異世界料理店越後屋外伝   作:越後屋大輔

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『クレしん』からのゲスト。何かここでメイン張る人って脇役キャラばっかですな(笑)


いじめっ子とトライフル

 「大輔、お前昨日どうしたんだ?サークル来なかっただろ」親友長岡瑠華が尋ねる。

 「製菓衛生士の資格試験を受けに行ってたんです、いずれあの店を継ぐのに必要ですから」

 「そっか、で?」

 「合格しましたよ」

 「よし、偉い!」

 「偉いって…そもそも瑠華さん甘いモノ苦手でしょう?」

 「そうだけどよ、女子引っかけるにはスイーツは必須だろ?」ウィンクして切り返す瑠華に

 「さいですか」と突っ込む大輔だった。

 

 その日の帰り道、いつも通る河川敷を歩く大輔の耳に子供の泣き声が聞こえた、慌てて下りていくと5才くらいの男の子が怪我をして泣きじゃくっていた。転んだか、ここから滑り落ち落ちたかにしては怪我の具合が不自然すぎる。通学用のバックパックにいつも忍ばせてある絆創膏と消毒液をだして応急処置をする。

 「君、この怪我はどうしたの?」周りを見渡すと血のついた石が点在している、大体の見当はついた。大輔はバックパックをガサゴソさせてビニール袋をみつけると軍手のように自分の手に被せるとその石を拾い、もう1つのビニール袋にしまう。

 マサオというその子と手を繋ぎ家まで送っていく、その途中いかにも小生意気そうなくそガキに出くわす。

 「ヤイ、泣き虫マサオ!」舌をだしてマサオをからかう、その態度にカチンときた大輔。だが顔には出さない、石をぶつけたのがこの子なのかマサオに確認すると携帯を操作しながら相手を無視して先を急ぐ。

 「オイ!ちょっと待てよ」くそガキに引き止められる、ケンジというそのガキは無視されたのが気に入らなかったとみえて

 「無視するなよ、また石ぶつけるぞ!」縮こまるマサオを庇うように抱き上げ更に早足で進む大輔。呆然とするケンジの元に30くらいの男が寄ってきた、ケンジの父親のようだ。状況を説明する大輔に対してこの父親は

 「証拠があるのか?」などとフザけた事を言ってきた。

 「ありますよ、この子のそばに血のついた石が落ちてました。警察にもっていけばその子が指紋提出を求められますよ」するといきなりキレた。

 「子供の喧嘩に他人が口出しするな!」呆れ返った大輔はバカ親子を一瞥すると溜め息を吐いて近くの交番まで行きますかと親子に脅しをかける、親子は一目散に逃げていった。マサオの家に着き母親に事情を話して引き渡してから自宅へ帰る。

 「ただいま、あっ天々座さんいらっしゃいませ」カウンターで熊実の友人の天々座大佐がタカヒロにも好評だった味噌カナッペで一杯呑っている、大輔はある考えが閃いた。

 

 2、3日してマサオが母親に連れられて大輔にお礼を言いにきた、ナゼか常連の野原ひろしとその息子も一緒にいる。

 「大輔お兄ちゃん、ありがとう」ペコりと下げられた頭を優しく撫でる大輔。

 「あの親子ですが、父親は色々悪さをしていたらしくて警察に捕まりました。その途端いじめっ子も大人しくなりまして母親と謝りにきてその日のウチに引っ越してしまいました」マサオの母親が熊実に手土産を差し出す。

 

 あの日、大輔はケンジ親子の身辺調査を天々座に頼んでいた。軍人なら警察にもそれなりにコネがあるハズ、少し懲らしめるつもりであの石とケンジの脅し文句を携帯で録音したデータを渡したのだが逮捕までは予想外だった。

 「あの時はお名前しかお窺いできなくて、是非お礼をと考えていましたらしんちゃんのパパがご存じだと聞きまして」

 「君はあの河川敷を通学路にしているだろ?佐藤さんから相談されてひょっとしたらと思ってさ」察するに子供が同じ幼稚園という繋がりで家族ぐるみの付き合いがあり、野原氏がこの店を知らなかった佐藤母子の案内役を引き受けた、といったところか。

 「ねぇ父ちゃん、今日はハヤシライス食べてかないの?」

 「お前は黙ってろ」そこに息子も興味本意で一緒に着いてきたようだ。

 

 マサオママの顔が急にひきつった、店内のショーケースが目に入ったのである。手土産の中身はカステラ、せっかくだがここには売るほどどころか実際に売られていた。そそくさと帰ろうとするのを熊実が引き止め大輔に告げる。

 「大輔、頂いたカステラで何か作ってみなさい。皆さんもこの子のパティシエ修行の手伝いと思って試食して下さいな」カステラの加工品ならアレかと大輔は調理にかかる。

 

 「お待たせしました、トライフルです」大きな透明の四角いガラス容器にカステラと共に盛られたフルーツとクリーム、チョコレートの彩りが美しい、食べるのが惜しいくらいだったが大輔と給仕役を代わった熊実は躊躇する事なくフォークとナイフで崩して全員に切り分ける。

 「あっま~いっ、おいしいよこれ」

 「量もあるし見た目も綺麗。コストが安く済みそうなのもいいわね」

 「これは母ちゃんやむさえちゃんが食べたがるゾ、是非レピシ(・・・)を知りたいですなぁ」

 「それを言うならレシピ(・・・)。大体お前が聞いても意味がないだろ」

 「まあ、及第点はあげてもいいわ。満点にはまだ及ばないけどね」他の全員が満足する中、熊実だけは採点が厳しかった。

 「甘いモノなのに辛口なご意見」しんのすけはぼそりと呟いた。

 

 




しんちゃんがモブになってる…。

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