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ラビットハウスで下宿しながらバイトしていた保登心愛は高校卒業後、一度実家にて修行を経て再び木組みの街に戻り現在は近所でパン屋『Cocoa Bakery』を経営している。
その心愛がいつものようにラビットハウスにパンを卸しにきた。
「じゃ、食パン10斤とロールパン30ヶ確かに受け取りしました。ココアさん領収書を下さい」
「はーい、チノちゃんいつもアリガトね」この喫茶店兼バーの看板娘で主タカヒロの実の娘でもある香風智乃に領収書を渡すとこんな話をし始めた。
「明日、私のお店定休日じゃない?だからチノちゃんと一緒に呑みに行きたいと思ったんだけど付き合ってくれる?」例え法律上飲酒できる年齢に下限がなくても8年前の彼女に聞かれたら全力で断ったが今はお互いいい大人だし断る理由は特にない。
「ええ、たまには一緒に呑むのも一興でしょう。じゃ今夜、私の知っているお店でいいですか?」
「おお!行きつけのお店があるとはチノちゃんもイケる口だね」
「そりゃ私だってもう22才、とうに成人していますから。心愛さんこそ呑みすぎて酔い潰れないで下さいね」
その夜、智乃は心愛と共に居酒屋も兼任する食堂『越後屋2号店』に訪れた。
「いらっしゃいませって、心愛じゃない!随分久し振りね」
「シャロちゃん、ここで働いてたんだ~、フルール辞めさせられたって聞いた時は心配したよぉ」
「まっここの方が給料もいいし、賄いも出るから却って良かったわよ」
「お話はまた今度にしましょう、注文いいですか?焼酎とカナッペ下さい」
「パンと焼酎って以外に合うね~、チノちゃん中々のチョイスだよ」
「父が今は亡き先代の店主さんから教えてもらった組み合わせです。昔からのお友達だったそうで」やがて閉店時間となり店員3名は後片付けを始める、店には智乃達だけとなり2人は帰ろうとしたが店の女将は
「お2人はいておくれ、この後紗路ちゃんと一杯呑っていきなさいな」智乃と心愛は快諾して越後屋2号店でプチ同窓会が始まった。
店の裏口が開き智乃と紗路には見慣れた、心愛とは初対面の男が発泡スチロールを手にしてやって来た。
「智乃さん、いらっしゃいませ。ラビットハウスでお会いして以来ですね」
「大輔さん。お久し振りです」
「誰?」心愛は智乃に尋ねるが紗路が代わりに答える。
「この店のオーナーよ。普段は異っ…じゃない、外国で本店を切り盛りしているの。ご無沙汰しています、大輔さん」
「プクーッ、私だけおいてけぼりぃ」
「当たり前です、心愛さんムチャ言わないで下さい」
「アンタ、そういうトコ8年前とちっとも変わってないわね」大輔は苦笑いしつつも厨房の冷蔵庫や戸棚をチェックすると
「明日は店が休みでしたね、それならお三方にはアレを出しましょう」そういうと戸棚からニンニクと唐辛子、アンチョビにオリーブオイルを取りだし
「今日はいい蛸が手に入りましたから、これを使います」先程の発泡スチロールから取り出した蛸の下拵えをしながら鼻唄混じりで他の食材も平行して調理している。
「お待たせしました、蛸と蕗の薹のアヒージョです。ごゆっくりどうぞ」オーナー自らの手料理が従業員と智乃と心愛に振る舞われた。
「美味しい!しかも旨みも濃厚。蛸って和食のイメージしかなかったけどこんな使い方もあるんだね」
「オリーブオイルと蕗の薹の苦味のバランスがまた何とも食欲を増進させます、このコンボは反則です」
「これは焼酎もイケるけどワインも欲しくなるわね。あっ」
「どうしたの、紗路ちゃん?」
「今ね、理世先輩や千夜の顔を思い出したの。2人にも食べさせてあげたい」
「そうだね、あの娘達にもしばらく会ってないしね」
「大輔さんはいつまでいるんですか?」智乃に問われて大輔はある意味正直に答える。
「明後日には
「そん時は私らが用意するよ、これでも腕はオーナーお墨付きだからね」智乃、心愛、紗路の顔がパアァッと明るくなる。この後も彼女らのささやかな宴は日付が変わるまで続いた、そして翌日はお定まりの宿酔に悩まされたそうだ。
この続きは当分ありません