艦これ〜君と歩む道〜 作:双竜
今回はいつもとは違う感じで行きます。よろしくお願いします。
「…め?…さめ?……春雨?」
「……ふぇっ!?」
急に肩を叩かれ、意識が覚醒する。つまり、いつの間にか眠っていたようだ。そこまで理解すると、慌てて口元を拭う。仮にも異性の前でよだれを出しながら寝ているのは恥ずかしすぎる。よかった、よだれはたれてなかったみたい。
「寝てませんよ!はい、寝てません!」
「春雨も比叡みたいなこと言うんだな」
失敗したと思い、顔を伏せる。が、司令官の声は明るかった。恐る恐る顔を上げる。見れば、司令官は笑顔だった。多分、怪訝そうな表情をしていたのだと思う。
「あ、いや、違うんだ。春雨のことを一つ知れたのが嬉しくてさ」
司令官のことを全く知らなければ、きっと変質者みたいに感じる言い方ではある。だけど、私は司令官の事はそれなりに知っているつもりではある。だから、司令官が変態的な意味で言ったわけではないこともわかる。司令官は、好奇心旺盛で、ただただ純粋に喜んでいるということを。
「わかってます。それで、何かご用ですか?」
そう聞くと、司令官は少し困ったような表情になった。が、すぐに表情を元に戻すと、口を開いた。
「ご用っていうかさ。春雨の仕事は終わったから寝るなら部屋で寝てくれないかな?」
「ここで寝ちゃダメなんですか?」
寝てはダメだというルールも、規則もなかったはず。それならなぜダメなのか。頭の回転は姉妹の中では早い方だとは思っているが、全くわからない。
「ダメっていうかさ…。色々と集中できなくてさ」
「はぁ…」
間の抜けた声が思わず出た。司令官が何をいいたいのか全くもってわからないし、分かりそうにもない。村雨姉さんならわかるのかな?
「と、とりあえず寝なかったらここにいていいんですね?」
「まぁ、そうだな」
「わかりました。寝ません」
「……無理はするなよ」
あっさりと執務室に居ていいという許可は下りた。司令官の方が大変なのに、さりげなく心配するから、司令官を好きな人が多いんだと、改めて思う。そして、今、それが自分だけに向けられているというだけで、嬉しく感じる自分がいることも事実。
「なんで書類がこんなに多いんだ?」
「司令官が貯めたからです」
「随分とはっきり言うな」
「はい」
深海棲艦との総力戦が終わった後というだけあって、司令官の前には書類が山積みになっている。少しでも揺らしさえすれば雪崩が起きそうな感じに。司令官も、理由はわかっている。大規模作戦中は、指揮に集中したいとのことで、書類を溜めてしまうのだ。となれば、自分に出来ることは一つ。
「司令官、手伝いましょうか?」
「うん。そうしてくれるとありがたいかな」
まるで、そういうのを待って居たかのように、返事は早かった。だけど、それは自分を信頼、信用してくれているということだと思う。
「遠征の記録をまとめておいて」
「わかりました」
見た感じ、量は圧倒的に多い。でも、遠征内容はほとんど頭の中に入っている。着任当初から、実践、演習さえせず、遠征だけで練度を上げてきたこの春雨は伊達ではないのです。
数時間、黙々と2人で作業をしていたと思う。途中から記憶が全くないけど、書類は片付いたし、時刻は午前6時。ちょうどお腹が減ってくる時間……なのかな?
「司令官、朝ご飯、どうします?」
「ん、あぁ。もうそんな時間か。悪いな、付き合わせちゃって」
「いえ、気にしないでください」
「そう言ってくれると助かる」
とても助かっているようには見えないものの、司令官がそう言うならそうなのかもしれない。ことあることに遠慮や謙遜をする司令官だけど、嘘である事はないのだから。
「えっと、朝ご飯の話だったな」
「間宮さんのとこは賑やかそうだしなぁ」
「そうですね。徹夜明けには厳しいかもしれませんね」
男性が司令官しかいないだけあって、食堂は高音が飛び交っている。そんな中に、頭が徹夜明けの状態では、間違いなく頭痛がし始めると思う。あくまで、先入観であって確証もなければ根拠もないのだけれど。
「食堂が空いてくる時間帯、わかるか?」
「だいたい…8時過ぎくらいだと思います」
「あと2時間かぁ…」
なぜか遠い目をする司令官。普段から赤城さん達みたいに大食いをしているわけでもないのに、ご飯に対してそんな目をするのは初めて見た。
「良かったら、春雨がなにか作りましょうか?」
「お願いできるか?」
「わかりました!何がいいですか?」
「そうだなぁ〜。『春雨』って言ったら怒るか?」
当然、頭の中が真っ白になった。食用の『春雨』か、今この場にいる『春雨』か。顔から火が出たように顔が火照る。きっと今鏡を見れば顔だけでなく体まで赤いと思う。
「どどどどどっちののの春雨ですか?!」
焦りすぎて日本語にが崩壊しそうになっているのは理解出来た。理解してしまったから、逆に焦っていく。焦ってしまうから、日本語が崩壊する。これでは悪循環。タチの悪いループみたいなもの。
「どどどどどうした?!」
おかげで、司令官まで焦らせちゃった。『ど』の数を数えれるほど冷静じゃなかったけど、多分…移っちゃったかも。
「いいいいいえ!なんでもないでふ!」
「そそそそそうか!ならいいんだ!」
噛んだ。わざとじゃない。わざと出来るほど私は器用じゃない。その後、1分ぐらいの沈黙があった。体感的には、1時間にも匹敵する時間の流れに感じた。
「………じゃ、じゃあ、な、何か適当に作りますね」
「あ、あぁ。頼んだ」
笑い飛ばせれば良かったのだろうけれど、私には出来ない芸当。夕立姉さんならそれが出来るんだろうな。
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「自信はないけど…フレンチトーストでいいよね」
執務室の隣に設置されてあるキッチンで誰ともなく呟やく。卵も砂糖もパンもある。これならちゃんと作れそう。
「…ん…。…あれ…?なん、か…眠……く…?」
フレンチトーストの甘い匂いに誘われてか、急に眠くなってきた。…あ…これ…、ダ……メ…なや…つ…。
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「…め?…さめ?……春雨?」
「……ふぇ?!」
名前を呼ばれ、目が覚める。時計を見れば、午後8時。夢だったことに残念だと思う気持ちと、良かったと思う気持ちがあった。私には司令官を支え続けることは出来ない、そう思っていたから。だけど、正夢になればいいなぁ、なんて。
「お、起きたか」
「寝てませんよ!はい!寝てないです!」
夢の中と同じようなやりとりをしていると、机の上にあるものがあるのに気がついた。1枚の白い紙と、1つの黒い箱。司令官も私が気付いた事に気がついたみたいだった。
「……出しっ放しは、良くなかったな……」
「司令官、誰とケッコン、するんですか?春雨、興味あります」
私なりの、私にできる精一杯の強がりだった。唯の1駆逐艦が司令官とできるわけなかったのだ。わかってた。覚悟もしてた。だけど、自然と涙が溢れてくる。泣くな、と思えば、余計に涙が溢れてくる。
「春雨、よく聞いてくれ」
「……はい……」
司令官は深呼吸をゆっくりと、噛みしめるように言ってきた。
「今から、練度上げに行こう」
「………え?」
意味がわからなかった。きっと、本当は理解していたけど、理解したくなかったのかもしれない。1駆逐艦を、司令官が気に掛けて、愛してくれてたことを。そして、その言葉が、司令官なりの大事な言葉だったのだと。
今もまだ、深海棲艦との戦いは続いているけれど、春雨は、あの時見た夢以上に幸せです。
ありがとうございました。
春雨…食べたいなぁ(意味はご想像にお任せします)