BanG Dream! 彼女と過ごす日常 作:トマトジュース
とある日曜日。天気は快晴で雲一つない空。太陽の光に照らされながら、僕と友哉は香澄の家に向かっていた。
事の発端は、香澄から来た一通のメールだった。
『今週の日曜日にライブをやるから、予定を空けといてね!』
放課後の教室で雑談していた僕たちに届いたそのメールは、驚くものだった。
ギターを始めてまだ一か月近くしか経っていない彼女から、『ライブをやる』という言葉が出たことに気になった僕たちは、香澄に経緯を聞いてみた。
彼女の話をまとめると、花園さんというクラスメイトから実力を認めてもらうためにライブをすることになったこと。そして、Glitter*Greenの牛込ゆりさんが見に行くことということがきっかけで、僕たちや明日香ちゃんも呼びたいと香澄からの頼みでライブを見に行くことができたという。
『ライブすることになったら、すぐに連絡するね。だから、ちゃんと予定を空けといてよ』
以前話していた、彼女からのお願いを守れるように、当日は何も予定を入れないようにした。
ライブ場所は、キーボード担当の市ヶ谷さんの家の蔵だが、その家の場所を知っているのは香澄しかいなかったため、香澄たちと合流して一緒に向かえるように、現在彼女の家に向かっているのだ。
香澄達のライブ、楽しみだなぁ……。
内心楽しみにしていると、家の前に香澄と明日香ちゃんがいることに気づく。僕たちを待っていてくれたみたいだ。
香澄は僕たちに気づくと、明るい笑みをしながらこっちに向かう。
「おはよう!」
「おはよう、香澄。明日香ちゃん」
「おはようございます。友哉さんは久しぶりですね。元気にしてましたか?」
「相変わらず元気にやっているよ。明日香ちゃんも元気そうだな」
「当然です」と、明日香ちゃんは穏やかな笑みを浮かべて、友哉に答える。
二人のやり取りを見ていると、香澄が僕に声をかける。
「ねえねえ、優。どう?」
「どう……って、何が?」
どこか期待するように香澄は聞いてくる。話しの意図が分からなかった僕は彼女に聞き返す。
「え~。何か気づかないの?」
口を尖らせながら、残念そうにしている香澄。
明日香ちゃんにアイコンタクトで聞いてみるが、彼女は首を横に振る。明日香ちゃんも分からないみたいだ。
『どう』って聞いてくるから、服装か髪のことを伝えてほしいということだろうか?
香澄の姿をよく見てみる。彼女らしい元気なイメージを表している服装だが、普段通りな感じがする。
あれ……?
髪の方を見て、違和感に気付く。猫耳のような形の髪がぴょこぴょこと自己主張をしているのを見つける。
「えーと、髪? その髪、いつもより手入れがされているね」
自己アピールしている髪を信じて伝えてみると、彼女はパアァァ…と嬉しそうな笑顔に変わり始める。
「あたりーー! 実は、今日のために気合入れてきたんだ」
猫耳の部分を指さしながら、自信満々に香澄は答える。香澄の言葉に、友哉は呆れたように突っ込みを入れる。
「いや、分からねえよ。いつもと変わらないだろ」
「よく分かりましたね、優さん。これも愛の成せる技、ですか?」
「……ノーコメントで。それより、そろそろ行こう」
「そういえば、気になっていたけど。どうして花園さんも一緒に演奏することになっているの? 元々は、彼女から認めてもらうことが目的なんだよね」
市ヶ谷さんの家へ向かう道中、僕は気になったことを香澄に聞いてみる。
あとから聞いた話だが、ドキドキさせる相手である花園さんも一緒に演奏するらしい。
香澄たちの演奏を認めてもらうなら、僕たちと同じように聴いた方がいいのではないだろうか?
「それは俺も気になっていた。普通、俺たちと同じ聴く側じゃないのか?」
「ん~、初めはそうだったんだけど。おたえから何回かギターを教えてもらっているうちに、私が提案したの。聴くより一緒に演奏しないかって。そっちの方が、自分がドキドキしているかはっきりと分かるって思って」
僕たちの疑問に、香澄は思い出しながら答える。
「それで一緒に演奏するわけなんだね」
「そういうこと! というより、おたえとも一緒にやりたいし、そっちの方が面白いのが本音だけどね」
「そういうことか。なるほど、納得した」
友哉は一人頷いて、納得する。
「ところで、友哉さん。私、気になることがありまして、聞きたいんですけど」
どこか意地の悪い笑みをしながら明日香ちゃんは、友哉に聞いてくる。
その笑顔は、以前SPACEへ行くときに見た顔に似ていた。
何を聞くんだろうか? 明日香ちゃんの笑みを見て、思わず軽く身構えてしまう。
「ほうほう。気になることとはなんだ? 明日香ちゃん?」
「実はある日、お姉ちゃんが顔をすごく真っ赤にして家に帰っていたことがあったんですよ。しかも帰ってから、ボーっとすることが多くありまして」
軽いノリで返す友哉に、明日香ちゃんは香澄に起きたことを説明する。
体調を崩したんだろうか。
明日香ちゃんの話しを聞いて、心配になった僕は香澄に聞いてみる
「風邪引いたの?」
「ここ最近は引いていないよ。いつも通り元気だったと思うけど」
香澄は大丈夫だったと答える。ましてや、体調を悪くした覚えもないという。
どういうことだろうか?
話しの詳細を知るために、明日香ちゃんからの言葉を静かに待つ。
「二へら~って笑ったり、顔を赤くしながらうっとりしていたり。その様子はまるで乙女のように……。そこで思ったんですよ。あの日、優さんの家で勉強会をしていた時に何かあったんだと……」
「勉強会……? も、もしかして……!?」
『勉強会』というワードを聞いて、すぐに明日香ちゃんが言っていることの意味を理解する。
香澄の方も気づいたようで、その顔は赤くなり始めていた。
「ということで、友哉さん。優さんがお姉ちゃんにどういうアタックをしたのか詳しく教えてください」
「そうだな……。帰りに三人で夕日を見ていた時に、優が――」
「わーー! わーー! それ以上のことは言わないで、友哉!」
友哉があの時の事を話そうとする矢先、香澄は猛スピードで彼に詰め寄る。
「やっぱり何かあったんだ。やりますね、優さん」
慌てている香澄の様子を見て、何かを確信した明日香ちゃん。ニヤニヤとした笑みをしながら、僕の方を見てくる。
「いや、あれは思ったことが無意識に出ちゃっただけで……」
「へぇ~。そこのところを詳しく――」
「ストップ! ストップ! 優もすぐに話さないの!!」
さっきよりも顔を真っ赤にしながら、彼女は困りながらも早口でまくし立てる。
「はぁ…はぁ…」
急な動きで疲れたのか、香澄は俯いたまま荒い息をする。
しばらくして、息をしっかり整えた彼女は僕たちを軽く睨み付ける。
「もう! 私、これからライブをやるんだから、集中できなかったらどうするの? この話はもうおしまい!」
プンプンと怒った香澄は、この話題を問答無用に終わらせる。
さすがに深入りし過ぎたのか、ばつが悪そうに明日香ちゃんは彼女に謝る。
「ごめんね、お姉ちゃん。少し気になっちゃって。でもさ……」
そう言って、明日香ちゃんは香澄に近づいて、耳元で何か呟く。
「すごく嬉しかったんだよね」
「…………うん」
さっきまでの勢いとは逆のように、静かに頷く香澄を見て、明日香ちゃんは満足そうな笑顔をする。
「さあ、行きましょうか。早くしないと遅刻しちゃいますし」
「う~。あっちゃんのイジワル」
いったい、明日香ちゃんは香澄に何を言ったんだろうか。
頬を紅潮させながら、ジト目で妹を睨んでいる彼女を見て、僕はそう思った。
市ヶ谷さんの家まで、もうすぐ。この先にある坂を上って、まっすぐ向かえば彼女の家に着く。
それまでに、僕は香澄にしたいことがあった。
一度、前で歩いている友哉と明日香ちゃんを見る。
「それで、ウチの高校には変わった七不思議あるんだよ」
「どういうのがあるんですか?」
二人は七不思議のことで話しをしているから、こっちをあまり見ることはない。
視線を感じていない今なら、恥ずかしがらずに話せるだろう。
一呼吸を入れて、僕は隣で歩いている香澄を呼んだ。
「香澄、ちょっといいかな?」
「ん? どうしたの、優?」
僕の声掛けに、香澄は明るい口調で返す。
そんな彼女の元気な表情を見て、これから行うことを実行していいのか迷ってしまうが、すぐに切り替える。
やることは何か決めた。あとは、それをしっかりやるだけだ。
口の中に出ている言葉を飲み込まないように、僕は香澄に伝える。
「……手を出してもらっていい?」
「手を? うん……」
意味が分からないまま香澄は右手を出す。
出されたその右手を、僕は左手で優しく握った。
「優? どうしたの?」
突拍子もない行動に、不思議に思った香澄は理由を聞く。
僕は素直に話した。
「……香澄が楽しく演奏できるように応援を送っている」
「優……」
「頑張ってと、ただ応援していけばいいと思ったんだ。だけど、ごめん。言葉だけじゃなくて行動でも伝えたかった。一曲とはいえ、香澄にとっては初めてのライブだからね。初めは肝心だと聞くし」
「あはは……」と、不安な気持ちを誤魔化すように右手で頬を掻く。
やはり普通に応援すればよかったかもしれない。大げさな感じがするし、かえって彼女の気持ちに水を差したかもしれない。
どこからか来た否定的な考えが、僕を後悔させてくる。
「……迷惑だった?」
「ううん。そんなことないよ。……優の手は、安心できるね」
自信なさげに聞いたことを、香澄は優しい目で答える。
「ちょっとだけね、不安だったんだ。おたえだけじゃなくて、優たちもドキドキさせることができるのかな……って」
ぽつりぽつりと、香澄は思ったことを話す。
その言葉は、明るい彼女とは真逆の暗い言葉で、初めて会った頃の彼女に少し似ていた。
「上手く弾けなかったら。皆が楽しい気持ちになれなかったら。そう思うと、少し自信が無くなって。でもね……」
最後にそう言うと、香澄は握った手にギュッと力を入れる。
彼女の手から温かい気持ちが伝わってくる。
繋いだ手を嬉しげに見て、香澄は言葉を続ける。
「優に手を握ってもらったら、大丈夫だって思えたの。温かくて、優しくて、不安とかすぐに消えちゃった」
香澄は僕の方を見る。その顔には暗い表情がなく、彼女らしい明るい笑顔だった。
「ありがとう、優」
笑顔で、彼女はお礼を言う。
その言葉に、自分の行動が少しでも香澄の力になれているんだと、実感した。
「そう言ってもらえると、嬉しいよ。……頑張ってね。香澄なら出来るよ」
「うん!」
市ヶ谷さんの家に着いた僕たちは、家の前にいる三人の女の子に迎えられる。
一人は牛込さんだが、他の二人は会ったことがない人たちだった。
香澄は三人に駆け寄って元気に挨拶する。
「おはよう!」
「おはよう。今日も元気満々だね、香澄」
「その元気さが、今日ばかりは羨ましいよ」
「えへへ……。元気もらったからね。今日は皆をドキドキさせるよー!」
テンションを上げて声を出す香澄。
ビリッ!
その拍子に、香澄が背負っていたナップサックが破け、入っていたギターケースが地面へ落ちようとする。
ま、不味い……!
落ち始めるギターケースに両手を伸ばす。下へ落ちるはずだったケースだが、なぜか急に止まり始める。
止まったことで掴むことが出来た僕は、ケースをしっかりと離さないように力を入れる。
「ふぅ……」
「危なかった……」
明日香ちゃんと友哉の声が聞こえる。その声は安心しきった声だった。
周りを見渡すと、二人もギターケースを落とさないように支えていたことに気がつく。
「三人ともありがとう! でも、破けちゃった……。優、直せる?」
香澄は破れたナップサックを僕に見せにくる。破れた箇所を見てみると、致命的な部分はなく、修復できる範囲だった。
「これぐらいなら、直せるよ」
「本当!?」
「うん。今は材料が無いけど、ウチの学校ならある程度揃っているから。直ったら、連絡するよ」
落ち込む香澄に明るく答える。
「ありがとう、優! お願いするね」
「裁縫が得意なのは本当だったんだ……」
金髪のツインテールした女の子は珍しいように呟く。
「といっても、まだまだ未熟だけどね。裁縫が少し出来ることは、香澄から聞いたんですか?」
「はい。香澄から高森さんのことは聞いていますよ。色々と……」
最後、ため息をつくように女の子は話す。
内容が気になるけれど、あまり聞かない方がいいのかもしれない。
苦笑いする女の子の様子を見て、そう判断した僕は話題を切り替える。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は高森優。香澄とはその……恋人です。牛込さんとはSPACE以来かな?」
「そこは照れなくてもいいじゃないか? 俺は野崎友哉。香澄と優とは中学からの友達だ。よろしく!」
「妹の明日香です。姉がいつもお世話になっています」
親しげな友哉に対し、明日香ちゃんは礼儀正しく挨拶する。
「お久しぶりです、高森さん。ベース担当の牛込りみです。今日は、ありがとうございます」
「市ヶ谷有咲です。一応、キーボード担当です。……よろしく」
「山吹沙綾です。高森さんたちのことは、香澄から楽しく聞いていますよ。特に、高森さんのことは」
「僕ですか? どういう内容なのか、気になるんですけど」
「ごめんなさい。それは秘密です」
山吹さんの意味深な言葉に気になって、聞いてみるがはぐらかされる。
いったい、香澄は僕のことを何話しているんだろうか?
さっきの市ヶ谷さんの反応も相まって、余計に気になっていると、その彼女が僕たちに話す。
「おたえが来るのにまだ時間があるし、とりあえず蔵に案内しますよ。ついて来てください」
途中、盆栽を見ていたゆりさんに挨拶をして、一緒に向かう。
市ヶ谷さんの案内で蔵に入った僕は、周りを見てみる。
蔵の中は綺麗に掃除してあり、整理整頓されているが、演奏に使う楽器が見当たらない。ここで演奏する場所には見えなかった。
「ここでライブをやるの? 楽器とか見当たらないけど」
「ふっふっふ。そう思うよね。でも違うんだよね~」
疑問に思っている僕に香澄は自慢げに答える。そんな香澄に市ヶ谷さんは突っ込みを入れる。
「何で香澄が自慢げに話すんだ。こっちでやるんですよ」
市ヶ谷さんは慣れた動作で、床についてある木製の扉を開ける。扉の中から電灯の色が見えてくる。
地下に入る市ヶ谷さんに僕たちはついていく。
「「お~!」」
地下室の空間を見て、思わず感嘆の声を友哉と一緒に上げてしまう。
「すごく目を輝かせているね、優さんたち」
呆れたように話す明日香ちゃんに、友哉は興奮気味に答える。
「そりゃあ、地下室なんてかっこいいじゃないか! 秘密基地みたいで!」
「すごくワクワクするよね。いいなぁ……」
「そ、そんなにワクワクしますか?」
素っ気無いように市ヶ谷さんは話すが、口元は少しにやけていて、その顔はどこか嬉しそうだった。
「良かったね、有咲」
「べ、別に関係ねぇよ! それよりも、私たちはまた戻るぞ。おたえがもう来ているかもしれないし。高森さんたちはここで待って下さい」
「あ、待って有咲ちゃん!」
市ヶ谷さんと一緒に、香澄と牛込さんもついていく。
三人を見送った僕と友哉は、興奮冷め止まぬまま部屋の中を見て回る。
「友哉さんはともかく、優さんがあんなにはしゃぐのは珍しいな」
「そんなに珍しいことなの?」
「はい。優さんって、見た目通りに静かなタイプの人ですから、こういうのはあまり見ないんですよ」
「たしかにそういう人の姿って珍しいよね。他にも、どんなエピソードがあったか聞いても良い? 少し気になっちゃって」
「あ! 私も聞きたいかな」
「ゆり先輩もですか!? ……そうですね、私が中1の時の話なんですけど――」
あれからしばらくして、地下室を堪能した僕たちは明日香ちゃん達の話に混ざって、盛り上がる。
途中、市ヶ谷さんのお婆さんも加わって話しをしていると、突然入り口から何かが飛び出し、ソレは僕に向かって跳んでくる。
「うわわっ!?」
「ウサギ?」
明日香ちゃんの言葉を聞いて、膝に乗っているソレをよく見ると、たしかにウサギだった。
ウサギは僕の膝に乗ったまま、こっちをじっと見つめている。
どうしてウサギがココにいるんだろうか?
心を落ち着かせるためにひとまず撫でていると、地下室に見知らぬ女の子が香澄達と一緒に入ってくる。
「オッドアイの『オッちゃん』だよ。初めまして、花園たえです」
ウサギの名前だろうか、ギターケースを背負ったその女の子はウサギを見た後、僕たちに自己紹介する。
ふと、彼女の手に持っている空のケージを見つける。どうやら、花園さんのペットみたいだ。
まだ頭の中が追いつかないまま、花園さんに自己紹介をする。
「えっと、高森優です。初めまして」
友哉と明日香ちゃんも続けて、自己紹介をする。
「ごめんね、おたえ、優。抱っこしてたら急に動いて、離しちゃった」
「気にしないで」
「大丈夫だよ。ウサギの方に怪我がないみたいだし。それより、ライブの準備は大丈夫?」
「そうだった! 準備するね!」
僕の言葉をきっかけに、香澄たちは準備を始める。花園さんもギターを持って、香澄の隣に立ってスタンバイする。
「なんかドキドキして、ワクワクするね!」
「うん!」
やる気満々な香澄と花園さんを見ていると、他の二人の様子に気づく。牛込さんと市ヶ谷さんは緊張しているのだろうか、表情はどこか固く、少しぎこちないように見えた。
香澄も二人の様子に気がつく。
「……有咲、りみりん、おたえ」
何かを決心したように香澄は市ヶ谷さん達に呼びかける。
彼女達からの視線を受けると、香澄は三人に向かって声を出した。
「楽しんでいこう!」
ただ一言。
笑顔で、力強く話す香澄の言葉に市ヶ谷さんと牛込さんは一瞬呆然としていたが、次第に元気に答えて、明るさを取り戻す。さっきまであった固さは無くなっていた。花園さんの方も見てみると、さらに気合いが入っているように見える。
深呼吸をして、彼女は言葉を出す。
「こんにちは、戸山香澄です! 今日はクライブに来て下さって、ありがとうございます! 今日はおたえを、さーや、あっちゃん、ゆりさん、おばあちゃん、友哉、優をドキドキさせます。楽しんで下さったら、嬉しいです!」
一緒に演奏するメンバーを香澄は一目見る。三人とも彼女の目を見て、頷いた。
「聴いてください。『私の心はチョココロネ』」
曲が流れてくる。
流れてくる曲に合わせて、香澄は自然に歌う。
趣味であるカラオケによって鍛えられた歌唱力がしっかり発揮し、元気な彼女の歌声が地下室内に響き渡る。
ギターの方も、約一か月で始めたとは思えないほど、彼女は慣れた手つきで音を奏でる。
香澄だけじゃない。
市ヶ谷さん、牛込さん、花園さん。今日のために練習してきたのだろう。曲のリズムにズレることなくしっかり噛み合い、一つ一つの楽器の音が違和感なく聴こえる。
みんな、楽しんでいる……。
四人が演奏している姿は、とても楽しんでおり、見ている僕でもその気持ちが伝わってくる。
香澄達が創った音楽が、伝わってくる気持ちとともに、僕の心を楽しくさせた。
曲が終わり、静寂とした時間がしばらく流れる。
聴いていた僕たちは、思い思いに拍手をする。
温かい拍手の音を聞いて、香澄達は口元を大きく綻ばせ、喜んだ。