BanG Dream! 彼女と過ごす日常 作:トマトジュース
今回は香澄視点のお話です。
ギターの音が、私の部屋に響き渡る。
「えっと……。じゃん、じゃん……っと」
たどたどしい手つきで、ギターが鳴らす音と一緒に声を出しながら、優は『きらきら星』をゆっくりと弾いていく。
どうやって弾けばいいのか分からなかった初めの頃と比べて、少しずつ上手になっている。
休日の午後。
こうして彼がランダムスターを弾くのは見慣れた光景で、私たちにとって日常の一つとなりつつあった。
「あれ? ちょっと音がずれちゃった? こっちで弾けばいいのかな?」
反省点を見つけると、自分に問いかけながら優は修正するようにもう一度演奏を始める。
四苦八苦と慣れない手つきで弦を鳴らすが、その表情は楽しそうで、演奏することを楽しんでいるのが伝わる。
そんな無邪気に弾いている彼の姿を見て、私も楽しくなる。
私も、優のように弾いていたなぁ……。
二月前は自分が彼と同じように弾いていたことを思い出す。
昔のことを懐かしく感じながら、一生懸命に頑張っている優の演奏を聴く。
リズム感を掴めたのか、彼は段々と口を閉じ、ギターを鳴らすことに集中する。
弾く音の流れに乗って、再び音を鳴らす。
一つ一つの音が続き、曲になっていく。
ゆっくりと、『きらきら星』で鳴らす音を楽しむように、優は最後まで弾くことが出来た。
「……できた」
優は小さな息を吐くと、嬉しそうな声を出す。
音が乱れることなく、綺麗に弾くことが出来ていた。
頑張った彼を祝うように大きな拍手をする。
「おめでとう! すごくよかったよ!」
「あはは、ありがとう。まだまだだけど、ちゃんと弾けるようになって嬉しいよ。なんだか他の曲も弾きたくなるね」
嬉しさを隠せないのか、落ち着きながらも優は瞳を爛々と輝かせながら答える。
「そうだよね! 私も『きらきら星』が弾けるようになった時、すごく嬉しかったんだ! 次はどんな曲を弾こうかな、この曲はどんな音になるんだろうってワクワクしたの!」
そんな彼に私も強く賛成する。
弾けるようになったあの日、次はこの曲を弾こうとワクワクした気持ちに動かされて、何時間も続けていたら、あっちゃんに怒られたことを思い出す。
さすがに寝る時間まで引いたのはいけなかったなぁ……。あのときはごめんね、あっちゃん。
「何時までやっているの!」と、鬼のような形相で怒った妹に心の中でもう一度謝る。
そんな私の心境を癒すように、優は嬉しそうに話を聞いていた。
「そんな嬉しいことがあったんだ。そうすると、香澄達もこれから色々な曲を演奏するから楽しみだね」
「うん! ポピパの皆と、たくさんライブするのが楽しみだよ。そういえば、肩とか大丈夫? キリもいいし、休もうか」
キリが良いと感じた私は、休憩することを提案する。
時計を見てみると、優がギターを弾いてから軽く一時間は超えていた。
ギターは何気に重たい。弾き慣れている私ならともかく、まだ数回しか経験がない彼にとっては疲れてしまっているかもしれない。
「そうだね。……っと、けっこう肩に負担がかかるね」
私の提案に優は賛成すると、左肩にかけていたランダムスターを優しく置き、左肩をほぐすように回す。
そんな彼の様子を見て、私はもう一つの提案を出した。
「肩もみでもしようか?」
「ありがとう。お願いしてもいい?」
「もちろんだよ! ふふふ、成長した私の奉仕力を見せてあげるよ」
「うん。楽しみにしてるよ」
私の冗談に優は笑って答えると、私に背中を向ける。
よーし、優がリフレッシュできるように頑張るぞーー!
心の中で気合いを入れながら、私はマッサージを始めた。
「どう、優?」
「……左肩が段々ほぐれていくのが分かるよ。上手くなったね」
「えへへ、ありがとう。家族みんなにマッサージをやっているからね。すごくうまくなっていると思うよ!」
優の喜ぶ声に、笑顔で答える。
日々のマッサージと、教本を読んで勉強していたおかげもあって、お母さんたちからはお墨付きをもらっている。
そのかいもあって、こうして優から褒められるのはかなり嬉しくて、マッサージによりいっそう力が入る。
会話はそこで途切れ、静かな時間が流れる。
しんとした、有咲の蔵や自宅で聞き慣れた楽器の音がない静かな空間。
気まずさや居づらさとは無縁の時間。
私と彼の間に時々やってくる、穏やかな時間の形。
この時間、やっぱり好きだな……。
不思議なほど居心地が良く、心が安らぐ。
優も同じなのか、リラックスしているようでマッサージに身をゆだねていた。
「……香澄のマッサージは、いつも元気が出るよ」
五分ほど経っただろうか、穏やかな声で話す優に私は聞き返した。
「元気が出るって、どういうこと?」
「なんていうんだろう……。マッサージしていたところだけじゃなくて、心が元気になるんだよ。頑張ろうって、やる気が出て、気持ちが明るくなるんだ。なんだか、香澄から元気を貰っている感じがするよ」
マッサージをする手が、一瞬緩まる。
だけど、すぐに気持ちを引き締めて、緩んだ手を動かし始める。
緩んだことに気付いていないのか、「ちょっと、変だったかな?」と照れ笑いをしながら優は話す。
変じゃないよ、優。
心の中で、優しく否定する。
マッサージに秘めていたことが伝わって、心から嬉しくなる。
自分の応援が、彼に伝わっているんだと。
「……そんなことはないよ。心を込めてマッサージしているから、優はもっと元気になったんだよ」
「心を?」
優の質問に、笑顔で頷く。
「お疲れ様。頑張ったね。早く良くなりますように……って、たくさんの気持ちを込めているからね」
労わるように、励ますように。
「ありがとう」と、優しい笑顔で答える優の元気な姿が見ることが出来るように。
そんな風に、応援を送りながらマッサージしていたことを伝える。
「……そっか」
指を頬で掻きながら、優は短く話すと静かになる。
顔は見えないけど、耳が段々と赤くなっていることに気が付く。
そんな優の様子を見て、小さく笑う。
「……ありがとう、香澄」
小さな声で、優は感謝を伝える。
彼の言葉に微笑みを隠さないまま、私はマッサージを続けた。
「腕が軽くなるぐらいだいぶ良くなったよ。ありがとう」
左肩を何回か回した後、優はお礼を言う。
見たかった彼の笑顔に、嬉しくなった私は元気に答えた。
「どういたしまして! 元気になってよかったよ。必要な時は遠慮せずに言っていいからね!」
「うん。その時は、またお願いするよ。……ねぇ、香澄。もう一つお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」
「いいよ! どんなお願い?」
「僕も、何か香澄にできることはないかな?」
「私に?」
話しの意図が分からなかった私は、疑問の言葉をあげる。
「うん。さっき香澄の話を聞いて思ったんだ。僕も、君に気持ちを込めたい。頑張っている香澄のことを、少しでも応援したいんだ」
落ち着いた口調で、優は自分の気持ちを話す。
「音楽経験がないから、僕ができることは少ないと思う。だけど、できない僕なりに香澄の力になりたい」
優の言葉がまっすぐに伝わってくる。
思いやりと優しさが多くつまった彼の気持ちが、私の胸にしっかりと届く。
嬉しい。
届いた彼の気持ちが、特別な気持ちへと変えていく。
胸の中を温かい気持ちで満たしていき、好きな想いが強くなる。
「あ、別に今すぐじゃなくていいからね? 香澄が何かして欲しいって思った時でいい――」
「ううん! 今すぐがいい! ちょっと、待ってて。どうしよう、優に何してもらおうかな……!」
嬉しくなった私は、遮るように自分の主張を強く言う。
自分でも分かるほど気持ちが舞い上がっていて、急ぐように頭の中が大きく活動していた。
私の突然の行動に驚くが、「えっと、慌てなくて大丈夫だからね」と彼は小さく笑う。
優なりに考えた言葉に断るわけもなく、何がいいかと頭をいつもより早く回転させる。
以前みたいに抱きしめてもらおうかな?
いや手を繋いで、彼に甘えるようにもたれかかるのもいいかもしれない。
それか、これから外でデートするのもいいかもしれない。
それとも――。
色々なアイデアがどんどん出てくる。
どれもがドキドキして、すごく嬉しくなるものを予感させる。
まだ決まっているわけじゃないのに、私の口はすでに嬉しい笑みを浮かべていた。
「あっ……」
考えている最中、一つのものがピンと思い浮かぶ。
その思い浮かんだことを、私は迷うことなく言った。
「あのね――」
「固くない? 大丈夫?」
「固くないよ。ちょうどいい感じ!」
真上から聞こえる彼の声に、笑顔で答える。
私がお願いしたことは、優に膝枕をしてもらうこと。
今、私はベッドに腰掛けている彼に膝枕をしてもらっていた。
「えへへ、一度はやってみたいと思ったんだ。は~、癒される~」
「香澄が喜んでくれて、よかったよ」
思う存分に甘える私に、優は柔和に笑う。
優から膝枕をしてもらうのは、いいかもしれない。
こうして触れ合えるのもいいし、優に違った甘え方ができるのはすごく嬉しい。
膝枕を満喫していると、しばらくして優は言葉を口にした。
「……なんとなくだけど、香澄が膝枕をする理由が少し分かったよ。嬉しくなるね」
「そうでしょ! すごく嬉しくなってくるんだ。優もこれからやってみる?」
「うん。香澄が良ければ、喜んで。……まだちょっと恥ずかしいけど」
私の提案に、優は指で頬を掻きながら、照れるように答える。
「ふふふ、楽しみだ~」
これからのことに胸を弾ませながら、楽しく考える。
また、優に膝枕をしてもらえる。
彼と過ごす時間に新しいことが増えて、嬉しくなる。
ふと、優の顔を小さく見てみる。
彼も私の顔を見ていたのか、お互いに目線が合う。
「どうしたの、香澄?」
穏やかなトーンで、優は私に聞いてくる。
目に映るのは、いつも見ている変わらない自然な笑み。
優しくて、私を明るくさせる大好きな笑顔。
彼の笑顔が、私を優しく見ていた。
嬉しいな……。
彼から温かい気持ちを向けられていることに、心が温かくなる。
胸の中に宿った想いを確かめていると、目線の先でベッドにつけている彼の手を見つける。
「……」
ゆっくりと、自分の指を優の手に近付ける。
「ん?」
私の行動に優は疑問を持つが、すぐに気付いたのか、優も自分の手を私の指に近付ける。
お互いの指が触れ合い、絡め合う。
彼の手の温かな熱が、私の手からしっかりと伝わってくる。
優しくて、安心する温かさに想いが深くなる。
「えへへ……」
私の声に、優も小さく笑う。
もう一度、彼の顔を見てみる。
私と同じくらい、頬を赤くしながら優は私を見つめていた。
「……ねぇ、このまま話してもいい?」
「もちろんだよ。香澄の話、たくさん聞かせて」
優しい笑顔で答える彼に見守られながら、私は色々なことを話した。
「……ふぁぁ」
ほのぼのと過ごしていると、小さなあくびが優の口から出る。
「大丈夫? 今度は私が膝枕しようか?」
うとうとしはじめている優に私は提案する。
私の声にハッとしたのか、優は恥ずかしそうに否定する。
「い、いや大丈夫だよ! 今さっき、目はバッチリ覚めたから!」
張り切るように答えるが、しばらくして再び意識が眠りに入る優。
そんな彼を見た私は、起き上がって彼の隣に座る。
「優、こっち来て。こっち」
ポンポンと自分の膝を叩き、明るい口調でここに寝るように誘う。
「いや、でも……香澄に悪いし」
「眠たい時は、無理せずに寝たほうがいいよ。それに、私も優に膝枕したいの」
遠慮している優に、私は半分押し切るように提案する。
私が引かないことを察したのか、彼は少し考えた後、軽く照れ笑いしながらお願いした。
「えっと……、お願いします」
「はい。お願いされました!」
笑顔で、彼の願いを迎える。
私の膝に、優はゆっくりと頭を下げてくる。
「……少し、寝るのがもったいないなぁ」
ぼそっと、小さな声で優は呟く。
その声はどこか惜しむようで、彼にしては珍しい甘える言葉だった。
そんな優をフォローするように、彼の頭を撫でながら明るい声で話す。
「またしてあげるから、今はゆっくり寝てて。なんなら子守唄でも歌おうか?」
「それだと、本格的に寝ちゃう気がするような……」
優のツッコミに無視をしつつ、子守唄を歌う。
『きらきら星』、『私の心はチョココロネ』、『STAR BEAT!~ホシノコドウ~』。
大きすぎず、だけど聞き取れるような小さな声量。
聴いている人がリラックスするようなイメージで、ゆったりとしたテンポで歌う。
「……」
最後の歌を歌い終え、優の様子を見てみると、ぐっすりと眠りに入っていた。
「寝ちゃったね……」
起こさないように、もう一度彼の頭を優しく撫でる。
気持ちよさそうに熟睡している優の寝顔を見て、笑みがこぼれる。
しんとした静かな時間が流れて、もう一度穏やかな時間がやってくる。
そんな優しい時間に後押しされるように、私は寝ている彼に言葉を伝えた。
彼への好きな気持ちを。
「伝わっているよ、優の気持ち。十分すぎるぐらい、優は私の力になっているんだよ」
クライブの時。
文化祭の時。
そして、今。
いつも優は私の隣にいて、応援してくれた。
ハッキリと。今でも鮮明に思い出すことができる。
想いが込められた言葉を伝える彼の優しい表情。
繋がれた手から伝わる、優しい温もりを。
「……優。私もね、幸せ者だよ。あなたの言葉は優しい気持ちがいっぱい。その言葉に、私は何度も励まされて。その想いに、私はあなたのことが大好きなんだって何度も自覚するの」
胸の中に再び温かい想いが現れ、溢れる。
少し早くなった心臓の鼓動が、私の気持ちを主張してくる。
「好き……」
溢れた想いを言葉にする。
たった一言。想いを口にしただけなのに、心が満たされていく。
キラキラドキドキとは違う、かけがえのない私の大切なもの。
ありがとう、優。
私のことを、好きだと言ってくれて。
こんなにも、たくさんの気持ちを伝えてくれて。
「私も、優のことが大好きだよ。これからも、傍にいてね」