BanG Dream! 彼女と過ごす日常 作:トマトジュース
しんとした静かな部屋に、突然携帯電話の着信音が流れる。
こんな時間に誰からだろう。
時刻は20時過ぎ。
多くの高校生が、自宅で勉強や趣味に費やしている時間帯。
僕は宿題をやっている手を止めて、鳴っている携帯電話を手に取る。
この時間帯に電話をかけるのは友人と香澄ぐらいしかいない。
香澄だったら嬉しいなと軽く期待しながら画面を確認する。
『香澄』
香澄からだ。
恋人から電話がきてくれたことに少し嬉しくなる。
姿勢を正し、一度咳払いをしてから、電話を取る。
「もしも……」
「こんばんわ! あのね、優! 私見つけたの!」
「わわっ!?」
興奮冷めやらぬ勢いで話す彼女の声に驚いて、思わず携帯電話を落としそうになる。
お、落としちゃう……!
必死に、掴んだ手から離さないように全神経を集中させる。
集中した五本の指は携帯電話をギリギリ離さなかった。
「あ、危なかった……」
なんとか落とさずに済んだことにホッとする。
いきなり耳元に大声で話されると、さすがにびっくりしてしまう。
『あれ? 優? どうしたの? もしもし~!』と彼女の気楽な声を聞きながら、おそるおそる携帯電話を耳に近づける。
「……もしもし。聞こえているよ」
「よかった。何も聞こえなかったから、何かあったのか心配したよ」
「あはは、心配させちゃってごめん。ところで、何を見つけたの?」
心配している彼女をなだめ、本題を聞いてみる。
あんなに、かなりはしゃいでいる彼女の声を聞くのは初めてかもしれない。
そこまでさせるほど、彼女は何を見つけたのだろう。
『キラキラドキドキするようなことは見つかった?』
『まだ見つからないや。でも、探し続ければ必ず見つかるって信じてる!』
もしかして……。
数日前、喫茶店で話していたことを思い出す。
ついに見つけたの?
まだそう決まっていないのに、香澄が次に出す言葉を期待して待っている自分に気づく。
「キラキラドキドキすること!」
はっきりと、香澄の言葉が頭の中に響き渡る。
「ほ、本当に?」
夢でもみているのだろうか。
もう一度、彼女に聞いてみる。
「ホントにホントに! 見つけたよ、優!」
「そっか……! 見つけたんだ」
嬉しそうに話す香澄に、僕も嬉しくなる。
自分でも、これ以上なく口元が緩んでいることが分かる。
「おめでとう! 香澄!」
「ありがとう! もう優に伝えたくて、かなりウズウズしていたよ。この時間からなら、優とたくさん話せるからね」
「だから電話出た時、声が大きかったんだね」
開口一番に大声で話した理由に納得する。
香澄とこうして電話するのは、付き合う以前からもやっている。
夜は大体自分の部屋で寛いでいることを、香澄は知っているから、この時間から電話することが多いのだ。
「今更だけど、この後、時間は大丈夫だよね?」
「もちろん、大丈夫だよ。この話を僕が断るわけないだろう」
彼女の電話を断るわけがない。
どうやってキラキラドキドキすることを見つけたのか気になるし、その時の香澄が何を思って、どう感じたのか知りたかったのもある。
長年探していたことを見つけて、どんな気持ちになったんだろうか。
香澄のことだから、かなり嬉しかっただろうと簡単に想像できる。
だけど、自分の想像より彼女の口から嬉しく思ったこと、感じたことを聞きたい。
香澄のことが好きだから、少しでも彼女のことを僕は知りたかった。
「さすが、優! ふふふ……、今夜は寝かさないからね!」
「明日も学校があるから、ほどほどにね」
苦笑いをこぼしながら、僕は香澄の話を聞くために、椅子を深く座り直した。
それから、彼女は今日起きたことを楽しく話した。
帰り途中で見つけた星のシールを辿って、『流星堂』という骨董屋に着いたこと。
骨董屋の倉庫の中で、大きな星型のシールが貼ってあったギターケースを見つけたこと。
その時出会った女の子--市ヶ谷有咲とひょんなことから、ライブハウス『SPACE』に入り、ライブしている人たちを見て感動したこと。
香澄の行動に半分驚きながらも、彼女らしいなと納得してしまう。
ライブハウスの話に入ったあたりから、彼女は再び興奮したかのようにライブで感じたことを話した。
すごくキラキラしていて、すごくドキドキした。
こんなに強く感じたのは、星の鼓動を感じたとき以来だ。
自分もバンドを作って、ライブしたい。
精一杯、香澄が僕に伝えようとしていることが分かる。
彼女の声を聞いて、本当にキラキラドキドキすることを見つけたんだと改めて感じた。
「……優。ありがとう」
「どうしたの、突然?」
さっきのような盛り上がっている感じではなく、静かで、どこか優しい口調。
急に感謝を伝える香澄に、僕は聞いてみる。
「優がいてくれたから、見つけることが出来たよ。私だけだったら、たぶん見つからなかったと思う」
「そんなことはないよ。僕はただ応援してたり、一緒に探していたりしただけ。諦めずに探し続けたのは、香澄が頑張ったからだよ」
実際、僕が出来たことは、極端な話その二つしかなかった。
自分が出来ることはやってきたつもりだけど、最終的に見つけたのは香澄自身の力だ。
「その諦めない気持ちを作ったのは、優のおかげなんだよ。初めて会った頃のこと、覚えている?」
「覚えているよ。天体観測で会った頃だよね」
まぶたを閉じて、あの頃のことを思い返す。
初めて会ったことは、今でもはっきりと思い出せる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「えっと……僕も一緒に探していい?」
「……」
「いや、星の鼓動がどういうものか気になっちゃって、僕も探してみたいなぁと思って……」
きょとんとした様子で、何も言わないまま見ている彼女に、焦りながら話す。
もしかして、図々しかったのだろうか。
「……駄目かな?」
弱弱しく訊く。
しばらくして、彼女はパァッと明るい笑顔になると、僕の方に元気よく近づいてくる。
「いいよ! 私、戸山香澄! あなたの名前は?」
「た、高森優だよ」
嬉しくなっている彼女に押されながら、自分の名前を答える。
どうやら迎えてくれたみたいだ。
「よろしくね、優! そういえば、双眼鏡は持っている?」
「ううん。お父さんが持っているや」
「なら、優もお父さんから借りよう。星を探すのに必要だからね」
「分かったけど、どうして双眼鏡がいるの?」
「コレなら星が鼓動しているのがよく見えるから、探しやすいの」
なるほど。たしかに探しやすい。
自信満々に言う香澄ちゃんに、僕は思わず納得する。
それから、僕たちはお父さんに事情を説明しに向かった。
事情を聞いたお父さんは了承してくれたが、二つの条件を出した。
自分も気になるから、一緒に参加したいこと
お父さんの目の届く範囲にいること
僕たちはすぐに頷いた。
彼女の方もお父さんと一緒に探していたようで、4人で行動することになった。
僕と彼女のお父さんが世間話を話している中、僕たちは双眼鏡で星を探していた。
双眼鏡から覗いた景色は、キラキラと綺麗に光る星々。
その景色に見惚れながらも、鼓動する星を探す。
「香澄ちゃんは見つかった?」
「まだ~」
探してから数十分。僕と香澄ちゃんはまだ見つかることが出来なかった。
ちょうどいい高さの切株に座って、少し休憩をしていると、元気がない様子の彼女を見つける。
「やっぱり、見つからないのかな……」
ボソッと、香澄ちゃんは呟く。
「香澄ちゃん、どうしたの?」
「クラスの皆に話したの。星空を見て、星の鼓動を感じたって。だけど、みんな『そんなものは見つからない』って言うの。そんなことないのに……」
さっきまで明るい様子とは逆で、香澄ちゃんは暗い気持ちで話し始める。
「でも……、何度も探したけど、全然見つからなかった。やっぱり、みんなの言った通り、見つからないのかな……!」
段々と涙目になってくる香澄ちゃん。
悔しそうに両手を力強く握っている彼女に、僕は励ますように明るい声をだしてこう言った。
「見つかるよ!」
僕の言葉に、香澄ちゃんは俯いた顔をあげる。
元気になってほしい。
よく考えずに、思ったことを香澄ちゃんに話す。
「お父さんが言っていたの。諦めずに最後までずっと探し続ければ、絶対に見つかるって! だから、香澄ちゃんも絶対に見つかるよ!」
「本当に、見つかる?」
「うん! 僕もそのお蔭で失くし物とか必ず見つかったよ!」
さっきの彼女と同じように、僕も自信満々で話す。
「……ありがとう! 私、頑張る!」
両目を手でゴシゴシと拭くと、泣きそうな顔から笑顔に変わる。
元気が出たみたいでよかった。
香澄ちゃんの笑顔を見て、僕も嬉しくなる。
「よーし。それじゃあ、もう一度探そう!」
「「おーー!」」
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「あの時、励ましてくれたことは忘れないよ」
「なんとか元気づけようと一生懸命だったからね。元気になってよかったよ」
照れ隠しに頬を掻く。
嬉しい反面、どこかむず痒さを感じてしまう。
「ねぇ……、優」
「ん?」
「私、バンド頑張るね。すごく大変だと思うけど、頑張ってみせる」
「頑張って。だけど、無理はしないようにね。香澄って、夢中になると無理しちゃうから」
「もう。心配してくれるのは嬉しいけど、私だって体調管理ぐらいできるよ」
ぶ~と言いたげに、香澄は僕に文句を言う。
「ごめんごめん。少し心配だったからさ」
拗ねている彼女をなだめる。
本人が大丈夫だというんだったら、大丈夫だろう。
「焦らずに、香澄のペースでやっていけばいいからね。せっかくだから、楽しまないと」
「うん。ライブすることになったら、すぐに連絡するね。だから、ちゃんと予定を空けといてよ」
「分かっているよ。ライブ、楽しみにしているからね」
香澄の優しいお願いに、笑顔で答える。
長い間、見つけることができた『キラキラドキドキすること』。
嬉しいことや楽しいことだけじゃなく、辛かったり、苦しかったり、色々なことがあるかもしれない。
それでも、香澄なら自分の力でそういったことを乗り越えられるだろう。
僕は僕なりに考えて、出来る範囲で彼女を応援しよう。
僕は優しく、彼女にこう言った。
「何か手伝えることがあったら、いつでも言ってね。応援しているから」