BanG Dream! 彼女と過ごす日常   作:トマトジュース

2 / 12
アニメ第一話後のお話です。


第二話

 しんとした静かな部屋に、突然携帯電話の着信音が流れる。

 

 こんな時間に誰からだろう。

 

 

 時刻は20時過ぎ。

 多くの高校生が、自宅で勉強や趣味に費やしている時間帯。

 僕は宿題をやっている手を止めて、鳴っている携帯電話を手に取る。

 

 

 この時間帯に電話をかけるのは友人と香澄ぐらいしかいない。

 香澄だったら嬉しいなと軽く期待しながら画面を確認する。

 

 

 

 『香澄』

 

 

 香澄からだ。

 恋人から電話がきてくれたことに少し嬉しくなる。

 姿勢を正し、一度咳払いをしてから、電話を取る。

 

 

 「もしも……」

 

 「こんばんわ! あのね、優! 私見つけたの!」

 

 「わわっ!?」

 

 興奮冷めやらぬ勢いで話す彼女の声に驚いて、思わず携帯電話を落としそうになる。

 

 お、落としちゃう……!

 

 必死に、掴んだ手から離さないように全神経を集中させる。

 集中した五本の指は携帯電話をギリギリ離さなかった。

 

 「あ、危なかった……」

 

 なんとか落とさずに済んだことにホッとする。

 いきなり耳元に大声で話されると、さすがにびっくりしてしまう。

 

 『あれ? 優? どうしたの? もしもし~!』と彼女の気楽な声を聞きながら、おそるおそる携帯電話を耳に近づける。

 

 「……もしもし。聞こえているよ」

 

 「よかった。何も聞こえなかったから、何かあったのか心配したよ」

 

 「あはは、心配させちゃってごめん。ところで、何を見つけたの?」

 

 心配している彼女をなだめ、本題を聞いてみる。

 あんなに、かなりはしゃいでいる彼女の声を聞くのは初めてかもしれない。

 そこまでさせるほど、彼女は何を見つけたのだろう。

 

 

 『キラキラドキドキするようなことは見つかった?』

 

 『まだ見つからないや。でも、探し続ければ必ず見つかるって信じてる!』

 

 

 もしかして……。

 数日前、喫茶店で話していたことを思い出す。

 

 ついに見つけたの?

 

 まだそう決まっていないのに、香澄が次に出す言葉を期待して待っている自分に気づく。

 

 

 「キラキラドキドキすること!」

 

 はっきりと、香澄の言葉が頭の中に響き渡る。

 

 「ほ、本当に?」

 

 夢でもみているのだろうか。

 もう一度、彼女に聞いてみる。

 

 「ホントにホントに! 見つけたよ、優!」

 

 「そっか……! 見つけたんだ」

 

 嬉しそうに話す香澄に、僕も嬉しくなる。

 自分でも、これ以上なく口元が緩んでいることが分かる。

 

 

 「おめでとう! 香澄!」

 

 「ありがとう! もう優に伝えたくて、かなりウズウズしていたよ。この時間からなら、優とたくさん話せるからね」

 

 「だから電話出た時、声が大きかったんだね」

 

 開口一番に大声で話した理由に納得する。

 香澄とこうして電話するのは、付き合う以前からもやっている。

 

 夜は大体自分の部屋で寛いでいることを、香澄は知っているから、この時間から電話することが多いのだ。

 

 「今更だけど、この後、時間は大丈夫だよね?」

 

 「もちろん、大丈夫だよ。この話を僕が断るわけないだろう」

 

 彼女の電話を断るわけがない。

 どうやってキラキラドキドキすることを見つけたのか気になるし、その時の香澄が何を思って、どう感じたのか知りたかったのもある。

 

 長年探していたことを見つけて、どんな気持ちになったんだろうか。

 香澄のことだから、かなり嬉しかっただろうと簡単に想像できる。

 

 

 だけど、自分の想像より彼女の口から嬉しく思ったこと、感じたことを聞きたい。

 香澄のことが好きだから、少しでも彼女のことを僕は知りたかった。

 

 

 

 「さすが、優! ふふふ……、今夜は寝かさないからね!」

 

 「明日も学校があるから、ほどほどにね」

 

 苦笑いをこぼしながら、僕は香澄の話を聞くために、椅子を深く座り直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、彼女は今日起きたことを楽しく話した。

 

 帰り途中で見つけた星のシールを辿って、『流星堂』という骨董屋に着いたこと。

 骨董屋の倉庫の中で、大きな星型のシールが貼ってあったギターケースを見つけたこと。

 その時出会った女の子--市ヶ谷有咲とひょんなことから、ライブハウス『SPACE』に入り、ライブしている人たちを見て感動したこと。

 

 香澄の行動に半分驚きながらも、彼女らしいなと納得してしまう。

 

 

 ライブハウスの話に入ったあたりから、彼女は再び興奮したかのようにライブで感じたことを話した。

 すごくキラキラしていて、すごくドキドキした。

 こんなに強く感じたのは、星の鼓動を感じたとき以来だ。

 

 

 自分もバンドを作って、ライブしたい。

 

 

 精一杯、香澄が僕に伝えようとしていることが分かる。

 彼女の声を聞いて、本当にキラキラドキドキすることを見つけたんだと改めて感じた。

 

 

 

 

 「……優。ありがとう」

 

 

 「どうしたの、突然?」

 

 さっきのような盛り上がっている感じではなく、静かで、どこか優しい口調。

 

 急に感謝を伝える香澄に、僕は聞いてみる。

 

 

 「優がいてくれたから、見つけることが出来たよ。私だけだったら、たぶん見つからなかったと思う」

 

 「そんなことはないよ。僕はただ応援してたり、一緒に探していたりしただけ。諦めずに探し続けたのは、香澄が頑張ったからだよ」

 

 実際、僕が出来たことは、極端な話その二つしかなかった。

 自分が出来ることはやってきたつもりだけど、最終的に見つけたのは香澄自身の力だ。

 

 「その諦めない気持ちを作ったのは、優のおかげなんだよ。初めて会った頃のこと、覚えている?」

 

 「覚えているよ。天体観測で会った頃だよね」

 

 まぶたを閉じて、あの頃のことを思い返す。

 

 初めて会ったことは、今でもはっきりと思い出せる。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「えっと……僕も一緒に探していい?」

 

 「……」

 

 「いや、星の鼓動がどういうものか気になっちゃって、僕も探してみたいなぁと思って……」  

 

 きょとんとした様子で、何も言わないまま見ている彼女に、焦りながら話す。

 もしかして、図々しかったのだろうか。

 

 「……駄目かな?」

 

 弱弱しく訊く。

 しばらくして、彼女はパァッと明るい笑顔になると、僕の方に元気よく近づいてくる。

 

 「いいよ! 私、戸山香澄! あなたの名前は?」

 

 「た、高森優だよ」

 嬉しくなっている彼女に押されながら、自分の名前を答える。

 どうやら迎えてくれたみたいだ。

 

 「よろしくね、優! そういえば、双眼鏡は持っている?」

 

 「ううん。お父さんが持っているや」

 

 「なら、優もお父さんから借りよう。星を探すのに必要だからね」

 

 「分かったけど、どうして双眼鏡がいるの?」

 

 「コレなら星が鼓動しているのがよく見えるから、探しやすいの」

 

 なるほど。たしかに探しやすい。

 自信満々に言う香澄ちゃんに、僕は思わず納得する。

 

 

 それから、僕たちはお父さんに事情を説明しに向かった。

 

 事情を聞いたお父さんは了承してくれたが、二つの条件を出した。 

 

 自分も気になるから、一緒に参加したいこと

 お父さんの目の届く範囲にいること

 

 僕たちはすぐに頷いた。

 彼女の方もお父さんと一緒に探していたようで、4人で行動することになった。

 

 

 僕と彼女のお父さんが世間話を話している中、僕たちは双眼鏡で星を探していた。

 双眼鏡から覗いた景色は、キラキラと綺麗に光る星々。

 その景色に見惚れながらも、鼓動する星を探す。

 

 「香澄ちゃんは見つかった?」

 

 「まだ~」

 

 探してから数十分。僕と香澄ちゃんはまだ見つかることが出来なかった。

 ちょうどいい高さの切株に座って、少し休憩をしていると、元気がない様子の彼女を見つける。

 

 「やっぱり、見つからないのかな……」

 ボソッと、香澄ちゃんは呟く。

 

 「香澄ちゃん、どうしたの?」

 

 「クラスの皆に話したの。星空を見て、星の鼓動を感じたって。だけど、みんな『そんなものは見つからない』って言うの。そんなことないのに……」

 

 さっきまで明るい様子とは逆で、香澄ちゃんは暗い気持ちで話し始める。

 

 

 「でも……、何度も探したけど、全然見つからなかった。やっぱり、みんなの言った通り、見つからないのかな……!」

 

 段々と涙目になってくる香澄ちゃん。

 悔しそうに両手を力強く握っている彼女に、僕は励ますように明るい声をだしてこう言った。

 

 「見つかるよ!」

 僕の言葉に、香澄ちゃんは俯いた顔をあげる。

 元気になってほしい。

 よく考えずに、思ったことを香澄ちゃんに話す。

   

 「お父さんが言っていたの。諦めずに最後までずっと探し続ければ、絶対に見つかるって! だから、香澄ちゃんも絶対に見つかるよ!」

 

 「本当に、見つかる?」

 

 「うん! 僕もそのお蔭で失くし物とか必ず見つかったよ!」

  

 さっきの彼女と同じように、僕も自信満々で話す。

 

 

 「……ありがとう! 私、頑張る!」

 

 両目を手でゴシゴシと拭くと、泣きそうな顔から笑顔に変わる。

 元気が出たみたいでよかった。

 香澄ちゃんの笑顔を見て、僕も嬉しくなる。

 

 

 「よーし。それじゃあ、もう一度探そう!」

 

 「「おーー!」」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「あの時、励ましてくれたことは忘れないよ」

 

 「なんとか元気づけようと一生懸命だったからね。元気になってよかったよ」

 

 照れ隠しに頬を掻く。

 嬉しい反面、どこかむず痒さを感じてしまう。

 

 

 「ねぇ……、優」

 

 「ん?」

 

 「私、バンド頑張るね。すごく大変だと思うけど、頑張ってみせる」

 

 「頑張って。だけど、無理はしないようにね。香澄って、夢中になると無理しちゃうから」

 

 「もう。心配してくれるのは嬉しいけど、私だって体調管理ぐらいできるよ」

 ぶ~と言いたげに、香澄は僕に文句を言う。

 

 「ごめんごめん。少し心配だったからさ」

 拗ねている彼女をなだめる。

 本人が大丈夫だというんだったら、大丈夫だろう。

 

 「焦らずに、香澄のペースでやっていけばいいからね。せっかくだから、楽しまないと」

 

 「うん。ライブすることになったら、すぐに連絡するね。だから、ちゃんと予定を空けといてよ」

 

 「分かっているよ。ライブ、楽しみにしているからね」

 香澄の優しいお願いに、笑顔で答える。

 

 

 

 長い間、見つけることができた『キラキラドキドキすること』。

 嬉しいことや楽しいことだけじゃなく、辛かったり、苦しかったり、色々なことがあるかもしれない。

 

 それでも、香澄なら自分の力でそういったことを乗り越えられるだろう。

 僕は僕なりに考えて、出来る範囲で彼女を応援しよう。

 

 僕は優しく、彼女にこう言った。

 

 「何か手伝えることがあったら、いつでも言ってね。応援しているから」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。