BanG Dream! 彼女と過ごす日常 作:トマトジュース
今回は有咲視点のお話です。
昼放課。
学生たちが昼食をとっていたり、運動や勉強、友人たちと雑談したりなど様々なことをしている。
そんな中、私たち五人は校庭で昼食をとっていた。
香澄たちが談笑して盛り上がっているのを聞きながら、私はお気に入りの卵焼きに舌鼓を打っていた。
やっぱりばあちゃんが作った卵焼きは、相変わらずうめえな。毎日食べているのに、飽きがこない。
何年も食べ慣れた味付けなのに、嫌になるどころか、その卵焼きが好きで楽しみにしている自分がいる。
それぐらい、ばあちゃんの卵焼きが美味しくて、最近ツッコミが多くて疲れた私にとって癒しの時間になりつつあった。
「やっぱり、話しているとき違う」
「は?」
そんな数少ない時間を邪魔したのは、クライブ以降、一緒に食べ始めるようになった花園たえ、いや『おたえ』だった。
頼むから、私を巻き込むような発言をしないでくれ。私はゆっくり味わいたいんだ。
次の卵焼きを取る箸の手を止めて、顔をしかめながらおたえを睨む。
発言した本人はどこ吹く風ぞと、香澄を見ていた。特に、顔の方をジッと見つめている感じがする。
「有咲は気づかないの?」
視線に気づいたのか、今度は私の方に顔を向ける。
しまった。
睨んでいたのが仇になってしまった。
適当な言葉で誤魔化して、話題を変えようか考えるが、おたえの真剣な目がその考えを止しとしなかった。
話しをそらしにくい……。
私にもこの話に参加してほしいと、彼女の目が語ってくる。
はぁ……と、心の中でため息をつく。
……この話をうまく終わらせて、さっさと堪能しよう。待っていてくれ、私の卵焼き。
心の中で折り合いをつけた私は、おたえの話に本腰を入れる。
「気づかないもどうも、そもそも何が違うんだ?」
「香澄の笑顔が違うの」
「笑顔が違うって……、私そんな顔をしていたの?」
おたえの言葉に心当たりがないのか、香澄は自分の頬をムニムニと触って確認する。
いや、触って分かるもんじゃないだろ。
呆れた目で香澄を見ていると、りみが答える。
「私は、いつも通りだと思うけど」
一応、私も違いが無いか振り返ってみるが、思い当る節はなかった。バカみたいに楽しく笑っている顔しか覚えがない。
あれ? でも、最近だったか。そういうのを見たような気が……。
うっすらと、おたえの言う通り、香澄の様子がいつもと違うのを思い出す。
だけど、どういう時だったのか思い出せない。
「おたえの言っていること、なんとなく分かるよ」
どうにか思い出そうと、腕を組んで考え込んでいた私に対し、沙綾はおたえの言葉に理解を示していた。
もしかしたら、おたえの言葉の真意に心当たりがあるのかもしれない。
期待した目で、頼りになる彼女を見る。
「有咲とりみりんも分かるよ。思い出して、クライブがあった日のことを」
「クライブ? ……あ~、そういうことか」
クライブという単語を聞いて、薄れていた記憶が蘇る。
言われてみればたしかに、その時の香澄はいつもと違う感じがあった。改めて、振り返ってみると心当たりがたくさんある。
考え込んでいたりみも初めは分からなかったみたいだが、しばらくして私と同じ表情をしている。
「どういうことなの? ねえ教えて有咲~!」
一人納得していると、香澄に突然抱き着かれる。
横から来た衝撃に驚くが、未だに分かっていないコイツに聞いてみる。
というか、横腹に頭を擦ってくるな! 地味に痛い!
「ひっつくんじゃねえ! お前、分からないのか?」
「分からない!」
「自慢げに話すな! 少しぐらい、考える素振りをしろ!」
ハッキリと答えるコイツにツッコミを入れる。
言葉もそうだが、考えていない様子からして、本当に分かっていないみたいだ。
「あのな……、高森さんだよ! 高森さん!」
「優? 優が何か関係しているの?」
「有咲の蔵で高森さんと話している時、違うの。すごく楽しそうだった」
「だって、優と話す時はすごく楽しいからね! でも、そんなに違って見えるの?」
さらりと惚気が出てきたが、私たちは香澄の疑問に答える。
「違いがはっきり出ているな」
「なんていうんだろう。目が優しいし、雰囲気が柔らかくなっている感じ」
「香澄ちゃん風に例えるなら、パアァ……ってキラキラしながら話している感じ、なのかな」
私、おたえ、りみの順番で香澄の変化を挙げる。二人の言う通り、その変化は私も感じていた。
「うんうん。そういう風に変わって、嬉しそうに話しているとすごく伝わってくるんだよね」
「まぁな。ひしひしと伝わってくる」
私たちを一瞥して含み笑いをする沙綾に、私は二度目の溜息をつけて答える。
あんなに笑顔で話しているのを見ていると、嫌でも伝わってくる。
「え? え? 何が皆に伝わっているの?」
分からない香澄に、沙綾は答える。
「高森さんのことが大好き、ということ」
一度きょとんとするが、しばらくして沙綾の言葉を理解したのか、香澄の顔が少しずつ赤くなり始める。
「そ、そうかな……。えへへ……」
はにかむように照れながら、香澄は言う。
その表情は幸せそうで、普段の彼女では全く見ない、嬉しさが全面に出ている表情だった。
そんな彼女のしおらしい姿に、思わずドキッとしてしまう。
可愛い……。
素直に、その気持ちがスッと頭の中に自然と出てきた。それぐらい、私の心を揺さぶった。
盆栽やネットサーフィンで見る可愛い系のモノとは違う、別次元の可愛さ。
言葉では上手く言い表せないぐらい、今の香澄は可愛いという言葉が似合っていた。
こんな香澄を見るのは、何気に初めてかもしれない。
しかし、こうも別方向へ様変わりする様子を見ると何か調子が狂ってしまう。
平静になるために、自販機で買ってあった緑茶を飲む。
苦い……。
だけど茶葉特有の苦みのお蔭で、なんとか調子が戻ってきた。
「どういう所が好きになったの?」
そんな私の心情を余所に、おたえはさらに質問していく。
「ガンガンいくな、おたえ……」
「だって、気にならない? 有咲も?」
「そりゃあ……、少し気になるけど」
普段そういう話題は気にしない私だが、あのポジティブすぎる香澄がこうもデレデレしていると、気になってしまう。
「そういえば、香澄から聞くことがよくあるけど、私たちから聞くことはあまりないよね」
「まぁ大体、香澄主体で話しが進んでしまうことが多いからな」
そういった話題を聞く雰囲気でもなかったし。そう考えると、きっかけを作ったおたえには一応感謝しないとな。
私たちが話している中、香澄は「うーん」と上を向いて考えている。
「そんなに悩むことなのか? てっきり、ズバッとすぐに言うと思っていたけど」
「私もそう思ったけど、中々すぐに言えなくて」
「なんだそりゃ」
「別に何も無いわけじゃないよ。むしろ、逆な感じで……」
どこか照れるような感じで、香澄は曖昧な表現をする。
言葉の意味が分からなかった私は彼女の言葉を聞き返す。
「逆?」
「思い浮かんだらね。優との思い出がたくさん出てくるの。キラキラしていて、楽しいことがいっぱいあって……。なんていうか、上手く言えないや」
「あはは……」と、香澄は頬に指をかく。
困ったように笑う彼女だが、その顔はどこか喜んでいるように見える。
「……あ」
何かを思い出したのか、香澄は自分の右手を見る。
「手……、優の手が、好きだと思う」
「手?」
「優に手を握ってもらったり、頭を撫でてもらうとね。嬉しい気持ちがワァーってたくさん出てきて、すごく嬉しくなるの」
目を細めて、香澄は優しい口調で語り始める。
陽気に話しているのとは違う、どこか物静かな話し方。
ゆっくりと話す彼女の言葉は、私の耳にしっかり入ってくる。
「温かくて、安心できて、私を元気にしてくれる。優の手はね、私に色んなものを送ってくれるの」
そう言って、香澄は胸の前に手を組む。
その時の気持ちを確かめるように、彼女は目を閉じながら、ギュッと組んだ手を握った。
ああ、本当に高森さんのことが好きなんだな……。
一つ一つの言葉に、香澄なりの温かい気持ちがこもっていた。
まだ二人の仲をあまり知らない私でも、高森さんが彼女を大切にしていることが伝わってくる。
いや、彼だけじゃない。香澄も高森さんの想いを大切にしていることが分かる。
「うん。やっぱり優の手、すごく好きだな……」
頬を赤らめながら、嬉しそうに、幸せそうに話す彼女の姿は。
私には、とても綺麗に見えた。
「……」
「えっと……、みんな大丈夫?」
「……はっ! だ、大丈夫だ!」
香澄の声掛けで、惚けていた意識を取り戻す。
ま、まさか香澄に見惚れてしまうとは思わなかった!
周りを見ると、おたえ以外の二人も私と同じように取り乱していた。
「こんな感じに答えたけど、コレでよかった? おたえ?」
「うん。すごく満足したよ」
「よかった~」と安心したように香澄は話す。さっきまでの『可愛い』や『綺麗』とは違う、私たちが知っている香澄だった。
「……恋ってすごいんだなぁ」
おたえと話している香澄を見て、呟く。
恋をするだけで、あんなにも変わるもんだろうか?
正直な話、未だに頭の中で整理が追いついていない部分がある。
だけど、一つ分かったことを挙げるとしたら、高森さんと香澄がお互いに想い合っている。
それだけは、私の中で強く感じたものだった。
キーンコーン
予鈴のチャイムが校庭内に鳴り響く。
思っていた以上に長く話し込んでしまったようだ。
……予鈴のチャイム?
「……って、もうこんな時間かよ!?」
傍観的になってる場合じゃねえ!
次の授業が刻々と迫ってきていることに、かなり慌てまくる。
「え!? もう授業始まるの!」
「私たち、移動教室だから急がないと不味いよ!」
香澄とりみが驚いているが、それどころじゃない。
私には卵焼きを食べる使命が! でもこんな慌てた時間に食べたら、ゆっくり味わえない!
そんな私の葛藤とは裏腹に、香澄達は昼食を片付ける準備を既に済ませて、行く準備を始めている。
「行くよ! 有咲!」
「あーもー! 覚えていろよ香澄!」
「何で私!?」
沙綾に急かされながら、私は断腸の思いで弁当に蓋を閉めて、片付ける準備に入る。
もう惚気話なんて、コリゴリだ!
やり場のない気持ちを香澄にぶつけながら、私たちは教室に向かって全力で走った。