艦これ〜君と歩む道〜 作:双竜
今回は、陽炎お姉ちゃんのお話です。
「司令、お手紙が届いてるわよ」
「ありがとう、陽炎姉ちゃん」
「だから私は司令の姉じゃないってば」
会話からも分かるように、司令は陽炎型ネームシップのこの陽炎より身長が低く、若い。世に言う『子供提督』と言われる人。司令から姉、と呼ばれるのは嫌なわけではないけれど、というかメチャクチャ嬉しい。
「僕からしたら陽炎は立派なお姉ちゃんなんだけどな」
「はいはい、わかったから。次の作戦、ちゃんと立てたの?」
「え?こ、これでしょ?」
一枚の紙を差し出される。受け取り、端から端まで紙に穴が開きそうなほど見つめる。一見、おかしい所はない。のだけれど、毎回司令は凡ミスを2つ、必ずやっている。もはやそれが司令の仕事なのかと疑ってしまうぐらいに。
「司令、なんで不知火は平仮名なの?」
「……書けないから」
思わずため息をつきそうになる。が、慌てて飲み込む。
「昨日、教えたよね?」
「………はい」
「なんで、書けないのかな?」
イタズラっ子っぽい声と笑みを浮かべたものの、司令の次の言葉で頭が真っ白になった。
「陽炎といる時間を増やしたいからです」
「ブッ!…ちょ、意味分かってる?!」
飲み物を口に含んでいたら司令に思いっきり噴いた飲み物がかかっていたと思う。口に含んでなくてよかった。
深呼吸をして、少し落ち着く。よく考えれば司令は自分より若い。きっとLOVEではなくLIKEの方の意味。仮に司令が大人だったらロリコンかドMのどちらかだと思う。というか異論は認めない。
「陽炎、呼びましたか?」
「しらぬい!おひさー」
「不知火、ノックぐらいしなさい」
突如ノックも無しにドアの隙間から床に垂直な状態で顔を覗かしているの私のすぐ下の妹。さっき司令が漢字が書けなかった張本人。
「ノック?陽炎に呼ばれた以上する必要はありません」
「しなさいよ…」
戦闘や遠征ともにセンスもあり、私よりも頼りになるのだけれど、シスコンなのがたまに傷、ってのが不知火のいい所であって悪い所でもある。
「とりあえず、呼んだけど用はないわよ」
「そうですか、陽炎がそう言うならそうなのでしょう」
未だに覗いたままの状態で喋る不知火。普通に疑問なんだけど、いつまでその体勢なんだろう?
「あ、そうそう。司令。陽炎に手を出したらどうなるか、わかってますよね?」
「わかってなーい」
「そうですか。ならいいんです」
司令に話しかけて起きながら無視していく不知火。そして、脇目も降らずにドアをを閉め、立ち去っていく不知火。ここでひとつ訂正。不知火はアホでした。我が妹ながら恥ずかしいよ〜。勉強が必要なのは司令よりも不知火かもしれない…。
「……思わぬ邪魔が入ったけど、2つ目の指摘ね」
「はい」
「なんで潜水艦が確認されてる海域に戦艦と空母の編成なの?」
「え?!ここって潜水艦いたっけ?!」
ついつい乾いた笑いがこぼれる。こんなアホな司令でもやる時はやるんだけどなぁ。
私と司令の数少ない、二人だけの記憶であり、思い出であり、私が司令の元に帰ってくる理由。きっと、これからも、司令と一緒に、思い出を増やしていくよ。
ふと、懐かしい記憶が頭をよぎる。私が司令と出会い、私が司令の為に戦うと決めたあの日を。
あの日は、やけに暑かったのを覚えている。夏だった訳では無かったと思うのだけれど、今となってはどうでもいいことかな。
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「やっと会えた!陽炎よ。よろしくねっ!」
私の第一声を聞いた司令は数十人、いや、日本にいる全ての司令たちだった。初の陽炎型ということなだけあって、みんな気になっていたのだと思う。だけど、その中に好奇心や下心のある視線とは違う、何か別の視線も感じてた。
「これが陽炎型か〜」
「流石陽炎型。カワイイな」
「hshsしたいよ」
「早く欲しいなぁ」
「問題は使えるか使えないかであって…」
「中破はどんな感じだ!?」
「なぁ、変態まじってるぞ」
「大丈夫だ、問題ない」
「大ありだと思うんだけどなぁ…。俺知らね」
「ああ。俺も知らね」
「吾輩も知らぬ」
「ボクも」
数秒の沈黙。気まずい空気が漂う中、大きな音を立てて入ってくる人が。
「憲兵だ!さっきの発言は誰だ!?」
一気に視線が一人の男の人に向く。
「お、俺じゃ、俺じゃねぇー!!」
憲兵に引きずられていく人を皆で見送る。そんな騒動があっても、例の視線はまだ感じていた。どこからその視線が向けられているのか、探す。見つからない。探す。だけど見つからない。気のせいではないのに、感じる視線。ちょっと、気味が悪いかな。
「えっと、次は性能紹介か」
「なら外だな」
「はやく中破が見たい」
「さっきの奴大丈夫かな?」
「無理だろうな」
「だな」
謎の視線を感じながらも、私の紹介は終盤を迎えていた。あとは実戦だけ。それで私の仕事は終わり。
「残念だが、君たちはアレの性能を見れない」
小さいながらにも、良く通る声。先程までの喧騒が嘘のように、静かになった。彼の服から察するに、陸軍所属だと思われる。陸軍が海軍に口を出すなんて…司令部は何をしてるの?
「命が惜しければ、アレを差し出せ。そして散れ」
拳銃を取り出しながら、警告の言葉を投げかける。次の瞬間、一つの影を残し、他の司令達はクモの子を散らすかのように逃げていった。残った1人は、明らかに子供。しかも私よりも若い。先程逃げていった司令達の誰かの子供なのか。色々な考えが脳裏を横切るが、確定的な証拠がない。だけど、これだけは言える。私があのおっとりとしている少年を守らなければならない、ということを。
「もし、差し出したとしたら陽炎さんはどうなるの?」
私が動く前に動いたのは少年だった。見た目に似合わない、どこか狂犬のような、好戦的な、表情をしていた。ように見えた。瞬きした次の瞬間には、元のおっとりとした表情に戻っていた。
「もちろん、廃棄処分だ」
嫌な言葉が聞こえてきた。処分、それだけは嫌だ。処分される為に私は生まれた訳じゃない。無意識の内に、膝がガクガクと揺れる。
「じゃあ、おじさんには渡さないよ」
「ガキが。お前に何が出来る」
子供に噛み付くみっともない大人。少なくとも、私にはそう見えた。大人に噛み付かれても、動じる様子はない。
「おじさんたちが出来ないことが出来る」
「それは、なんだ」
「深海棲艦を倒す、手伝いをすること」
男の人が息を飲むのが聞こえた。想定内の返事なはずなのだけれど、彼にとっては計算外みたいだった。
「深海棲艦なんてものは、仮想敵だ!」
「難しい言葉、使わないでよ。意味はわかるけど」
苛立ちを隠せないまま、舌打ちをしている。わざと挑発しているのか、無意識に挑発をしているのか。無意識なら、尚更質が悪い。
「確かに、仮想敵かもしれないね。なら、僕も仮定を一つ」
「…聞こう」
「陽炎さんは、普通の人間で、僕の姉かもしれない」
「…なっ!!」
少年の一言の意味を理解したのか、彼はハッキリと息を飲んだ。少年の方が一枚上手。しかも、少年は自分の保身の為にそんなことを言っている訳では無い。私を、助けるために動いてくれている。なら、私に出来ることは…!
「ちょっ!言っちゃダメでしょ!」
姉らしく少年を諭すこと。陽炎型一番艦の名は伊達じゃないの。
「ごめんなさい……」
少年も、そのことを理解したのか、のってくれる。即興とはいえ、なかなかいい演技が出来たと思う。
「おじさんは、人間を撃てるの?仮にも軍人が、一般人を。だけど、一般人に銃を向けたことに変わりはないから、総司令部には連絡させてもらうよ」
「それは…!」
「嫌なの?ならさ、一つ条件。もう、陽炎お姉ちゃんに関わらないで」
「わ、わかった。それと、すまなかった」
そう言うと、彼は足早に立ち去っていった。あとに残ったのは、当たり前だけど私と少年。
「お姉ちゃんなんていってごめんなさい」
「いいの。二人とも無事だったんだから」
以外にも少年は、謝ってきた。想定外の事なだけあって、的外れな返答をしてしまった。
「もし良かったら、僕の仲間になってよ」
「陽炎でいいなら。…えっと、よろしくねっ!」
改めて、挨拶をする。私はもう、紹介されるだけの命じゃない。大切な人を守るための命。
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「陽炎お姉ちゃん?どしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
こんな司令だけど、私はこれからと司令と一緒に戦います。ずっと、ずっと。私の命が燃えている限り。
それにしても、あの時の笑みは、一体なんだったんだろう。
お姉ちゃんはやっぱり陽炎、ですよね?
異論は認めます。はい。
意見、お願い等ありましたらコメしてくれるとありがたいです。