Tales of Barbartia 〜強力若本(の中の人)奮闘記〜   作:最上川万能説

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バルバトスのセリフに長々とルビが振ってある場合、ルビが中の人の本来言いたかったこととなっております。
ルビ制限に引っかからずにバルバトスっぽいセリフ考えるの超キツかった。再現できてるんだろうか……できてないんだろうなぁ。


第1話

 ある時、この星を襲った災厄――特殊エネルギー反応を発する巨大彗星の落着。地は裂け大洪水に洗い流され、天は粉塵に覆われ、地軸は歪みに歪み、人は自らの絶滅のみならず、星の死すら覚悟した。

 しかし、この災厄は同時に希望をもこの地にもたらした。彗星に含まれる外宇宙由来物質の解析により新エネルギー源《レンズ》がもたらされ、その力は人々の熱意と勢いを加速させた。

 かくして、若き天才科学者ミクトランの発案による、太陽の熱と光を求めて始まった《空中都市計画》は、僅か一年で初号都市《ダイクロフト》を浮上させるに至り、人々は新たな楽土の勃興と、それをなした者たちへの惜しみない賞賛に沸いた。

 

 それはそれとして、光明が見えれば馬鹿なことをやらかすのもまた、度し難いことこの上ないが人の業である。いつしか選民思想をこじらせたミクトランが、空中都市に上がり建造と管理維持を任されたエリートたちを扇動。自らをして《天上王》と称し、選ばれし優良種たる《天上人》を率いて荒廃した地上を天空から支配せんとしたのだ。

 が、いくらなんでも「お前ら劣等種たる地上人は我ら天上人に従うがよいぞフゥーハハハァー」などといきなり言われて従うほど、荒廃した地上に残った者たちは被虐趣味ではない。そもそも空中都市の数も容量もまだ全人類を収容するに足るレベルでないのに、先に上がったから優良種とかバカか、という話である。

 そんなわけで地上人がキレて三行半を叩きつけるのも当然であり、増上慢を急速にこじらせた自称天上人がそれに逆ギレするのもまた必然だった。アホらしいこと極まりないが、世の中抗争の理由なんぞ大概そんなものである。

 かくして、汚染地殻破砕/再利用ユニット(ベルクラント)を戦略無差別射爆砲として改悪、制空権を頼りにバカスカ撃ちまくる天上軍と、それに歯噛みしつつ資源回収――と言えば聞こえはいいが、要するに労働奴隷や生体兵器製造資材としての地上人拉致(アブダクション)である――部隊に逆撃かまして追い払おうとする地上軍との抗争が幕を開けた。世に言う天地戦争である。

 

 先述したように、地上軍は絶対制空権を奪われっぱなしである。そもそも敵は粉塵の曇天の彼方にいて、さらに空中都市計画のために大型超高出力レンズは大半が敵側にあり、とどめにせっせと技術者たちを優先して空へ上げたため、技術力でも絶望的に劣勢というご覧の有様。なかったから良かったものの、ベルクラントに速射性能があった日には、地上軍は速攻で詰んでいた。なくても詰みかけてるのは言ってはならないお約束である。

 ベルクラント開発チームが亡命に成功し、マンパワーと彼らの空中都市屈指の知性で技術力を補える目処が立ちつつあるとは言え、戦力差が勝敗に決定的な差をもたらすわけではないのが悲しいところ。

 そこで、彼ら元空中都市のトップエリートたちと地上軍の誇る異才……ハロルド・ベルセリオスが局地決戦兵器《ソーディアン》の開発を完了するまでの時間を稼ぐべく、天上軍のアブダクション用地上拠点を強襲・撃滅する作戦が立案された。この作戦の要となる強襲コマンドの指揮官に選定された突撃馬鹿、もとい戦闘狂こそこの物語の主役であり、

 

雑魚が俺の獲物に手ェ出してんじゃぬぇぇぃ(敵大型機動兵器は俺が引き受ける)! 雑魚は雑魚らしく雑魚と戯れあってろ(その間に敵歩兵戦力を減殺しろ)!」

 

 この男、バルバトス・ゲーティア――の肉体に憑いてしまった“中の人”――である。

 

 このバルバトス(の本来の人格)であるが、英雄願望がやたら強く、同時に自分よりも交友関係に恵まれた男を敵視する傾向にあった。要するに「俺より弱いクセに女侍らすとかフザケてんのかゴルァ!」という童貞の僻みであり、そこに「ディムロスは英雄視されてるのに、何故奴より多くの敵を屠ってきた俺はそう見られないのだ!?」という彼なりに真面目な、しかし全力で斜め上な懊悩と戦闘/破壊衝動が悪魔合体し、英雄を憎悪するくせに英雄願望ガンギマリな困ったちゃんが爆誕したわけだ。

 つまり、色々こじらせた童貞が脳内麻薬たっぷりキメちゃった結果バーサーカーと化したわけだが、人類がそのポテンシャルを発揮するに大なる役割を果たす負の筆頭は僻みである。残念もクソもないがある意味必然と言えなくもない。

 

 

 さて、寝て起きたら水色ワカメヘアーの暴走きんに君に成り代わってしまった“中の人”であるが、彼は基本的に一般的日本人である。つまり割と事なかれ主義的であり、あまり人の上に立ちたがらず、程々の立場で満足する。良く言えば地に足の着いた堅実男、悪く言えば上昇志向のないヘタレである。

 戦闘時にバーサーカー的言動しか発せない難儀な言語中枢には苦戦したものの、そんな彼の良い意味での臆病さ――死にたくないがゆえの生存欲求と本来の人格が持つ戦術勘が超融合し、肉体に刻まれた英雄願望とフィジカルスペックゴリ押しでヤケクソ気味に突撃。崩されては困る部分に的確かつ迅速に吶喊し、友軍の危機を度々救う結果に繋がる――と言葉に出()ないところでの行き届いた気配りが功を奏し、強襲コマンドの指揮官として抜擢されたのである。

 決して「単独遊撃戦力としてしか使えそうにないからフォローミーさせとけ」という投げやりな理由ではない。ないったらない。

 

 

 ところ移って、地上軍総司令部・司令執務室。

 

「小官を強襲コマンドの指揮官にでありますか、リトラー総司令」

 

「う、うむ。貴官の単騎で増強中隊に匹敵する突撃・突破力を活かし、敵拠点を強襲。追随する隊員が出血を拡大することでこれを撃破し、我が軍の局地決戦兵器……既に貴官も聞き及んでいるかもしれんが、物言う剣(インテリジェンス・ソード)《ソーディアン》開発の時間を稼ぐための陽動とする。個人の戦闘力に依存する作戦なのは情けない限りだが、この作戦を実行できるか否かは貴官の働きにかかっているのだ。引き受けてくれるな?」

 

 あの戦闘狂以外に呼びようのないバルバトスが、ある日を境に戦闘時以外は比較的丸くなり、割と話せる性格へと突如変貌。しかも妙に世慣れた気配りを発揮しだし、新兵のケアから戦死者遺族への手紙を(したた)めるのまでばっちこい。お前何があった、と関係者全員が本気で首を捻る事態に陥った。

 そんなこんなで同じ戦場で戦う兵士からはともかく、それ以外の兵種から引かれることはあまり変わりない彼だが、かつての「突撃隣の敵陣地は死ぬがよい(ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)」なイカレっぷりを遠目に見ただけのメルクリウス・リトラーからすれば、彼の落ち着きっぷりには驚き桃の木どころではなかったようである。一瞬どもってしまったのも無理はあるまい。

 肉体の狂熱をある程度とは言え制御してのけたあたり、“中の人”の苦労も並大抵ではなかろう。それを察せる者は神の視点を持つ者(読者)以外いないのだが――

 

愚問でありますなぁ(総司令命令とあれば是非もありません)小官の命の糧は、戦場にしかありませんので(この体は、戦場以外の適性を失っています)戦って死ぬも良し、さらに身を焦がすも良し(戦って死ぬか、戦い続けるしかないのです)。本懐であります」

 

 ――訂正。肉体に引っ張られ、色々とダメな方向に覚悟ガンギマリであった。

 

「そ、そうか……貴官の熱意はよくわかった。貴官が率いるコマンド隊員は、第二会議室に集合させてある。貴官に窮地を救われ、志願してきた者たちから選抜した精兵だ、頼りにしてくれていい。以上だ」

 

 案の定引き気味なリトラーに敬礼し、退室するバルバトス。知らず肩に力を込めていた総司令は、嘆息しつつ肩をコキコキと鳴らし、遠い目で呟いた。

 ――あれが敵でなくてよかった。

 まったくである。

 

 

 第二会議室に集結したコマンド隊員たちは、大恩ある突撃馬鹿(バルバトス)の入来を今か今かと待っていた。待望する者たちの熱気は部屋を覆い尽くし、今少し某かの刺激が加わろうものなら、弾けて地上軍総司令部を覆わんとするばかりに軒昂であった。

 ゆえに、彼らの求める男が入室した瞬間、どんな精鋭師団にも勝る勢いで、一糸乱れぬ直立不動の敬礼をほぼ無音でやってのけたわけだが、“中の人”はその色んな意味でのキマりっぷりにガチビビりしていた。眉をかすかにヒクつかせるだけで堪えた、本体の鉄面皮に感謝しきりである。

 

 さて、バルバトスの配下への初訓示は、おおよそ部下に向けるものとは到底言い難い言い回しで始まった。

 

「率直に言う。貴様らは弱い、雑魚極まりない」

 

 いきなりこれである。が、パッと見生粋の戦争狂と、そいつにガチ惚れしている戦争狂予備軍どもは身動(みじろ)ぎもしない。戦争狂(中の人)は単に気圧されかけているだけだが、そこは肉体のイカれっぷりでカバーである。

 

「そしてもうひとつ。俺は雑魚が俺の前で無駄死にするのは好かん。雑魚は雑魚なりに、戦後に経済を回すための底辺に戻らねばならん。ゆえに貴様ら雑魚に、俺の目の前で死ぬことは許さん。

 貴様らは俺の後から緩々とついて来い。俺の突撃で敵の撃砕される所、俺が手を下すに値せんゴミどもの処理が貴様らの仕事だ。俺より前に出て英雄的に戦うなぞ俺が許さん。英雄的に戦う雑魚の末路は死のみ、誰も言祝ぐことない無駄死にのみだ。

 だが、俺の後ろで邪魔をせず雑魚なりの仕事をこなす限り、俺は貴様らに勝利と栄誉をくれてやる。最も過酷な戦場の、最も過激な突撃について来るだけの簡単な仕事だ。

 

 そしてあらかじめ言っておく。俺の求める戦場の血風は、貴様らを容赦なく死へ誘うだろう。恐れるか? その心理は正しい。死を恐れるがゆえに人は強くなる。死を恐れ、死を忘れず、死に呑まれない者こそ真の強者である。つまり、俺だ。

 だが、貴様らが俺の後に続く限り、貴様らは俺の骨肉も同然である。つまり死してなお、俺と貴様らはひとつである。そして、俺の勝利と闘争は俺の生きる限り永遠である。

 ゆえにッ! 貴様らも永遠である! 誇れ! 貴様らは永劫の闘争に足を踏み入れる、荒ぶる漢となる権利を得た!!

 貴様らが雑魚として死ぬか、雑魚として生き延びるか! 一端の戦士になるか、ならないか! 全ては貴様らの選択次第!!

 

 そしてもう一度言っておく。俺の生きる限り続く勝利と闘争の果て、貴様らが死のうが、生き残ろうが、脱落しようが、俺と貴様らは永遠であるッ!!

 選べ! そしてついて来られる者だけがついて来るが良いッッッ!!」

 

 ――――応ッッッッ!!

 

 うろ覚えの海兵隊(フルメタル・ジャケット)式演説と、“中の人”のなけなしの善意と、肉体の狂熱がもたらすバーサーカー的言動が合わさり最悪である。

 

 かくして、最強最悪の強襲コマンド小隊が結成された。されてしまった。敵拠点を完膚なきまでに撃砕し、リバースエンジニアリングすらさせない狂気の強襲小隊。リトラーに胃薬を処方させた元凶。立ち塞がるあらゆる障害を打ち砕き、敵将の喉元を躊躇なく抉り抜く地上軍の秘密兵器(秘密にしておきたかった秘密兵器)

 

 後の世に《殲滅兵団》の名で、戦慄と畏怖をもって鮮烈に刻み付けられた、戦馬鹿どもの始まりであった。




4,500字書くのにむちゃくちゃ脳みそ酷使しました。10,000字とか書いてる方マジリスペクト。パない。

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