BanG Dream! 彼女と過ごす日常   作:トマトジュース

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香澄が流星堂でランダムスターを見つける前のお話しです。


第一話

 「まだ来ていないみたいだな」

 

 

 約束した時間より15分前。僕は遅刻しないように待ち合わせ場所に早く着いていた。

 駅前にあるベンチに座り、のんびりと彼女を待つ。

 

 

 やっぱり早く来すぎたかな。いや、このぐらいがちょうどいいだろうって本に書いてあったし、大丈夫だ。

 でも、待っているこの時間は嬉しいけど、少しキツイなぁ。

 

 

 ふぅ……と、空に向かってため息をつく。

 

 

 何度も経験しているのに、いまだに慣れない緊張感。

 じわりじわりと身体に重くのしかかってくる言いようのない不安。

 恋人が自分のために会いに来てくれる嬉しさ、もうすぐ来てくれる楽しみ。

 

 楽しいのに苦しい。苦しいのに嬉しい。

 

 色々な気持ちが入り混じった想いが、僕の胸の中を駆け巡る。

 

 彼女を待つこの時間が、僕は好きだった。

 

 駅に向かっている人たちを見ていると、こちらに笑顔を向けている少女と目が合う。

 その少女を見た瞬間、僕も笑顔で彼女……戸山香澄に向かった。

 

 

 緊張感や不安はすぐに消え去った。

 

 

 「おはよう!」

 

 「おはよう! もう先に着いていたんだね」

 

 「うん。僕もついさっき来たばかりで」

 

 挨拶を終え、僕は彼女の服装をよく見る。

  

 「服……似合っているよ。すごく可愛い」

 回りくどくに言わず、素直に思ったことを伝える。

 もう少し良い言い方があったんじゃないかと思うけど、僕のボキャブラリーではコレが限界だった。

 元気で明るいイメージがある彼女には、その服装はとても似合っていた。

 

 「えへへ……、ありがとう。気合入れたからね。久しぶりのデートだし」

 はにかみながらも、彼女は嬉しそうに答える。

 心なしか、猫耳のような髪がピョコピョコと元気よく揺れて、喜んでいるように見える。

 

 「優もカッコよく似合っているよ!」

 

 「ありがとう。僕もこの日を楽しみに、気合入れてきたからね」

 

 僕なりにカッコよく言った言葉に、香澄は「一緒だね!」と楽しそうに笑う。

 

 

 「それじゃあ少し早いけど、行こうか」

 

 「うん! ……あ! ちょっと待って」

 行く気満々だった彼女が、突然『待った』の声を出す。

 何か忘れ物でもしたのだろうか。

 僕が座っていたベンチの方をじっと見ている香澄に、どうしたのか聞いてみる。

 

 「えっとね……。少しわがまま言っていいかな?」

 恥ずかしそうに顔をそらしながら、彼女は横目で僕にお願いをしてくる。

 頬が赤くなっており、いつもの元気な様子とは違うしおらしい姿に、僕はドキっとした。

 

 「い、いいよ。言ってみて」

 言葉に詰まりながらも、彼女の頼みを了承する。

 僕の言葉に、ホッとした香澄はコホンと咳払いをする。

 

 一体、何を言うんだろう……。

 次に来る彼女の言葉に、少し身構えてしまう。

  

 「もうちょっと、このベンチに座らない?」

 

 「……え?」

 彼女の言葉に、思わずキョトンとする。

 

 「だ、だから! もう少しココに座ろう!」

 僕が聞き逃したと勘違いしているのか、香澄はベンチに何度も指をさしながら、声を荒げる。

  

 「う、うん。いいよ」

 顔を真っ赤にして、慌てて主張する彼女に戸惑いながらも答える。

 どういう意図か分からないまま、彼女のわがままに従って、ベンチに座る。

 僕が座るのを確認すると、香澄も僕の隣に座った。

 

 「えへへ……ちょっとだけ、あなたとこうしたかったの。」

 彼女が照れくさそうに言うと、そっと僕の肩に自分の身体を寄せる。

  

 「上手く言えないけど、急にしたくなったの。優に可愛いって言ってくれたのが、すごく嬉しくて。嬉しい気持ちがブワァーって出てきてね」

 そう言いながら、香澄はゆっくりと僕の左手に触れて、指を絡ませる。

 彼女がやろうとしている意図を今更ながらに気づいた僕は、彼女の気持ちに応えるように優しく手を握る。

 

 暖かく、どこか心が安心する気持ちが胸に伝わる。

  

 

 「暖かいね……」

 じっくりと、噛みしめるように、彼女は目を閉じて手を握り続ける。

 それからは、僕たち二人は何も喋らずに時間を過ごしていた。

  

 色々な人達が話している声。

 時折聞こえてくる電車の音。

  

 周りの音を聞きながら、彼女の手の温もりを感じる。

 気まずい空気でもなく、盛り上がりが欠けているわけでもない。

 

 心地よく、気持ちが安らぐ。

 彼女と二人しか作ることが出来ない特別な時間。

 

 微笑んでいる彼女を見ながら、僕はこの時間を忘れないように手を強く握った。

 

 

 

 

  

  ――――――――――――――――――――――――――――――――――

  

 僕と香澄が出会ったのは小学生の頃。

 夏休みのイベントとしてあった天体観測で出会った。

 

  

 両親と妹の4人で雲一つない満点の星空を見ている時、双眼鏡で熱心に星空を見ている女の子を見かける。

 僕たちみたいにのんびりと見ているのではなく、何かを探すようにしてあちこちと高原を歩き回っていた。

  

 

 熱心な子だなぁ。

 それが、彼女を見た第一印象だった。

  

 他の子とは違う雰囲気。

 その様子が、僕には気になっていた。

 

 しばらく女の子の動きを見ていると、「おかしいなぁ」と言って、不思議そうに首を傾げていた。

 何がおかしいんだろう。

 好奇心に押されながら、僕は立ち止まっている彼女へ歩き出す。

  

 「何がおかしいの?」

 下ろした双眼鏡を見ている女の子に聞いてみる。

 

 「星の鼓動が聞こえる場所を探しているんだけど、全然見つからないの」

 

 「星の鼓動? どういう音がするの?」

 

 「うーんと、キラキラドキドキするような音! その音を探しているんだけど、あなたは聴こえてこない?」

 

 すごく曖昧な表現。

 どういう音なのかハッキリと分からないが、目を閉じて、女の子が言っていた音が聴こえるか耳を澄ましてみる。

 僕の耳には虫の鳴き声、家族団欒としている声しか聴こえず、彼女が探しているような音は全く聴こえなかった。

  

 「ごめん。そういう音は聴こえないや」

 

 「そっか……。でも、ありがとう! 私、もう少し探してみるね」

   

 しょぼんと落ち込みながらも、すぐに顔を上げて元気に答える。

 「それじゃあね」と笑顔で僕に言うと、踵を返して別の所へ行こうとする。

  

 「あ、うん。頑張ってね……」

 去っていく女の子を応援する。

   

 このままでいいのだろうか。 

 少しずつ離れていく彼女に、煮え切らない気持ちが急に出てくる。

   

 気になる理由が分かったし、もういいじゃないか。

 お父さんたちの場所に戻って、星を見よう。

 でも、星の鼓動がどういうものか気にならない?

 

  

 気になる。

 

 

 そう自覚したとき、僕の中から好奇心が大きく現れる。

   

 星の鼓動も気になるけど、ただこのまま彼女を眺めているだけなのは何か嫌だった。

 

   

 「ちょ、ちょっと待って!」

 勇気を持って、女の子を呼び止める。  

   

 「どうしたの?」

 

 「えっと……。僕も一緒に探してもいい?」

  

  

 その言葉が、僕と彼女がこれからも出会うきっかけの始まりだった。

  

 

 

  ――――――――――――――――――――――――――――――――――

  

 「ん~! このアイス美味しい!」

 バニラアイスに舌鼓を打ちながら、彼女はウキウキと楽しんでいた。

 彼女の楽しい姿に嬉しく思いながら、僕も注文した抹茶アイスを食べる。

 

 この抹茶、美味しいなぁ。

 今度、また行こうかな。

   

 抹茶の苦みを味わいながら、いつ頃に行こうか計画を練り始める。

 

 あれから、駅前で過ごしていた僕たちは、当初の予定であったデートを始めた。

 

 ショッピングモール、ゲームセンター、カラオケ。

 色々な場所へ行った僕たちは、近くにあった喫茶店で一休みしていた。

 

 

 「高校生活はどう?」

 

 「すごく楽しいよ! 友達もたくさん出来たし、今は色んな部活の体験入部をやっているの!」

 クラスでのこと、体験入部したことを楽しそうに香澄は語る。

 中学と同じように、クラスの皆と上手く馴染んでいるようでホッと安心する。

 馴染んでいないか心配だったが、彼女の楽しく話す姿を見て、僕の不安は杞憂に終わったようだ。

 

 「優の方はどうなの?」

 

 「僕の方も楽しいよ。初めは緊張したけど、友達のお蔭で楽しく過ごしているよ」

 香澄の質問に、僕は思い出しながらゆっくりと話し始める。

 

 中学からの友達が同じクラスにいて、お互いの近況を話していたこと。

 学内を散策しているときに、購買で売ってあるパンが安くて、すごくボリュームがあることに驚いたこと。 

 校長先生が凄く威厳がある風格を持っている人だったこと。

 

 学校であったことを話す僕に、香澄は相槌を打ちながら耳を傾ける。 

 驚いたり、嬉しかったり、コロコロと表情を変える彼女に、嬉しくなった僕はどんどん話しをした。

 

 

 「学校はこんな感じかな。ごめんね、かなり話しちゃって」

 

 「そんなことないよ。楽しそうに話している優を見て、私も楽しかった。」

 

 「あはは、ありがとう」

 彼女の率直な言葉に、少し照れてしまう。

 

 

 僕は緑茶を一口飲み、次の話題を話す。

 

 

 「キラキラドキドキするようなことは見つかった?」

 

 「まだ見つからないや。でも、探し続ければ必ず見つかるって信じてる!」

 自信をもって、香澄は僕に力強く答える。

 諦めや挫折といった暗い気持ちはなく、熱い気持ちが僕にしっかりと伝わってくる。

 そんな気持ちに答えるように、僕も言葉に力を入れる。

  

 「必ず見つかるよ。僕も応援してるし、何か手伝えることがあったら遠慮せずに言ってね」

 

 「ありがとう! 優が応援してくれるなら、百人力だよ!」

 そう言うと、香澄はスプーンで掬ったバニラアイスを僕の前に出す。

  

 「はい!」

 満面の笑みで一言話す彼女。

  

 

 恋愛事に慣れていない僕でも、この流れはすぐに分かった。

 少し照れながら口を開けて、彼女に食べさせてもらう。

 

 うん、美味しい。

 けど、絶対に今、顔紅くなっているんだろうなぁ。

 顔が熱くなるのを感じながら、僕も抹茶アイスにスプーンを掬って、ニコニコと笑っている香澄の前に出す。

  

 彼女はすごく嬉しそうにして、パクッといった。

  

 「抹茶も美味しい! もう一回食べさせて!」

 キラキラした目でもう一度やってほしいと僕に頼む。

  

 彼女からの嬉しい期待に応えるように、僕は再び抹茶アイスにスプーンを掬った。

  

 

 

 

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