死んだ父親から受け継いだ喫茶店を営んでいる香風タカヒロは自分の店の定休日に若い頃の親友を訪ねにこのアーケード街へやってきた。
「この店か『越後屋』ってそのままじゃないか」苦笑しながら店の扉を開ける。
「すみません、本日は閉店しました」モップで床を掃除していた二十歳くらいの若者が手を止めて頭を下げながら告げてくる、しかしあいつの店で働くとは物好きな青年だ。タカヒロは青年にこう返す。
「店主はいるかい?俺達は古い友人なんだ、香風タカヒロと伝えてもらえば分かるハズだ」青年は
「あっ、はい伺っています。しばらくお待ち下さい」掃除用具を隅に移して店主を呼びに店の奥へ向かっていった。
「久し振りね、カプちゃん」
「その呼び方はよせ、くま」越後屋店主越後屋熊実とその友人、喫茶店「ラビットハウス」マスター香風タカヒロはかつて軍人であり同じ部隊に所属していた、当時は「○○部隊の二天龍」と恐れられていた両名は現在偶然2人共客商売、しかも飲食店を経営している。
「息子よ」目だけをあの青年に向けて先程から何か言いたげなタカヒロに切り出す。
「…」
「何で固まってんのよ?」
「お前が女性と関係するハズはない、だとするとまさかどこかの緑色宇宙人みたいに卵吐いたりするのか?昔から変わり者だとは思っていたが」
「そんな訳ないでしょ?養子よ、養子!」こんな冗談がいえるのも親友ならではである。熊実は焼酎のグラスを2つだしてタカヒロに薦め自分も呑みながら料理を開始した、手を動かしながら話を続ける。
「そっちはどうなの?奥さんと親父さん亡くしてチノちゃんと2人きりでしょ、あの娘幾つになったのかしら?」熊実がタカヒロの娘のチノと最後に会ったのは10年以上前だ、本人は覚えていないだろう。
「ああ。13才になった。母を亡くしたせいか内気な娘だったが最近は友達の影響とかもあって大分明るくなってきた」
「それは何よりだわ」話ながらも熊実は手を休めない。
「さあ、できたわ。試してみて」
「カナッペか。焼酎との組み合わせにしては珍しいな」一口大にきりわけられたバゲットの上にはスモークチーズとイクラを乗せたモノ、胡瓜の明太マヨ和え。塩気が効いていて焼酎にも合う。それに、
「これ、味噌だろ?バゲットには今一つのような気がするが」
「まあ食べてごらんなさいな」焼酎で一度口の中をリセットしてから味噌バゲットを囓る。
「旨いな、甘めに仕上げた味噌がバゲットとマッチしている、練り込んであるナッツは胡桃か?いい食感を出してる」
「そうよ、どこだかは忘れたけど以前旅先で味噌入りのパンを食べて美味しかったから真似しちゃった(≧Q≦)ゝテヘペロ」
「お前がそれやってもちっとも可愛くないぞ、寧ろ見る側の健康に悪い(~∇~;)」
「酷いわねぇ」そう言いながらもへそを曲げた様子もなくケラケラ笑う熊実、タカヒロも吹き出し新友同士昔話に花を咲かせながら呑み明かした。
それからしばらく経ったある日の香風家の朝食時、
「お父さん、パンに味噌塗って食べるの止めて下さい。和食か洋食かわかりません」
「チノ、そう言わずお前も試してみなさい。これが中々イケるぞ」
「味噌トースト旨っ!オジさん天才!」
「心愛さんまで…」
「この前古い友人に会いにいってね、そこで教えてもらったのさ」ラビットハウスのバイトで居候の高校生、保登心愛は味噌とパンの組み合わせに見事にハマったようだ。
「あの女装趣味の変わり者か」どこからともなく声がした、しかしこの場には3人しかいない、後は飼いウサギのティッピーがいるだけである。
「私は絶対食べません!」チノは頑ななまでに拒否し、ジト目の膨れっ面で父親を睨むのだった。
リゼパパも出して3人で語り合うのもアリだったかな?