トルメキアの黒い巨神兵   作:銀の鈴

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トルメキアの白い魔女〜第3軍〜

トルメキアの王都は、クシャナ殿下と巨神兵の話題でお祭り騒ぎになった。

 

もちろん、突如現れた巨神兵に恐怖心を露わにする人間も確かにいたが、パレードでの出来事の話が広まるにつれ巨神兵への恐怖心は薄れていった。

 

国民達から人気の高いクシャナ殿下に巨神兵という強大な存在が味方についた。

 

次期トルメキア王に、クシャナ殿下が大きく近付いたと歓喜した人間達で王都は溢れかえる。

 

そしてそれは王宮内でも同様だった。

 

良識のある官僚達は、以前から優れた資質をみせていたクシャナ殿下を支持していたが、彼らは兄殿下達を恐れていたため、クシャナ殿下への支持を口にはしなかった。

 

だが、今回の一件で状況は変わる。巨神兵という圧倒的な戦力を個人で保有したクシャナ殿下の立場が強まったのだ。

 

官僚達はこぞってクシャナ殿下の支持を口にした。

 

そして、元々クシャナ殿下への忠誠心を隠しもしない一部の兵士達はその熱い想いを大々的に喧伝していく。

 

加速度的に広まっていくクシャナ殿下の名声は、遂にはヴ王の耳にも届く。

 

それまでは幼い娘に対して興味を持っていなかったヴ王だったが、その高い評判に興味を示した。

 

極秘に娘について調査をさせたところ、高い能力と人望、そしてそれまでヴ王には報告されていなかった巨神兵の存在を知った。

 

実は、巨神兵をクシャナから奪い取ろうと画策していた軍の幹部達が結託して、ヴ王に巨神兵の存在を秘匿していたのだ。

 

その事実に激怒したヴ王は、この一件に関わった幹部達を全員処刑した。(この幹部達の背後にはある王族がいたが、その存在が公になる事はなかった)

 

その結果、多数の幹部を失ったトルメキア軍の再編が行われる事になる。

 

その一環として、ヴ王は巨神兵を得たクシャナを自分の親衛隊である第3軍の最高指揮官に任命した。

 

そうする事によって、ヴ王はクシャナを通じて巨神兵を己の戦力に組み入れる事を画策したのだ。

 

もちろんクシャナもそれは察していたが、彼女は自分が王位につくまではやむを得ないと割り切っていた。

 

こうしてクシャナは第3軍を手に入れ、クシャナを慕う兵士達は第3軍へと異動していった。

 

 

 

 

「なるほど、姫様は王位継承争いをしているのか。じゃあ、俺が姫様の邪魔になる腹違いの兄達を消してやるぞ」

 

「馬鹿か、貴様は。いや、貴様は大馬鹿だったな」

 

私の知らない所で巨神兵(大馬鹿)が暴走しないようにと、私が現在置かれている状況を彼に説明した。

 

その結果が先ほどの巨神兵(大馬鹿)の言葉だ。

 

まったく、こいつの常識の無さには呆れ返るしかないな。

 

「力による王位継承を行えば、今までの王と何ら変わらん。それではこのトルメキアを変える事はできんぞ。私はこのトルメキアを秩序ある平和な国に生まれ変わらせたいのだ」

 

この世界は、徐々に拡がる腐海によって人類の生存圏が狭まってきている。

 

それなのに各国を牽引すべき二大国家は互いに争いを繰り返し、トルメキアにおいては王族同士の争いが絶えない。

 

このままでは遠くない未来、人類は滅びるだろう。

 

私は人類の滅亡を食い止めるべく立ち上がる事を決意した。

 

もちろんそれは自分が生き残る為であることは否定しない。

 

だがそれ以上に私は、自分が生まれ育ったこのトルメキアを良い国へと生まれ変わらせたかった。

 

弱者でも笑って暮らせるような国にしたい。

 

きっとそれは、幼い頃から見続けてきた母上の姿から湧き出た想いなのだと思う。

 

私の母上は、トルメキア王家の正統たる血筋を受け継ぐ唯一の人間だった。

 

そしてそれゆえに母上を巡って王位を狙う男達の激しい争いが起こる。

 

王位を巡って血で血を洗う日々の中、母上の身に悲劇が襲った。

 

若き日の母上が、淡い想いを抱いていた男性が暗殺されたのだ。

 

その暗殺の犯人は未だに判明していない。

 

愛する男性を失い、無気力になった母上は血みどろの争いに勝ち残った父上と流されるままに婚姻した。

 

婚姻の日以来、泣き暮らす母上の姿を私は生まれた日から見続けていた。

 

私はそんな母上の姿を見て、幼心ながらに哀れに思った。

 

そして、母上のような女性を無くしたいと思った。

 

力ある者が強引に全てを得る国を変えたい。

 

力ではなく、公平な法によって成り立つ国にしたいと強く思うようになった。

 

そして、今の私はそれを成し遂げるだけの(巨神兵)を得た。

 

もちろん自分の矛盾は理解している。

 

力による統治を否定しながら、力による改革を行おうとしている。

 

もしも私が王となり、自分の理想を実現できたとしても、きっと後の世の歴史家は私の事を矛盾を孕む狂王と評するだろう。

 

だが、それは覚悟の上だ。

 

未来永劫に残る汚名を被ろうとも、私はこの国を変えると誓ったのだ。

 

そしてそんな私を信じて付いてきてくれる者達もいてる。

 

ならば私は前に進むだけだ。

 

たとえ、理想に向けて進む途中で倒れたとしても決して私は後悔しないだろう。

 

「ククク、姫様が倒れることなどあり得んぞ。姫様の敵は俺がこの地上から物理的に消してやるからな」

 

「だから露骨な暴力の行使はやめろと言っているんだ!!」

 

駆け引きの為の威圧や、戦争時なら兎も角、直接的な暴力の行使はダメだ。

 

そのような行為を行えば、私が死んだ後に悪影響を及ぼす。

 

法による統治など所詮は仮初めだと思われ、再び力による争いの時代に逆戻りするだろう。

 

それでは意味がなかった。

 

私は根本的にこのトルメキアを新しい秩序が支配する国にしたいのだ。

 

「貴様に言っておくが、勝手な暴力は許さぬからな」

 

「それなら安心してくれ。俺は基本的に平和主義だからな。暴力は嫌いなんだ」

 

「え……?」

 

想定外の答えに私は呆然とする。

 

何かあれば炎を吐きまくるこいつが平和主義だと?

 

「それでも俺は姫様の味方だからな。姫様の為なら暴力も辞さない覚悟はあるよ。最も暴力なんて振るった事のない俺がどこまで役に立つか分からないけどな」

 

そう言って、照れ臭そうに頭をかく巨神兵(大馬鹿)の姿をもう私は見ていなかった。

 

つまりこいつにとっては、強靭な蟲を潰したり、強力な炎を撒き散らすのは暴力の内に入らないという事なのか?

 

その恐ろしい事実に私は戦慄する。

 

こいつが意識して振るう暴力とは、どれほどの規模になるのだろう?

 

トルメキアのあった場所に広がる広大な更地。

 

それを想像した私に一つの考えが浮かんだ。

 

「そうだ。冬眠をしよう」

 

全てを忘れて、私は引きこもる事にした。

 

自室の布団はとても温かく、そして優しく私を包み込んでくれた。

 

 

 

 

 

 

――3日後、赤毛の部下に布団を引っぺがされた。

 




殿下はパジャマ派ではなくネグリジェ派です。
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