Mission 箕郷防衛戦   作:スッパもいもい

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新設草薙航空隊

 翌日、会議室に向かう廊下を最上とリュウが歩いていた。昨夜、リュウが空戦技術を教示を乞うてきたので最上はそれを快諾した。それに便乗して多数の飛空士にも教えることになったので、翌日に基地内の一室を借りて黒板や模型を使い、簡単にレクチャーしてからの実践を行おうと計画したのだ。

 朝飯を食堂で済ませリュウと合流した所で、挨拶以外はむっつりと口を閉ざしているリュウ少尉に最上が話しかける。コミュニケーションは大事だ。特に同じ戦場をこれから戦おうとしようなら尚更。

 

 「しかし、少尉殿の様な方が他人に教えてくれなどと言うとは、正直言って意外でした」

 

 「……よく、皆にそう言われますが、どちらかと言えば私は気草な方です。それに、真に敬意を払う相手は分かります」

 

 「ははは、その文脈だと、少尉殿は私に敬意を払っている様に聞こえますよ」

 

 出来の悪い冗談を笑い飛ばす最上に対してリュウは不意に立ち止まった。最上は振り返るが相変わらず、仏頂面の鉄面皮がそこに居る。

 

 「冗談の類いではありません。昨日の模擬戦は、私にとって衝撃的でした。全く、歯が立たなかった……貴官は噂通りの。いや、それ以上の飛空士です」

 

 独白とも取れるそれは決して大きな声ではないが、その言葉に秘められた重さはどれ程だろうか。

 少なくとも嘘は言っていない。世辞も言ってはいない。それが出来たら楽しい宴会中に割り込んでくる様な不器用なことはしないだろう。

 最上は居心地悪そうに頭を掻き回す。

 

 「それは、過大評価です。多島海戦争の始めの頃は自分より上の飛空士はゴロゴロいましたよ」

 

 そんなやり取りをしながら目的の部屋に着き扉を開けて驚いた。陸軍航空隊、近衛航空隊が勢揃い。その他にも整備士の連中も少しいる。

 物好きれんちゅうが集まってぱぱっと教えて終わりにしようとしていたが、訓練学校の様にちゃんと講義しなくてはいけない雰囲気に顔を引きつかせる。

 

 「やあ、おはよう最上准尉殿。皆待ちくたびれているよ」

 

 さあ、早く始めようか、と言うのは席の中央最前列に陣取る紫中尉だった。爽やかな笑顔が非常にむかつく。

 やや呆然とする最上の肩をリュウは叩いた。仏頂面はそのままに眼だけが頑張れ、と語っていた。

 

 

 10月下旬。陸軍航空隊が飛空要塞に来てから暫く経った。その間は毎日毎日朝早くから夜遅くまで、訓練漬けの日々だった。

 その合間の僅かな時間を使い、最上の空戦授業は続けられた。

 授業と言っても大した事はない。今までの経験した空戦や常用する戦法を話したり戦闘において心がけている事を語るだけだ。後は質問形式を取りそれに最上は理屈っぽく答えていた。

 これが役に立っているのか模擬空戦では双方回をこなす度に手強くなっている。

 そんなある日の昼、食堂で最上率いる小隊3名は午前の訓練が終わり昼飯をとっていた。

 最上は昼飯を食べ終わり新聞片手に一息ついていると、安芸二等飛空兵曹が新聞を覗き見しながら話しかけてくる。

 

 「そういえば小隊長、海軍さんがもうすぐやって来るそうです」

 

 「やっとか。これでやっと陸海近衛の三軍の航空隊が揃うな。だが司令官の着任がまだだよな」

 

 「司令官は海軍さんの扇ガ谷中佐という人になるそうです。それにこの一面の、このエースも来るそうですよ」

 

 安芸が指し示す新聞の一面には戦闘機村雨から整備士に手信号を送る、若い飛空士の写真がでかでかと載せてあった。

 記事の見出しには『新たなる空の王へ 因縁のふたり対決迫る』と書いてあり、この新聞によれば、一面の飛空士の名は坂上清顕というらしい。階級は少尉。

 今や誰もが知るエリアドールの七人、その内の一人である坂上少尉は祖国の忠誠心からヴォルテック航空隊を脱走し、オデッサにてかつての仲間達と死闘を繰り広げている云々。

 

 「ねぇ安芸ちゃん。どこからそんな情報仕入れてくるの?」

 

 ギャルポ一等飛空兵曹は疑問を口にする。

 

 「もう基地中で噂になってるじゃないですか」

 

 部下達のそんなやり取りを聞きながら、戦時特有の煽動記事を途中まで読んで最上は新聞を畳みながら言った。

 

 「まあ、腕利きならいくらでも大歓迎なんだが。海軍ってのがなぁ」

 

 最上の呟きに安芸は怪訝な顔をする。そこにギャルポが苦笑いしながら話し掛ける。

 

 「小隊長はツルギ島の迎撃戦で海軍の対空砲に誤射された事があるんだ」

 

 「……それは……何とも」

 

 新聞を嫌味なくらいにキチッと畳んだ最上がぼやいた。

 

 「笑い事じゃねぇよ。危うくフカの餌になるとこだった。……友軍に落とされフカに踊り食いにされるなんてゾッとする。貴様ら、海に不時着するなら乾電池を持ってた方がいいぞ。あれはフカ避けになる」

 

 そう言って最上は席を立った。もうすぐ午後の飛行訓練が始まるから準備をしなければならない。

 

 

 

 数日後、最上達飛空士は全員滑走路脇に集まっていた。今朝方支給された黒を基調にした新しい飛行服に身を包み、もうすぐやって来る海軍の航空隊を皆で今か今かと待ち受けている。

 基地のある飛空要塞朱雀は高度3000メートルの空にあるので最近はすっかり冷え込んできた。

 最上は新しい飛行帽をかぶり、初陣の時から使っている薄汚れたマフラーを首にしっかりと巻きながらパイプを吹かしている。

 

 「来たぞ!」

 

 誰かが上げた声を聞き視線を空に向けると雲の切れ端から海軍機が次々と姿を表した。

 全部で12機の村雨は一糸乱れぬ隊列で高度を落としてきて3機小隊で次々に着陸してきた。その様子を見て既に配属されている陸、近衛の飛空士達が笑いながら品評している。

 海軍機全機の着陸を見届けると、待機していた飛空士達が航空指揮所前に集まり出したので、吹かしていたパイプ煙草の中身をその辺に捨て最上も指揮所に向かい整列し、やっと着任した司令官の扇ガ谷の訓示を聞いた。

 

 「セントヴォルト帝国軍はすでにイズリオンに入り、カラナクタ要塞を攻略しつつある。カラナクタ要塞が落ちたら次は首都の箕郷が狙われることになるだろう。我らの任務は敵の精鋭戦闘機隊、ヴォルテック航空隊を退け箕郷を守ることにある!」

 

 扇ガ谷はそこで一度各員を見渡して、さらに声を張り上げた。

 

 「国民の期待も非常に大きい。隊名を公募した結果、我ら航空隊な名称は草薙航空隊に決まった。神話において草原に群れた敵を薙ぎ払ったとされる伝説の剣の名だ。諸君らには隊名に恥じぬ活躍を期待する」

 

 総員が応を返して訓示が終わり解散とり、新しく仲間になった海軍さんが歩み寄ってきて、その場で紫中尉の主導のもと顔合わせが行われた。

 そして、律儀にも一人一人に挨拶をしている若者は先日新聞に載っていた飛空士だった。

 

「清顕君、彼が最上七一准尉。この航空隊で模擬空戦をやって無敗は彼だけだ。学ぶところが多いよ」

 

 紫の紹介を受け、若者は気合いの入った敬礼をし自己紹介をした。

 

「彼の撃墜王に御会いできて光栄です。坂上清顕です。よろしくお願いいたします」

 

 最上は正面に来た坂上を真っ直ぐ見据えた。なんだか歳よりずっと若い、幼いような印象を受けた。

 

「最上七一。よろしく」

 

 

 

 11月下旬。最上達は草薙航空隊が組織されて以降、死者が出る激烈な訓練漬けの日々を送っていた。

 それもそのはず、10月の終わりに帝国軍がメスス島へ攻勢を仕掛けてきた。250機を超える航空戦力で島の防御施設はあっという間に無力化され、占領された。

 これを受け大本営は敵の侵攻はツルギ島で食い止めている間に、少しでも首都の箕郷の防衛能力を高めよとの命令を下してきた。

 その結果が死者が出ることも厭わないめちゃくちゃな訓練だった。敵と戦う前に皆事故死してしまうのではないか?

 夜遅くまで訓練を行い、くたくたになって宿舎に戻ろうとした時、司令官の扇ガ谷中佐に呼び出された。

 

 「最上准尉、出頭しました」

 

 「おう、待ってたぞ。堅苦しい話じゃない、楽にしていいぞ」

 

 最上は敬礼をし、部屋の奥で窓越しに夜空を見る扇ガ谷が振り返る。

 

 「単刀直入に聞くが、新型機に乗ってみないか?」

 

 「乗りたいですっ」

 

 あまりの即決に扇ガ谷は少しずっこけた。

 

 「お、おう。それならいいんだ。この新型機の話なんだが、二種類あるんだがどれがいいか?」

 

 そういって扇ガ谷は机から書類を二束取り出してきた。拝見します、と最上は受け取り読んだ。

 まずひとつは見たこともない形の機体だった。名前は斑鳩。二重反転プロペラの単発推進式しかもエンジンはターボプロップときた。そして最高速度は何と920キロメートル!これには度肝を抜かれた。本当にこんなことが可能なのか?

 カタログデータを読み進めて武装の欄を見た。機首に37ミリ機関砲が一門、両翼に20ミリ機関砲が一門ずつ。

 

 「…………」

 

 機体性能に武装が追い付いてない印象だ。対爆撃機戦闘ができるように大口径の機関砲をとりあえず搭載した様に感じた。

 最上は静かに一つ目の書類を置き、二つ目を読み始めた。

 

 (高高度近距離戦闘機……叢雲?)

 

 図面を見ると、こちらは革新的な斑鳩と違い伝統的なフツーの戦闘機に見えた。

 最高速度は690キロメートル。武装は両翼に30ミリ機関砲、20ミリ機関砲が一門ずつの計4門。エンジン馬力は驚きの2500馬力!

 どんなにスペックがよくても飛空機は乗らなければわからないが、最上は直感的にこれだと感じた。

 

 「では、こちらの叢雲でお願いします」

 

 叢雲の書類を戻しながら言うと扇ガ谷は片眉を上げた。

 

 「そっちを選んだか、以外だな」

 

 「操縦席の後ろでペラが回っているなんて、恐ろしいじゃないですか」

 

 「脱出時のことを言ってるのか?安心しろ、プロペラ爆砕用の仕掛けがある」

 

 「それは一安心ですが、やはり自分は、叢雲の方が良いです」

 

 「わかった。後日これら新型機は朱雀に来る、試乗はその時にな。それと、この事は極秘だ」

 

 了解です、と最上は敬礼をし部屋を退出し宿舎に戻って布団に潜り込んだ。

 

 (新型機か、楽しみだ)

 

 その夜は遠足前の小学生のように中々寝付けなかった。




リュウ・ウォン特務少尉
 ぶっちゃけ坂上清顕より好き

自分より上の飛空士はゴロゴロいた
 強い人、いい人程早く死ぬ。長生きすんのは悪い奴らばかり。世知辛いね

安芸ちゃんは情報通
 時々訳わからん程の情報網を持つ人、いるよね

戦時特有の煽動記事
 メディアは煽るだけ煽る

坂上清顕
 原作の主人公。それ以上でもそれ以下でもない

草薙航空隊
 史実の343空的ポジションでしょうか

10月下旬から11月下旬
 クリムゾンッ! チャプター送りとも言う

新型機 叢雲
 史実のキ―87を参照。でかくて重くて私は大好き。脚と露出したタービンがかわいい

新型機 斑鳩
 武装がショボいと思う。夜想曲の真電の方が好き

操縦席の後ろのプロペラ
 プロペラ爆砕装置が無いと尻がスライスチーズになる
 


 
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