異世界料理店越後屋外伝   作:越後屋大輔

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紗路が異世界デビューしました(驚)。


助っ人と重なる偶然 前編

 本店の営業中の比較的お客の少ない午後にマティスが大輔に

 「マスター、勤務時間を変更する事ってできないかしら?」と聞いてきた。

 「ケースにもよるけど、どうして?」

 「あのね…」現在マティスはアズル大陸から流れ着いた元貿易商で今は商業ギルドの職員として働いているレイヨンと交際している、互いの子供達も仲が良くお付き合いは順調らしい。

 

 「それで明日からムッサンの街で興行する楽団の演奏会に誘われたの」明日は店自体が定休日で一見問題なさそうだがこの世界の主な交通機関は馬車である。街1つ分往復するのに早くて2日はかかる為翌日の通常営業には手が足りない。

 「マスター、魔道具が鳴ってます」ラティファに言われてスマホをとる大輔、相手は冴子だった。

 「はい、ええわかりました。紗路さんには明日裏口に回るように伝えて下さい」通話をきってマティスの休暇を認める大輔、代わりの従業員がみつかったのだ。

 

 今日の2号店はいつも通りの営業が行われているが明日から盆休みならぬ彼岸休みに入る、紗路を雇う少し前冴子が福引きで温泉旅行を当てたので夫婦で行きたいと思っていた。大輔に話したら

 「その間は店を閉めていいからゆっくり骨休めして下さい」と元々許可を得ているが紗路にはまだ何も伝えてなかったのだ。

 

 そして翌日。

 「紗路ちゃん、そういう訳で明日から本店で仕事してもらうけどいいかしら?」冴子から頼まれた紗路は給料目当てに引き受けた。昨日言われた通り紗路は裏口に回ると既に大輔が迎えに来ていた。

 「それじゃ本店へご案内します」ドアノブに手をかける大輔を怪訝に思うが戸が開いた瞬間店の様子が違うのに驚く。

 「今日は本店(こっち)も定休日なので店の回りとこの街を知ってもらいます、これも仕事に含まれるので給料はちゃんと出しますね」入り口から店の外へ出るとおよそ中世ヨーロッパを彷彿とさせる景観が目に入る、道行く人々の中には書物等で見知った『妖怪』『魔物』といわれる生き物が人間と普通に会話をしたり恋人同士なのか仲睦まじく手を取り合う男女までいる。

 「な、何なんですか?ここは一体…」卒倒した紗路を支える大輔、パックスに店内へ運んでもらい気付け薬を飲ませる。

 「マスター、この人誰?」大輔とあの研究所の連中以外の地球人に会った事のないパックスが尋ねる。

 「2号店の人だよ、明日はマティスが来られないから助っ人を頼んだんだ」

 

 目を覚ました紗路は大輔から事情を聞いた、越後屋本店はここ異世界にあり基本的にこの事は秘密だけど信頼のおける紗路にはタイミングのいい今日打ち明けるつもりだったと。一瞬だけ退職の2文字が頭をよぎるが考えてみたらフルール・ド・ラパンより給料は断然いいし最低でも1日1食は賄いがつく、正直今までで最も割りのいい職場だ、辞めても何の得はない。それに異世界とはいっても扱う食材は地球(むこう)と変わらないという。

 「任せて下さい!」ここぞとばかりにヤル気を見せる紗路、大輔も一安心したところに常連の4人組が訪ねてきた。

 

 「よう、マスター。今日も紙芝居作りやろうか」声をかけてきたのは180センチはあるサルである、後ろからは耳の尖った美少女に背は小さいのに筋骨逞しいおじさん、肘より先と膝下がカエルみたいな美女がついてきた。免疫ができたのかさっきよりは幾らか落ち着いている紗路だがまだ足が震えている。

 「ちょうどよかった。紗路さん、裏口の戸を開けてみて」いわれるままドアを開けると見慣れた場所が見える、足を一歩踏み出す。

 「オッ、ちゃんと帰れそうだな」ルカと名乗ったサルがにこやかに言う。

 「ここと日本を往き来するにはそこの裏口から出入りするかルカさんに送ってもらうしか方法がないんだ。人によっては裏口から帰れない場合もあるからね、僕も今回ルカさんに用があったし」

 「俺達は普段旅暮らしの冒険者だが今回は色んなタイミングが上手く重なってな、アンタついてるぜ」

 

 かくして桐間紗路の越後屋異世界本店勤務がスタートしようとしている。

 




次回は営業日です。
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