BanG Dream! 彼女と過ごす日常   作:トマトジュース

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アニメ六話のお話です。
今回は沙綾視点です。


第八話 

夜。

夕日が完全に沈みきり、月の光が暗い空を照らしている時間帯。

 

自室についてある照明に見守られながら、私と香澄は各々作業をしていた。

 

「……よしっ、と」

 

明日伝えるクラスの運営内容をメモ用紙に書きまとめ、軽く息をつける。

 

……うん。とりあえず、これぐらいでいいかな。あとは、今日試食した文化祭で出すパンのことを説明するぐらいだと思うけど。

 

指示しないといけないこと、説明しないといけないことはメモに書いた。

学校で出た相談事も、出来る範囲のことは解決策を作ってある。

 

 

今の所、今日の分の文化祭関連の仕事は終えたはずだけど、何かあったかな?

他に何かしないといけないことはないのか考えていると、向かい側に座っている香澄が重いため息をつけていることに気が付く。

 

 

「はぁ……」

『難しい』、『分からない』が多く含んである、スッキリとしていないため息。

 

「うーん……」

眉間に皺を寄せながら、香澄は一枚のルーズリーフを見て悩ましい声を出していた。

への字になっている口からして、かなり難航しているようだ。

 

 

 

今、私の部屋に香澄がいるのだけど、それには理由がある。

 

そもそものきっかけは、もうすぐ始まる文化祭にあった。

 

文化祭で、新曲もバンド演奏すると決めた香澄達は、みんなそれぞれ曲づくりに勤しんでいた。

歌詞を作ることになった香澄だけど、一人だと歌詞作りに集中できず、中々上手くいかないらしい。

 

 

そこで私は、彼女にウチの家でやらないかと誘ってみた。

文化祭のことで香澄と打ち合わせをしたいことがあったし、なによりも、私も彼女の力になりたかった。

 

幸い、ウチのパン屋が次の日は休みで、私が手伝うことはあまりないから時間はかなり余裕がある。

 

 

前日の朝に言ったことだから、さすがに急すぎたかと思ったけど、彼女は元気よくOKしてくれた。

 

打ち合わせを済ませた今は、歌詞作りに専念してもらっている。

 

 

 

「駄目だ……。全然ドキドキする歌詞が浮かばないよ」

机に突っ伏しながら、香澄は疲れた声をあげる。

心なしか、彼女の猫耳に元気はなく、へたりと倒れているように見える。

 

 

「まぁ、そう簡単に上手くいかないからね」

ギブアップしている香澄を見て、苦笑いで答える。

自分がイメージしているものを文字に置き換えるのは中々大変だ。

ましてや、作詞経験が少ない香澄にはかなりの難行かもしれない。

 

「そうだけど一行も出てこないよ~! どうしよう~!」

ガバッっと勢いよく顔を上げると、香澄は泣きつくように半分ほど真っ白になっているルーズリーフを見る。

私もチラッと見てみると、その紙にはいくつかの単語や言葉が書かれているが、どれも×印がついていた。

 

 

「はぁ……」

香澄は再びため息をつけると、ベッドの横に置いてある自分の鞄に目を移す。

 

 

「こっちの方の歌詞はドキドキするんだけどな……」

落ち込んだ表情のまま、彼女は羨ましそうに呟く。

だけど、そんな彼女の言葉にどこかひっかかりがあった。

 

「こっち? 他にも歌詞を作っていたの?」

香澄の言い方だと、まるでもう一つ歌詞を作っているみたいに聞こえる。

りみりん達からは、一つだけと聞いていたけど、どういうことだろう?

 

「え? あっ……」

 

私の質問に、香澄は呆気のない声を出すが、すぐに表情を固くさせる。

まるで、余計な言葉を言ってしまったとばかりに。

 

彼女の様子が変わった瞬間、周りの音が静かになり、静寂とした空気だけが流れる。

部屋の外から、お母さんたちの団欒とした声がうっすらと聞こえてくる。

 

「香澄」

彼女の名前を呼ぶ。

普通に話しているはずの自分の声が、いつもより大きく聞こえてくる。

 

私の呼びかけに、香澄は冷汗をかきながら気まずそうに答えた。

 

 

「あはは……。……聞こえない事には?」

 

「ごめんね。聞こえちゃったし、かなり興味が出てきちゃった」

流してもらうように香澄はお願いをしてくるが、笑顔で断る。

長い間をもたせて話すほど、彼女が作った別の歌詞に興味があった。

 

「う~。しまった……」

苦い声で、香澄は呟く。その声には恥ずかしさが入り混じっており、あまり知られたくなかったように感じられる。

 

ここはちょっと、何か条件をつけたほうがいいかな。

彼女が話してくれるように、こっちもそれに見合った以上の条件がないか考える。

 

 

いくつかの案を考えた私は、頬を赤くさせている彼女に一つ目の条件を伝えた。

 

 

「ポイントカード、かなりおまけしとくから。今度出す新作パン、一つ無料で買っていいことも追加で」

 

「……ダメ」

微動だにしない。

普段の香澄だったら喜ぶはずなんだけど、反応しないあたりよっぽど見せたくないかもしれない。

 

 

コレはどうなんだろう。

少しズルい気がするけど、私は彼女にとって『嬉しい条件』となるものを提示してみた。

 

「おすすめのデートスポットとか教えるから」

ピクッと動く。

一瞬、香澄の表情が崩れるが、すぐに固くさせる。

彼女の様子を見逃さなかった私は、畳み掛けるように話し出す。

 

「色々と協力するよ? 服やアクセサリーのコーディネートに付き合う。高森さんが見惚れて、喜ぶぐらいに」

 

「むむむ……」

誘惑から耐えるように、香澄は口を噤む。だけど、喜ぶ高森さんのことを想像していたのだろうか、閉じていた口が段々と緩み始めている。

 

 

あともうひと押し。

目が少しにやけている彼女に、私は優しく話しかけた。

 

 

「相談に乗るから」

 

「……分かった」

しばらくして、彼女から降参の声があがる。

香澄は鞄を自分の方へ取り寄せると、中からクリアファイルを取り出す。

ファイルの中には、二枚のルーズリーフが入っていた。

 

 

「他の皆には内緒だよ?」

念を押すように香澄は話すと、二枚の紙を私に手渡す。

その時、彼女は私の耳元に近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あとで、服とかデートスポット、教えてね

 

 

 

 

ひっそりと、お願いするように香澄は話しかける。

離れていった彼女の顔は恥ずかしげで、頬だけではなく耳まで真っ赤に染まっていた。

 

恋人のために、頑張ろうとしている彼女に力強く返事する。

 

「うん、気合い入れていくから任せて! 見せてくれて、ありがとう!」

 

高森さんが見惚れるほど、可愛くしてみせよう。そして、二人が喜ぶような場所を見つけよう。

心の中で決意をしながら、私はルーズリーフを一枚ずつじっくりと見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?」

おずおずと心配そうにしながら、香澄は歌詞の感想を聞いてくる。

 

「……良いと思う。胸が温かくなって、元気をもらうね」

伝わってくるのは、優しい気持ちだった。

好きな人から伝わる優しさや愛情。それらの想いが、背中を押し、夢に向かって一歩踏み出す。

そんな気持ちにさせてくれる歌詞だ。

 

 

「よ、よかった~」

良い反応が来たことに安心したのか、緊張していた彼女の表情が和らいでいく。

 

 

「……実は、この歌詞はね。一昨日の夜、優と電話していた時に思いついたの。優と話すのは楽しくて、嬉しくて。今、この気持ちを歌詞に込めたらどうなるのかなって……」

 

照れくさそうに笑いながらも、香澄は穏やかな口調で歌詞を作った経緯を話し始める。

 

「最初は息抜きのつもりだったの。歌詞作りが行き詰ったときに、書いていこうって。だけどね、書いていくうちに色んなことを思い出したの」

 

「色んなこと?」

 

「優に出会ったこと。想いを伝えあって、恋人になったこと。そして……、今も私の傍にいてくれること」

だんだんと声に力が入り、気持ちが少しずつ込められていることに気が付く。

想い人に向けた温かな気持ちが言葉に乗せられていた。

 

「優がいてくれたから、私は諦めずにキラキラドキドキするものを見つけることができた。それだけじゃない、私にはもったいないぐらい、大切な気持ちも見つけてくれた」

ほんのりと頬を紅く染めながら、香澄は優しい笑顔で静かに言葉を続ける。

どこか魅力を感じさせる彼女の一つ一つの言動や表情から、私は目が離せなかった。

 

 

「大切な人、好きな人が応援してくれたら、どんなに長くてもきっと夢は叶う……。そんな風に書いていたらね、いつの間にか自分でもよく分からないぐらい込めちゃって……」

 

「えへへ……」と、香澄ははにかむように笑う。目を細めながら自分の想いを話した彼女の言葉に、私は思わず息を漏らしてしまう。

 

もう一度、歌詞を改めて見る。

彼女が綴った歌詞の想いを聞いたこともあって、優しい気持ちが強くなる。

 

 

「……こっちの方も、文化祭で歌えばいいんじゃない?」

 

「そ、それは駄目だよ! まだ自信が無いし、優に聴かれるのはかなり恥ずかしすぎる!」

私の提案に、香澄は必死に使わないことを説明する。

 

 

「香澄が自信が無いなんて珍しいね」

いつも自信満々な彼女にしては珍しい反応。

恥ずかしいという意味なら分かるが、自信が無いというのはどういうことだろうか。

 

 

「なんていうんだろう。まだ自分でも『コレだ!』って自信が出ないんだよね……」

 

「私は良いと思うんだけどな」

私からすれば、この歌詞に改良する必要はないと感じられる。それぐらい、歌詞に込められたメッセージがしっかり伝わっているのだ。

 

 

「そ、そう……?」

 

「うん。大丈夫だよ、自信もって」

 

「えへへ、ありがとう。でも、もうちょっと考えてみるよ。今は文化祭で歌う歌詞を考えないとね! 」

 

意気揚々と、香澄はシャープペンを手に持ちながら、再びルーズリーフに目を向ける。

 

私も、香澄に負けないように頑張ろう。

頑張る彼女の姿に元気をもらいながら、私は今できる仕事がないか、もう一度メモ用紙に書かれてある内容の確認をした。

 

 

 

 

 

 

それから、文化祭の仕事を終えた私は、彼女の歌詞作りの手伝いをした。

二人で伝えたい歌詞を探しだし、話し合って、文字にする。

真っ白に近かったルーズリーフは、段々と綴られていき、歌詞と成っていった。

 

歌詞作りが一段落をついたとき、お互いに「ふぅ……」と一息をつきはじめる。

 

時計を確認すると、時刻は21時を過ぎていた。

 

「少し休憩をしようか。飲み物持ってくるね」

 

「賛成~。休みたいよ~」

ぐったりと疲れている香澄に見送られながら、キッチンへ向かう。

二人分のカフェオレと、お父さんが差し入れてくれたパンをお盆に載せて、部屋へ戻る。

 

「お待たせ、カフェオレでよかったよね」

戻ってきた私に気づいた香澄は、携帯電話から私の方へ顔を向ける。

 

「ありがとう! わ~、パン美味しそう」

 

「お父さんが差し入れにね。何を見ていたの? ニコニコ笑っていたけど」

 

さっきまで携帯電話を嬉しそうに見ていた香澄。その様子が気になった私は彼女に聞いてみる。

 

「ちょっと写真をね。元気もらっていたの」

 

「写真?」

 

明るい笑顔で香澄は答えると、携帯電話の画面を私に見せてくれた。

画面に写っていたのは、ベッドに腰掛けながら赤色のランダムスターを持って、演奏しようとしている男性の写真。

 

控えめな笑顔をしているが、その表情からはワクワクが隠しきれておらず、弾くことを楽しみにしていることが伝わってくる。

この写真の人物を、私はよく知っている。

 

「高森さん?」

 

「うん。優の写真を見ていると、癒されるというか元気が出るんだよね。だから、疲れた時はたまに見ているんだよ」

携帯電話を見ていた理由を説明すると、次に香澄は写真のことを楽しく語り始めた。

 

「この写真は、優がウチに遊びに来た時に撮ったの。それでね! ぎこちないけど、楽しそうに弾いている優がすごく可愛くて!」

さっきまでの疲れはどこ吹く風といったところか、香澄はキラキラした目で高森さんのことを力説する。

疲れた顔から、一瞬にして元気な顔で嬉しそうに話す香澄の姿に、思わず笑みを浮かべる。

 

「はいはい。ゆっくりと聞くから落ち着いてね」

熱が入った彼女に、一呼吸を置くように話す。

座る姿勢を正しながら、私は香澄の話を聞いた。

 

 

 

 

 

この写真は、優が抹茶パフェを食べている写真。美味しそうに食べているのが可愛くて、なんだかこっちまで嬉しくなったの。

 

この写真は、優が眼鏡を試着した写真。クールな感じがして、カッコよかったの。私もつけてみたけど、やっぱり印象がガラっと変わるね。

 

この写真は、優と友哉と一緒にランニングした写真。朝早く起きるのは大変だったけど、三人で走るのは楽しかったし、雲一つない空の景色はすごく綺麗だったの。

 

この写真はね――。

 

 

 

一つ一つの写真を、彼女は思ったこと、感じたことを私に伝える。

嬉しそうに話す彼女の口ぶりから、とても充実しているのがしっかりと伝わってくる。

そんな彼女の様子を見ていると、聞いているこっちまで嬉しくなり、笑顔になってしまう。

 

「ふふ、高森さんからたくさんの元気をもらっているね」

 

「うん! だけど、これにはちょっと欠点があって……」

 

「欠点?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……会いたくなるんだよね。優に」

 

 

 

携帯電話で口元を隠しながら、香澄は照れるように小さく話す。

その声はどこか恋しそうで、会いたい気持ちが秘められていた。

 

 

 

……これは、応援したくなるね。

静かに主張する彼女の反応を見て、自分のお節介焼きに火がつく。

 

 

「よし。それじゃあ、高森さんに会えるように一緒に頑張ろう。準備が早く終われば、会う時間が作れると思うし、ね?」

彼女を励ますように、明るく話す。

私の言葉を聞くと、香澄は花が咲いたような嬉しい表情をした。

 

「うん! ありがとう、さーや。よーし、明日からもっと頑張るぞー!」

 

 

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