Tales of Barbartia 〜強力若本(の中の人)奮闘記〜   作:最上川万能説

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 当作は一話あたり4,500〜5,500字前後を想定しています。
 サクサク読める文章、しっかり完結するのが目標。
 ……とか言ってたらいきなり想定上限越えかけた件。ハハッワロス。

 なお今回、天上軍の技術に関してオレ設定ドカ盛りでございます。天地戦争時代の設定とかほとんどないからね、しかたないね。

 初回投稿でいきなりお気に入り登録&感想がついてテンション爆上げ待ったなし、執筆速度が当社比33.4%加速したので連日投稿です。書き溜め? そんなものはない。


第2話

 ――――特殊強襲コマンド作戦記録(オペレーションログ)01

 

 ――――(機密指定)月(機密指定)日 0600 払暁 作戦開始

 

 天上軍の地上拠点からほど近く、センサー有効半径のギリギリ外にある丘陵地。粉塵で覆われたかつての蒼穹、核の冬で世界を覆った曇天を、僅かに赤みが彩り始める。古来より、夜襲を警戒しすぎて気の緩んだ敵を強襲する際に好まれた頃合いだ。

 その丘の上、しぶとい雑草が生い茂る中に、右肩に大戦斧《ディアボリックファング》を担ぎ、片膝ついてしゃがみ込む蒼衣の男あり。水色の無造作に伸ばした癖毛の中から、血風吹き荒ぶ戦場を希求する狂気と戦意を爛々と輝かせる眼。言わずと知れたバルバトス・ゲーティアである。

 そこから僅かに離れて、彼の旗下で戦場を駆けることを選んだ戦闘狂予備軍、その数たったの25人。彼の訓示という洗礼を受け、さらにバルバトス直々の実戦以上に苛烈な選別訓練を乗り越えて馳せ参じた、地上軍の誇る狂戦士ランキングのトップ26(バルバトスを含むが、当然彼が永世終身名誉一位)。この増強2個分隊程度の寡兵が、しかして地上軍最強にして最凶の強襲突撃部隊であった。

 しかし単体戦力最強は誰か、という話になると、決まってバルバトスは不機嫌になった。総合能力でディムロス・ティンバー中将一択、というのが地上軍のほぼ総意だったからだ。バーサーカーでなければバルバトスもいい勝負できたのに、という評価が、なおさら彼の肉体に残る本能を刺激した。リア充死すべし慈悲はない、的な意味で。ディムロス爆発しろ。いや爆発はヤツの力になるから凍結粉砕しろ。主にイチモツが。あと胤とタマも。

 

 閑話休題。

 

中佐(ボス)、お時間です」

 

 瞳をぎらつかせて総身を震わす戦闘狂に、副官のボールドウィン中尉が肩を叩いてささやく。クハ、とバルバトスの口が歪んだ三日月に吊り上がり、待ち受ける蹂躙と殲滅の喜悦に、改めて総身がぶるりと大きく震えた。突撃のお時間(パーティータイム)だ。

 

「要諦は変わらん。貴様らは緩々とついて来い。一番槍は俺だけのものだ」

 

 そう後ろに聞こえる程度にささやき、地上軍の誇りたくない殲滅マニアが身を起こす。僅かに前のめりの突撃姿勢から、ぐうっと上体を捻り、解放のカタルシスを求めてギリギリと全身の筋肉が戦慄(わなな)いた。それを確認した配下たちが、各々するすると己に見合った突撃姿勢をとる。その間僅かコンマ6秒。配下に支障なし。慢心なし。揺るぎなし。

 ――――今!

 

「号ぉ砲いっぱぁぁつ! ジェェノサイドぉ、ブゥレイバァァァァァァ!!!」

 

 斧頭から迸る滅殺の波動が、敵拠点のメインゲートを歩哨型無人機もろとも微塵に砕き、盛大なキノコ雲が立ち昇る。斧から波動をぶち撒けた反動をその場でぐるりと一廻りして殺し、その勢いのままに突進。丘を駆け下りた直後に余勢を駆って跳躍。砲撃の余波で大破、痙攣する無人機を盛大に着地で踏み砕き、ワラワラと這い出てきた生体兵器や無人兵器を睥睨、凶相が喜悦に歪んだ。

 

「悪いが今日の俺は少々テンション高めだ……運がなかったなぁ、ガラクタども――クカ、カ、カハッ、クァッハハハハハハァァァ!!」

 

 こういう場では体の赴くままに暴れた方がうまくいく。それをわかっている“中の人”も制御を率先して手放し、“暴斧のバルバトス”が肉体の求める蹂躙を存分に味わうべく、持てる力を解き放つ。

 

 ――微ぃぃ塵に砕いてやる、まずは小手調べに……這いつくばって貰おうかぁ!!

 

 蹂躙、開始。

 

 

 ――――同月同日同時刻、突撃するバルバトス・ゲーティア中佐後方、コマンド隊員

 

 ――号砲一発! ジェノサイドブレイバー!!!

 

「おいおい、あれが号砲かよ……どう見たって必殺技か何か、それも超が付くレベルじゃねぇか」

 

 バルバトスブートキャンプ(怒鬼ッ☆狂戦士短期集中教練過程)で鍛え上げられた狂戦士予備軍こと、強襲コマンド。その合格者の中でも実力こそ最下位でありながら、候補者唯一無二の特殊技能――天上軍通信機器への逆探・傍受。それを見初められ引き立てられたのが、このメルヴィル曹長である。もっとも、彼を推薦したのは禿頭のベテラン副官(ボールドウィン)であり、本来隊内人事を掌握して然るべきバルバトス(中の人)は「特殊技能持ちなら多少成績に色をつけるも吝かではないな、ついでに技能手当も割増で付けてやるか」程度で判を捺したのだが。

 

 ともあれ、戦場で救われ、次いで技能を的確に評価されたのだから、メルヴィルの忠誠心はストップ高である。高笑いしながら敵兵器群をスクラップと謎肉に変換する遊戯に勤しむ大将と、その後方からスルスルと展開し、彼の振り回す戦斧の加害範囲外の敵をサクサク横合いから叩きのめす同僚を横目に、彼は傍受した敵指令電波逆探のために背負った機器をフル稼働させた。

 幸い、この拠点に勤める天上人は勤務態度とモラルにいささか以上に欠けるらしい。まさか拠点の指令回線に公用回線を用いるなど、アホを通り越して白痴かお脳の病気認定待ったなしである。敵のバカさ加減とモラルハザードと所属部隊の精強ぶりに感謝しつつ、隊の目と耳を担う通信兵は一歩引いたところで隊を指揮するボールドウィンに駆け寄っていった。

 

「副長、ボールドウィン中尉! 敵指令系統及び傍受した指令電波について、ご報告が――」

 

 

 ――――同月同日 0630 バルバトス・ゲーティア中佐周辺(爆心地)

 

「弱ァい! 脆ォい! 骨がぬぁぁぁい!! 下らん、つまらん、飽きた!」

 

 当たるを幸いに愛斧を振り回し、スクラップと謎肉の製造業者として精勤していた“地上軍の思考する破壊衝動”ことバルバトスだが、こうも歯応えのない敵ばかりだと飽きが来る。まあ、この歯応えというのも彼の恵まれすぎた戦闘能力ゆえに評価が辛くなるものであり、彼が無造作に爆散させている無人兵器1機、あるいは適当な一振りで一山幾らな勢いで薙ぎ払われる生体兵器1体で、地上軍一般兵2人相当な戦力評価であることを鑑みれば、彼の撒き散らす破壊がデタラメすぎるだけ、ということはご理解いただけるだろう。

 そんなわけで、より乱雑かつ適当に破壊を撒き散らす我らが突撃殲滅型バーサーカーだが、こんな彼でも友軍誤射だけはしたことがなかった。

 

「誤射なんぞしでかして投獄されたら、俺の戦いでしか満たせん渇きを癒すどころか、渇ききって干からびてしまうではないか!!」

 

 という、全力で我欲&打算の純度100%な言い分であったが、さすがにその程度の分別もない無差別MAP兵器を軍に置けるわけがないから、一応理由としては妥当と言えなくもなかった。

 

 そんな天上軍における相対したくない地上軍将校(蛮族)ランキング永世終身名誉一位が、目に付く敵性体をあらかた斧の錆の素に変換し終えた頃、ボールドウィンが悠然と彼の下に歩み寄る。片手に持つ乱雑に走り書きされた紙片は、メルヴィル曹長から渡された敵通信の傍受結果だ。

 

「ボス、メルヴィルが敵指令電波逆探に成功。連中、間抜けにもほどがありますな……こりゃ敵さんの公用回線だ。探れって言ってるようなもんです。発信源はグリッドD、通信施設と思しきアンテナ群付属設備β」

 

 歯応えのある()ならともかく、雑魚な上に傀儡に頼り切り、自ら殴り掛かる度胸すらないドヘタレに対する評価などストップ安。ましてそれが回線の防諜すら理解していない白痴級の大間抜けなら、いっそ憐れみすら抱きそうになるのがこの狂戦士だった。

 敵が無能すぎて逆に笑いがこみ上げ、思わず鼻を鳴らす。

 

「フン、眼ぇ見開いたまま夢でも見てるんだろうよ。なら何も見ないで済むようにしてやろうじゃないか、今日の俺は少々慈悲深いからなぁ――――破滅のグランヴァニッシュ!!」

 

 駆けつけ一発上級晶術(グランヴァニッシュ)、周囲の施設もろとも当該施設が砕け散る。確かに、真正面から殴り込んで血煙にするよりは多少なりとも慈悲のある殺し方と言えなくも――言えない。当たり前である。

 それにしても、テンション上がって暴れまわったと思ったらつまらなさすぎてテンションガタ落ち、面倒臭がって上級晶術ぶちかまして鏖殺完了するあたり、やはり魂が違えどバルバトスはバルバトスであった。

 

「これ以上、気晴らしにぶち壊せるものもない。作戦終了、帰って風呂とメシだ! ボールドウィン!」

 

 つまらなさそうに斧を肩に担ぐバルバトスに敬礼し、ボールドウィンが吼える。

 

「イエス、ボス。オラ、野郎ども! 作戦終了、帰投準備! 40秒で支度しろ!」

 

 ――サー・イェッサー!

 

 狂戦士どもが唱和し、どやどやと隊列を整えて去っていくや否や、元拠点は静寂に包まれた。動体目標未検知(ネガティヴ)生命反応なし(ネガティヴ)敵性体完全殲滅(オールネガティヴ)

 完全な死と静寂に覆われたこの地が調査隊の喧騒で満たされるには、今しばらくの時を要した。

 

 

 ――――同月同日 0600 払暁 天上軍第三地上拠点

 

 天上人にとって、“資源回収”は左遷か、己の評価価値の低さの証でしかない。また、大量の無人兵器や地上人のクローン量産体を改造した生体兵器、言うなれば傀儡の軍勢に地上の戦線維持を委ねているため、自らが前線に出ることはまずないと言ってよかった。ゆえに士気は最低、モチベーションはド底辺、センサー類の監視もルーティンワークになりつつあった。

 その日も僅か10人の天上人が持ち回りで雑務と各種兵器群のささやかなオペレートをこなしつつ、任期満了で空中都市(うえ)に上がる日を待ち望んでいた。今日が最終日なのが2人おり、彼らは暇と無駄を持て余す同僚たちの中では比較的精力的だった。

 

 ――まさかそれが、己の死を招くとも思わず。

 まあ、どうあがいても絶望、もとい死神の鎌、あるいはバルバトスの斧は首筋に密着していたわけだが。

 

 任期満了を前に、少しはアピールできることを増やさんとしたか、いつもより三時間も早起きした天上人Aはメインゲートのメンテナンスハッチ前に屈み込んだ。ハッチを開けて個人端末と電送ソケットをコードで繋ぎ、ゲートの簡易自己診断プログラムと端末内の詳細点検用プログラムを同期させる。特に異常なし。センサーに反応なし。動体目標確認されず。ゲートの索敵ログもいつも通りの敵性反応確認されず(ネガティヴ)。さて、やることやったし早めの朝食と――

 

 ――何の光?

 

 閃光。炸裂。爆轟。滅却。立ち上がる間もなく、迸る閃光の奔流が視神経を焼き尽くし、閃光が身に纏う灼熱が眼球を煮え立たせた後蒸発させ、次いで上皮組織を焼き尽くす。幸運にも、この時点で天上人Aは即死――身体前面の上皮組織焼灼によるショック死――していた。続いてゲートそのものを微塵に砕く爆発が骨肉を細胞単位で飛散させ、天上人Aは文字通り地上からその痕跡を消失させた。

 

 その爆発がメインゲートを文字通り灰燼に帰したものと最初に知ったのは、任期満了ということで早朝勤務のオペレーターを押し付けられた天上人B。泡食ってタイプミスしながらも、どうにか拠点内の全兵器をスクランブルさせる。恐らく蛮族の工兵が爆破工作でもしたに違いない、全戦力でゲートに殺到する敵奇襲隊を逆撃、逆侵攻をかけて蛮族の拠点を落とせば凱旋帰国、俺は出世だ――

 そんな夢想に浸って30分少々現実逃避に勤しんでいた天上人Bは、当然屋外で敵首魁(スクランブル兵器群ほぼ制圧済)と副官が交わした言葉など、知る由もなかった。

 

 ――ボス、メルヴィルが敵指令電波逆探に成功。連中、間抜けにもほどがありますな……こりゃ敵さんの公用回線だ。探れって言ってるようなもんです。発信源はグリッドD、通信施設と思しきアンテナ群付属設備β。

 

 ――フン、眼ぇ見開いたまま夢でも見てるんだろうよ。なら何も見ないで済むようにしてやろうじゃないか、今日の俺は少々慈悲深いからなぁ――――破滅のグランヴァニッシュ!!

 

 瞬間、大地より沸き上がる破壊の暴流が地割れとなってオペレーションブース周囲を飲み込み、噛み砕き、咀嚼し、吐き出す。破壊エネルギーの余波が渦を巻いて周りを巻き込み、近隣にあった天上人宿舎を天上人C〜Jもろとも砕き散らした。あれではどんな頑強な兵士でも数秒持つまい。

 

 ――これ以上、気晴らしにぶち壊せるものもない。作戦終了、帰って風呂とメシだ! ボールドウィン!

 

 ――イエス、ボス。オラ、野郎ども! 作戦終了、帰投準備! 40秒で支度しろ!

 

 ――サー・イェッサー!

 

 

 

 ――――地上軍情報部 特殊強襲コマンド運用作戦における覚書草案

 

 ――かくして天上軍第三地上拠点はその基幹設備をことごとく破壊され、拠点機能を完全に喪失。灰燼に帰した天上軍機器からのリバースエンジニアリングは不可能、との報告あり。比較的主戦場から離れた場所での戦闘――と呼ぶのが躊躇されるレベルの殲滅戦ではあったが――であったため、即座に陽動ないし挑発と看破されはしたが、敵方からしてもわざわざ奪還するような重要拠点でもない。周辺にROE(交戦規定)をオミットされた無人兵器群が嫌がらせ的に撒かれた程度で、この戦闘に関わる諸事は終結を見た。

 総合的に見て、敵視点を主戦線及び総司令部から一時的に逸らすことには成功したものと思われるが、ソーディアン・プロジェクトと類似の発想に天上軍が至らないという保証はない。彼我の総合的技術の絶対格差と保有資源量を鑑みるに、敵がソーディアン類似兵器を投入した場合、製造可能な数的絶対差により、我が軍のソーディアン部隊は敗退する公算が大である。

 結論として、迅速にプロジェクトを完遂させ、ソーディアン・マスターとラディスロウ機動要塞化によるダイクロフト強襲制圧作戦を発令させるべきである。




 今回、中の人ご本人ノリノリにつき無慈悲なセリフ内ルビ消失。肉体に引っ張られすぎワロタ。

 実は短編扱いなのは“何時エタってもいいように切りよく投稿してるので”というクソすぎる姑息な理由だったり。
 逃げ道潰しきっちゃうとその場でしゃがみ込んじゃうドヘタレだからね、しかたないね。

 誤字報告を適用しました。株式たまご様、ありがとうございました。

 それはそれとして、バルバトスの肩書とか考えるのクッソ楽しい。でも正直、中の人が憑依しなくてもあんま変わらん気がする。

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