身がスッカラカンになるのは待った無しの状態になるのは間違いない。
「でも…!」
「どうしても、受け取ってくれないのか?」
イムヤの目をみる。イムヤの目は、受け取らない、という決断を下した目をしていた。俺は無駄だと悟った。なら、仕方ない。
「なら、これは俺からのプレゼントだ」
「…なんの?」
ちょっとムスッとしたのがわかった。当然だろう。借り物だから返しに来たのに、それをプレゼントと差し出されたら覚悟を決めて来たのが恥ずかしくなってくるだろう。だが、それは俺も同じなわけであって。
「少し遅めの誕生日プレゼント…?」
「私の誕生日、6月なんだけど…?」
わかっていた。わかってたよ。
「着任祝い、で、いいか?もう、3年以上前だけど」
「……わかった。司令官からのプレゼント、貰ってあげる」
「ありがとう」
「いえいえ」
「「…ふ、ふふふっ」」
2人揃って笑った。2人だけで笑うのは初めてかもしれない。それだけ、お互いに余裕がなく、緊張していたのだろう。
「そうだ。せっかくだし、LINE交換しよ?」
「さっきのスマホデータ消してなかったのかよ!」
イムヤはさも当たり前じゃん、という表情をしている。
「司令官なら返してくれると思ったからね」
「ハメやがったな!」
「ハメられる方が悪い!」
その後、LINEのフレンドにイムヤが追加されたのだった。
今回はちょっと短めです。
皆さんのイムヤの私服のイメージに合えばいいのですが、どんな感じですか?
また、機会があればお会いしましょう。それでは。