BanG Dream! 彼女と過ごす日常 作:トマトジュース
「よーし、皆。色々見て回っていくよーー!」
「「おーー!」」
「お、おーー」
香澄の元気な号令に、友哉と花園さんは元気よく、僕は照れながら彼女の号令に倣う。
あれから、香澄たちが休み時間になるまで、僕と友哉は色々な所へ回って行った。
どこのクラスも、みんな活気があって僕たちも楽しく過ごすことが出来た。
それにしても、あのマジックは凄かったな……。
一番記憶に残っているのが、金髪の女の子がマジックショーを披露していた時。
別の階へ行こうと階段へ向かった際、廊下の階段付近でやっていたのを偶然見つけたのだ。
シルクハットから鳩を何匹も出すなんて、どうやったら出来るんだろう……。
香澄と同じ以上に明るい性格の女の子が、笑顔で手に持った帽子から鳩を出したのは驚いた。
思い返していると、牛込さんが香澄に今後の予定を聞いていた。
「まずはどこに行く?」
「えーとね、あっちゃんや有咲の所へ行くでしょ? あとは輪投げだったり、もう一回綿あめ食べたり……」
「どっちだよ。まずは、一つに絞ったらどうだ」
たくさんの要望を言う香澄に、友哉は呆れながらツッコミを入れる。
彼の言葉に乗っかるように、僕も話に加わった。
「それだったら、明日香ちゃんの所はどう? たしかここから近いし」
「たしか、明日香ちゃんのクラスはメイド喫茶だったな。どんな感じか気になるな」
僕の提案に、友哉は賛成するように頷く。
明日香ちゃんのクラスは、ここから数分にある距離だ。
初めに行くとしたら、最適だと思うけどどうだろうか……。
花園さんと牛込さんの意見を聞いてみる。
「その、どんな風なのか気になるから、私も行ってみたいです」
「私も賛成だよ。このカメラで記念撮影しよう」
花園さんと牛込さんも賛成なようだ。
向かう場所が決まったことに、ひとまず安心する。
「よーし、それじゃあ行こうか!」
香澄の言葉を合図に、僕たちは明日香ちゃんのクラスへと向かった。
向かう道中、花園さんから声がかかる。
「そういえば、高森さん。私やりみと話す時、別に敬語じゃなくていいよ。同い年なんだから」
「いいんですか?」
まだ少ししか会っていない二人に、香澄や友哉のように話すのは図々しいと思い、敬語で話していた。
そこまでの関係に入って、大丈夫なのだろうか……。
不安に感じながら、もう一度彼女に聞く。
「うん。二人と仲良くなりたいし、友達になりたい。一緒に写真を撮ろうよ」
「あの……。私も、おたえちゃんと同じです。高森さんと野崎さんと色々なこと話したいです」
ハッキリとした意思で、花園さんと牛込さんは僕達を迎え入れる。
二人の優しい言葉に、不安だった考えが無くなっていく。
「ここまで言われたら、応えるしかないだろう?」
友哉が僕に言葉を投げかける。
その表情は爽やかに笑っていて、これから応える僕の言葉を分かっているようだった。
「……ありがとう。花園さんたちに、そう言ってもらえてすごく嬉しいよ。僕も花園さん達とたくさん話したい。改めてよろしく。花園さん、牛込さん」
僕の言葉に、二人は笑顔で答えた。
明日香ちゃんのクラスへ向かいながら、僕たちは思い思いに話した。
牛込さんはチョココロネが好きで、よく山吹ベーカリーに通っていること。
花園さんはウサギのオッちゃん以外にも、たくさんのウサギを飼っていること。
僕が裁縫を始めたのは、不器用さを治すためにやっていたこと。
二人のこと、自分のこと、色々な話をすることができた。
話している途中、明日香ちゃんのクラスが目に入る。
教室前にはメイド服を着ている女の子が二人いて、呼び込みのためだろうか看板を持ちながら道行く人達に声をかけていた。
そのうちの一人は僕たちがよく知っている人物で、香澄は彼女の顔を見ると表情が明るくなっていた。
「あっちゃんーー!」
クラス前で立っている明日香ちゃんを見つけた香澄は、一足先に駆け足気味で彼女の所へ向かう。
声に気づいた明日香ちゃんは、香澄の方へ向くと表情を険しくさせた。
「ちょっと! 恥ずかしいから、静かにしてよ!」
「えへへ、ごめん。あっちゃん、その衣装可愛いね! すごく似合ってる!」
注意する明日香ちゃんに香澄は軽く謝った後、彼女が着ているメイド服を絶賛する。
香澄の言う通り、メイド服を着ている明日香ちゃんは可愛らしく、とても似合っていた。
「可愛いよ、明日香ちゃん」
「ああ、すごく似合っているぞ」
「あ、ありがとうございます……」
称賛する僕たちに照れてしまったのか、明日香ちゃんは顔をほんのりと紅く染めながら、僕たちから視線を外す。
「香澄も着たら、姉妹メイドになるね」
「おたえ、それいいね! あっちゃんとお揃いの服を着たら最高だよ!」
「生憎、お姉ちゃんに着せる服はないよ。他の皆が使っているから。それに、お姉ちゃんにメイドは合わないでしょ? ご奉仕とかできるの?」
明日香ちゃんの呆れた言葉に、香澄は自信ありげに反論する。
「ふふん! それは大丈夫だよ! 優にそういうことをしているから完璧!」
「優は香澄のご主人だったの?」
「え? いや、恋人だと思うけど……」
花園さんの質問に、少しの照れを混ぜながら答える。
「ほうほう、例えばどういうことをしているの?」
途中、ニヤニヤと悪巧みするような笑みで明日香ちゃんは香澄に聞く。
あっ……。この顔は、何かからかおうとする顔だ。
見慣れてしまった彼女の顔に、思わず冷や汗が出てしまう。
「えっとね、膝枕したり、耳掃除したり、マッサージしたり……」
自分の指で数えながら、香澄は僕に奉仕のようなことをしたのを一つずつ挙げていく。
「へぇ~」
にやけた顔で感心するように頷きながら、明日香ちゃんは僕の方へ視線を移す。
彼女だけではない。複数から視線が突き刺さるように感じる。
周りを見てみると、友哉や牛込さん、花園さん。ましてや、明日香ちゃんの隣にいる女の子まで微笑ましそうな目で僕を見ていた。
こ、これは今までの中でかなり恥ずかしいかもしれない……。
一瞬にして、自分の顔が急激に熱くなる。
香澄の思い出話だけでなく皆からの視線に恥ずかしさで耐え切れなくなった僕は、今も続いている香澄の語りを止めに入った。
「ま、待って香澄。ちょっと、いやかなり恥ずかしいからその辺で……!」
「あとはたまにだけど、出かける日におにぎりを作って一緒に食べたり……って、どうしたの優? 顔を真っ赤にして?」
手で制しながら話しを中断させると、香澄はキョトンとした顔で僕を見る。
「メイドが似合っているのは十分に伝わったから、大丈夫だよ!」
「えへへ、よかった! どう、あっちゃん? 私の奉仕っぷりは!」
自信満々のまま、香澄は明日香ちゃんに自慢するように話す。
とりあえず、なんとか終わらせることができてよかった……。
奉仕話が終えたことに内心ほっとしていると、「こほん」と明日香ちゃんがどこかわざとらしく咳払いをする。
「なるほどなるほど。至れり尽くせりなんだね。そこんところはどうなんですか、優さん。」
香澄からのご奉仕について、明日香ちゃんは僕に感想を求めてくる。
や、やっぱり答えないといけないよね……。
なんとか誤魔化そうか考えるが、キランと獲物を逃さないような眼で見てくる彼女を見て、それは困難だと予感させる。
……ここは正直に話して、上手く終わらせよう。
熱が残っている頭を動かしながら、迂闊な言葉を言わないように考える。
「……まぁ、うん。すごく嬉しいよ。好きな人からここまで奉仕されて、僕は幸せ者だよ」
思い出すのは、香澄の家で過ごしている時に「こっち来て来て!」と、明るい笑顔で自分の膝に誘う彼女の姿。
その行動が膝枕だと気づいた時、照れ臭くて遠慮をしたのだが、あれこれと彼女に押し切られてしまったのが懐かしく感じる。
「……」
昔は恥ずかしかったけど、今はソレが楽しみになっているな……。
香澄の嬉しそうな声色を聞きながら奉仕されるのは、どこかくすぐったくて、だけど嬉しくて胸の中が温かな気持ちで一杯になるものだった。
彼女と過ごした日々を思い返して、改めて自分が香澄のことが好きで、今も彼女から大切に想われていることに気付く。
……やっぱり、僕は幸せ者かもしれない。
さっき言った自分の言葉に、心の中で強く頷く。
頬の熱が再び上がり、自分が笑っているのが分かる。
ふいに、香澄と目が合う。
目を大きく開け、驚いた表情でいた。
「いつもありがとう、香澄」
「……」
しんとした時間が流れる。周りは祭りの賑わいで盛り上がっているのに、ここだけ祭りの外にいるかのように静かな音が支配していた。
あ、あれ? 何か不味いことを言ってしまった……?
香澄達が何も言葉を発していないことに、急に不安感が募ってくる。
自分が言った言葉に、何か不快なことがあったのだろうか。
「……ふわぁ」
明日香ちゃんの隣にいた子が奇妙な言葉を漏らす。気になって見てみると、顔を赤くしながら驚いている様子だった。
彼女の言葉をきっかけに、他の皆も口を開き始めた。
「お前、やっぱりすごいな」
「そうだった……。優さんって、たまに爆弾発言するんだった……」
驚きを通り越して、呆れるように笑う友哉と明日香ちゃん。
「な、なんだかこっちまで恥ずかしくなるね」
「二人は本当に仲良しなんだね。羨ましいな」
何故か恥ずかしい様子の牛込さんといつも通りな花園さん。
五人の言葉に疑問を抱きながらも、不快な表情をしていないあたり、どうやら変なことは言ってないみたいだ。
香澄は大丈夫だろうか。
今も声が出ていない彼女が気になった僕は、様子を見てみる。
「……」
目を丸くさせながら、香澄はぽかんと小さく口を開けていた。
「……私の方こそ」
数分。いや数秒が経っただろうか、香澄は小さな声で一言呟く。
その声は、いつも彼女が話す明るさとは違い、穏やかで優しい想いが込められていた。
目を細めながら、香澄は僕を見る。
頬を桜色に染めながら、嬉しく微笑んでいる彼女の表情は、どこか綺麗な笑顔だった。
「私の方こそ、いつもありがとう……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……ということが、あったんだよ」
「ああ、だから香澄と高森さんの様子がおかしかったんですね」
1ーA教室にある、窓際の席。
向かい側の席に座っている野崎さんから細かい話しを聞いて、納得する。
私が合流した時、二人の様子がおかしかった。
香澄も高森さんも顔が真っ赤になっていて、お互いにぎこちない接し方になっていた。
ある程度、校舎内をしばらく回ってからは大分調子が戻っていたようだけど、何故そんな状態になっていたのか疑問に思っていた。
それにしても突然な発言をするなんて、なんだかおたえに似ているな……。
ここから離れた席でギターを弾いている彼女を見ながら、心の中で呟く。
「有咲、呼んだ?」
「呼んでねえよ」
こっちの視線に気づいたのか、おたえは私に何か用か聞いてくるが、すぐに断る。
危なかった。前回みたいに、巻き込まれたくない。
演奏に集中し始めた彼女の様子を見て、安堵した私は注文したカフェオレを飲む。
ほどよい苦みの中に、砂糖による甘みが相まっていい感じの美味しさになっていた。
「それにしても、悪いな。せっかくの文化祭なのに、二人に気を遣わせてもらって」
申し訳ない表情で、野崎さんは私に謝る。いや、『私』というより『私たち』の方が正しいかもしれない。
そんな彼に、私は慌てて答えた。
「謝らなくていいですよ! これに関しては、前から決めていたことですから」
りみ、おたえ、ここにはいない沙綾と話して決めたことだ。
後悔もないし、やるべきだと今も思っている。
「……それに。香澄が喜ぶと思いますし」
以前、校庭で高森さんのことを話した彼女を思い出す。
こっちまで分かるぐらい嬉しそうに語っていたのは、今でも覚えている。
彼女が本当に高森さんのことを好きなのだと、ハッキリと。
そんな彼女を間近で見て、話しを聞いて。好きな人と回ってほしいと願うのは当たり前だ。……友達として。
我ながら、あまり恋愛に興味がない自分がよくやったものだ。
慣れないことにむず痒さを感じながら、カフェオレをもう一度飲む。
「そうだったのか。……ありがとう。アイツらも喜ぶよ」
朗らかな笑顔で、野崎さんはお礼を言う。
その言葉に、照れ臭く感じた私は彼から窓の景色を視線を移す。
外の景色は、皆が楽しそうに賑わっていた。
香澄達は、今どこにいるんだろうな……。
『ありがとう。この時間、大切に使うよ』
『みんな、ありがとう! 楽しんでくるね!』
窓に映る人たちを見ながら、私は彼女たちの行方を思った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
深呼吸をして、神経を集中させる。
想像するのは、木製の小さな支柱に輪っかが綺麗に入るイメージ。
大丈夫だ、入る。
そう自分に言い聞かせながら、手に持っている青色の輪っかを投げた。
放物線を描いた輪っかを、祈るように見つめる。
コツンッ
輪っかが支柱に当たり、そのまま地面に落ちてしまった。
結果が決まったことに、香澄は大きい声をあげた。
「やったーー! 私の勝ちだーー!」
「負けちゃったか……。上手く投げれたと思ったんだけどな……」
顔を綻ばせている香澄をよそに、当たった支柱を名残惜しげに見る。
今、僕と香澄は輪投げ勝負をしていた。
回っている道中で、輪投げ屋を見つけた香澄が勝負しようと持ち掛けてきたのだ。
結果は6:5。中々の接戦の中、香澄は僕に勝った。
喜々とした表情で、香澄は受付の学生から景品であるクッキーが入った袋を受け取りに行く。
「ねえ、優。あそこの校庭で休憩しながら、一緒に食べよう!」
手に持っている袋を大きくチラつかせながら、香澄は満面な笑顔で校庭へ誘う。
たしかに彼女の言う通り、色々と歩いたから少し休んだ方が良いかもしれない。
香澄の言葉に、僕は頷く。
「うん。食べようか」
「それじゃあ、行こうか! おすすめの場所があるからそっちに行こう……って、そうだ」
張り切った様子で香澄は率先して前へ行くが、何かを思い出すように声をあげると、急に立ち止まって僕の方へ振り返る。
どうしたのだろうか?
行動の意味が分からないまま、彼女の言葉を待つ。
「はいっ」
香澄は柔らかい笑みで、自分の手を僕の前に出した。
何かを待っているようかのように、期待した目で僕を見つめてくる。
何度も見ている彼女の仕草を見て、これから何をすればいいのか分かっていた。
彼女の手にゆっくりと触れながら、優しく握る。
「えへへ……」
照れるように笑いながら、彼女は頬をほんのりと赤くさせる。
香澄の笑顔を見て、僕も小さく笑みをこぼす。
「優にはお見通しだね。私がして欲しいこと」
「たまたまだよ。予想が上手く当たっただけ」
「それでも当たったんだから、私のことをちゃんと見てくれて嬉しいよ」
「……」
彼女の褒め言葉に、照れるのを誤魔化すように頬をかく。
……返す言葉が見つからない。
返事をしないといけないのだけど、不意打ちに似た彼女の言葉にどう答えればいいのか分からない。
静かになっている僕に、香澄は意味深な笑みを見せる。
「照れちゃった?」
「て、照れていないよ」
「本当~?」
香澄の問いに即断で答えるが、僕の言葉に信用がないのか顔をニヤニヤとしながら僕を見つめる。
……なんだか、見透かされているみたいだ。
彼女の悪戯っぽい笑みは、僕の心境を分かっているみたいで図星を指された感じになる。
彼女からの追及を避けるために、僕はわざとらしく話題を変えた。
「本当だよ。いつも通りの調子だ。……そういえば、ライブの調子はどうなの?」
クスクスと小さく笑っている彼女に、調子の方はどうなのか聞いてみる。
クライブの時とは違う、かなりの人数が見に来る。緊張はないだろうか、心配になる。
「バッチリ良いよ! たくさんの人たちの前にライブするのはすごくドキドキするけど、それ以上にすごくワクワクするの!」
目を輝かせながら、香澄はライブへの抱負を語る。彼女の表情は明るく、不安や緊張が見えない。
期待を胸に大きく秘めていて、話す言葉には持ち前の元気さがあった。
「それに……」
香澄はそう呟くと、僕を見る。
「こうして優から元気をいっぱい貰ってるから、大丈夫だよ」
優しい笑みをこぼしたまま、香澄は繋いだ手を主張するように力を小さく込める。
その言葉を聴いて、彼女の明るい笑顔を見て、ライブへの心配は無用だと察する。
「そっか……。香澄の力になれたなら、嬉しいよ」
安心するように小さく息をつけた後、応援の気持ちを込めて、口を開く。
この話になった時、伝えようと決めていた言葉。
以前の時は迷っていた行動。
だけど、今は不安を感じることなく伝えることができた。
「頑張ってね。香澄なら出来るよ」
言葉と一緒に、僕も香澄の繋いだ手をギュッと優しく握る。
少しでもこの応援が、彼女に伝わるように。
「うん!」
「みんなありがとう! 次のバンドも聴いてね!」
ギターの少女が大きな声をあげる。彼女の声を皮切りに、体育館内から大きな拍手が包まれる。
拍手の音の中、友哉がステージを向いたまま話しかける。
「CHiSPAっていうバンドすごかったな」
「うん。聴いていてすごく楽しくなったし、カッコよかったよね」
友哉の言葉に頷く。
力強い歌声もそうだったけど、特にドラムの鳴らす音が迫力があって、身体中がビリビリとなってしまうことがあった。
「お姉ちゃん、大丈夫かな。さっきの人達のライブで緊張していないといいけど……」
眉をひそめながら、明日香ちゃんは心配そうな目でライブステージを見つめる。
そんな明日香ちゃんに、僕は明るい口調で話した。
「大丈夫だよ。一緒に回っていた時、本人はやる気満々だったし、きっと良いライブができるよ」
「それに香澄だけじゃなくて、市ヶ谷達もいるんだ。一緒に演奏する仲間がいるから大丈夫だろう」
「……そうですよね。お姉ちゃんだけならともかく、先輩たちがいますから大丈夫ですよね」
僕と友哉の言葉に、明日香ちゃんは固くなっていた表情を和らげる。
なんとか、励ますことができてよかった……。
いつも通りの調子に戻った明日香ちゃんに、心の中でホッとする。
アナウンス役の女の子の声が体育館内に響く。
「CHiSPAの皆様、ありがとうございました。次はPoppin'Partyの皆様です。準備の方、よろしくお願いします」
しばらくして、香澄達が壇上に上がってくる。
準備を始める四人を見るが、緊張してる感じはなく、普段通りの様子に見える。
各々が楽器の準備を始める。
いよいよ始まるんだな……。
ライブが始まることにワクワク感が出てくる。
準備が早く終わったのだろうか、香澄は誰もいないドラムの方を見ていることに気が付く。
「……頑張るね、さーや」
ドラムの方を見つめて、香澄は何かを呟いていると観客席の方へ向いて、マイクに声を発した。
「こんにちは! ポッピン――」
「待て待て! いきなり自己紹介じゃないだろう。順番を間違えるな」
「あっ! そうだった……」
元気よく挨拶する香澄に、市ヶ谷さんは待ったの声をかける。
どうやら予定していたMCとは違っていたみたいだ。
市ヶ谷さんの注意に、香澄は「あはは……」と乾いた笑みをした。
そんな彼女たちのコントのような様子に、周りの人達から小さな笑い声が聞こえてくる。
「もう、しっかりしてよお姉ちゃん……」
「えーと、ほら! 香澄なりの気のほぐし方かもしれないし!」
「そのフォローは無理があるじゃないか、優」
違った理由で眉をひそめながら、呆れた声で呟く明日香ちゃんに慌てて弁明するが、友哉に一刀両断される。
ごめん、香澄……。良いフォローが見つからなかったよ……。
心の中で彼女に謝る。
そんな僕たちの様子を知らないまま、香澄は仕切り直すようにもう一度元気な声をあげた。
「文化祭、盛り上がっていますかーー!」
彼女の明るい声に、ここにいる人たちの返事が体育館内に大きく響き渡る。
「最初の曲、行きます! 『私の心はチョココロネ』――」
曲が終わり、体育館内から拍手の音が響き渡る。
「ありがとうございました! 次は、今日のために皆で作った曲です」
「今日は一人いないけど、いつか一緒に歌おうって約束しました。いつかは分からないけど、信じてる。一緒に歌うこと、出来るって……。……私たちは待ってます」
「そんな気持ちで歌います。聴いてください――」
曲の名前を言おうとしたとき、体育館のドアが開いた音がする。
香澄は視線を横に向けると、驚いた表情をし、言葉を失っていた。
僕も彼女が見た方向を見ると、そこには山吹さんが立っていた。
「沙綾!」
香澄が彼女の名前を呼ぶ。
僕だけでなく、花園さんたちも彼女が来ていることに驚いていた。
「山吹が来たってことは……。親御さんの方は大丈夫そうだな」
「あ、たしかにそうだね。よかった……」
友哉の言葉に我に返ると、小さく息をつける。
彼女がここに来たということは、お母さんの体調は良好なんだろう。
「どういうことですか? 私には状況が分からないですけど」
安心している僕たちを見て、明日香ちゃんは質問をする。
そういえば、明日香ちゃんは山吹さんの事情は知らなかったんだ。
彼女にどう説明しようか考えていると、友哉が待ったの声をあげる。
「ああ、そのことは後で話すよ。今はライブを聴こうぜ。山吹もステージに参加するみたいだし。というか、ドラム出来るんだな」
僕たちが話しているうちに、山吹さんはステージに上がってドラムを鳴らし始めていた。
リズムよく軽快に鳴る音から、彼女がドラムを経験していることが十分に分かる。
「……そうですね。色々気になることはありますけど、今はお姉ちゃんたちのライブを聴きましょうか。ちゃんと、説明してくださいね」
そう言って、明日香ちゃんはステージの方へ視線を移す。
僕たちも香澄達の方を見てみると、既に打ち合わせが終わっており、演奏する準備に入っていた。
明日香ちゃんの言う通り、今は香澄達のライブを聴こう。
もう始まるであろう、彼女たちの新曲を聴く姿勢に入る。
いったい、どんな歌なんだろう。
どんな感じの曲なんだろう。
ワクワクした気持ちの中、一段と明るくなった香澄の元気な声が大きく響いた。
「お待たせしました! 聴いてください、『STAR BEAT!~ホシノコドウ~』」