BanG Dream! 彼女と過ごす日常   作:トマトジュース

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アニメ第三話後の話です。


第四話

五月の中旬。高校生活に大分慣れてきた頃、放課後に学校の先生から一つの連絡があった。

 

『今月の最後の週に、中間テストが始まるからしっかり勉強するように』

 

 

先生のその言葉をきっかけに、テストに向けて勉強を始める人が増えた。

図書館や教室といった学校内で、友達と一緒に勉強する人。

自宅で自分のペースで勉強する人。

 

 

皆が自分のやり方で勉強している中、僕たちも同じように勉強を始めていた。

 

 

 

 

 

 

「よいしょっ……と」

 

両手で持っている大きな机を、壊さないようにゆっくりと置く。

ふぅ……と、息を軽く吐いた後、部屋の中の様子を確認する。

 

「掃除もしたから、汚い場所はない。机もさっき持ってきた。うん、準備は大丈夫だね」

 

あとは、これから来る二人を待つだけだ。

自室のセッティングが終わったことに満足した僕は、時計を見る。

 

 

「まだ時間があるな。それまで、何しようか……」

二人が来るまで何をするか考える。

一足先に、テスト勉強を始めようか。いや、リビングでテレビを見たりして寛ぐか。

 

ピンポーン

 

 

あれこれと考えているうちに、呼び鈴が鳴ったことに気づく。

 

「もう来たのかな?」

 

玄関まで行った僕はドアを開けて、ドアの先にいる人物を見る。

入り口にいたのは、笑顔で待っていた彼女の姿だった。

 

「いらっしゃい」

 

「こんにちは! 予定より早く来ちゃったけど、大丈夫かな?」

 

「大丈夫だよ。ちょうど、部屋の準備が終わったところだったから」

 

「そうなんだ、ありがとう。おじゃましまーす!」

明るい声で挨拶する香澄の声を聞きながら、部屋に案内する。

 

 

「まだ友哉も来ていないから、ゆっくりしてね」

 

「うん! は~、やっぱり優のベッドは気持ちいいね~」

床に荷物を置くと、香澄は一目散に僕のベッドに横になって寛ぐ。

言葉以上にゆっくり過ごしている彼女に苦笑いをこぼす。

 

「分かっているけど、まだ寝ちゃだめだからね。これからテスト勉強をするんだから」

 

気持ちよさそうにしている彼女に軽く注意する。

勉強するためにウチに来ているのに、勉強せずに眠ったまま過ごすのは本末転倒だ。

 

「分かっているよ~。勉強前の休憩~」

 

「休憩するようなことは、まだしていないでしょ」

 

語尾を伸ばして話す彼女に突っ込みを入れる。

 

「優もこっちに来て、一緒に横になろう」

 

「狭くさせちゃうからやめとくよ……って、場所を無理に作らなくていいよ」

断ろうとした矢先に、隅っこの方へ移動して香澄は場所を作り始める。

 

 

 

「ほらほら! こっちこっち」

ポンポンとベッドを叩いて、こっちに来るように香澄は呼びかける。

 

「……しょうがないなぁ」

彼女にそこまでさせて断るわけにはいかない。

僕は軽く咳き込んで、ベッドに向かう。

 

 

「素直じゃないね~。耳が少し赤いよ」

こっちの気持ちを分かっているのか、ニヤニヤと笑う香澄を無視して隣りで横になる。いつもと違う視点で彼女を見るのはどこか新鮮に感じた。

 

「なんとか入るもんだね。窮屈にさせてない?」

 

「大丈夫だよ。このままゆっくりしよう」

 

明るい笑顔で話す彼女に誘われるまま、僕もゆっくり寛いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、優……」

 

 

隣りにいないと聞こえないぐらい、ぼそりと彼女は呟く。

置いてあった枕を弄っている手を止めて、香澄に目を向ける。

 

 

「お願いがあるんだけど、いい?」

普段の彼女とは違う明るい声ではなく、どこか甘えるような声。

俯いていて顔がよく見えないが、耳を赤くしながら彼女はゆっくりと僕の手に触れて、握ってくる。

 

香澄の様子を見て、今までの彼女の甘え方を振り返る。

彼女はどうしたいのか。少し分かってきた僕は彼女を安心させるように優しく答えた。

 

「大丈夫だよ。どうしたの?」

僕の言葉を聞いて安心したのか、香澄は俯いた顔をあげる。

 

 

「頭撫でてくれる? 優に触れてもらうの、温かくて好きだから」

 

「もちろんだよ」

 

上目遣いで、どこか照れるようにお願いする彼女に応えるため、彼女の頭に手を乗せる。

優しく、ゆっくりと撫でる。

 

「えへへ……気持ちいい」

目を細めながら、静かに喜んでいる香澄を見て、僕も嬉しくなる。

香澄が喜んでくれて、よかった。

 

嬉しそうにしている彼女を見ながら、僕はしばらく撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

香澄とベッドでまったり過ごしていると、インターホンが鳴っていることに気付く。

時計を見ると、勉強会を始める5分前だった。

 

「友哉かな? それじゃあ、行ってくるね。早く勉強の準備をするんだよ」

 

「はーい」

 

 

香澄に準備するように促し、玄関に向かう。

ドアを開けた先にいたのは、中学からの友人――野崎友哉(のざきともや)だった。

 

 

きさくな人で、中学の頃から香澄と三人でよく遊ぶ仲である。

そんな彼とは高校も一緒で、同じクラス。

初めての高校生活で緊張していた僕が、今も楽しく過ごせるのは彼のおかげかもしれない。

 

 

「いらっしゃい」

 

「お邪魔するぜ。香澄の靴があるが、もう来ているのか?」

 

「うん。早めに来て、僕の部屋で寛いでいるよ」

 

玄関内にある彼女の靴を見て、疑問に思っている友哉に、香澄がすでに来ていることを説明する。

 

「珍しいな。中学の時は、いつも時間ギリギリだったのに……」

思ってみれば、たしかにそうだ。

中学から一緒に過ごしていた友人の驚いた言葉に、おもわず頷く。

今回みたいに勉強会をする時、香澄は始まる時間ギリギリに来ることが多くあった。

 

今回はどうして早く来たんだろうか……?

 

僕も疑問に思っていると、しばらく考えていた友哉は、「ああ……、なるほど」と納得した様子で僕の顔を見て呟く。

 

 

「何か分かったの?」

 

「確証はないが、一つ言えるのは、相変わらず香澄がお前にべた惚れなのはよく分かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ! 友哉久しぶり。元気にしてた?」

 

「当たり前だろ。久しぶりだな香澄。……なんかやけにイキイキしているが、優のおかげか?」

勉強の準備をしている香澄に、友哉は面白そうに訊いてくる。

長年の付き合いで、友哉のワザとらしい様子に気づいたのか、香澄はいたずらっ子のように満面の笑みで答える。

 

 

「うん! 優から元気もらったおかげだよ。ありがとう、優」

 

「恋人から嬉しい言葉をもらったわけだが、どうなんだ彼氏さん」

 

「……恥ずかしいからノーコメントで。早く勉強始めるよ」

二人のからかいに軽い危機感を感じた僕は、肘で小突いてくる友人に苦し紛れの言い訳をして、床に座る。

そんな僕の反応を見て、二人は分かりやすいようにコソコソした会話をする。

 

「照れてるな」

 

「照れているね」

 

二人の的確な言葉に恥ずかしさが増してくる。

なんだろうこの精神的な仕打ちは。穴があったら入りたいほど、身を隠したい気分だ。

 

 

「冗談はこれぐらいにして、優がふて寝していないうちにさっさとテスト勉強を済ませるか」

 

「そう思うんだったら、ほどほどにしてよね。何から勉強する?」

二人にどの科目から勉強するか聞いてみる。

得意科目から始めるか、それとも苦手科目を先に勉強して、後々の勉強を楽にするか。

時間はたっぷりあるから迷ってしまうな。

 

 

「だったら、先に苦手科目を勉強しない? 分からないことは三人で解決した方が良いし。私も分からないことは、優と友哉に教えてもらおうと思って」

先に提案したのは香澄だった。

苦手科目から勉強することを提案する彼女に、僕と友哉は賛成する。

 

「僕もその提案に賛成。苦いものは、後回しせずに早めに終わらせた方がいいと思うからね」

 

「そうだな。だけど全教科は無しだからな、香澄。せめて3つぐらい科目絞っておけよ」

 

「私だって、少しは勉強は出来るよ! 何気に酷くない?」

 

「悪い悪い」

不満げに香澄は話すが、その言葉に嫌悪感は無く、どこか親しみがあった。

冗談で話している香澄に気付いていたのか、友哉は軽く謝る。

二人のやりとりを見て、懐かしくなった僕はクスッと笑う。

 

 

高校生になっても変わらない。中学から見ているいつもの光景だった。

 

 

「それじゃあ、始めようか。大変だけど頑張ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勉強を始めてから、数十分が経過しただろうか。

 

 

解答欄に答えを書く手が止まり始める。

分かっていたけど、苦手なものを見るのは苦しいなぁ。

 

問題文を見る顔が、自分でも険しくなってきているのが分かる。

 

自分にとって嫌な科目の問題を見ることに、苦痛を感じてしまう。

後回しして得意科目の勉強へ変更したいと、甘い誘惑を受けたくなるが、二人の頑張っている様子を見て、甘かった気持ちを引き締める。

 

「う~」と睨みつけるかのように問題文を見ている香澄。

真剣な様子で問題に取り組んでいる友哉。

 

 

僕も負けずに頑張らないと!

心の中で喝を入れながら、僕も問題に取り掛かった。

 

分からないことは三人で教え合いながら、少しずつ問題を処理する。

 

 

最後の問題を解いて、軽く息をつき、時計を見てみる。

 

あれから、二時間ぐらいが経過していた。

時間的にキリが良いし、そろそろ休憩してみるのもいいかもしれない。

 

僕は二人に提案する。

 

「そろそろ休憩しない?」

 

「そうするか。はぁーー、疲れた」

重いモノを吐き出すようにため息をつくと、友哉は身体を後ろにそらして伸びを始める。

 

 

「うん。もう疲れた……」

力なく答えた香澄は机にもたれかかる。

 

 

「お茶菓子持ってくるから、ちょっと待っててね」

 

「俺も手伝うぜ。一人じゃ大変だろ?」

 

「ありがとう。お願いするよ」

友哉と一緒にリビングへ向かい、お茶菓子の準備をした。

飲み物を用意するために、冷蔵庫からジュースを取り出し、コップに注ぐ。

 

リビングに、僕たち以外の人がいないことを気にしたのか友哉は聞いてくる。

 

「そういえば、お前の家族が見えないが、出かけているのか?」

 

「うん。真由と母さんは買い物に出かけているよ。お菓子は何が食べたい?」

 

「そうなのか。悪いな、甘い物で」

甘めのお菓子も一緒に用意し、部屋に戻る。

 

「用意できたよ。はい、お疲れ様」

 

「ありがとう!」

ジュースを香澄に渡し、僕もジュースを飲む。

勉強で疲れているせいなのか、いつもより甘くて美味しく感じた。

 

 

しばらく三人で一息ついていると、友哉が話を切り出した。

 

「そういえば、ギターの方はどうなんだ、香澄? 優からは、教本を使ったりして練習していると聞いているが」

 

「ふふん! 上手くなったよ。『きらきら星』をひと通り弾けるようになったの!」

友哉と僕に見せつけるかのようにピースしながら、香澄は上達したことを嬉しそうに報告する。

 

「もう弾けるようになったんだ。頑張ったね、香澄」

 

教本を買う前は、たどたどしい演奏で苦戦していたのに。あれから練習して上手くなったんだね。

香澄の成長に心がほっこりする。

 

「お、おう。上達ぶりがいまいち伝わらないが、とりあえず頑張っているみたいだな」

何を言えばいいのか、微妙な表情をしながらも友哉は香澄を誉める。

 

「もちろんだよ。ライブすることになったら、友哉も呼ぶからちゃんと予定空けといてよ?」

 

「いいぜ、約束する。いい演奏を期待しているから、他の曲も練習しとけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、少し行ってくるね」

 

「おじゃましましたー!」

 

「おじゃましました。いやー、苦手科目を終わらせて良かった」

 

すでに買い物から帰ってきている妹に、気分転換を兼ねて途中まで二人を送ることを伝えてから、僕も外に出かける。

勉強を終えた達成感からなのか、僕たちはスッキリとした顔で道路を歩きはじめた。

夕暮れ時に来る風は、少し暖かく、疲れた頭を癒してくれる。

 

「一緒に出て正解だったよ。風が気持ちいい……」

家で休むのも考えたけど、こうして外に出て気分転換するのも良いかもしれない。

 

「うん。一仕事を終えた感じだよ」

気持ちよさそうに香澄は深呼吸をしていると、夕日色に染まっている空に気づく。

 

 

「見て! 夕日だよ!」

 

「お~。雲一つないから、余計に綺麗に見えるな」

 

「わーー。綺麗だね」

うっとりした感じで、香澄は夕日を眺めながら呟く。

夕日に照らされた彼女の顔は、いつも見ている可愛さとは違って、どこか綺麗な感じがあった。

 

 

こういう顔もするんだ……。

綺麗な笑みを浮かべている香澄に見惚れていると、彼女が僕の方を見てくる。

 

 

「どうしたの、優? もしかして、私に見惚れちゃった? なーんてーー」

 

「うん。見惚れちゃった」

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しんっ……と、周りの音が静まり返った。

 

 

 

 

「あれ……?」

自分が何を言葉にしたのか、一瞬分からなかったが、少しずつ理解し始める。

僕は今、恥ずかしいことを言っているのではないだろうか?

 

冷ましたばっかの頭の熱が、急速に熱くなり始める。

 

「えっ…と…あの……、あぅ……」

何かを言おうとしているが、うまく言葉に出せず、戸惑っている香澄。

その顔は真っ赤に染まっていて、嬉しさや恥ずかしさが入り混じっているようだった。

 

しどろもどろになっている彼女の姿は、さっきまでの綺麗とは違って、とてもかわいく見えた。

 

「……ありがとう」

か細い声で香澄は話すと、すぐに顔を俯かせる。

 

そんな彼女の可愛らしい仕草を見た僕も、そのまま直視できず、彼女と同じように顔を俯かせる。

本心を伝えたことの恥ずかしさと香澄の可愛い姿に、顔を上げることは出来なかった。

 

 

 

 

「あー、聞こえてるか? 聞こえているなら、返事してくれると助かる」

 

「「!?」」

 

 

友哉の言葉に、尋常じゃないほど驚く。

 

そういえば、友哉もいたんだ……!

僕たち以外にも、もう一人いたことに今更ながらに気づいてしまう。

 

「わ、私! 家こっちだから! そそそれじゃあ!」

早口でまくしたてながら、香澄は勢いよく走り去る。

夕日に向かって全速力で走る彼女を、僕たちはただただ見つめるしかなかった。

 

「行っちゃったな……。お前は大丈夫か?」

 

「あ、うん……。……なんとか大丈夫かも」

心配してくる友哉に大丈夫なことを伝える。

 

「そうか。とりあえず、俺も帰るな。お前は少し頭を冷やしてから、家に帰ったほうがいいぞ」

 

「うん、そうするよ」

 

「それじゃあな」

 

友哉が帰る姿をしばらく見てから、僕も帰る方向へ歩きはじめる。

さっきまで早鐘のように鳴っていた心臓は、静かに戻り始めていた。

 

『……ありがとう』

 

……しっかりと冷ましてから、帰ろう。

 

小さい声ながらも、精一杯に伝えた彼女の顔が頭の中に離れないまま、僕はゆっくりと家に向かった。

 

 

 

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