異世界料理店越後屋外伝   作:越後屋大輔

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今回のゲストはプライベートが全く想像できないあの人です


執事と天麩羅定食

 若き実業家、破嵐万丈に仕える老執事のギャリソン時田には秘かな楽しみがある。その為に月に2、3回程わざわざこのアーケード街に自分では運転せずタクシーを走らせてくる。

 料金に幾らかのチップをドライバーに渡しそこから少し歩いて彼が入るのは小さな食堂である。

 「こんにちは、開店はしておりますかな?」店の玄関を掃いていた若い店員に尋ねると

 「いらっしゃいませ、いつもご来店ありがとうございます」深く頭を下げられて戸を開けてもらう。

 

 「では『いつもの』をお願いしますかな」厨房近くのテーブルに陣取ったギャリソンは若い店員に告げる。

 「はい、しばらくお待ち下さい」彼はこの常連客から慣れた様子で注文を受け一旦奥へと下がるが別の客が来店すると席に案内してサッとお冷やとおしぼりを目の前に並べる。

 「フム、中々に手際がよろしいですな」仕事柄かどうしても店員達の動きが気になってしまうギャリソン、この店には先程の若いウェイターの他は性別不明の料理人が1人いるだけだが。その料理人が厨房で腕を振るうのを注意深くかつ気取られないよう自然体を保ちつつ眺めていた。

 「お待たせしました、天婦羅定食です。ごゆっくりどうぞ」ギャリソンの楽しみ、それはこの越後屋の天婦羅定食であった。

 

 「今日も旨そうですな。では食するとしましょう」早速鯵の天婦羅に塩を降り箸をとりかぶり付く。

 「小骨も綺麗に抜かれている、それでいて身を崩さず揚げられてて迅速で丁寧な仕事がされているのがわかります。しかしこれはたまりませんな」一口ごとにサクサクと心地よい音が響く。しかしこの定食のメインは鯵、いや魚介ではない。

 「他のどなたがなんと言われようと私にとってのメインはこれに決まりですな」彼が嬉しそうに箸で掴んだのはウドの天婦羅であった。

 「旨い!山菜料理の店でもあまり見かけません故、この店に通うのはやめられません。やはりこの歯応え、繊維感、葉の苦味はよろしいですな。おっとウェイターさん、すみませんご飯のお代わりを。後ビールを一瓶頂けますかな」

 「はい、すぐお持ちします!」まだ天婦羅を残したままご飯を食べきってしまっている。これからご飯もう1杯で第2回戦に突入し、ビールをもって決勝を制さねば。

 「あれ?ギャリソンさん、珍しいトコでお会いしますね」サラリーマンの男性がギャリソンに声をかける。

 「いやはや、たまの息抜きでしてな、ひろし様はこちらにはいつも?」

 「外回りの最中ですよ、取引先が近所なんでついでに昼飯もここで食っちまおうと思いましてね。あ、ハヤシライスね」

 

 「それにしてもあのお客さん、年配の割りに健啖家だよねぇ。売上伸びるからいいんだけど」

 「毎度ながらビックリよね、普段何してらっしゃるのかしら?でもああいう渋い男性も素敵よね❤」

 「ゴメン。それ、僕には理解できない世界だから」今日も今日とて店の営業が終わり誰に見せる訳でもない漫才のようなやり取りを繰り広げる熊実と大輔だった。

 

 

 




ギャリソンとひろしの関係については別の二次もので書いてますのでそちらをよろしければそちらもご参照下さい

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