トルメキアの黒い巨神兵   作:銀の鈴

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元サラリーマンは営業活動が得意です!


トルメキアの白い魔女〜発展〜

巨神兵は、辺境の国々を飛び回って営業活動と農業活動に勤しんでいた。

 

「巨神兵様の御用件とは……?」

 

都市長は、突然現れて伝説の巨神兵だと名乗った巨人を偽物だと疑うことはなかった。

 

まあ、それはそうだろう。

 

一目で分かる。

 

巨人(コレ)が巨神兵じゃなければ何なんだというのだろうか? 巨神兵じゃないと言われた方がもっと怖いだろう。そんな未知の物体よりも、一応は知識にある巨神兵の方がまだマシだと都市長は考える。

 

「うむ、実はこの国でてん菜を育ててもらいたいのだ。もちろん、収穫できたものはトルメキアで適正価格で買い取るぞ」

 

「はあ、てん菜を育てればよいのですか?」

 

都市長としては、もっと暴力的で理不尽な要求を突きつけられると思っていたため、拍子抜けした思いだった。

 

もっとも、その巨大な掌に孫娘を乗せて楽しそうに遊ばせている姿から、それほど酷い事にはならないだろうとは予想はしていたが。

 

「それで、いかほどお納めすれば良いのでしょうか?」

 

「そうだな、出来れば……」

 

幸いなことにこの辺りは、てん菜を育てるのに適した風土のため、あのトルメキアが買い取ってくれるというのなら取引に否はなかった。

 

それに、トルメキアとの縁が出来るのなら、もしかしたらこの都市が腐海に飲み込まれる前に、トルメキアへと孫娘を逃すことが出来るかもしれないという希望が持てた。だが……

 

「そ、それほどの量が必要なのですか!?」

 

巨神兵が求めた量は文字通りに桁が違った。

 

それが可能か不可能かと問われれば、ザクダの働き手が総出で行えば可能ではある。だが、その為にはてん菜以外の作物を作る余裕は無くなるだろう。畑も増やす必要があった。

 

つまり、現実的に考えれば不可能だった。たとえ収穫物を全て買い取ってもらえ、その金で食料品等をトルメキアから購入出来たとしても、肝心の収穫が出来る前にザクダの住民は餓死するだろう。ザクダの備蓄を考えればすぐに分かることだった。

 

都市長は恐る恐る巨神兵にその旨を伝える。どうか怒って暴れないで下さいと祈りながら。

 

「ああ、それなら収穫物の買取ではなく、うちの小作人として雇おうか? うちは月給制だけど、最初の一月ぐらいは何とかなるだろう?」

 

「小作人に月給制ですか?」

 

巨神兵の説明によると、このザクダに “クシャナ(姫様)殿下のお菓子屋さん” の支店を置くからそこで小作人として働け。という事らしい。

 

「食料等も買えるようにトルメキアから運んでやるぞ。そうだな、社内販売ということになるから多少は社員割引もしてやろう」

 

破格の条件だと都市長には思えた。

 

国家間の貿易なら不利な条件を押し付けられる可能性がある。だが、トルメキア皇女が自ら経営する企業に雇われるのなら話は違う。トルメキア皇女が庇護者となるのだ。国としてのトルメキアも決して無体な真似はしないだろう。

 

もっとも、全てはそのトルメキア皇女が信用できるのなら、ということにはなるが。

 

都市長は悩んだ。

 

恐らく、これはザクダの行く末を決める話となるだろう。

 

この巨神兵は真実を話しているのだろうか?

 

トルメキア皇女は信用できるのだろうか?

 

“クシャナ(姫様)殿下のお菓子屋さん” は、あっさりと倒産しないだろうか?

 

不安要素は色々とあった。

 

悩める都市長を横にして、彼の可愛い孫娘は巨神兵とお喋りをしていた。

 

「それでね、最近は腐海の胞子がここまで飛んでくる日があるから、あまりお外では遊んじゃダメなんだよ」

 

「腐海の胞子? ああ、あそこに見えているな。うむ、どうせ焼畑をするつもりだったし、てん菜に胞子がついても困るからな。今から燃やしちまうか」

 

「巨神兵さんが腐海を燃やしてくれるの!?」

 

「うむ、俺はこう見えてもバーベキューでの火起こしが得意だったからな。腐海などキャンプファイヤーの代わりにもならんわ」

 

「うわあ! 頑張ってね、巨神兵さん!!」

 

巨神兵の意味不明な言葉をスルーしながら可愛い孫娘は声援を送る。

 

その声援に気を良くした巨神兵は大きく口を開けた。次の瞬間、

 

──世界が焼けた。

 

この日、城塞都市ザクダに “クシャナ(姫様)殿下のお菓子屋さん” 支店 第一号店の出店が決まった。

 

 

 

 

辺境の国々は、村レベルから軍事国家と呼べるレベルまで多種多様だったが、その全ての国力を合わせてもトルメキア一国に遠く及ばない程の差が存在した。

 

それほど強大なトルメキアにおいても、彼の巨神兵の存在は別格といえるだろう。

 

“泥沼の王位継承争いを容易く制したクシャナ皇女の力の象徴”

 

“火の七日間で、世界を焼き払った地上で最も邪悪なる一族”

 

“大空を超高速で飛び回る陽気な巨神兵”

 

巨神兵を表す言葉は多々あれど、彼と実際に接した辺境の人々は異口同音に語る。

 

──巨神兵()は我らの恩人であり、紛うことなき英雄だと。

 

 

 

 

「あの巨神兵(馬鹿)は何処にいる!!」

 

クシャナ殿下は激怒していた。

 

現在、トルメキアを含め、トルメキアを盟主と仰ぐ辺境の諸国群は空前の大好景気を迎えていた。

 

始まりは各国で行われた焼畑農業だった。

 

それぞれの国々で別種の作物を一斉に育て始め、それをトルメキアのあるお菓子屋さんが適正価格で買い上げた。

 

それと同時に、各国で食品加工工場も建造された。

 

焼畑農業と食品加工工場で大量の雇用が生まれたお陰で、各国の失業率は改善され治安も回復した。

 

焼畑農業に伴い、各国周辺の腐海が焼き払われた影響で、国民達の心理的閉塞感が激減した。

 

懐事情に余裕ができ、心理的にも余裕が出来た頃、トルメキアで熱狂的な人気を誇るクシャナ殿下がお菓子業界に旋風を巻き起こす。

 

それまでは、貴族などの上流階級しか口に出来なかった高級菓子を一般庶民でも手が届く値段設定で売り出したのだ。

 

当然のように、懐と心にも余裕のある一般庶民達はクシャナ殿下のお菓子に飛びついた。

 

“クシャナ殿下のお菓子革命”

 

それは、後の世に伝えられるクシャナ殿下の偉業の一つである。

 

もちろん批判もあった。

 

皇太子としての立場を利用して、軍事用大型輸送機バカガラスを自分が経営する “クシャナ(姫様)殿下のお菓子屋さん” に格安で売却するなど公私混同も甚だしいだろう。

 

ヴ王に無断で王室の資産を “クシャナ(姫様)殿下のお菓子屋さん” に注ぎ込むなど言語道断でしかない。

 

巨額の利益を出している “クシャナ(姫様)殿下のお菓子屋さん” に対する減税処置など発狂モノだ。

 

だが、それを表立って口にする者は皆無に等しかった。僅かな下級貴族達が騒いでいるだけだ。

 

大型輸送機バカガラスが繋ぐ、辺境の諸国群との広域輸送網は人と物の移動を容易にした。

 

それによって、空飛ぶ巨神兵一人では運搬し切れなかった大物量を運べるようになり、安定した貿易が可能となった。

 

計画当初の資金難は、クシャナ殿下の英断による王室資産の投入により乗り越えられた。

 

“クシャナ(姫様)殿下のお菓子屋さん” に対する減税処置によって生まれた余剰資金は、お菓子業界以外の分野にも投資されて新たな雇用を生み出した。

 

トルメキアを中心とした経済圏は急激な発展を続け、クシャナ殿下の名声は天井知らずに高まる。

 

そして、当然ながらトルメキアの実質的な統治者であるクシャナ殿下の仕事量も好景気に比例して天井知らずに爆増した。

 

巨神兵(馬鹿)は何処だ!! 私の名前と金を勝手に使って仕事を増やしやがった巨神兵(馬鹿野郎)はどこに逃げやがった!!」

 

 

 

 

「フハハハハッ、姫様を怒らせちゃったから、ほとぼりが冷めるまで田舎でノンビリするか」

 

「笑い事じゃないですよ!? 殿下の側近に戻れるはずだったのに!!」

 

能天気な様子の巨神兵とは裏腹に、寡黙で冷静に見える外見をした男は落ち込んでいた。そんな対照的な二人を見ていた可愛い孫娘は気遣うように声をかけた。

 

「おじちゃん達は大変そうだね」

 

「うむ、働くというのは大変なんだぞ」

 

「うむ、じゃないですよ!! 次の策を考えて下さい!!」

 

「あははっ、大変そうだけどなんだか楽しそうだね!」

 

「フハハハハッ、大変な仕事をも楽しむ。これが大人の男というものだな!!」

 

「俺は側近の仕事を楽しみたいんだー!!」

 

城塞都市ザクダを統率する年老いた都市長は、日課である城壁からの夕陽見物をしていた。ふと、遠くから聞こえてきた孫娘の楽しげな声に頬を緩める。

 

「フォッフォッフォッ、今日も綺麗な夕陽じゃな」

 

年老いた都市長が見つめる先には、美しい地平線に沈みゆく夕陽が、広大な畑を照らしている光景が広がっていた。

 

 

 

 




巨神兵が、お菓子屋さんの売り子さんをする回は機会があれば書きたいと思います。
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