翌日、飛空要塞朱雀の滑走路脇には、整備士達により格納庫から引き出された戦闘機村雨20数機が、列線を成し暖気運転に入っていた。
これより慧剣近衛師団と陸軍の総員で集団模擬空戦を行う。参加者は全員。先程陸軍の身内で待機所で軽いミーティングをした。
内容は簡単だった。正面から突撃し、その後散開し自由戦闘。つまり好き勝手に戦えって事だ。これは個々の実力を計る主旨もあるのだろうか。
「相手は名高き慧剣近衛師団の精鋭隊だ。相手にとって不足なし。我ら陸軍の実力を見せてつけてやれ!」
そう言って檄を飛ばすは、陸軍飛空士の中で一番階級が高い園田中尉だ。戦闘精神旺盛で髭が素敵なナイスミドルだ。正式に航空隊が設立するまで、彼が陸軍飛空士隊の隊長を勤める。
応を返し待機所を出ると、列線の前に近衛軍の飛空士達が待ち構える様に集まっていた。その中にはもちろん紫中尉の姿があった。
両軍がまるで、高校野球の試合前の様に整列し、隊長同士が挨拶をする。その間他の飛空士達は、お互い闘志を秘めた眼でガンを飛ばし合っている。ちょっとでも変な動きをしたら殴りかかってきそうな程だ。
その中でも1人、殺気に近い視線を寄越す飛空士がいる。視線の主を探すと中州民らしい風体の男と眼が合った。年齢は20半ばくらい、痩けた頬と逞しい腕を持ち、一目見て飛空士としてエース級であることが解る。
ーー腕は、俺と同じくらい、いや、それ以上?
恐らく、最上の腕の程を確かめてやるとか思っているのだろう。
そうこうしている内に号令がかかり、総員が自分の戦闘機に向かい走って搭乗する。
最上も走って新品の愛機に搭乗する。陸軍の飛空機には白い認識帯が走っているが、最上の機体のは黄色だ、他にもプロペラスピナーや主翼の先端が黄色く陸軍の通常機体と比べると非常に目立つ。
愛機に乗り込むと、整備士達が素早い手付きでバンドを締めてくれるのを手伝ってくれる。
各メータをチェックし、操縦桿をいじり3舵を確認、フラップを出す。すべて異常なし。エンジンはご機嫌に回っている。上々だ。
「健闘を祈ります!」
エンジン音に負けないように整備士が叫ぶ。最上はゴーグルをかけ、親指を上に突き立て、手信号を出す。
「チョークはずせー!」
整備士達が機体から飛び降り車輪止めを取り払う。
管制官の誘導に従い各機、順次離陸し高度4000mの訓練空域へ向かう。少し離れた所を数機ちょろちょろと飛んでいるのは模擬空戦を監視する観測機だろう。
全機離陸に成功し、近くの者と即席の編隊を組みながら訓練空域にて待機する。皆、戦場で生き残ってきた猛者だけあり見事な飛行だ。
遠くを見ると、相対距離で8キロ程の所を慧剣近衛師団の飛空機が飛んでいる。数えてみると既に12機全機、空中集合を完了している様だ。
そう思っていると無線から管制塔の指示が出た。
「管制塔より全機へ。只今より模擬空戦を開始する。繰り返す訓練開始」
無線指示を受けた瞬間、陸軍航空隊の村雨12機が一斉に旋回し、相手である近衛軍航空隊に最短距離で向かって行く。相手もこちらに機首を向け突撃してくる、同高度正面反航戦。
最上も機首を巡らし反航戦を選択する。左手のスロットルを押し上げる、オーバーブースト。エンジンの力強い咆哮。エンジン回転数と速度計のメータが跳ね上がる。
味方機群を追い抜き単機で殴り込みをかける。一瞬振り返ると4機程が付いてくる。先頭の2機は雰囲気で安芸とギャルポだと確信する。残りは誰だろうか、少なくとも最上と同じ部隊になった事がある者達だろう。少なくとも最上が敵編隊に突入し、乱れた所を突破口として後続が続くやり方を知っている連中だ。最上1人に一番危ない役割を押し付けらている感がしなくもないが、当の本人は、この手に汗握る緊張感が大好きだから苦ではないし、このやり方で味方が少しでも楽になるなら安いものだ。
軽く翼を振ると最上の意を察して皆、一列縦隊をとった。無線を使わずこの連携、まさに阿吽の呼吸。
相手の村雨の影がぐんぐん大きくなる。何機か上昇を開始したがそちらは後続に任せよう。
相対距離3000を切った辺りで標的を選び狙う。機先を制す為、距離1000から発砲。訓練用の塗料の入ったペイント弾を打ち出しながら突っ込む。相手は驚いたのか、打ち返してくるが見当外れの射撃だ。そのまま突入し、すれ違う直前に最上は素早く反転し操縦捍を引く。縦のUターンだ。天地と胃がひっくり返る。
縦の旋回を終えると、旋回中の近衛機が機体上部を晒しながら、最上の射線上に自ら飛び込んできた。運の無い奴。少し同情するが躊躇なく銃把を握り弾幕を張る。命中確実。機首の7,7ミリが火を噴き、細い黄色の射線が相手機を捕らえる。機首から尾翼までピンクの塗料で染まるのを見た、まず一つ。
「青10番撃墜」
無線から管制官のあまり意味の無い声が響く、鳴り止む気配はない。新たに標的を求め周囲を見渡が、両軍入り乱れて既に訓練空域は乱戦だ、空が狭い。
最上は窮屈な空を抜け出し高度を稼ぐが、バックミラーに機影が映った。一機こちらを追尾してくる。ロールを打って周囲を確認。操縦桿を倒し横の旋回戦を挑む。相手も応じた、機首に何か描いてある、白虎だ。
Gが牙を剥き全身を押し潰しに掛かり、視界が暗くなる。それに耐えながら操縦席上部に張り付く相手を睨み付けながら旋回を続ける。
6周…7周…8周目!
互いに一歩も譲らず殆ど同じ距離を保ちながら回り続ける。最上は苦痛に耐えながら相手を賛美する。久しぶりの互角の巴戦!まさに好敵手!さあ、もっと回れ!
嬉々としながら体に鞭を打ち果ての無い旋回を続けるが、突然上空から黄色の礫が降ってきた。
新手だ。機体を捻り回避を行う。すぐ側を下に駆け抜ける村雨を追うように、急降下に入る。早く巴戦で失った速度を取り戻さないとならない。
後ろを振り向くと白虎の機体が追ってきている。いや、もう一機白虎の後ろから来ている。
ーー白虎が率いる一個小隊が相手か、キツいな
逃げるかと行動に移ろうとした時、無線が叫んだ。安芸の声だ、まだ飛んでいたのか。
「小隊長!援護します!」
白虎機に攻撃する機体。どうやら近衛軍ではなく我が列機の駆る村雨だったようだ。安芸の射撃は最上機から虎を引き剥がしたが、虎の獲物が最上から安芸に移り変わる結果となった。果敢にも虎に挑む安芸だが、返り討ちに会うだろう。
「直ぐ向かう。1分耐えろ!」
「了解!」
視線を前に戻すと水平飛行に移り直線飛行する村雨がいた。速度で最上を振り切るつもりだ。戦い慣れてると思った。
戦闘飛行ができるまで速度が回復した最上も機体を引き起こし真後ろから追尾に入るが、速度差で追い付かない、距離も既に400m近く離れてしまっている。並みの飛空士ならばここで射撃しても当たらない。
ーー並みならばね…
最上は照星を睨み、微調整の後銃把を握り発砲した。
「青9番撃墜。空域を離脱せよ」
無線から結果が伝わる。相手は暫く直進する、被弾したのが信じられないといった感ところか。
最上は白虎を相手にしている安芸を探すべく周囲を見渡そうとした瞬間、無線が鳴った。
「白5番撃墜、速やかに離脱せよ」
白5番は安芸だ。1分持たなかった様だ、後で反省会だ。安芸から通信が入る。
「これより空域を離脱します。小隊長、勝ってください!」
斜め上空を見ると離脱する村雨とこちらに突撃してくる村雨がいた。周囲にはもう機影は見当たらない。
先程のように邪魔は入らない一対一の真剣勝負、空中決戦だ。
最上はタイミングを見計らい、機体を再び急降下させバレルロールを打つ。スロットルは目一杯絞る。
急降下してきた白虎は速度を殺しきれずオーバーシュートしまいと離脱を選択する。その一瞬の隙を最上は見逃さなかった。スロットルを開き上昇、背後を獲る。間髪入れずに射撃したが急旋回で避けられ、そのままこちらの後ろをとろうと回り込む。最上も相手を追い再び巴戦に突入するが、今度はちょっと違った。
最上は操縦席で手を伸ばした。フラップ展開。
2機は翼の両端から雲を引き、失速限界のギリギリを攻めて回る。地上で見上げていた者達は、また体力の続く限りの長期戦になると思ったが、みるみる内に最上機が間合いを詰めていく。3旋回目では完全に後ろを獲り、青空に黄色の線が走った。
無線から撃墜の報と訓練終了の知らせを聞き、最上は機体を水平飛行にさせ一息ついた。心臓が大きく早く脈打ち、手袋の中が汗でびっしょりだ。久々に熱い戦いだった。手強い敵に打ち勝った事よりも、追って追われる長く激しい空戦が出来たことを相手に感謝しながら、狭い操縦席で満足感に浸りつつ、着陸進路を取った。
一列縦隊
史実ではB-17をワンパンの必殺技陣形。かっこいい
機先を制す為、距離1000から発砲
開幕弾幕戦からの衝突、あると思います
縦のUターンからの撃墜・つばめ返し
成功した試しがない
訓練用ペイント弾
卑猥なほどの蛍光ピンク、いいね?
援護に入った安芸一飛曹
バレルロールで瞬殺
400mの射撃
とある飛空士の世界…超長距離狙撃!? 空戦ゲーム…十分射程内やんけ!
手動空戦フラップ
驚きの効果。フラップを讃えよ!