「岩本さんの坊っちゃん、ご両親がウチに借金したまま亡くなってるんでぇ、アンタにぃ、払って欲しいんですけどぉ」アーケード街の中でも人通りのない場所に押し込められてガラの悪そうな男達数人に囲まれて冷や汗をかく大輔、彼らに気付かれないように防犯ブザーを鳴らそうとしたがそれも取り上げられてしまっていた。
「この人、痴漢でぇーす!」女子高生の2人組、ツインテの方の娘が男達の1人の腕を掴んで声を張り上げる。あっという間に人が集まってきた、ばつが悪そうに慌てて逃げる男達。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」大輔は女子高生達にお礼をいう、
「いやいや、大した事はしてませんから」キュッと可愛らしい音が鳴る、発信源はもう1人の髪を後ろで束ねてる娘のようだ。恥ずかしかったのか真っ赤な顔をしている。
「そういえばお腹空いたね」ツインテの娘がフォローする。
(気遣いのできる娘だな、頭の回転も速い)大輔は思った。
「僕の家食堂なんで、そこでお昼にしませんか?今日は休みですけどさっきのお礼にご馳走させて下さい」
越後屋に向かう道すがら互いの話をする、ツインテの娘は狭山乃莉、関西生まれで美術の勉強の為にこちらへ上ってきたそうだ、束ね髪の娘は白鳥なずなといい本当はここが地元だがご両親の仕事の都合で春から1人暮らしをしているらしい。学科は違えど2人は同じ学校、アパート、同級生という事でよく一緒に行動するそうだ。
大輔も簡単に自分の経歴を話す、亜麻大学経済学部の三回生。以前の名前は岩本大輔、10年以上前に実の両親を亡くしてその友人の養子になり今はその姓になっている。さっきの男達に関して細かい事は伏せておいた。
越後屋
「金次君、兼恵ちゃん、大輔も二十一歳になったわ。あの子の行く末はアタシが出来る限り見届けるわね」裏口からただいまと軽やかな声が響く、大輔が帰ってきた。
「お帰り、アラ?そちらは?」大学生になってから浮いた話の1つもない彼が珍しく女の子を連れてきた、しかも女子高生。
「マスター、あのね…」大輔は事情を説明する、因みに大輔はこの養父(養母?)を常連客と同様マスターと呼ぶ。父さんとも母さんとも呼びづらいので2人で話し合って決めたのだ。大輔の話を聞いた熊実は2人をテーブルに座らせる。
「メニュー見てもいいですか?」乃莉が熊実に尋ねる、
「ええ、勿論。載ってないモノでも可能ならお出しするわよ」
「ホントですかぁ?ねぇ、なずなは何にする?」常にハイテンションな乃莉に対してなずなはやや消極的な印象がある。
「えっ、あの、乃莉ちゃんは?私も同じのにするから」
「そんな、折角なんだから自分の好きなモノ頼みなよ。あっ聞こえちゃいました?」赤面する乃莉だが熊実は笑顔を向けて構わない意志を見せる。
「お待たせしました、ロールキャベツです」店では普段、給仕が主な仕事になっている大輔が皿を運んできた、綺麗な朱色のスープに大振りのロールキャベツが乗っている。
「頂きまーす」早速ナイフでキャベツを切ると中にはぎっしり挽き肉が入っていた、
「乃莉ちゃん、卵が!中に卵が入ってて3重丸になってる‼」なずなは空でも飛びそうな勢いでテンションが上がっている
「なずな、大きな声出せるじゃん」乃莉に突っ込まれハッとするなずな。
「冷めない内に食べよう、うわ美味しい!肉汁がジュワ~って」
「スープがトマト味だね」
「ねぇ、なずな」
「ナーニ、乃莉ちゃん?」
「そのまんまじゃん!」
「「ごちそうさまでした」」乃莉となずなは2人にお礼をいって帰っていった、熊実は皿洗いをしている大輔にこんな質問をする。
「大輔、アンタ乃莉ちゃんとなずなちゃん、どっちが好みなの?」
「そんなんじゃないって!」
「アララ?照れ屋さんねぇ」クスクス笑いながら翌日の営業にむけて仕込みを始める熊実、だが心中では一刻も早く将来の嫁を見つけて欲しい。そういえば最近めっきり会わなくなったけど高校生の頃の彼女とはどうなったのかしら?
(オカマの私がいえたモンじゃないけどね)天国にいるこの子の両親には幸せな報告をしてあげたい、それだけが熊実の今の願いであった。
この2人食レポ下手…(汗)、でもそれがこの2人っぽくていいかも?