fate/stay night 夢よ永遠に   作:fate信者

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来月書くとか言ったが、ここまではどうしても書きたかったんです。はい。



家へ

「マスターとして戦う。10年前の出来事が聖杯にあるっていうんなら、俺は、あんな出来事を二度も起こさせない」

 

俺の答えが気に入ったのか、神父は満足そうに笑みを浮かべた。

 

「」

 

迷いは全て断ち切った。

男が一度、戦うと口にしたんだ。

なら、ここから先はその言葉に恥じないよう、胸を張って進むだけだ。

 

「それでは君をセイバーのマスターとして認めよう。

この瞬間に今回の聖杯戦争は受理された。

これよりマスターが一人になるまで、この街における魔術戦を許可する。各々が自身のほこりに従い、存分に競い合え」

 

重苦しく、神父の言葉が礼拝堂に響いた。

その宣言に意味などあるまい。神父の言葉を聞き届けたのは自分と遠坂だけだ。

この男はただ、この教会の神父として始まりの鐘を鳴らしたにすぎない。

 

「決まりね。それじゃ帰るけど、私も一つぐらい質問していい綺礼?」

 

「構わんよ。これが最後かもしれんのだ、大抵の疑問には答えよう」

 

「それじゃあ。綺礼、アンタ見届け役なんだから他のマスターの情報ぐらい教えなさい。

こっちは教会のルールに従ってあげたんだから」

 

「それは困ったな。教えてやりたいのは山々だが、私も詳しくは知らんのだ。

衛宮士郎も含め、今回は正規の魔術師が少ない。私が知りうるマスターは二人だけだ。。衛宮士郎を加えれば3人か」

 

「あ、そう。なら呼び出された順番なら判るでしょう。

仮にも監視役なんだから」

 

「ふむ。一番手はバーサーカー。二番手にキャスターだな。あとはそう大差はない。先日にアーチャー、そして、数時間前にセイバーが呼び出された」

 

「そう。それじゃこれで」

 

「正式に聖杯戦争が開始されたという事だ。凛。聖杯戦争が終わるまではこの教会に足を運ぶ事は許されない。

許されるとしたら、それは」

 

「自分のサーヴァントを失って保護を願う場合のみ、でしょ。それ以外にアンタを願ったら減点ってコトね」

 

「そうだ。おそらく君が勝者になるだろうが、減点がついては教会が黙っていない。連中は君から聖杯を奪い取るだろう。私としては最悪の展開だ」

 

「エセ神父。教会の人間が魔術教会の肩を持つのね」

「私は神に仕える身だ。教会に仕えている訳ではない」

 

「よく言うわ。だからエセなのよ、アンタは」

 

そうして、遠坂は言峰に背を向ける。

あとはそのまま、別れの挨拶もなしにズカズカと出口へと歩き出した。

 

「おい、そんなんでいいのか遠坂。あいつ、おまえの兄弟子なんだろ。ならーーー」

 

もっとこう、ちゃんとした言葉を交わしておくべきではないのだろうか。

 

「良いわよそんなの。むしろ縁が切れて清々するぐらいだもの。そんな事より貴方も外に出なさい。もうこの教会に用はないから」

 

遠坂は立ち止まる事なく礼拝堂を横切り、本当に出ていってしまった。

さあ、とため息を漏らして遠坂の後に続く。

と。

 

「っ!」

 

背後に気配を感じて、振り返った。

いつの間に背後にいたのか、神父は何を言うのでもなく俺を見下ろしてした。

 

「な、なんだよ。まだなんかあるっていうのか。

話が無いなら帰るからなっ!」

 

神父の視線を振り払おうと出口に向かう。

その途中。

 

「ーー喜べ少年。君の願いは、ようやく叶う」

 

そう、信託を下すように神父は言った。

 

「何を、いきなり」

 

「判っていた筈だ。明確な悪がいなければ君の望みは叶わない。たとえそれが君にとって容認しえぬモノであろうと、正義の味方には、倒すべき悪が必要だ」

 

「っ」

 

衛宮士郎が望んでいた崇高な願いと、醜悪な望みは同意であると。

……そうだ。何かを守ろうという願いは、

同時に何かを犯そうとするモノを望む事に他ならない。

 

「おま、え」

 

「なに、取り繕う事はない。君の葛藤は、人間としてとても正しい」

 

愉しげに笑みをこぼす神父。

 

「さらばだ衛宮士郎。

最後の忠告になるが、帰り道には気を付けたまえ。

これより君の世界は一変する。君は殺し、殺される側の人間になった。その身は既にマスターなのだから」

 

「待て、お前の言ってる正義の味方と俺の目指している正義の味方は全く違う」

 

「なに?」

 

言峰は俺の言った事に驚いているのだろう、目を見開いている。

 

「確かにアンタの言う通り、俺も目指したさ、困ってる人を助ける正義の味方に、親父の様になりたいと思ったさ」

 

「なら、なぜ? なろうとしない」

 

「そんなの決まってる、親父が言ってくれたんだ。

『正義の味方っていうのは助けている時には気づかないけど、助け終わった時に懐を見てみれば大事なモノがポロッと落ちてしまっているんだ。だから、士郎は自分の一番守りたいモノを選べば良い』ってな」

 

俺は教会の扉にてをかける。

そして。

 

「俺は家族だけは絶対に守り抜く。

それが例え正義の味方じゃ無くなったとしても、人として最低な事をしても、そして、俺が悪になったとしても家族だけは絶対に守り抜く。

そう、親父と約束したんだ」

 

俺は扉を開け、外に出る。

…風が出ていた。

丘の上、という事もあるのだろう。

吹く風は地上より強く、頬を刺す冷気も一段と鋭い。

遠くからでも目立つ制服の遠坂と、

雨合羽を着込んだ金髪の少女が立っている、なんて光景が妙に味があって気が抜けたらしい。

 

「」

 

セイバーは相変わらず無言だ。

じっとこっちを見ているあたり、俺がどんな選択をしたのか気になっているようだ。

 

「行きましょう。町に戻るまでは一緒でしょ、わたしたち」

 

さっさと歩き出す遠坂。

それに続いて、俺たちも教会を後にした。

三人で坂を下りていく。

来たときもそう話した方じゃないが、帰りは一段と会話がない。

その理由ぐらい、鈍感な俺でも分かっていた。

教会での一件で、俺は本当にマスターになったのだ。

遠坂が俺とセイバーから離れて歩いているのは、きっとそういう理由だろう。

 

「」

 

それは理解している。

理解している。けど、そんな風に遠坂を区別するのは嫌だった。

 

「遠坂。お前のサーヴァント、大丈夫なのか」

 

「え?

あ、うん。アーチャーなら無事よ。ま、セイバーにやられたダメージは簡単に消えそうにないから、しばらく実体化はさせられないだろうけど」

 

「じゃあ側にはいないのか」

 

「ええ、私の家で匿っている状態。いま他のサーヴァントに襲われたら不利だから、傷が治るまで有利な場所で敵に備えさせてるの」

 

なるほど。

うちはともかく、遠坂の家なら敵に対する備えは万全なんだろう。

魔術師にとって自分の家は要塞のようなモノだ。そこにいる限り、まず負ける事などない。

逆を言えば、ホームグラウンドにいる限り、敵は簡単には襲いかかってこないという事か。

…うむ。

うちの結界は侵入者に対する警報だけだが、それだけでも有ると無いとでは大違いだし。

 

「衛宮くん。これは忠告よ。自分のサーヴァントの正体は誰にも教えちゃ駄目よ。たとえ信用できる相手でも黙っておきなさい。そえでないと早々に消える事になるから」

 

「? セイバーの正体って、なにさ」

 

「だから、サーヴァントが何処の英雄かっていう事よ。

いくら強いからって戦力を明かしてちゃ、いつか寝首をかかれるに決まっているでしょ。いいから、後でセイバーから真名を教えて貰いなさい。

そうすれば私の言ってる事が判る…けど、ちょっとたんま。衛宮くんはアレだから、いっそ教えてもらわない方がいいわね」

 

「なんでさ」

 

「衛宮くん、隠し事できないもの。なら知らない方が秘密にできるじゃない」

 

「あのな、人をなんだと思ってるんだ。それぐらいの駆け引きはできるぞ、俺」

 

「そう? じゃあ私に隠している事とかある?」

 

「え…遠坂に隠してる事って、それは」

 

口にしてぼっと顔が赤くなった。

別に後ろめたい事なんてないけど、なんとなく憧れていた、なんて事は隠し事に入るんだろうか?

 

「ほら見なさい。何を隠してるか知らないけど、動揺が顔に出るようじゃ向いてないわ。

貴方は他に良いところがあるんだから、駆け引きなんて考えるのは止めなさい」

 

ーーそうして橋を渡る。

もうお互いに会話はない。

冷たい冬の空気と、吐き出される白い吐息。

水の流れる小さな音と、橋を照らす目映い街灯。

俺と、遠坂と、まだなにも知らないセイバーという少女。この三人で、何をするでもなく、帰るべき場所へと歩いていく。

 

交差点に着いた。

それぞれの家に続く坂道の交差点、衛宮士郎と遠坂凛が別れる場所。

 

「ここでお別れね。義理は果たしたし、これ以上一緒にいると何かと面倒でしょ。きっぱり別れて、明日からは敵同士にならないと」

 

今までの曖昧な位置づけに区切りをつける為だろう。

遠坂は何の前置きもなく喋りだして、唐突に話を切った。

それで分かった。

彼女は義務感から俺にルールを説明したんじゃない。

あくまで公平に、何も知らない衛宮士郎の立場になって肩入れしただけなのだ。

だから説明さえ終われば元通り。

あとはマスターとして、争うだけの対象になる。

 

「む?」

 

けど、だとしたら今のはヘンだろう。

遠坂は感情移入をすると戦いにくくなる、と言いたかったに違いない。

遠坂から見れば今夜の事は全て余分。

『これ以上一緒にいると何かと面倒』

そんな台詞を口にするのなら、遠坂は初めから一緒にいなければ、良かったのだ。

 

「なんだ。遠坂っていいヤツなんだな」

 

「は? なによ突然。おだてたって手は抜かないわよ」

 

そんな事は判ってる。

コイツは手を抜かないからこそ、情が移ると面倒だって言い切ったんだから。

 

「知ってる。けど出来れば敵同士にはなりたくない。俺、お前みたいなヤツ好きだ」

 

「なーーー」

 

遠坂の家は俺とは反対方向にある、洋風の住宅地だって聞いている。

一応ここまで面倒をみてくれたんだから、こっちは遠坂を見送ってから戻りたいんだが。

 

「と、とにかく、サーヴァントがやられたら迷わずさっきの教会に逃げ込みなさいよ。そうすれば命だけは助かるんだから」

 

「それは気が引けるけど、一応聞いておく。けどそんな事にはならないだろ。どう考えてもセイバーより俺の方が短命だ」

 

冷静に現状を述べる

 

「ふう」

 

またもや謎のリアクションを見せる遠坂。

彼女はため息をこぼした後、ちらり、とセイバーを流しみた。

 

「いいわ、これ以上の忠告は本当に感情移入になっちゃうから言わない。

せいぜい気をつけなさい。いくらセイバーがすぐれているからって、マスターであるあなたがやられちゃったらそれまでなんだから」

 

くるり、と背を向けて歩き出す遠坂。

 

「」

 

だが。

幽霊でもみたかのような唐突さで、彼女の足はピタリと止まった。

 

「遠坂?」

 

そう声をかけた時、左手がズキリと痛んだ。

 

「ねぇ、お話は終わり?」

 




次話はオリジナルキャラクターが出ます。
次は本当に来月かな?
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