Tales of Barbartia 〜強力若本(の中の人)奮闘記〜 作:最上川万能説
一つだけ言えることは、読者の皆様は神様です(三波春夫並感)
――――魔人深層領域・獄炎伽藍都市
「ぶるぁぁぁぁぁぁッ!!」
吹きすさぶ熱風と伽藍の廃墟。他に見守るものとてない殺伐の死戦場で、激しく切り結ぶ二つの魂。鏡合わせの似姿に、限りなく相似するも決定的に異なる心。破壊衝動を全周囲に振り撒く狂乱の魔人と、冷徹な意志と手綱捌きでそれに指向性を付与する異端のマレビト。嫉妬と妄執の果てに裏切りと誅殺に沈んだ狂戦士と、侵食と同調の果てに桎梏を振りほどいた異界よりの魔人。闘争と狂気に身を焦がす生来の魔性と、それを受けてなお理性を保つ平和の国の潜在的アウトサイダー。なるほど、ある意味では姿と同じく、精神性も鏡合わせであるらしい。鏡写しのドッペルゲンガー、反転鏡像とはこのことか。
「たまたま迷い込んだだけのガキが、俺の体を乗っ取るとはいい度胸だ! ついでに啖呵も気に入った、念入りに擦り潰して取り込んでやるよ。ありがたく思うんだなぁ寄生虫がッ!」
「はッ、その寄生虫ごときに乗っ取られた挙句、メソメソとしがみついてるお方は言うことが違うじゃねぇか。だがな、晶力照射でようやく活性化できる程度の残骸風情が、ゴチャゴチャと吠えてんじゃねぇ!」
寄生虫呼ばわりに額に青筋をうねらせ、大戦斧の叩き落としにかち上げで応えるバルバトス。拮抗する剛力の正面衝突に、得物を逆方に弾き返された相似形の魔人が揃って蹈鞴を踏む。軽くふらつき、構える機を逸し、それでも敵に害を与えんと互いに頭突きし合い、角突き合わせた態勢から、口撃はこちらのターンとばかりに魔人が吼えた。
「さっきからよくもまぁ口だけはペラペラと、滑らかに回るもんだな、あぁ!? その
「…………よく言った。ブチ殺すッ!!」
弾かれたように突き飛ばし合い、構え、飛び込む。互いの右眼に“必”、左眼に“滅”の字を浮かび上がらせんばかりに殺意を漲らせ、己が愛斧にさらなる力を注ぎ込む。魔獣の乱撃と魔人の迎撃がぶつかり合い、引き裂かれた大気が啼き叫ぶ。踏み込みと鍔迫り合いの度に陥没する大地が軋み、周囲に土石の散弾を撒き散らす。正しくここは血戦場。
「ジェノサイドォォォォ……」
再度叩きつけあった斧頭が、まったくの正面衝突により逆方へと圧し出される。互いにその余勢で飛び離れた魔人どもは、この一撃を終焉の一発にせんと、抹殺の意志を波動に変え、限界を越えてチャージした。
必滅の意志を殺意の波動に託し、必殺の魔砲が解き放たれる。威力は互角、ゆえに衝突と均衡は必然であり、互いを越えんとする暴虐の希求は同様。
――しかし、極めて近く、限りなく遠い相似形であるがゆえに、均衡の崩壊は一瞬だった。
「バカな、ありえん……この俺が、バルバトス・ゲーティアが、こんな……こんな寄生虫ごときにッ!?」
弾かれ宙を舞う大戦斧。呆然とそれを見上げる己と、過去最高の踏み込みで正しく吶喊してきた敵手。瞬間の忘我が致命的な隙を生み、それを逃すほどバルバトスも奇特ではない。結果として、オリジナルは左肩から袈裟懸けに必滅の一撃を受け、袈裟斬りされた下半分を爆砕させながら地に投げ出されることとなった。
弱体化しきった残滓、それがたまさか晶力供給で復活しただけとは言え、腐ってもバルバトス・ゲーティアである。ならば、相応以上に強者である筈なのだ。だが、鏡像かドッペルゲンガーか何かのようにそっくりな見た目とは裏腹に、その内面の差は歴然としすぎていた。オリジナルの敗因はそこ以外になかった。
ただひたすらに暴威を振り撒くことしか頭にない殺戮衝動の権化と、それに侵食され、同調してなお理性を保ち、乗りこなす者。全力全壊で薙ぎ払うしかできず、野生の勘でのみ戦場を解析する者と、荒れ狂う衝動を捌き、狂奔する肉体に思考という鞭をくれ、透徹した理性のもとに滅殺の暴威を制御する者。そもそも弱者を蹂躙することに悦を得る者と、闘争そのものを永劫に求めんとする者。死を恐れるがゆえに同等の強者を認められなかった者と、死を恐れ、正面からその意を受け止めたがゆえに“ならば死ぬまで闘争を享受すればいい、後事なぞ知ったことか”とアカン方向にキマってしまった者。長々と述べたが、端的に言えば成長過程で生まれた器の差である。
元来、魔人は生まれながらの戦士であった。最強を名乗るに値する才があった。無敵を豪語するにふさわしいそれが。正しく振るわれれば、勇者として喝采を浴びるほどに輝いて。
しかし、彼に比肩するだけの才が周りに居なかったこと、彼の増長を止められるだけの存在が居なかったことが、その運命を決定的に歪めた。肥大化する自我はフィジカルスペックを超える技量の研鑽を“弱者の手遊び”と嘲笑い、ただ本能のままに豪腕を振るう。なるほど、強力である。だが、所詮は獣のそれに等しいのであれば、制御された暴力こそが至高の軍においては、評価など望むべくもなかった。
ゆえに、大いなる格下殺し。だからこそ、破壊衝動を抑制できぬ狂犬という屈辱の評価。いくら戦果を挙げようと、制御も統率も不可能なのであれば、それは評価するに足るものとはならない。いつしか鬱屈は傲慢に、純粋だった筈の闘争心は格下を
図体とは裏腹に脆い精神を
翻って、“彼”はどこまでも平凡な男だった。平和の国に生まれ、育ち、そして死ぬことが確定していた男にとって、己の成績を学歴という形で示す戦いはともかく、物理的な闘争など想像の埒外に過ぎなかった。
だからこそ、わからない。なぜ、己は異国よりの紛争の報せに心躍らせるのか? なぜ、己はこんなにも言い知れぬ飢餓感を覚えるのか? なぜ、己の肉体はこんなにも脆いのか――なぜ? なぜ? なぜ?
ゆえにこそ、天地戦争という驚天動地の異界戦争なしに、どこまでも平凡なスペックしか持ち得なかった“彼”唯一の異質は目覚めず、そして何の因果かこの地でそれを発揮する最良の肉体を得た。得てしまった。そして戦いの渦中で、肉体と意識の求めるものが真の意味で合一した時、“彼”の無意識の自覚は解き放たれたのだった。
言い知れぬ生来の飢餓を耐え抜いた強靭な自制。それをおくびにも出さず平凡を偽り通した自律。そしてそれらを完璧に統御してのけた意志と理性。その身に見合わぬ本能のみが生まれつき肥大化したがゆえに、その制御に全身全霊を捧げた、平和の国のアウトサイダー。それこそが“彼”の正体であり、その持つすべてがバルバトス・ゲーティアに本来なければならず、そして致命的に欠けていたものである。欠けたピースを埋めなかった者と埋めた者。勝敗は必然でしかなかった。
唯一残った右腕で上体を支え、恨みがましく己を見るオリジナル。まさかここまで見苦しい男だとは思っていなかった“彼”は、二重の意味でとどめを刺すべく口を開く。
「寄生虫の一撃のお味はいかがかな、オリジナル? ま、所詮貴様は
じゃあな、可哀想なバルバトス坊や! 来世で
哄笑とともに振り下ろされた《ディアボリックファング》が、屈辱と憎悪に染まりきったオリジナルの残滓の顔面を完膚なきまでに撃砕する。残滓の残滓すら余さず爆散したのを見届けると、“彼”は鼻を鳴らし天を仰いだ。いつしか熱風は止み、業火に焼かれていた天に日が昇りつつある。もはや異物と化したかつての主を下したために、覚醒が始まったらしい。もはやこの場を訪れることもなかろう。
「あばよ、オリジナル――」
吐き捨てた直後、中天より光が降り注ぐ。目覚めの光を総身に浴びつつ、バルバトスの意識は暫し途絶えた。
一方、地上軍総司令部・技術本部第二兵装実験室。想定値を超える晶力を吸い込みつつも沈黙したチャンバーを前に、パーソナルパターンの乱れを解析したハロルドが真相に近づきつつあった。あくまで近づきつつあるだけで、“異界よりの憑依者”なるSAN値を銀の鍵の門の彼方に投げ捨てた結論は永遠に導き出せないにせよ、それ以外は概ね正しいと言っても過言ではないだろう。さすがは地上軍の誇……っていいのか甚だ疑問だが、とにかく超級の
「要するにね、こいつの人格はある時を境に入れ替わったのよ」
ハロルドの出した結論とは、精神の奥底に封じられた人格の叛乱というものだった。彼女は語る。かつて封じられていた副人格が、何らかの理由で縛鎖の緩んだ隙に主人格を追い落としたのだ、と。かつて封じられていた副人格を、異界から飛来した憑依者に置き換えればだいたい合っている。
そして、その追い落とされた旧主人格が反逆を試みたのが、あのパーソナルパターンの乱れなのだ、とも。数分間せめぎ合うようにそのパラメータを乱れさせていたふたつのパターンのうち、ある時を境に片方だけが消失した。これが意味するものは――――
「現行の主人格が勝ったのなら問題はないのよ。あいつは少なくとも話の通じるキチガイらしいし。でも、旧主人格は違うんでしょ?」
「ああ、色々と酷かった。だからこそ、今のバルバトスは信頼に足ると思えるんだが……仮にかつての状態に戻ったら、どうなることか」
ディムロスの問いに、ハロルドはややズレた無情な答えを返した。
「人格のスキャニングとプロトタイプへの投射は既に終わってるわ。問題は、投射された方――つまりチャンバーから出て来たあいつがまともなキチガイかイカれたキチガイか、こっちじゃ判別できないってとこね」
「もしも制御できない方だったら?」
カーレルの呟きに、ディムロスが顔色を微かに失いながら応えた。地上軍の全施設が地上から消えるだろうな。そして、その予想は恐らく正しい。
“彼”が散々に扱き下ろしたとは言え、この世界において上から数えた方が確実に早い程度には強者だったのが、オリジナル・バルバトスである。そこにソーディアンのスペックブーストが加われば、それくらいはしてのけるだろう。ソーディアンを持った己をディムロスなら殺し尽くすと確信したバルバトス同様、ディムロスも彼に対し変な確信を持っていた。奴なら絶対に殺る、と。
ここまで無言を貫いているバルバトス絡みの話題に絶対入らないウーマン・アトワイトを除く三人が、じっと視線をチャンバーに突き刺す。どちらが出て来る? 狂戦士(キチガイ)か、それとも狂戦士(リミッター付)か?
静寂を破ったのは、チャンバー内被験者の意識覚醒を告げるコンソールからのシグナルだった。各種パラメータをチェックしたハロルドが、ディムロスと兄に視線を向け、頷きが返ったのを見計らって幾つかトグルスイッチを弾き、左端のレバーを手前に倒す。気の抜けるようなBEEP音とともにチャンバーのロックが外れ、スライドドアがチャンバー内にこもった熱気を外界に吐き出す。吐息とも呻きともつかぬものを漏らしながら、バルバトスがまろび出た。
「ぬ、ぐぅ……まったく、なかなかの熱烈歓迎じゃねぇか。まさかあんなもんに今さら出くわすとはなぁ」
首をゴキゴキと鳴らし、片膝の態勢からわずかにふらつきつつ、左手で顔を覆った狂戦士が立ち上がる。三人を庇うように愛剣の柄にさりげなく手をかけたディムロスが、青い魔人に問いかけた。
――――バルバトス。お前は、どっちだ?
左手を下ろし、ディムロスに視線を向けつつ、男はきょとんと両眼を瞬かせた。和やかに話す、混乱してマッドサイエンティストをつまみ上げるのに続き、狂戦士レア行動集第三弾である。
が、己の危惧されているところを遅れながらに理解したのか、今度は右手で顔を覆いながら爆笑した。のけぞり過ぎて色々と愉快な体勢になっているが、些細なことか。
「くッ、くはッ、ぶふッ、ゲェハハハハハハハッ! わ、笑わせるんじゃねぇよディムロス、こちとら寝起きだってのに、くくく、ぶはッ、キヒッ、ヒィハハハハハハ!!
くはッ、かはッ、ぜ、ハァ……ッ、どっちかだとぉ? 随分と情けねぇこと言ってくれるじゃねぇか、ディムロスよぉ? 俺があの、どこに出しても恥ずかしい、童貞こじらせたバルバトス坊やに負けるってかァ!? 寝起きにかますにゃ冗談キツいぜ、おい」
盛大に爆笑されてきまり悪げに頬を掻きつつ、ディムロスは爆笑する強面筋肉魔人にドン引きする三人に振り返った。間違いなく
――それはそれとして。
「お前、え、本当に!?」
今度はディムロス(と後方のカーレル)が笑撃に悶える番だった。あの強面ガチムチバーサーカーの口から「誰が童貞坊やになんざ負けるか」などというパワーワードが飛び出してきたのだ、さもありなん。
「おうよ。我が愛すべきオリジナル様はな、童貞こじらせた挙句
バルバトスの口から語られたのはなんとも言い難い、しかし彼を知る者からすれば腹筋にエクスプロード直撃不可避の、あまりに情けない内実だった。それを思い出し笑いに頬をヒクつかせながら赤裸々に語るバルバトスも、大概外道である。
――で、ベルセリオス妹が危惧してんのは、イカれた能なしのオリジナル様が再浮上するかどうかだろ? その問いに頷くハロルド以下三人――やはりアトワイトは話に参加する気がなかった――に、魔人は語る。
「まず俺が理解したのは、目が覚めたら、というかこの体で覚醒した時には、既にこの体を乗っ取っていた、ってことだ。それ以前に俺自身の記憶の連続性はない。奪った体の方の記憶はともかくな。
で、だ。どうも覚醒前の寝ボケた俺が、浮上時に奴の精神だか魂だかに特攻かましたらしくてな? 哀れオリジナルの人格は砕け散って消失し、その破片とも呼べん残滓が精神の座にしがみついてたんだが、それがスキャニングの際に浴びた晶力を糧に活性化したわけよ。
そいつと一戦交えて、完膚なきまでに爆発四散させてきた。ま、次は絶対にねぇよ」
「ふーん、それで二人分のパーソナルパターンが検出されてたわけか。でも、同じバーサーカーって割には、随分と波形に差があったわよ? 片方は荒れ狂う大波か見境なく暴れまわるモンスター、でももう片方には必要なときにだけ巨大な力を吐き出す、知性の片鱗があったわ。やっぱりあんたは後者ね、話が通じる時点で前者じゃありえないわ」
――童貞と破壊衝動と英雄願望こじらせた奴と一緒にされてもなぁ……
バルバトスの内心はこの一文に尽きた。なお、“彼”自身も憑依前後ともに素人童貞なのは永遠の秘密である。風俗嬢と素人で性差あんのかよニューハーフかオラァ!? という一部の熱い主張は置いておく。
ともあれ、彼にとって最優先すべきは武具の馴らしだ。重心の変位、晶術ブースターとしての増幅具合、武器そのものとしての破壊力等々、実戦投入前に確認せねばならないことは山のようにある。何より、大戦斧の二刀流を早くモノにしなければならなかった。片手で殴り合いつつ片手で晶術ぶっぱ。その有用性がわかるがゆえに、テンション爆上げ不可避である。説明や能書きはどうでもいい、そんなことより実働試験はよ。
ソーディアン初回起動時の人格コンフリクトの危険性等について珍しく真剣に説明しているのをガン無視し、ハロルドに一瞥くれて
「試し撃ちするからデータ採取したいならさっさと来い、俺は演習場の貸し切り申請を出してくる」
ぶっきらぼうにそう告げて足音高く退室するバルバトスからは、新たに入手した武具の試しを行うときの武人特有の妖しくも猛々しいオーラめいたものが立ち上っていた。
それを聞いて弾かれたように顔を上げた天災マッドも、そこらからメモパッドと筆記具やその他データ採取用のフィールドワークキットをひっ掴み、戦闘狂の後を追って飛び出す。その背中から、マッドに属する者が実験の際に漏らす、怪しい笑みとオーラのような何かがドップラー効果めいて尾を引いた。
「くくッ、くふッ、クククッ――クァッハハハハハハハハハ!!」
「にゅふ、にゅふっ、にゅふふふふふふふふ……」
後世にて、半ば外典めいた扱いを受けた名もなき軍人の回顧録に曰く。その日、同時多発的に発生したバーサーカーとマッドの笑みにより、少なくない者、特にリトラー総司令が胃痛を訴え、閉め切られた演習場から幾度となく立ち上るド派手なきのこ雲に白目を剥いてSAN値チェックを余儀なくされたという。
あまり長引かせても何なので、バルバトス対バルバトス戦は巻進行で行きました。やろうと思えばかなり長引かせそうだったんですが、週刊誌のバトル漫画じゃないし別にいいかな、と。
そもそも、ぶるぁぶるぁ言いながらむさい男が二人して殴り合うので尺稼ぐとか誰得? ……俺得ではありますが、あまり一話を長引かせても、そもそも“サクサク読めてきっちり完結”が目標ですしね。コンセプト外れはいかんです。
そして明かされた別に驚愕でもない中の人インシデント。だがちょっと待ってほしい、私は中の人を一般人とは言ったが逸般人でないとは言ってません(ゲス顔)
メンタル面以外のスペックはマジド一般人です、そこは明言しておきたく。バルバトスの肉体に適合するために反射神経とか戦場勘とかその辺は強制レベルアップしてますが、それだけです。
これも明言しますが、これ以上主人公にテコ入れはありません。あったらミクトラン合掌不可避じゃないですか、やだー。
だいたい、バルバトスボディに憑依しといて制御しきってる時点で人外級のマジキチメンタルだと思いません? 書いてる作者が言うのも何だが私は思う。
ちなみにソーディアン・マスター適性があるのは中の人の方です。オリジナルにはありません。あったら困る。
なお、総合的には主人公よりさらに強い《ディムロス・ティンバーwithソーディアン・ディムロス完全同調状態》とかいうドチート魔法剣士がいる模様。地上軍マジ魔境(ただし最上位層に限る)。
誤字報告を適用完了しました。ふまる様、焼きサーモン様、ありがとうございました。